どうやら俺の青春ラブコメは神によって定められているらしい。

朝の清流

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第1話:エンドレスサタデー

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 ジリジリジリジリジリ…… ガチャ。アナログ式の目覚まし時計を止めて、布団から出る。
 1DKの狭く小汚い部屋。とある田舎の町にあるボロアパートに1人暮らしの高校2年の俺、神野祐希かみのゆうきにはとある悩みがある。

 今日が終わらない。

 これでもう13回目の朝。毎回同じように鳴く鳥たち。同じ内容を繰り返す朝のニュース。そして全く同じ朝刊。かすかな希望を抱いて起きても何も変化しない。と言うより、明日にならない。
 1回目の繰り返しはまだよかった。不思議な夢を見た感覚程度で、もしかしたらデジャブかも、と思うくらいで1日を過ごせた。だが、もう13回目。流石に頭がおかしくなりそうだ。
 唯一、不幸中の幸いだと言えるのが、今日が土曜だと言うこと。もし平日で学校があったら、何回も同じ授業を受けて、何時間も退屈な休み時間を過ごさなきゃならなくなる。なんたって、俺には友達がいない。
 学校は勉強するための場所だ。決して楽しむための場所じゃない。だがそうは思っていても、嫌われるのはあまり良い事ではない。そして、嫌われる理由が自分の性格のせいだとは分かっている。でも、周囲の人間に合わせる必要性を感じない。
奴らは群れて、他人を蔑む。そして何より、親の金で生きているあいつらが異様に下等に思えてしまう。
 死んだ親の借金の返済。バイトが収入源の貧しい暮らし。尚且つ勉強でもトップクラスの成績を取るための努力。つまり、俺のように人生の苦労を全く知らない奴らとは関わりたいとも思わない。
 でも今はそれどころじゃない。幾ら嫌いな奴らに合わなくて済むとはいえ、13回も同じ日を繰り返してれば流石に嫌になってくる。だからもう今日で今日を終わりにする。
 これまで試したのは、以下の通りだ。
 1日勉強で費やす。
 1日何もしないで寝る。
 1日中テレビを見てみる。
 1日中外を散歩。
 1日中奉仕活動。
 1日中山登り。
 1日中海に行く。
 1日中何かを食べ続ける。
 1日中ランニング。
 1日中絵を描く。
 1日中掃除。
 そして、適当に過ごした初日。
 何か突破口があるはずだけど、もうやることもない。金はないし、ゲームも持っていない。友達なんていないし、彼女なんてもってのほかだ。
 つまり、詰んだ。だけど行動を起こさなければいけないのは明白だ。とにかく、朝食を食べて、朝の支度を済ませる。外に出なければ何も始まらない。幾度の検証の結果、家の中にいるのは間違いだと感じた。正解は必ず外にあるはずだ。
 ガチャリ、古びた玄関扉を開ける。ボロアパートの錆びついた階段を降り、とりあえず近くの商店街へと向かう。
 商店街へは何度も行ったが、まだ試していないことが一つだけある。それは他人とのコミュニケーション。それも機械的な挨拶などではない、日常会話的なやつのことだ。それは俺が最も毛嫌いするもの。なんで他人との会話で貴重な空き時間を削らなければいけないのか。俺には到底理解できない。

 家から歩いて15分ほどのところにある、キノツグ商店街。昔ながらの商店街で、比較的田舎のこの町では、なかなかの賑わいを見せている。
 俺がいつも行くのは肉屋だ。あそこには安い牛肉コロッケが売っていて、冷めているとおばちゃんが値引きしたり、おまけをくれたりする。他の店でも同様だ。だから生活が苦しい俺にとって商店街は必要不可欠な存在。
 と言うことで、最初は肉屋から。慣れた所が一番いいだろう。ついでに昼ご飯にコロッケも買っていくつもりだ。
 「こんにちは。牛肉コロッケひとつくれますか?」
 後ろを向いていたおばちゃんが満面の笑みで振り向く。なぜだかわからないが、どうにも気に入られているらしい。
 俺なんて対してイケメンでもないし、学校では根暗だと有名なのに、おばちゃんはそんなことを気にしてない様子。とても寛容だと思う。
 「あらあら。やっぱり祐希くんだったのね。おばちゃん、声で分かっちゃうのよ」
 実におばさんらしい口調。でも学校の奴らの意味不明な発言より何倍もマシだ。
 そして俺は大人には嫌われないようにしている。この田舎では一人のご近所さんに嫌われることは死に直結する。そうでなくとも大人といい関係を築くのは賢い選択のはずだ。
 「それは嬉しいです。それで、コロッケ1つお願いできますか?」
 「はいはい。コロッケ1つね」
 おばちゃんが商品棚に並ぶ牛肉コロッケをとって袋に詰める。そしておまけとして足されるもう1つのコロッケ。この光景は今日5回目だ。だが何度体験しても、おまけをもらえるのはありがたい。貧困生活の命綱だ。
 ここまではいつもと同じ。だがこの後に話しかければ何かが変わるかもしれない。
 「はい。1個おまけしといたよ。それじゃ、30円ね」
 「どうもありがとうございます」
 30円を手渡した。にしても、何を話せばいいんだろうか? 
 長らく人とちゃんとした関わりがないから、単純な会話がすごく難しく感じる。だが昔誰かが、おばさんたちは噂話が好きだと言っていた。それでいこう。
 「そういえば、この辺りで何か変な噂とか、ありませんかね?」
 「噂……そういえば、隣の八百屋さんが、野良猫がミャーミャーミャーミャー鳴いてうるさいって言ってたわね。まぁ、そんなことはどうでもいいか。あははは」
 本当にどうでもよかった。でも会話することが大切なはずだ。この今日はきっと何かが変わっただろう。
 「そうですか。じゃあ猫を見かけたらなんとかしてみますね?」
 「あらまぁ。やっぱり祐希くんは頼りになるわねぇ。でも、一人暮らしは大変でしょう? おばちゃん、応援してるからね」
 「は、はぁ。ありがとうございます」
 商店街中が俺の事情を知っている。そのおかげで多くの人が助けてくれるのはありがたい。だけどそのせいであらぬ事まで噂になっていることがある。例えば、俺が不良だ、とか。確かに目つきは悪い。でも俺は他の高校生の何倍も真面目に生きてる。
 そんな感じで、商店街では誰かに知られたら真実じゃないものまで真実になってしまう。それほどに噂での情報網が膨大だ。まぁ、そんなことは今更気にすることじゃないな。とりあえず次だ、次。

