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その女は
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王城にあるヴァイスの部屋にフューリズは赴いていた。
婚礼の儀があと三日後と迫っていて、そのドレスが出来上がったのでフューリズは最終確認の為、王城までやって来たのだ。
とは言え、最近は毎日のように王城に来ている。婚礼の儀での動きを練習する為にだが、それよりもフューリズはヴァイスに会いたくて来てしまうのだ。
それが分かるから、ヴァイスもフューリズを可愛く思い、なるべく時間をフューリズに割くことにしている。
相思相愛となった二人に待ち受けているのは輝かしい未来であると、この時は誰もがそう思っていた。
ルーファス以外は……
しかし、フューリズの力が王城ではあまり効果がない事をフューリズ自身が気づいていて、自分に従うようになっても翌日には何事もなかったように、普通に戻ってしまう事にも不思議に感じていた。
それでも、王太子妃という立場に魅力を感じていたフューリズは、ゆくゆくは国王になるヴァイスの妻となれるのなら権力は思いのままとの考えから、誰に何を言われても反抗する事なく従順に従っていた。
その献身的な姿を見て、ヴァイスは益々フューリズを好きになっていく。
「フューリズ、悪いんだけど今日は僕はこの後用事があってね。もう行かなくちゃいけないんだ」
「そうなの? せっかく来たのに……寂しいわ」
「ハハハ、もうすぐずっと一緒にいられるようになるよ。それまで我慢して貰えないかな?」
「ヴァイス様がそう仰るなら我慢するけど……でもやっぱり寂しいわ」
「もう……本当に可愛いな、君は。早く全てを僕のものにしてしまいたいよ」
「私は既に全てヴァイス様のものですわ」
「そうかい? 僕の知らないフューリズがまだまだありそうだよ? 君は魅力的だからね」
「ふふ……そうかしら? でも私も早くヴァイス様の全てが欲しいですわ」
「僕のものは全て君のものだよ。あぁ……名残惜しいな……けど、もう行かなくちゃ。じゃあ行ってくるね。可愛い僕のフューリズ」
「私のヴァイス様……いってらっしゃいまし」
フューリズを抱き寄せた後ヴァイスは出て行ってしまって、フューリズは暇をもて余す事となった。とは言っても、本当は婚礼の儀の予行演習等する事があるのだが、ヴァイスがいなくなってしまってからは、フューリズは途端にやる気が無くなってしまった。
「ではフューリズ様、これから婚礼の儀の際の……」
「あぁ、それはもういいわ。今日はもう帰ります」
「それは困ります! まだフューリズ様にお伝えしなければならない事がございます!」
「一人じゃ嫌よ。つまらないもの。ローラン、これから王都に行くわ」
「はい」
「しかしフューリズ様!」
「私に指図しないで。私が何もしないことを有り難く思うのね」
「ですが……!」
止める侍女を無視して、フューリズはローランと共に王都へ行くことにした。
自分が王太子妃になってしまったら、もう簡単に王都に行けなくなるかも知れない。王城に住んだら、今の自由がなくなるかも知れない。
今まで自分に従う者ばかりだったけれど、そうならないかも知れない。
だけどそれより、フューリズは王太子妃という立場に魅力を感じていた。勿論ヴァイスは好きだが、次期国王という肩書きの方がフューリズには価値のあるものだった。
だから今より自由が無くなったとしても耐えられると考えている。そして、自由がなくなる前に好きな事をしていたいと思うのは当然の事だと言わんばかりに、フューリズは侍女に止められても構う事なくその場を後にした。
王都は自分に従う者ばかりだった。
高級店に入るとあれこれ物色する。目ぼしい物を見つけ、欲しい物を言うと代金を支払わずとも快く差し出してくれる。
それは露店でもそうだし、フューリズを見ると無表情だった人達が皆笑顔になる。それを見る度に、自分は神にでもなったような気分になる。
その笑顔を自分以外に向ける事はない。何故なら自分は特別で、慈愛の女神の生まれ変わりだからだ。言うなれば神に一番近しい存在なのだ。
その自分と結婚できるヴァイスはなんて幸せ者なのだろう。
フューリズはそう感じていた。
だから周辺国では一番に力のあるアッサルム王国の権力が自分のものになるのは当然だし、そのうち誰もが自分に従うしかなくなる筈だと確信していた。
そんな事を考えながら歩いていると、誰かが駆け寄ってくる音が聞こえてきた。
こんなふうに自分に駆け寄って来る者は最近はここでは見掛けなかったから、フューリズは思わず身構えてしまう。
ローランもそれに気付き、フューリズの前に出て剣を抜く。
「フューリズ! あぁ……! やっと会えた! 貴女はフューリズなのね!」
「な……っ! 無礼者! 私を呼び捨てにするなんて!」
「会いたかったわ! 会いたかった! 私のフューリズ……っ!」
そこにいたのは赤い髪と赤い瞳の女だった。みすぼらしい姿で、王都に暮らす人達や観光客といった感じではなさそうだった。
