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繁華街、漆黒の夜に活気があるこの街に、『Snow Drop』というバーはある。
「……ミント・ジュレップです」
「あぁ、ありがとな、サヤ。……それで、何があったんだ?」
「実は──、」
「何? ユヅキがいなくなったのか? 大変じゃないか……」
「えぇ。優さん、なにか知りませんか? 連れ去られたり……とか。物騒な話は……」
「うーん……すまないな、私はちょっと……」
「……そうですか、申し訳ありません」
「お代わり、頼めるかい?」
「あ、もちろんです」
紗凪の、悠月の探し方はこうだった。
自分がアルバイトしているバー、Snow Drop で情報を集め、バイトが終わったら探しに行く。悠月も共にバーで働いており、その源氏名はサヤとユヅキだった。
「……しかし、最近は騒がしいな。それこそ何かあったのか……」
「ふふっ、このバーは変わりませんよ」
「そうだな、ここまでもが若衆に汚されたら、老いぼれの居場所はどうなる?」
「あははははっ! 大丈夫ですよ、優さん。タチの悪いのは追い払います」
微笑しながらグラスを磨いている紗凪は、普段の面影を少しだけ残している。
「はっはっは、サナはいつも頼もしいな。しかし女だが……」
「男尊女卑は古いですよ?」
「いや、そういうものではなくてな……えっと──かれし、だっけか?」
ぽりぽりと頭をかき、酒を口に含んだ。
「いませんよ。この外見ですし」
「そうか? そういえばの、うちの孫たちが最近惚れたようでの……」
「嬉しい話じゃないですか! 応援してあげるんですか?」
「それがかなり鈍いらしくてな。『なかなか上手くいかない、どうすればいいんだ?』とな? 二人ともぼやいておったわ」
「女心は難しいですしね。そういえば優さんはどこの組で?」
「はっはっは……秘密じゃよ秘密」
「お年の割にはお酒に強いですがね?」
「これ、老いぼれを舐めるでない」
「あはははっ」
「サナ、上がりよ!」
「あっ、はーい!! すいません、優さん……」
「構わんよ。……ユヅキをよろしくな」
「はい、もちろん。……必ず」
紗凪の目にも、焦燥感が浮かんでいた。これまでこのような事が無かったわけではなく、いつもこの方法で、二週間程で見つかっていたのだ。
悠月はいつもどこかへ行ってしまった時、同じ行動を繰り返すので、見つけやすかった。
「……そういえばの、最近静那が暴れていると聞く。女を襲うとは思わんが、気をつけ──」
「っ優さん! 静那はどこですか!?」
「え……ここから少し遠いが、Snow Drop の姉妹店、『After The Snow』があるじゃろ。あそこの裏路地と聞くが...?」
「っありがとうございます! 次いらっしゃった時はプライスレスで!」
「おっ、おぉ!」
紗凪の目は、爛々と輝いていた。
やっと見つかった──そう思って。
しかし、紗凪は一つ油断していた。
あの子は絶対に────。
「っ、悠月!」
「……紗凪? なに?」
「帰ろう? 静月も弦も待って」
そう、何もかも大丈夫──うまくいく。そのはずだったのだ。
「関係ないよね?」
「……え?」
冷たく一蹴した悠月の表情は冷たい。
「あたしはもう心開くつもりはないよ。……紗凪のときはさ、少し踏み込んだよね。私が話しやすいように、少しずつ質問して」
「弦のときは早すぎたんでしょ?分かっ──」
「分かってない。知ったかぶりしないで」
「悠月、どうしたの……?」
「なーんもないよ。何もない」
「そんなわけ……だって、悠月は!」
「あたしは何?」
「悠月は、そんなの言う人じゃ……」
俯いた紗凪に、悠月は嘲笑するように言った。
「知ったかぶったと思ったら、今度はお母さんぶるの? バカじゃない? ねぇ、紗凪ってさ。鈍感?」
「あたしは、紗凪のこと嫌いなんだよ。
気づいてなかった?」
そう言の葉を吐く、悠月。おっとりした話し方が毒を吐いている。
「ゆ、つき……?」
「あーぁ、ったく。やっと逃げだせたと思ったのに、見つかっちゃったし……次は海外にしようかな。うざったいし」
「っ、やめてっ……」
「だから、そういうのもうざいんだって。可愛い子ぶってるんだか知らないけど」
「っ、悠月っ……!!」
「だーかーら、名前。呼ばれるのも嫌だって察してよ。ほんっと鈍いなぁ……!!」
「っぐ、うっ! あぁぁっ!」
殴り、蹴り、平手打ち。自分にだけはされないと油断していたその紗凪の心が、自身を追い詰めていた。
「二度と追って来ないで」
「ぅ、あぁっ……!」
親友と、思っていた。いつからか、楽しく過ごせていた。
でも、それが嘘偽りなら────。
