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八章 完結編

二百十一 メルディーの相談だよね

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 結婚式を明日に控えた深夜。
 天野 光が、今日は第四王妃イリアと、第八王妃候補ルル、そして、第九王妃候補、雫の三人をベッドに誘ったために、ヒムートは独り、部屋で光を想いながら、エクスタシー!!
 
 「ああっ......王様ぁっ......そんなっ......またいきなりっ......こんな所でっ!? ......ふふ、良いんですよ」

 趣味に走っていた。
 天野・ヒムート・ヒーストランドは、子供の時から天野光に想いを寄せつづけて、光と仲良くなる前から、ずっと光を想って独りで処理し続けてきた。

 それは、光がヒムートを大切にし、ベッドに誘われるようになってからも、光には内緒で続けている日課だった。
 勿論、光との性活に不満は無い。

 ヒムートが疼きを感じると光は計ったようにヒムートをベッドに誘い疼きを抑えてくれる。
 手慣れたもので、不足を感じることはまず無い......のだが。
 
 それでも、ヒムートは独りでエクスタシるのが日課だった。
 なぜか? それがヒムートの光に歪まされた性癖の一つになっているから......

  光との性活ではけして得られない、独りでする孤独感、寂寥感、光を想うことで強くなる、光への強い気持ち。
 目の前に光がいないからこそ、満たされるものがヒムートにはあったのだ......

 「ロニエちゃんは......酷いです。王様に言おうとしたです......王様ぁっ......ヒムートは独りでエッチな事をするふしだら女の子なんです......ふふ、王様ぁ」

 現実では無いからこそ、そそるものが、ヒムートを満たすものが確かにあった。

 コンコン
 
 そんな、ヒムートの部屋にノックの音が響いた。
 
 「っ!」

 ヒムートはすぐに、手を拭いて、服装を正すと、澄ました声で言う。

 「誰です?」

 光ではない。光だったら、ノックはせずにずかずか入ってきて、そのままヒムートを押し倒している。
 しかし、ヒムートに害をなす者ならそもそも、ヒムートの部屋をノックすることは出来ない。
 セレナの魔法結界は今や隙など無く、不貞な輩は全員塵も残らず消滅することになる。

 だから、光の囲っている妾 の誰かと言うことになるのだが......そうなると、ヒムートはお姉さんでいなければならない。
 独りでエクスタシー!! してるなんてばれる訳には行かないのだ......
 だから、ヒムートは子供の部分を隠す見えない大人な仮面を被ったのだった。

 「私です。私です。メルディーです。夜遅くすみません。ヒムート様......相談したいことがあるのですが......良いですか?」
 「メルディーちゃん。どうぞ。でも、ヒムー......私にです? ロニエちゃんでは無くてです?」
 
 メルディーだと解って安心ながら、ヒムートはメルディーを部屋に招き入れると、明かりを燈し、暖かい紅茶を入れてテーブルの椅子に座ってもらう。

 「相談事なら、ロニエちゃんの方がメルディーちゃんの力になってくれるですよ?」 
 
 ヒムートが、親切心でロニエに頼ることを勧める。
 綺麗だ、なんだと讃えられてはいるが、ヒムートは自覚している。
 自分は大人っぽく振る舞っているただの子供に過ぎないと、しかし、ロニエは違う。
 
 光の前では子供っぽく振る舞っているが、常に冷静で先を見て、様々な見識を持っている。
 ヒムートとは逆に子供っぽく振る舞っている大人だった。
  
 (大人なだなんてロニエちゃんに言ったら怒りそうですが......)

 そんなことを思っていると、メルディーは申し訳なさそうに、

 「ロニエ様は......ロニエ様は......怒るかも知れないから......」
 「ああー......ふふ、分かりました。では、私が話しを聞いて見ます。力になれると良いですが......」

 メルディーはロニエが、恐いんだと察したヒムートは、優しく微笑んで紅茶を啜った。
 そんな、ヒムートの在り方を見て、メルディーはヒムートに相談したことを間違えては無かったとそう思った。

 「あの~私、今日。天野様からお誘いをいただいた時に、とても恥ずかしくて......それで......」
 「断った事です?」
 「......はい。天野様は信じてくれって......でも私、天野様一人でも恥ずかしいのに......あんなこと......」

 メルディーの悩みは、光との性活の事だった。
 光と結婚して生活する以上。メルディーもそれなりに覚悟はしていた。
 けれど、光の性癖は天井知らずで、人前で求めて来ることも多々ある。

 それを、メルディーは応えたかったでも、拒否をしてしまった。
 光を信じることが出来なかった......光に甘えることが出来なかった......光の望みを叶えられなかった。
 
 そんな後悔をメルディーはヒムートに語った。
 メルディーからみて、光の求めに必ず応じるのは、ロニエ、セレナ、ヒムートの三人。
 メルディーのこの気持ちを相談するべき相手は、そのうちの誰かになる。でも、
 ロニエには恐くて相談できず、セレナは、光に口を滑らしそうで、相談出来ない。

 残ったヒムートだけは、メルディーでも安心して相談することが出来たのだった。
 なにより、メルディーはヒムートに同じようなモノを感じていた。

 恥ずかしい気持ちをヒムートなら共感してくれると思った......

