慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
62 / 363
第二章

青の石

しおりを挟む
大魔法使いナディアの訃報が街中に拡がり、人々は悲しみに暮れた。


彼女がこの街で、人々に愛されていたのがわかる。


街をあげての、追悼式がおこなわれた。


ナディアが亡くなってからの3日間、街は喪に服し、静まり返っていた。




葬礼でナディアを送り出したあと、ナディアのメイドが家に来るよう、伝えてきた。

言われるがままナディアの家に向かう。

部屋に通され、リビングへと案内される。

そこには、前に魔法学園の前で会った、初老の白髪の男性がいた。

ソファーに腰掛けるよう促され、私は男性の対面に腰を掛けた。

メイドはそっと離れ、キッチンへと向かった。


「お会いするのは2回目ですね。
私は校長代理をしておりました、リオネルと申します。」

「貴方が校長代理だったんですね。
私はアシュレイと申します。」

挨拶を交わしていると、メイドがお茶を持ってきた。

お茶を置くと、メイドは校長代理の横に座った。


「私はミレイユと申します。
私とリオネルは夫婦です。」

「そうだったんですね。」

「昔、ナディア様に大変お世話になり、それからナディア様のお側で働かせて頂いておりました。」

2人はそう言って、顔を見合せ微笑んだ。

「今日お呼びしたのは、ナディア様の事について、お話しがあったからです。」

「私が…無理をさせて話を聞き出したから…ナディアは……」

申し訳ない気持ちで、そう伝えると、

「い、いえ!そう言うことではありません!」

驚いた様に、ミレイユが言う。

「医師の方からは、もって2日程だと言われておりました。
それでも、最後まで校長は、探されていた方の情報を求められておりました。」

リオネルが言うと、少し落ち着いたミレイユが

「ええ、ずっとずっと、ただナディア様はお嬢様や同郷の方に会える事だけを夢見て、この、なにもなかった小さな街を、こんな大きな魔法の街へと発展させたのです。
最後に貴方に会う事が出来て、ナディア様も喜んでおりました。」

涙を浮かべて、ミレイユが私に伝える。

「私達はナディア様から、亡くなる数日前に伝言を預かっておりました。
自分が亡くなった後に、自分の同郷と思われる方が現れたら渡して欲しい物がある、と言って……」

涙ぐみながら、ミレイユが席をたった。

それから少しして戻ってきたミレイユは、装飾の美しい箱を私の前に差し出した。

戸惑っていると

「開けてみて下さい。」

と促される。

手にとって開けてみると、そこには腕輪と、ベルトらしき物が入っていた。
腕輪には、赤、黄、緑、青、紫、白、黒の石が嵌め込まれていた。
ベルトらしき物には、碧い石がついている。

「その腕輪には、ナディア様が大切にされてた青の石がついていました。
それを数日前にそこから外し、別の、御守りに使われている石に付け替えられました。
ですので、今その腕輪には青の石はついていません。
ですが、使われている全ての石に、魔法が付与されています。

それと、そのベルトですが、着いている碧い石は魔力制御の石です。
ナディア様のお嬢様は、人より魔力が高めで、それをもてあましていたそうなんです。
碧い石は、部族の中でも貴重な物として宝物庫にあったそうですが、お嬢様の為にと何年も頼み込んで、やっと貸し出された石だったそうです。
それをナディア様が縫製をし、頭につけられるようになさいました。
特に瞳への魔力が強かったお嬢様の為に……
しかし、お渡しする前に兵に村を滅ぼされた、と、嘆いておられました。」

「これを、私に?」

「亡くなる少し前、私は息も絶え絶えなナディア様から言伝てを頼まれました。貴方にそちらをお渡しする事。それと……」

「それと?」

「石を全て集める様に、と。」

「なぜ、石を…?」

「それは、私にも分かりません。お聞きする時間がありませんでした……申し訳ありません。」

「いえ、こちらこそ、すみません。」

「それと、青の石は、森の中で…と。」

「森の中で…」

「はい、その様に。」

そう言って、小さな革袋を出した。

「こちらが青の石です。」

「私が持っていても良いのですか?」

「ナディア様が残した物は、この街に溢れています。魔法も、学園も、人も、全てです。ですので、私達はいつでもナディア様を感じて生きていけるのです。街を離れる貴方には、ナディア様の思い出としてそれらをお持ち頂けると、私達も嬉しいです。」

「ありがとうございます。彼女との時間は短いものでしたが、私の大切な人でありました。有り難く、受け取らせて頂きます。」




それから2人は、ナディアの話を嬉しそうに、楽しそうに、そして悲しそうに、それから幸せそうに、これまであった色々な事を話してくれた。



そうしてしばらくして、2人に見送られながら、私はナディアの家をあとにした。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...