慟哭の時

レクフル

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第三章

腕輪

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レクスがディルクを探しに行った時、ディルクは家から出てきたところだったと言っていたが、私と一緒にオルグと話をしようと思ったようで、マリーの家に訪ねに行くところだったそうだ。

3人でそんな話をしながら歩いて、村長オルグの家にやって来た。


お茶を出すと言って、オルグが席を離れた間に、昨日ディルクがオルグと話した内容について聞かせて貰った。


母親代わりの女性から聞いた事だそうだが、ディルクの弟は、生まれてすぐに銀髪の女に連れ去られたらしい。

その女がなぜ弟を連れ去ったのかは分からないが、それからいくら探しても弟と銀髪の女は見つからなかったそうだ。

弟が連れ去られた時、近くで寝ていたディルクの手首に腕輪がされてあったらしい。

その腕輪をオルグに見せたら、それは村にあった宝で間違いなかったようで、かなり驚かれたと言っていた。

一日のうちに、私とディルクから部族の宝だった物を見せられたら、それは驚く他ないだろう。



そこまで聞いたところで、オルグがお茶を持ってやって来て、お茶を置いた。

ちゃんと、レクスの分も置いてくれていた。


「昨日、ディルク殿と話しましてな。
いやはや、驚きました。部族の宝を一日にあんなに目にする事になるとは。」

「ディルク、その腕輪って…」

言い終わる前に、ディルクは左手を私の目の前辺りにかざした。

袖に隠れていた銀色の腕輪がキラリと輝いて、ディルクの手首からその姿を覗かせた。


「その腕輪……」


見覚えがある。

その腕輪は、私も持っている。

それは、ナディアから譲り受けた腕輪。

私の持っている腕輪は、御守りの石に魔法の付与がつけてある物。

ディルクのそれは、青い石がいくつかついていて、石以外の所が、私の持っている腕輪と仕様が変わりないのだ。


驚いた顔をして見ていると、

「どうした?」

と、ディルクが顔を覗き込んできた。

「あ、いやっ…」

ビックリして顔を反らす。

こんな顔が近くなのは心臓に悪い!


「その腕輪に見覚えがあって……」

「どこで見た?!」

ディルクが真剣な顔で問い詰める様に聞いてきた。

こんなディルクを初めて見た…

戸惑っていると

「あ、悪い、つい……」

「いや、気にしなくて大丈夫だ。私の持っている腕輪とよく似ている。これはナディアと言う女性から譲り受けた物だ。」

「ナディアがアシュレイ殿に?!見せてはもらえんか?!」

私は空間魔法に納めていた腕輪を取り出し、テーブルに出す。 

オルグは腕輪を手に取り、マジマジと確認するように色んな角度から見ている。

「これは、ディルク殿が持っている腕輪を模して作られた物の様ですな。石は魔法の付与があるようだが、特に目立った能力が使えると言う物ではなく、全般的に能力が少し上がる、と言ったものでしょうな。」

「そうですね、その様な効果のある物と言うのは分かっていました。
今これ以上の能力は私には必要ないので、身につけてはいなかったのですが。」

「その、ナディアと言う人は何者だ?」

「私の義母でしてな。アシュレイ殿から昨日聞いたんですが、ヘクセレイと言う街にいたそうです。村が襲われた時に別々になってしまった、私と同じ部族の者です。」

「ずっと同じ部族の人達に会えるのを待ちながら、ヘクセレイを魔法の街と呼ばれる位に発展させた人だ。」

「その人が弟を連れ去った可能性はないか?」

「……っ!ディルクっ!それはないっ!と、……思う。私が会ったときの印象だが、心が穏やかな人で、とても優しい目をした人だった…」

「そうですな…ナディアは昔から、優しくて、どちらかと言うと物静かで大人しい女性でしたな。しかし、芯はしっかりしていて、頼りになる人でした。そんな彼女が、生まれたばかりの赤子を連れ去るとは考えにくい。しかし、もしそうしたならば、必ず何かしらの理由があるはずです。」

「…そうか。」

「ディルク…その腕輪は、一体どんな効果があるんだ?」

「…よく分かっていないんだ。しかし、これは俺の腕からは外れない。」

「外せないのか?!」

「あぁ。何度も外そうとしたんだけどな。」

「オルグは分かりますか?この腕輪の効果が何か。」

「申し訳ないが、分からんのです。昔の村の宝物庫には、数多くの宝と呼ばれる物がありましてな。その効果が語り継がれている物も数多くあったのですが、知る者が限られている宝もありましてな。その一つがその腕輪です。」

「俺の成長に合わせて、腕輪も大きくなってピッタリになるようになっている。物心つく前からつけられているから、どんな効果があるのか分かってはいない。ただ、もしかすると……」

「もしかすると?!」

「レクスが見える様に、他の霊も精霊も俺には見えるんだが、それはこの腕輪の効果の可能性がある。」

「そうなのか?」

「まぁ、仮定の話だけどな。」

「じゃあ、ずっと霊や精霊達が見えていたのか?」

「あぁ。物心つく前からそうだったようだ。よく誰もいない所に向かって、1人で喋っていたらしい。幼い頃は、霊と生きている人の区別が分かりにくかったよ。」

「私は青い石を手にしてから、精霊や霊が見えるようになった。しかし、レクス以外の霊は、皆大体うっすらしているから、霊だと言うのはすぐ分かる。精霊はハッキリ見えるんだが。」

「その石を初めて使ったのは、森の中でしたかな?」

「え?えぇ、そうです。ナディアからの伝言で、森の中で、と言う事でしたので。」

「それは良かった。能力を身に付けた時、最初に見えた者の影響が大きく残るようでしてな。最初に精霊ではなく霊が見えていたら、精霊より霊の方がしっかり見えていたでしょうな。森の中では、霊より精霊が多いのが普通ですからな。それに、少年は精霊の加護があるから見えやすいのでしょうな。」

「それで森の中でと…」

「俺は、アッシュの光の精霊が、リンデの木の枝に座ってろって言ってたから、あの場所にいたんだぞ!」

「アシュレイには光の精霊がついているのか。」

「え?あ、あぁ。そうだ。」

「黒くって、怖い感じのヤツもついてるぞ!」

「!闇の精霊か?!」

「どうした?!ディルク?!レクスの言う通り、私には闇の精霊がついているが……」

「いや、思い付いた事があってな。アシュレイ。この村を救えるかも知れないぞ。」

「どう言う事だ?!」






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