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回想 the eight years old
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「ふふっ、おかあさん、きょう七夕だね!」
「そうね、紗凪。紗凪は何をお願いするの?」
「んー、いもうとがほしいな!」
「っ……あははっ! そーお?」
「うん!」
これは、まだ紗凪に『喜』と『楽』があった時のお話。
「でも今日は悠月ちゃんの誕生日でもあるのよ? 紗凪は悠月ちゃんのこと好きでしょう?」
「うん、すきだけど……なんか、わかんない」
「なんで? なにかあっ──あ、里奈!」
「あーっ、葵ちゃん! 紗凪ちゃんも!」
「悠月ちゃんは元気?」
「えぇ、最近はトランプにはまってる。そうだ、悠月のプレゼントなんだけど──」
街中、信号機の前で出会った三人。しかしその穏やかな時間ににじり寄る、赤黒い悪夢は迫っていた。
「っ、わあああぁぁぁーっ!!」
両手に包丁を持った男に刺されたと分かったのは、もう事後のことだった。
そして被害は広がり────。
「う、あぁぁっ!」
その被害は、紗凪の父までも犯した。
「っ、さな──」
「お、かあさ……?」
悪夢の始まる歯車の音は、誰にも聞かれず鳴り響く。それこそが、紗凪と悠月の始まりだった。
「……ねぇ聞いた? あの子、葬式で泣いてないの」
「えっ? 父母両方とも死んだんでしょ?」
「しーっ──そうそう、しかも異様に色が薄いじゃない? 引き取る手がいなくて、叔父が渋々、って話を聞いたわ」
「いくら人懐っこかった葵でも、兄には好かれてなかったのかしら? 血が繋がってなかったとは、聞いていたけど」
「…………」
急激に紗凪の身に降りかかった孤独と、叔父とその嫁と子供達との生活は──紗凪の人格を歪んだものに変えていった。
「早く掃除をしてと言ったでしょ!? そんなこともできないの!? この愚図!」
「…………」
口数は少なくなり、服で隠すことのできる場所にしかつかない痣、中には切り傷。継母の子供と遊ばせてももらえず、叔父に強要される勉強と体術、そしてそれだけの単調な日々。しかしそれは──
「……いいか紗凪。これは俺の会社のために必要な見合いなんだ、絶対失敗するんじゃないぞ」
「……はい、父上」
「代田翔と申します、よろしくお願いします……」
「……よろしく、お願いします」
しかしここで、彼女に救いの手が現れる。
「この子は藍咲が引き取る。私の娘に等しい存在よ」
「っ、ふざけるなっ!!」
ぱしっと叩きつけられた、桁数が十個以上ある小切手。奏に肩を抱かれながらその紙切れを弄ぶ紗凪の薄い黒目には、何も残っていないように見えた。
「……あなたは?」
「私? 私は奏。縁があってあなたの両親と関わりがあったの」
「……奏さんは、これを使ってマンションを買えますか?」
「……マンション? どうして?」
「もう、一人で暮らせます」
「何言ってるの!? 紗凪はまだ十歳なのよ?」
「もう十歳──父と母が死んでからもう二年です。もう落ち込んではいられないから」
「…………」
「それに、奏さんには息子さんが二人いらっしゃいますし……これ以上私は迷惑をかけたくありません」
「……一人、家政婦をつけるわ。それでも駄目?」
「……分かりました」
悲劇は──少しずつ。
「そうね、紗凪。紗凪は何をお願いするの?」
「んー、いもうとがほしいな!」
「っ……あははっ! そーお?」
「うん!」
これは、まだ紗凪に『喜』と『楽』があった時のお話。
「でも今日は悠月ちゃんの誕生日でもあるのよ? 紗凪は悠月ちゃんのこと好きでしょう?」
「うん、すきだけど……なんか、わかんない」
「なんで? なにかあっ──あ、里奈!」
「あーっ、葵ちゃん! 紗凪ちゃんも!」
「悠月ちゃんは元気?」
「えぇ、最近はトランプにはまってる。そうだ、悠月のプレゼントなんだけど──」
街中、信号機の前で出会った三人。しかしその穏やかな時間ににじり寄る、赤黒い悪夢は迫っていた。
「っ、わあああぁぁぁーっ!!」
両手に包丁を持った男に刺されたと分かったのは、もう事後のことだった。
そして被害は広がり────。
「う、あぁぁっ!」
その被害は、紗凪の父までも犯した。
「っ、さな──」
「お、かあさ……?」
悪夢の始まる歯車の音は、誰にも聞かれず鳴り響く。それこそが、紗凪と悠月の始まりだった。
「……ねぇ聞いた? あの子、葬式で泣いてないの」
「えっ? 父母両方とも死んだんでしょ?」
「しーっ──そうそう、しかも異様に色が薄いじゃない? 引き取る手がいなくて、叔父が渋々、って話を聞いたわ」
「いくら人懐っこかった葵でも、兄には好かれてなかったのかしら? 血が繋がってなかったとは、聞いていたけど」
「…………」
急激に紗凪の身に降りかかった孤独と、叔父とその嫁と子供達との生活は──紗凪の人格を歪んだものに変えていった。
「早く掃除をしてと言ったでしょ!? そんなこともできないの!? この愚図!」
「…………」
口数は少なくなり、服で隠すことのできる場所にしかつかない痣、中には切り傷。継母の子供と遊ばせてももらえず、叔父に強要される勉強と体術、そしてそれだけの単調な日々。しかしそれは──
「……いいか紗凪。これは俺の会社のために必要な見合いなんだ、絶対失敗するんじゃないぞ」
「……はい、父上」
「代田翔と申します、よろしくお願いします……」
「……よろしく、お願いします」
しかしここで、彼女に救いの手が現れる。
「この子は藍咲が引き取る。私の娘に等しい存在よ」
「っ、ふざけるなっ!!」
ぱしっと叩きつけられた、桁数が十個以上ある小切手。奏に肩を抱かれながらその紙切れを弄ぶ紗凪の薄い黒目には、何も残っていないように見えた。
「……あなたは?」
「私? 私は奏。縁があってあなたの両親と関わりがあったの」
「……奏さんは、これを使ってマンションを買えますか?」
「……マンション? どうして?」
「もう、一人で暮らせます」
「何言ってるの!? 紗凪はまだ十歳なのよ?」
「もう十歳──父と母が死んでからもう二年です。もう落ち込んではいられないから」
「…………」
「それに、奏さんには息子さんが二人いらっしゃいますし……これ以上私は迷惑をかけたくありません」
「……一人、家政婦をつけるわ。それでも駄目?」
「……分かりました」
悲劇は──少しずつ。
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