 その後、八百屋、花屋、せんべい屋、魚屋、骨董品屋を回ったところで、夕方になった。魚屋の親父の話が長かった。あれで1時間くらい使ったか? 魚の鮮度を見極める方法を散々と聞かされ、最後には商品でどれが一番鮮度がいいか当てられるまで帰してくれなかった。正解したら魚を安く売ってくれたのはありがたかったけど。
 しかし、せめて質問には答えて欲しかったよな。魚の見極め方のどこが噂なんだか。

 やることはやりきった。寄り道せずにまっすぐ家に帰ろう。久しぶりに多くの人と会話したから少し疲れた。今晩は早く寝て、明日が来るのかどうかを検証しなければ。

 低い石壁に囲まれた築45年のオンボロアパート。確か俺以外の住人はほとんどいなかったはず。なんたって、こんなボロアパートを好んで借りる奴なんていない。ここみたいな田舎の町なら、安い家賃でちゃんとした部屋を借りられるからだ。
 だから俺みたいな存在は珍しいのかもしれない。まぁ他に選択肢がないから仕方ないんだけど。
 数年前に親が死んで、高校から一人暮らし。バイトで生計を立てて、毎日が節約生活。それに加えて勉強もしなくちゃいけない。あとは、健康維持のための運動を少々。なんで過労で倒れないのかが不思議なほど働いてる気がする。丈夫な体に感謝だ。

 いつも通りに階段を上がる。安い金属音が鳴り響いて、家に帰ってきた感じがする。
 はぁ、今回の今日は一段と疲れた……って、え。
 玄関の前に両手に乗っかるくらいの小さな白猫が寝ていた。これがさっき肉屋のおばちゃんが言ってた猫の正体か? でも田舎なら野良猫なんていくらでも……
  まてよ。もしかしたらこの猫が正解なのかもしれない。今回初めて現れたんだ。一応試す価値はある。
 寝ている子猫をそっと抱き上げてみた。持ち上げたのに起きる気配がない。ここに寝かせたままでもあれなので、一応家に入れてみる。猫は何を食べるんだっけか? 確か牛乳とかだったかな?
 冷蔵庫から牛乳を取り出して、浅いボウルに入れておく。目が覚めたら勝手に飲んでるだろう。でも一応この子が起きてるまで待っておくか? 別に風呂はその後でも大丈夫だし……
 そんなことを考えながら、ずっと子猫の背中を撫でていると、小さな声を出して、猫が目覚めた。
 「にゃ~」
 か、可愛い。猫って意外と可愛いもんだな。しかも瞳が青い。珍しいな。確かこのアパートはペット大丈夫だったし、どうせなら……あ、でも金がないからなぁ。でももし今日これでダメだったら、また次の今日では拾わなければいいんだし、一晩くらい大丈夫か。 

 すると、目覚めた猫がゆっくりと牛乳の入ったボウルに近づいて行く。クンクン、と匂いを嗅いでから、ペロペロっとゆっくり舐め始めた。
 よかったよかった。気に入ってくれたみたいだ。そしたら風呂に入ってくるとしよう。
 そう思って立ち上がると、白い子猫が後をついてきた。おいおい、随分と懐かれたもんだな。でもこういう時はどうすればいいんだ?
 「ちょっと風呂に行くだけだから、ここで待っててくれ」
 猫に話しかけるなんて、何やってんだ俺。まぁ周りに誰もいないからいいけどさ。
 「にゃ~」 
 まるで返事をしたかのように猫が鳴いた。そして言われた通りに寝室の畳部屋の方へと戻っていく。なんか怖いな。まるで言葉を理解してるみたいだ。でもきっと偶然だろう。とにかく風呂風呂。