なぜこんな者を王都に入れたのか、フューリズは甚だ疑問に感じた。しかし、そんな事より気になった事があった。
それはローランもそうだったのか、その女を見て何も言えずに、そして動けずにいたのだ。
その女の顔は、フューリズとそっくりだったからだ。
自分が年老いたらこんな顔になるのではないかと思える程、その女の顔は自分に似ていると感じたが、すぐにその考えを払拭させるように頭を振る。
こんなみすぼらしく汚い女と自分が似てるなんて有り得ない。自分はきっと美しく気高く老いてゆく筈だ。
そんな事を無理矢理にでも考える。
しかし、女はそんな事は関係ないとばかりにフューリズに近づこうとしてくる。それにはローランがハッとして、フューリズを守るようにして剣を女に向けた。
「フューリズ……こんなに立派になって美しくなって……あぁ……やっぱり私がした事は間違っていなかった……」
「何者なの?! 私をそんなふうに呼ぶなんて許さないわ!」
「知らないのも無理はないわね……私は貴女の母親なの……もうすぐ結婚すると聞いて、いてもたってもいられなくなったのよ……一目貴女を見たくって……抱きしめたくて……」
「戯けた事を……っ! お母様は私が産まれた時に亡くなられたわ! 謀ろうとしたって無駄よ!」
「私は貴女に何も求めないわ。ただ貴女に会いたかっただけ……」
女は微笑みながらフューリズに向かって両手を広げる。まるで抱きしめようとしているみたいに。
いきなりそんな訳の分からない事を言われてフューリズは戸惑った。
いつもならすぐにローランに斬り伏せさせるのだが、何故かその指示ができない自分がいる。
自分と似ているだけじゃなく、フューリズは何か感じるものがあったからだ。
懐かしいような、近しい存在のような、そんな感じがする。
初めて会うのにそうじゃないように感じる。そんな感覚は初めてで、それがフューリズ自身を異様に焦らせた。
自分を根底から崩れさせるような、そんな危機感を覚える。
こんな女に、自分が揺すぶられるなんてあってはいけない。有り得ない。
嬉しそうに微笑みながらゆっくり近づいてくるその女に、フューリズは恐怖した。
この時初めてフューリズは恐怖というものを知ったのだ。
「やめ、て……来ないで……」
「一度だけで良いの……貴女をもう一度抱きしめさせて……」
「お前みたいな汚ない女に……っ! 私が触れられるなんて有り得ないっ!」
「フューリズ……私の可愛い子……」
フューリズの言葉が聞こえていないかのように、女は両手を広げたまま近づいてくる。女の目にはフューリズしか見えていなかった。
その目がフューリズには耐えられなかった。
排除しなくては……
「ローラン! この女を叩き斬りなさい!」
「はい」
その一言で、ローランは迷う事なく剣を奮った。
婚礼の儀があと三日後と迫っていて、そのドレスが出来上がったのでフューリズは最終確認の為、王城までやって来たのだ。
とは言え、最近は毎日のように王城に来ている。婚礼の儀での動きを練習する為にだが、それよりもフューリズはヴァイスに会いたくて来てしまうのだ。
それが分かるから、ヴァイスもフューリズを可愛く思い、なるべく時間をフューリズに割くことにしている。
相思相愛となった二人に待ち受けているのは輝かしい未来であると、この時は誰もがそう思っていた。
ルーファス以外は……
しかし、フューリズの力が王城ではあまり効果がない事をフューリズ自身が気づいていて、自分に従うようになっても翌日には何事もなかったように、普通に戻ってしまう事にも不思議に感じていた。
それでも、王太子妃という立場に魅力を感じていたフューリズは、ゆくゆくは国王になるヴァイスの妻となれるのなら権力は思いのままとの考えから、誰に何を言われても反抗する事なく従順に従っていた。
その献身的な姿を見て、ヴァイスは益々フューリズを好きになっていく。
「フューリズ、悪いんだけど今日は僕はこの後用事があってね。もう行かなくちゃいけないんだ」
「そうなの? せっかく来たのに……寂しいわ」
「ハハハ、もうすぐずっと一緒にいられるようになるよ。それまで我慢して貰えないかな?」
「ヴァイス様がそう仰るなら我慢するけど……でもやっぱり寂しいわ」
「もう……本当に可愛いな、君は。早く全てを僕のものにしてしまいたいよ」
「私は既に全てヴァイス様のものですわ」
「そうかい? 僕の知らないフューリズがまだまだありそうだよ? 君は魅力的だからね」
「ふふ……そうかしら? でも私も早くヴァイス様の全てが欲しいですわ」
「僕のものは全て君のものだよ。あぁ……名残惜しいな……けど、もう行かなくちゃ。じゃあ行ってくるね。可愛い僕のフューリズ」
「私のヴァイス様……いってらっしゃいまし」
フューリズを抱き寄せた後ヴァイスは出て行ってしまって、フューリズは暇をもて余す事となった。とは言っても、本当は婚礼の儀の予行演習等する事があるのだが、ヴァイスがいなくなってしまってからは、フューリズは途端にやる気が無くなってしまった。
「ではフューリズ様、これから婚礼の儀の際の……」
「あぁ、それはもういいわ。今日はもう帰ります」
「それは困ります! まだフューリズ様にお伝えしなければならない事がございます!」
