慟哭の時

レクフル

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第六章

傷痕

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エリアスは私を助けようとしてくれただけなんだ。

兵達にも、恐らく雷魔法とかで気絶させただけなんだ。

危害を加えようとか思った訳じゃないんだ。

ずっと国がらみの仕事をしていたから、兵達に刃向かうとどうなるかは分かっていた筈なんだ。

ずっと色んな国に貢献してきて……エリアスは人の為に働いて来たのに……

エリアスはAランク冒険者で……

ただ強いからAランクになれる訳じゃなく、どれだけ貢献してきたかも考慮されて、選ばれて願われてAランクになって行くんだ……

エリアスはこんな所で……っ!

こんな事をされる様な人なんかじゃないっ!!


「テネブレ……」


黒い光の粒がいくつも現れて、それが一つになってテネブレの姿となる。


「アシュリー!とても美しい姿だ!愛しいぞ!」

「テネブレ……エリアスを助けたい……」

「聖女様?何を言ってるんです?さぁ、あちらへ戻りましょう。」


テネブレが見えないフェルナンドは、不思議そうな顔をして私を見るが、そんな事は捨て置き、私はテネブレと一つになる。

私の髪が、瞳が変わる。

白いドレスだった筈なのに、それは一瞬にして暗闇色に変わって行く。


「な、なんだ?!どうなっている!!」


驚いた顔をしたフェルナンドだが、私は怒りが収まらない。

フェルナンドの顔を掴んで、そこから生気を奪って行く。
フェルナンドはみるみるうちに老化していく。


「アシュレイっ……!!」


エリアスの声にハッとして、フェルナンドを離した。
フェルナンドは死にはしなかったが、一気に老人の様になってしまった。

それからすぐに檻に手をやり、結界を壊す。
いとも簡単に壊れた結界に、物足りなさを感じた。

それから檻も粉々に壊す。

エリアスに拷問を仕掛けていた者達が震えて、私に攻撃しようと鎖の鞭を奮ってくる。

それを難なく受け止めて、鎖を掴んだ男を鎖ごと振り回して叩きつけた。
端の方でガタガタ震えている者に、雷魔法で失神させ、広範囲に闇魔法を放ち、この屋敷にいる者達の記憶を無くす。

それからエリアスの、拘束されている腕と足を自由にする。

血にまみれたエリアスが、倒れ込む様に私にしなだれ掛かってくる。
それを抱き抱えると、エリアスも私を抱き締めた。


「エリアス……こんな無茶をして……」

「アシュレイ……やっぱ……すげぇな……」

「私が捕らわれていると知って、何も出来なかったんだな……」


ぐったりしたエリアスを抱き締めたまま、空間移動で王都の宿屋まで帰って来た。
そのままエリアスをベッドに横たわらせる。
痛みに耐えてか、エリアスが震える手で私を掴んで離さない……

そのままで回復魔法をエリアスに施す。

そうすると、エリアスはすぐに回復していった。


「は、あぁ……アシュレイ、すまねぇ……楽になった……俺が助けるつもりだったのに……助けられちまったな……」

「エリアスが謝る必要なんてない……」

「情けねぇな……あ…悪いな、アシュレイの綺麗な肌……俺の血で汚しちまったな……」

「エリアス……」


エリアスの頬を、両手で包み込む様に優しく触れる……

なんだかエリアスが愛しく感じてきたんだ……

横たわるエリアスの上に乗って、それからゆっくり、エリアスに顔を近づけて行く……


「アシュレイ……?」


ニッコリ微笑んで、唇がエリアスの唇に触れそうになった時、エリアスが戸惑った様に頬に置いた私の手を掴む。


「テネブレっ……!」


エリアスがそう言うと、私の中からテネブレが抜け出して行く。

テネブレはエリアスを睨み付けながら、黒の光を分散させて消えて行った。

二人でベッドの上にいて、私の下にいるエリアスを見て、今迄の事が急に恥ずかしくなってきた。


「あ、あれ?!私、何しようとしてたんだろ?!ごめんっ!ビックリしたよねっ!?」

「……っとに……ヤバかったっ!……あのアシュレイに迫られても……それはアシュレイの意思じゃねぇだろ……」


エリアスがため息を小さくついて、私の頭を自分の胸に寄せる。

さっきの事を思い出すと、顔から火が出そうな位恥ずかしかった……!


「あ、エリアス、怪我は大丈夫だった?!」


誤魔化す様に起き上がって、エリアスの体を確認してみる。

見ると、エリアスの体には至る所に、無数の傷痕があった。


「エリアス……これは……」


あまりにも酷い傷痕ばかりに驚いて、つい聞いてしまった……

エリアスも起き上がって、自分の体を見る。


「え?……あぁ、これは小っちぇ頃の傷痕だ。孤児院にいた時のと、奴隷になってた時の。さっきのも残っちまったかな……」

「こんなに……酷い……」

「大したことねぇよ。奴隷紋をつけられて傷が治りにくい体にされたから、多分回復魔法でも治んなくて痕が残んだろ。」

「そんな……」

「ハハ……気持ち悪いな?」

「そんなんじゃないっ!そんなんじゃ……」

「いや、皆俺の体を見ると怪訝な顔すんだよ。俺は特に気にしてねぇけど、見た奴等が嫌そうにするから……」


エリアスの事は色々知っているつもりでいたけれど、でも分かってない所も、きっといっぱいある……

こんなになるまで殴られて……いたぶられて……

幼いエリアスはどれだけ我慢してきたんだろう……

思わず、エリアスの傷痕を手で撫でる様に触れてしまう……


「アシュレイ……」

「エリアスは……いっぱい痛い思いをして……いっぱい我慢してきたんだな……」

「仕方ねぇ……自分の母親を殺しちまったから、その罰でも受けたんじゃねぇか?」


ハハって笑いながら、エリアスが呟く……


「そんな事言うなっ!罰とかっ!そんな事っ……!」

「……ごめん……んな泣きそうな顔すんなよ……」

「だって……」


エリアスは気にしてない風に装ってるけど、母親を殺してしまった事を、本当はすごく気にしてるんだ……

エリアスが、皆が入る浴場に行かなかったのは、こんな理由があったからだったんだな……

拷問されてる事にも慣れてるって……

こんな事、慣れる訳なんか無いのに……っ!


「もう……痛くない?」

「あぁ、うん、大丈夫だ……」

「良かった……」


思わず、傷だらけの胸にそっと顔を置いて、エリアスの傷痕を手で慰める様に撫でてしまう……


「これは……教皇が放った光の矢の……私を庇って出来た傷……これは……さっき鎖の鞭で殴られた痕……きっと……凄く痛かった……」

「アシュレイ……」


不意にエリアスが私を抱き締める。


「俺、アシュレイの事が好きだ……すっげぇ好きだ……」

「え……?」

「だからもう、他の女と上手くやれとか言わないでくれ……」

「え、あの……」

「分かったか?」

「あ、はい……」


そう答えると、エリアスは微笑んで私の頬にキスをした。


エリアスの言った言葉に、私はしばらく呆然とするしかなかった……






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