また紗凪は、気づいていなかった──悠月の顔が、悲しげに歪んでいたことに。
「……ミント・ジュレップです」
「あぁ、ありがとな、サヤ。……それで、何があったんだ?」
「実は──、」
「何? ユヅキがいなくなったのか? 大変じゃないか……」
「えぇ。優さん、なにか知りませんか? 連れ去られたり……とか。物騒な話は……」
「うーん……すまないな、私はちょっと……」
「……そうですか、申し訳ありません」
「お代わり、頼めるかい?」
「あ、もちろんです」
紗凪の、悠月の探し方はこうだった。
自分がアルバイトしているバー、Snow Drop で情報を集め、バイトが終わったら探しに行く。悠月も共にバーで働いており、その源氏名はサヤとユヅキだった。
「……しかし、最近は騒がしいな。それこそ何かあったのか……」
「ふふっ、このバーは変わりませんよ」
「そうだな、ここまでもが若衆に汚されたら、老いぼれの居場所はどうなる?」
「あははははっ! 大丈夫ですよ、優さん。タチの悪いのは追い払います」
微笑しながらグラスを磨いている紗凪は、普段の面影を少しだけ残している。
「はっはっは、サナはいつも頼もしいな。しかし女だが……」
「男尊女卑は古いですよ?」
「いや、そういうものではなくてな……えっと──かれし、だっけか?」
ぽりぽりと頭をかき、酒を口に含んだ。
「いませんよ。この外見ですし」
「そうか? そういえばの、うちの孫たちが最近惚れたようでの……」
「嬉しい話じゃないですか! 応援してあげるんですか?」
「それがかなり鈍いらしくてな。『なかなか上手くいかない、どうすればいいんだ?』とな? 二人ともぼやいておったわ」
「女心は難しいですしね。そういえば優さんはどこの組で?」
「はっはっは……秘密じゃよ秘密」
「お年の割にはお酒に強いですがね?」
「これ、老いぼれを舐めるでない」
「あはははっ」
「サナ、上がりよ!」
「あっ、はーい!! すいません、優さん……」
「構わんよ。……ユヅキをよろしくな」
「はい、もちろん。……必ず」
紗凪の目にも、焦燥感が浮かんでいた。これまでこのような事が無かったわけではなく、いつもこの方法で、二週間程で見つかっていたのだ。
悠月はいつもどこかへ行ってしまった時、同じ行動を繰り返すので、見つけやすかった。
「……そういえばの、最近静那が暴れていると聞く。女を襲うとは思わんが、気をつけ──」
「っ優さん! 静那はどこですか!?」
「え……ここから少し遠いが、Snow Drop の姉妹店、『After The Snow』があるじゃろ。あそこの裏路地と聞くが...?」
「っありがとうございます! 次いらっしゃった時はプライスレスで!」
「おっ、おぉ!」
紗凪の目は、爛々と輝いていた。
やっと見つかった──そう思って。
しかし、紗凪は一つ油断していた。
あの子は絶対に────。
「っ、悠月!」
「……紗凪? なに?」
「帰ろう? 静月も弦も待って」
そう、何もかも大丈夫──うまくいく。そのはずだったのだ。
「関係ないよね?」
「……え?」
冷たく一蹴した悠月の表情は冷たい。
「あたしはもう心開くつもりはないよ。……紗凪のときはさ、少し踏み込んだよね。私が話しやすいように、少しずつ質問して」
「弦のときは早すぎたんでしょ?分かっ──」
「分かってない。知ったかぶりしないで」
「悠月、どうしたの……?」
「なーんもないよ。何もない」
「そんなわけ……だって、悠月は!」
「あたしは何?」
「悠月は、そんなの言う人じゃ……」
俯いた紗凪に、悠月は嘲笑するように言った。
「知ったかぶったと思ったら、今度はお母さんぶるの? バカじゃない? ねぇ、紗凪ってさ。鈍感?」
「あたしは、紗凪のこと嫌いなんだよ。
気づいてなかった?」
そう言の葉を吐く、悠月。おっとりした話し方が毒を吐いている。
「ゆ、つき……?」
「あーぁ、ったく。やっと逃げだせたと思ったのに、見つかっちゃったし……次は海外にしようかな。うざったいし」
「っ、やめてっ……」
「だから、そういうのもうざいんだって。可愛い子ぶってるんだか知らないけど」
「っ、悠月っ……!!」
「だーかーら、名前。呼ばれるのも嫌だって察してよ。ほんっと鈍いなぁ……!!」
「っぐ、うっ! あぁぁっ!」
殴り、蹴り、平手打ち。自分にだけはされないと油断していたその紗凪の心が、自身を追い詰めていた。
「二度と追って来ないで」
「ぅ、あぁっ……!」
親友と、思っていた。いつからか、楽しく過ごせていた。
でも、それが嘘偽りなら────。
また紗凪は、気づいていなかった──悠月の顔が、悲しげに歪んでいたことに。
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