乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜

勿夏七

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21章

132.迷い

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「ひっくし」

 リビングで食事をとっている最中、控えめにくしゃみをしたロク。宝石を持っていたがそれでも寒かったのだろうか。
 中に着られる暖かい服でも買った方が良いのかもしれない。

「大丈夫? 風邪ぶり返した?」
「……寝ていれば問題ない」

 ずずっと赤くなった鼻を啜り、ロクはフードを深く被り直した。
 ルーパルドは自身も風邪気味だったくせに、ロクに対して小馬鹿にしたようにニヤニヤとする。

「渡者も風邪引くのか」
「普通の人間なんだから当たり前だろ」

 ロクが言うには、戦闘面はピカイチだが、体調管理については特に修行をすることはないのだそうだ。だから風邪を引く人は引くし、引かない人は引かないのだと。
 
 イナトはすかさず丸薬をロクに手渡した。
 あれはルーパルドにも渡していたものだ。今はすっかり良くなっている様子を見ると、それほどまでに効果てきめんな代物なのだろう。

「飲め。ロクが持っていたものがどの程度の効力かは知らないが、おそらくこちらの薬の方が効く」

 貰った丸薬の臭いに顔を顰めたロクだったか、渋々それを飲み込んだ。何度か水を飲んだあと、部屋に戻ると言い残しロクはリビングから去っていった。
 ロクは箱で休んでもらった方がいいかもしれない。イナトへとそう言おうとしたところで、イナトは頷いた。

「念の為ロクには休んでもらいましょう。救世主様もお休みください。それと、時々ロクの様子を見ていただければと」
「ん? イナトはまた別件で仕事?」
「はい。急ぎではありませんが、片付けておこうかと」

 ルーパルドも連れていくのかと思いきや、「お前もしっかり休んでいろ」と声をかけイナトは家から出ていった。

「俺が呼ばれないのレアだなぁ。ちょっと不調だった俺への配慮?」

 不気味だ……。なんて言いつつも、ルーパルドは休みなのが嬉しいようだ。とてもいい笑顔だ。
 また、イナトがいないからだろう。すでに敬語は抜け、肩の力も抜けている。

「さて、どうしようか。リンの口説きに勤しもうか」
「そんなことに勤しまなくていいから」

 面倒なことになりそうだと察した私は、自分の部屋へと歩き出す。しかしすぐにルーパルドが阻止するように前に立つ。
 横に避け進もうとすると、ルーパルドに腕で制される。

「つれないこと言うなよ。せめて親睦を深めさせて。ね?」

 大きな体に似合わず、小首をかしげ優しい声色。本当に私を口説き落として、この世界に留まらせるつもりなのだろうか。
 
 これまで散々帰りたいと言ってきたわけだが、こう何度も引き留められると流石の私も揺らいでしまう。
 絶対に帰りたい理由があるかと問われれば、そんな理由は存在しないと答えよう。元の世界に恋人がいるわけでも愛する家族がいるわけでもない。
 なんとなく、帰らなければいけないと思っているだけだ。私はこの世界で異質な存在なのだからと、それらしいことを言って。

「俺に聞きたいことない? 弱音とか愚痴でもいいよ?」
「……仮に私がこの世界に残るとして、私の居場所ってあるのかな」
「そりゃあ、もちろん。リン争奪戦が始まっちゃうだろうな~」

 私の手を取り、リビングのソファに座らせた。私の頭を1回撫でた後、キッチンへと立つ。お湯を宝石を使って一瞬で沸かし、茶葉を用意。
 手際よく用意されたティーセットをテーブルへと置き、カップにお茶を注ぐ。

「はい、どうぞ。ずっと帰るか帰らないか悩んでたりする?」
「不意に思い出す感じかな……」

 熱々の紅茶を冷まし、ルーパルドに見つめられながら私はひとくち。それを見て満足そうにルーパルドは口角をあげた。

「無理に残ってくれとは言わないつもり……けど、迷ってるくらいならここに残っちゃえばいい」
「皆私に甘すぎるよ」

 主人公補正だから愛されている可能性を考えてしまう。だってあまりにもあっさり私に好意を向けてくるのだから。
 だが、主人公補正でしょと言えるわけもなく。神様に会ったら補正なのか、仮に補正なら世界を救ったら消えてしまうのか確認したいところだ。

「何を心配しているのか俺にはわからないけど、俺はリンのこと大事にするよ」

 愛おしそうに目を細めるルーパルド。甘い言葉に甘い表情に私は思わず顔を背ける。
 私も大概ちょろすぎる。
 そんな私の頭をルーパルドは優しく撫でた。
 
「貴女のためなら嫌な仕事も率先してやる。団長に勝てって言うなら勝ってみせるから」

 私を抱きしめて、子をあやすように頭を撫でる。
 このまま流されてしまいそうだ。

「あ、ありがとう。世界を救うまでには全部決めるから!」

 体を離し、ルーパルドを置いて急いでリビングから逃げ出す。

「前向きによろしくー」

 先程までの真面目な声とは別に、少しおちゃらけた言い方で私を見送るルーパルド。
 それを無視して私は部屋へと入りその場にしゃがみ込む。
 
「本当に口説き落とそうとしてくるじゃん」

 深呼吸をして落ち着かせる。
 そしてベッドへと寝転がり、先程受けた対応に顔が熱くなる。
 距離の詰め方があまりにも自然。イナトの初々しさとは逆。ロクのストレートさとも違う。

 最後の国だし、もしかしたら他の人達もアプローチを仕掛けてくるかもしれない。そう思うと私の乙女心は耐えられるのか、いきなり心配になってきた。
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