乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜

勿夏七

文字の大きさ
128 / 196
21章

127.代替

しおりを挟む
 コウギョクに案内してもらい、ポツンと建っている家へと案内された。明かりがついており、煙突からは煙が立ち込めている。
 家には主がいるようだ。

「ヒスイさーん、お客様です」
「え、ヒスイ?」
「おや、お知り合いですか?」

 ドアを叩いて呼ばれた名に、私は思わず名前を繰り返した。同名の人だっているかもしれない。

「同じ名前の方に会ったことがあるんです。同じ人かはわかりませんが」
「同じですよ」

 扉を開けてヒスイは私を見据えた。イナト達があからさまに敵意を向けており、それを感じ取ったコウギョクはただならぬ雰囲気に挙動が不審になっている。

「こいつが毒殺男か」

 ロクはヒスイを指差しそう凄む。
 確かに間違ってはいないのだが、本人を前にすることではない。況してここまで案内してくれたコウギョクの前で。
 「何もしないでね」とロクへと釘を刺すと、不満そうにしながらも頷き指を下ろした。
 ロクに言われたことや指を差されたことを気にせずヒスイは私に問いかける。

「何しに来られたのですか? まさか救世主様が私如きを排除するために、わざわざここまで来たわけではありませんよね」

 刺々しくそう口にするヒスイ。そんな態度にもちろんイナトは気が立っている。だが、口を挟まずに黙っているのは、代替の情報を聞き出せないのはイナトとしても困るからだろう。
 
「ウロスラの代替を開発している人がここにいると聞いたので来ました」
「……そういうことですか。残念ながらまだ見つかっていませんよ」
「もし完成したら教えてくれませんか?」

 ヒスイは心底面倒臭そうな表情を見せたが、貼り付けた笑みで言った。
 
「ウロコラドンと黒スライムを私の元に生きたまま連れてきてくれたら考えますよ」
「それができればアデルさんに頼むのでいいです」
「は? アデル? あんな男に頼むのですか?」
「知り合いだったんですね」
「知り合いだなんてとんでもない! あの男は龍でも実験体にする悪人ですよ!」

 ヒスイはジュ村を何度か訪れていた。一度だけではあるが、話したこともあるそうだ。最初こそ呪いや毒について話が盛り上がっていた。
 しかし、ヒスイがエンドラスト国出身だと知ったアデルは、龍に毒や呪いは効くのか、龍を解剖してみたいなど興奮気味に話し始めたと。エンドラスト国では龍は尊ぶべき存在。
 それなのにこの男は何もわかっていない。そう思ったヒスイはそこからアデル嫌いになったらしい。
 
 もしかしてヒスイは龍人だろうか。王が龍人だと言っていたし、あり得る。

「アデルさんのことはいいとして、もしかして貴方は龍人ですか?」
「だったらなんですか。王より龍の血が薄いから鱗はありませんよ」

 人でも魔族でもないと言うからもずっとモヤモヤしていた。やっと答えに辿り着いてスッキリ――と思ったのに、訝しげなヒスイのせいであまり気が晴れなかった。
 ……そんなことはどうでもいい。それよりウロスラの代替が完成しても、教えるつもりがないとして解釈してしまってもいいだろうか。
 黒スライムはまた洞窟に行けばいいとしても、ウロコラドンについては火山付近で、人間嫌い。捕まえるのは難しいと王に言われているのだ。望みは薄いだろう。

「救世主様、行きましょう。アデルにウロコラドンの鱗を提出する方がマシです」
「そうですか。せいぜい頑張ってください」
 
 イナトの発言にヒスイは嘲笑するように言い放った後、扉を閉めた。唖然としていたコウギョクは、扉の閉まる音で我に返る。

「び、びっくりした。ヒスイさんって結構物騒な人だったんですね」
「あまり知らないんです?」
「ええ。ヒスイさんはあまり交流を好みませんので」

 ルーパルドの問いに、大きく頷くコウギョク。
 ヒスイは基本物腰柔らか。だが、興味がないものは覚えられず人の顔も名前も一致しない。
 適当に敬語でニコニコしていればいいだろうと言う感覚のようだとコウギョクは言う。
 そのため、誰に対してもニコニコしながら雑に扱っているらしい。しかもコウギョクの顔は覚えたが、名前はまだ覚えてもらっていないと言う。

「あれ? そう考えると救世主様には興味がありそうですね?」

 これは私の予想ではあるが、"あの方"のために覚えたのだろうと思う。興味がなくてもあの方が興味のあるものなんだから覚えていないと失礼だろう。
 
「それを言ったらアデルさんもじゃないですか?」
「アデルさんはどのような方か俺は存じ上げませんが……聞いた話からして、恐れから覚えたのでは? 嫌なことは記憶に残りやすいと言いますし」

 コウギョクの話で、その場にいた誰もが納得した。インパクトはあるし、正直そう何度も出会いたくない相手。
 特に特殊な生体であればきっと実験対象として見られているに違いない。

「……えっと、今日のところは泊まっていきませんか?」

 コウギョクはなんとも言えない空気に耐えられなくなったのか、提案する。
 
「お構いなく」
「え、野宿するつもりですか?」
「少しでも早くワープポイントの解放と魔王討伐を終わらせたいのです」
 
 説明するのも面倒なイナトは、それっぽく言っている。もちろん嘘ではない。嘘ではないのだが、もうイナトは箱以外で休みたくないだけなのだ。

「さすがです……!」

 それを知らないコウギョクの純粋な眼差し。それにイナトは一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに笑顔で「当然のことです」と返したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...