 風呂から上がって、夜ご飯を食べた。さっき魚屋で買ってきた鯖を焼いて食べる。まだ4月の後半で旬ではないのにも関わらず、香ばしいいい匂いを放っている。うん。美味そうだ。そんな神々しい鯖をテーブルに置くと、匂いにつられてきたのか、子猫がテーブルにピョンっとジャンプして上がってきた。なんだなんだ、欲しいのか?
 試しに鯖を指差してみる。ジェスチャーで欲しいのか、と聞いてみると、にゃ~ と鳴きながら、首を縦に振った。完全に意思の疎通が取れている。やはり怖いな。でも頭がいい猫もたまにいるって聞いたことあるし、少し特殊なだけかもしれないな。
 魚のお腹の部分を少しだけあげてみた。すると大興奮で鯖の切り身にかぶりついている。そして一瞬で無くなった。でも子猫はまだ物欲しそうな目でこちらを見ている。愛くるしい表情だ。冷徹と言われる俺でもそう思える程に愛おしい。でも俺の夜ご飯がなくなっちゃうから、ごめんな。 
 「ごめん。残りは俺のなんだ。また今度な」
 「にゃ~」
 子猫は諦めて畳に戻っていった。なんだか猫と会話してるみたいだ。不思議な体験もあったもんだな。って、もう13回目の今日なんだっけか。それを踏まえるとそこまで不思議ではない。

 食べ終わって、歯を磨いてから、すぐに布団に入る。今日は1人じゃなくて、子猫も一緒に。たまには誰かと寝るのも悪くない。そういえば、名前とかつけてみようかな? どうせ1日だけだし、せっかくだから……
 「おい猫。お前の名前は白だ」
 「にゃ~」
 白が嬉しそうに返事をしてくれた。なんだか癒される。人間と会話をすると疲れるのに、猫とならそんな感じはしない。きっと側から見れば頭のおかしい奴に見えるだろうけど、別に今更って感じだよな。それじゃあおやすみ。頼むから明日になってくれよ……


 薄っすらと目を開けると、なぜか真っ白な空間にいた。
 「正解じゃ!」
 ん、誰だ? 誰かの声がしたような。
 「そうじゃよ? ここはチミの夢の中。ワシはチミに会いに来たのじゃ」
 なんだって? ってかお前は誰だ? 小さいサンタみたいな格好しやがって。季節外れにもほどがあるだろ。
 「全く。チミはそんなんだから友達がおらんのじゃよ。さっきの猫、いや、白に対する態度とは大違いじゃな」
 大きなお世話だ。それにあの子猫と人間を一緒にするんじゃない。小動物は純粋なハートを持ってるんだぞ! というより、お前は誰だ? それに、夢の中ってどういうこと?
 「落ち着くのじゃ。ワシは通りすがりの神様。チミに今日を何回も体験させている犯人じゃよ」
 な、なに!? お前のせいだったのか。ったく、なんでそんなことを……
 「それは、チミにより良い選択をしてもらう為じゃよ。今日のチミは多くの人と会話をした。それは正しい選択じゃ! そのご褒美として、さっきの白猫をあげたのじゃよ。そして、その白猫をチミは無事拾ってくれた。僅かに残るチミの心の優しさの現れじゃな」
 僅かってところが癪に障るが、まぁいいだろう。そしてあれか? 俺がより良い選択をするために、お前は何回も同じ日を繰り返させてるのか?
 「その通り! 理解が早くて何より。さすがは成績学年一位の祐希くんじゃな。白を大切にしてやるんじゃぞ? わかったところで、もうお別れじゃ。もしかしたらまた会いにくるかもしれないけどのぉ、のぉ、のぉ、のぉ、のぉ……」
 なぜだか言葉を反響して消えていったサンタジジイ、じゃなくて自称神様。まぁ、なんにせよ。あのジジイの話が正しければ、今日は脱却できたみたいだ。これは期待できる。


 ジリジリジリジリジリ……
 ガチャ。アナログ式の目覚まし時計を止めて、布団からで……ってあれ、布団の中で何やら柔らかい感触が……
 むにゅ、むにゅ、としたその触り心地。一度も体感したことのない代物だ。でも中には白しかいないはずだよな? 恐る恐る布団をよけてみる……
 「ンンンンんんん!? 誰だ、この女は!?」
 布団の中で小さく丸くなってたのは全裸の美女。かなり豊満な胸に、真っ白で長い髪の毛。肌も雪のように白く、摩擦抵抗がゼロかと思うほどに滑らかに見える。そして何よりも特徴的なのが口元に見える普通の人よりも鋭い犬歯。
  「ん、んん~」
 その全裸の女が寝ながら体を伸ばした。いかん。あらゆる部分が俺の視界に……
 俺は全く女の体に耐性のない高2男子。それは少しどころじゃなく、刺激的だった。収まれ、収まるんだ俺の体よ。
 「ふにゃ? おはようだにゃ」
 パッと目を開けた白い美女。真っ青で大きな目が俺を直視している。この目、どこかで見たな……
 「どうしたにゃ? 私は白だにゃ!」
 「し、白!?」
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