彼とのキスは、乾杯のあとで。

天海 時雨

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出会いは、ブルーでしたか?

海色、ブルー・ラグーン 翔side

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「じゃーな、杉本。襲われんなよ」
「んな物好きいないっつーの……」
「それに俺もいますし」

 この空間に溶け込んでいるバーテンダー──名前は、林川はやしかわ かけると言うらしい──は、咲と家の方向が同じだった。

「……本当についてくるとは思いませんでした」
「何回も来ていただけてますし、オーナーもよく言ってましたよ? 『あそこの大きなビルには、いつも来てくれる美人秘書二人組がいる』って」
「美人秘書二人組って……対して美人じゃないですよ、私は」
「またま──」

 またまた、ご謙遜を。そう言おうとしたけれど────。
「ついてこなくてもいいですよ。酔ってないので」
「──え?」

 バーにいた──つまり、梨紗といた時はちらとも出さなかった、自虐の口調。冷たく冷えた、何も入っていないグラスのように翔は思った──思考は、バーテンダーそのものだが。

「や、行きますよ? そこまで薄情はくじょうじゃないし」
「送ってくれなくても薄情とは思わないので。それにさっきも言いましたけど、襲うような物好きはいないと思います」

 あぁ、分かってないんだ。そう、翔は思った。
 あでやかに光沢を放つ、見ただけで分かるサラサラとしているのであろう髪も、白磁はくじのような白い肌も、ぱっちりと開いた二重の目も、整った鼻筋も、少し酔って上気した顔の妖艶ようえんさも──全て、この人は自覚していない。
 自分が、どんなに可愛いのかを。

「──とにかく、送らせてください」
「…………」

 諦めたのか、黙って歩き出した。その頼りなげな背中には、なみとは違う何かがにじみ出ているような──そんなことを、翔は感じた。

「……ありがとうございました」
「いえ。じゃあ」

 夜が明けるには、まだ遠い時間──時刻は十一時になろうかという時、かけるさきを彼女のマンションに送り届けていた──否、彼女だけのマンションではなかった。

「杉本さん、ここなんですか?」
「……そうですが、何か」
「いえ……俺もここなので。何階ですか」
「教えなきゃ駄目ですか」
「や──もしつぶれた時、知っておきたいし」
「……そんなに、お酒は飲まないので。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 雰囲気ふんいきが、あのお酒そのもの──いや、そうじゃないけど。
 そう、翔は思う。凍った『ブルー・ラグーン』のように、雰囲気が青い。それでもどこか冷たくて、でも甘い。

「……俺、嫌われたかな」

 咲さんの雰囲気が『ブルー・ラグーン』なのは、そう感じたのはなんでだろう。外見から見てしまえば、完全なる桃色とか、暖色だんしょくだと思うはずなのに。もちろん、俺には見せてない顔もあるんだろうが────。
 翔が唯一、酔った咲を見たことがあるのは、バー『GAZE』に就職して数ヶ月経った時のことだった。珍しく一人でいるんだよ、とオーナーが同僚と俺に教えてくれたことを覚えている。
 そう、あの時──俺は初めて、咲さんを見たんだ。
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