「一人じゃ嫌よ。つまらないもの。ローラン、これから王都に行くわ」
「はい」
「しかしフューリズ様!」
「私に指図しないで。私が何もしないことを有り難く思うのね」
「ですが……!」
止める侍女を無視して、フューリズはローランと共に王都へ行くことにした。
自分が王太子妃になってしまったら、もう簡単に王都に行けなくなるかも知れない。王城に住んだら、今の自由がなくなるかも知れない。
今まで自分に従う者ばかりだったけれど、そうならないかも知れない。
だけどそれより、フューリズは王太子妃という立場に魅力を感じていた。勿論ヴァイスは好きだが、次期国王という肩書きの方がフューリズには価値のあるものだった。
だから今より自由が無くなったとしても耐えられると考えている。そして、自由がなくなる前に好きな事をしていたいと思うのは当然の事だと言わんばかりに、フューリズは侍女に止められても構う事なくその場を後にした。
王都は自分に従う者ばかりだった。
高級店に入るとあれこれ物色する。目ぼしい物を見つけ、欲しい物を言うと代金を支払わずとも快く差し出してくれる。
それは露店でもそうだし、フューリズを見ると無表情だった人達が皆笑顔になる。それを見る度に、自分は神にでもなったような気分になる。
その笑顔を自分以外に向ける事はない。何故なら自分は特別で、慈愛の女神の生まれ変わりだからだ。言うなれば神に一番近しい存在なのだ。
その自分と結婚できるヴァイスはなんて幸せ者なのだろう。
フューリズはそう感じていた。
だから周辺国では一番に力のあるアッサルム王国の権力が自分のものになるのは当然だし、そのうち誰もが自分に従うしかなくなる筈だと確信していた。
そんな事を考えながら歩いていると、誰かが駆け寄ってくる音が聞こえてきた。
こんなふうに自分に駆け寄って来る者は最近はここでは見掛けなかったから、フューリズは思わず身構えてしまう。
ローランもそれに気付き、フューリズの前に出て剣を抜く。
「フューリズ! あぁ……! やっと会えた! 貴女はフューリズなのね!」
「な……っ! 無礼者! 私を呼び捨てにするなんて!」
「会いたかったわ! 会いたかった! 私のフューリズ……っ!」
そこにいたのは赤い髪と赤い瞳の女だった。みすぼらしい姿で、王都に暮らす人達や観光客といった感じではなさそうだった。
なぜこんな者を王都に入れたのか、フューリズは甚だ疑問に感じた。しかし、そんな事より気になった事があった。
それはローランもそうだったのか、その女を見て何も言えずに、そして動けずにいたのだ。
その女の顔は、フューリズとそっくりだったからだ。
自分が年老いたらこんな顔になるのではないかと思える程、その女の顔は自分に似ていると感じたが、すぐにその考えを払拭させるように頭を振る。
こんなみすぼらしく汚い女と自分が似てるなんて有り得ない。自分はきっと美しく気高く老いてゆく筈だ。
そんな事を無理矢理にでも考える。
しかし、女はそんな事は関係ないとばかりにフューリズに近づこうとしてくる。それにはローランがハッとして、フューリズを守るようにして剣を女に向けた。
「フューリズ……こんなに立派になって美しくなって……あぁ……やっぱり私がした事は間違っていなかった……」
「何者なの?! 私をそんなふうに呼ぶなんて許さないわ!」
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「戯けた事を……っ! お母様は私が産まれた時に亡くなられたわ! 謀ろうとしたって無駄よ!」
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女は微笑みながらフューリズに向かって両手を広げる。まるで抱きしめようとしているみたいに。
いきなりそんな訳の分からない事を言われてフューリズは戸惑った。
いつもならすぐにローランに斬り伏せさせるのだが、何故かその指示ができない自分がいる。
自分と似ているだけじゃなく、フューリズは何か感じるものがあったからだ。
懐かしいような、近しい存在のような、そんな感じがする。
初めて会うのにそうじゃないように感じる。そんな感覚は初めてで、それがフューリズ自身を異様に焦らせた。
自分を根底から崩れさせるような、そんな危機感を覚える。
こんな女に、自分が揺すぶられるなんてあってはいけない。有り得ない。
嬉しそうに微笑みながらゆっくり近づいてくるその女に、フューリズは恐怖した。
この時初めてフューリズは恐怖というものを知ったのだ。
「やめ、て……来ないで……」
「一度だけで良いの……貴女をもう一度抱きしめさせて……」
「お前みたいな汚ない女に……っ! 私が触れられるなんて有り得ないっ!」
「フューリズ……私の可愛い子……」
フューリズの言葉が聞こえていないかのように、女は両手を広げたまま近づいてくる。女の目にはフューリズしか見えていなかった。
その目がフューリズには耐えられなかった。
排除しなくては……
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