 「つまり、メルディーちゃんは王様と、エッチなことをしたいんですね?」
 「っ! 違っ......く無いかもしれません。でも、天野様が、求めるものは恥ずかしくて......。ヒムート様は恥ずかしく無いんですか?」

 人前で、どろどろにされ、見せてはいけないところを晒し、強いストレスをメルディーは感じてしまう。
 それを知っていて、ロニエも光も強くは誘わない。いずれ、応えてくれると思っている。
 でも、メルディーにはその《いずれ》が、来ることは無いだろうと、そう思う。

 それほど、そういう行為は《嫌》だった。

 「メルディーちゃん。実は......です。ふふ、ヒムートも恥ずかしいんです。王様エッチですから」
 「っ!」

 やっぱり! ヒムートはメルディーの気持ちを解ってくれた。
 メルディーは少し肩の荷が降りて楽になっていた。

 そんな、メルディーにヒムートは、ヒムートの経験から、どうすれば良いかを、メルディーに伝える。

 「ヒムートの時は、慣れるまで、セレナちゃんが、魔法で恥ずかしい気持ちを抑えてくれました。でも、王様は嫌がりますし、メルディーちゃんの根本的な解決にならないですよね?」
 「......はい」

 メルディーの悩みが、とても重く、そして、どれだけ思い悩んでいるか、ヒムートだから分かる。
 光との距離を何年も詰められ無かった時間を思いだし、一人エクスタシー!! なんて、歪んだ性癖まで習得してしまったヒムートだから、言えることもあった。

 「メルディーちゃんは王様がどれくらい好きです?」
 「......どれくらい?」
 「はい。ヒムートは王様が世界一好きです。メルディーちゃんはどれくらいです?」
 「私も、私も! 天野様が、世界一好きです!」

 メルディーはそこだけは断言できた。好きだからこそ、恥ずかしいし、悩んでいる。ついに、一人で抱え切れずに、ヒムートにまで相談するほどに、

 「ふふ、それなら大丈夫です」

 そんな、メルディーの答えにヒムートは天使の微笑みを浮かべて、言って。

 「王様は、嘘をつかないです。メルディーちゃんを妾 にしている以上。絶対愛してくれるです。それだけは、メルディーちゃんが、何をしても変わらないです」
 「......」

 その信頼は、メルディーには分からない。
 光に嫌われるかも知れない、そう思うのは当然、今日も光がベッドに誘ったのは、メルディーでは無かった。
 メルディーが個人的に誘われることはとても少ない......

 「メルディーちゃん! ヒムートはこう思います。例え誰に淫らと思われても、王様が喜んでくれるなら構わないと、どんなに恥ずかしい事でも、それは、王様だけです。ヒムートの......私の恥ずかしい気持ちは王様にしかあげないです。他の誰にもあげたくないです。ヒムートはすべて、王様に捧げています」
 「......」
 「世界一、王様が好きなら、王様以外の世界中の人の感性はどうでもいいんです。ヒムートには......王様だけが、愛してくれていれば、それだけで、最高の幸せを感じられます」
 「......」
 「メルディーちゃんのその恥ずかしいは、誰に対してです? それが王様以外に向いていたら、王様を世界一好きとは言えないですし、ロニエちゃんの怒りにだって触れるかもしれないです。ロニエちゃんは、ただ、王様を世界一愛する事を求めているだけですよ?」
 「......私の......気持ち......」

 自分と似ているヒムートの言葉だからこそ、メルディーの心に刺さった。
 天野光を愛していると言う言葉の重みの違いを知った。格の違いを感じた。

 メルディーは、思う。
 果たして自分は誰に対して恥ずかしいと言っていたのだろうと、あの時あの場面で、メルディーは、光ではなく、他の人の視線を見ていた。

 光に見つめてもらいながら、メルディーは光だけを見ることは出来なかった......それを今解った。
 それで、光に誘われないなんて、言っている自分がはずかしかった。
 光だって光を見てくれない人を何度も誘う訳が無い。光には光だけを見つめている人が沢山いるのだから、

 「私は......私は」
 「メルディーちゃんが、王様に対して恥ずかしい気持ちがあふれているのなら、きっとセレナちゃんが、力になってくれます。ロニエちゃんだってニコニコしながら、緊張を解いてくれます」
 「うう......っ」
 「メルディーちゃん。王様が囲っている妾 達は皆、王様が世界一好きな人達です。そして、ロニエちゃんが見出だし、王様が選んで、世界一愛せると言った人達です。ヒムート達には王様の愛を平等に受け取れる権利があります。その権利をヒムート達は日々奪い合っているだけですよ。それ以外は王様が愛している大切な家族です」
 
 そうして、最後にヒムートは問う。

 「メルディーちゃんは王様をどれくらいすきです?」

 メルディーは己を恥ながら......しかし、即答した。
 それだけは即答出来ることだった。

 「世界一好きです。私は天野様が、世界一好きです!!」
 「ふふ、なら、大丈夫です。......ロニエちゃんを恐いなんて悲しいこと言わないであげてください。ロニエちゃんはただ、王様を幸せにしたいだけの女の子ですから......王様を世界一好きなら、一番力になってくれる方ですから」
 「はい」

 メルディーとヒムートの話しが一段落ついた所で、ヒムートの前に薄いベールを被っているセレナが現れた。

 「ヒムート。ダーリンが呼んでいるわ。来るわよね?」
 「行くです♪」

 ヒムートは嬉しそうに微笑んで、すぐにセレナの肩に手を乗せた。
 セレナもヒムートに優しく微笑んで転移する前に一度、チラリとメルディーを見てから、少し目を開くと、

 「貴女は?」

 そう問う。それに、メルディーは恥ずかしい気持ちを抑えて、

 「いきます!」

 元気にセレナの肩を掴んでいた。
 その次の瞬間には、ヒムートの部屋から三人の姿は消えていた......

 

 


 
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