慟哭の時

レクフル

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第六章

交渉

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アシュリーがグリオルド国に捕らわれて、王都ウェルヴァラの王城にいる事が分かった。
俺はすぐにウェルヴァラまで行く事にする。


「コルネール!ゾランはいるか?!」

「は、はい、只今お呼び致しますっ!」

「カルレス!今から俺はグリオルド国へ向かう。出来る範囲で構わない、留守中、業務はお前に任せる!」

「あ、はいっ!速達でグリオルド国に書状をお送り致しますっ!」

「頼んだ。」

「リドディルク様、どうされましたか?!」

「ゾラン、アシュリーがグリオルド国で聖女として捕らえられた。俺は救出に行く。ついて来い!」

「アシュリーさんが?!畏まりました!直ちに同行する者を選抜致します!」

「それとコルネール、ジルドを呼べ!」

「はいっ!」


それから直ぐに、グリオルド国まで向かうべく、小隊を組む。
本当は空間移動ですぐにでも行きたいところだが、国同士の話し合いだ。
皇帝が属国とは言え、他国の王と会うとなれば、一人で勝手に行く訳にはいかない。
まずは早馬で書状を送る。
返事を待つことなく、俺も同時にグリオルド国へ馬車で向かう。
馬車の中で、ジルドから今のグリオルド国王の情報を聞き出す。

ゆっくりしている暇はない。

直ぐにアシュリーを取り戻さなければ……!

グリオルド国王のシルヴィオとは、まだ一度も会った事はない。
果たしてどう出てくるか……
気が抜けない。

グリオルド国からすれば、俺は捕らえた聖女を横取りしに来たのだ。
ただで引き渡すなんて事は、普通はする筈もないだろう。
交渉は上手く立回らなければな。

オルギアン帝国の帝都エルディシルから、グリオルド国の王都ウェルヴァラまでは、馬車でどれだけ急いでも5日はかかる。
一日でも……一時間でも、一分、一秒でも早くにウェルヴァラまで行く為に、従者達には無理をして貰うことになる。

少しの休みしかなく皆疲れもあるだろうに、誰一人として文句を言うこともなく、腐ることなく、俺について来てくれている。
本当に有難い……

道中、同じ様にウェルヴァラに向かうエリアスと出会い、合流する事になった。
彼もまた、アシュリーを助ける為に動いていたんだな。

帝城を出てから4日と半日後、俺達はグリオルド国の王都ウェルヴァラに着いた。
書状は先に届いていたので、門を通る時も、城へ入る時も、多くの者達が出迎えていた。

一部の従者は休ませて、すぐに会談するよう促し、国王シルヴィオの元へ向かう。
そこにはエリアスもついてきた。
まぁ、オルギアン帝国のSランク冒険者として横に置くのは、なにも不思議ではないからな。

国王シルヴィオは30歳前後で若く、即位してからまだ2年程しか経っていない、言わば新参者だ。
それを言うなら、俺の方がそうなのだが。

部屋に通されて中に入る。

国王シルヴィオは俺を見るなり、微笑んで握手を求めてきた。

しかしその笑顔の裏には、俺を軽視する感情が伝わってくる。


それに……


そうか……


そう言うことか……


大体の事は分かっていたつもりだったが、成る程な……


俺は握手で差し出された手を無視し、ソファーにドカッと座り、足を組んでシルヴィオを挑発するように見る。

シルヴィオは少し顔を引きつらせたが、すぐに元に戻して笑顔を作る。

エリアスは俺の後ろで、護衛の様にして立っている。


「リドディルク皇帝陛下!この度は我がグリオルド国まで、ご足労でございました!」

「シルヴィオ陛下、会えて嬉しいぞ。」

「本来ならば、こちらから赴かなくてはならぬ所を……」

「そんな事は良い。しかし、ここに来るまでに街を見て思ったが、国の情勢は良いようだな。」

「我が国がオルギアン帝国の属国となってからは、政治的に安定しています。民からの不満もなく、景気は良くなっています!」

「そうか。隣国のアクシタス国とも仲良くしている様で、何よりだな。」

「えっ……えぇ……それは……隣同士の国ですから。」

「街には鮮魚も多く入っているな。交流を持つことは良いことだ。なぁ、シルヴィオ陛下。」

「え……まぁ……そうですね。」

「鮮魚と言えば、先日食材だった魚に毒を盛られてな。俺は危うく死ぬところだった。」

「それは……災難でした……」

「皇帝となってからはこう言う事が多くてな。首謀者は突き止めているんだが、関係者を現在洗っているところだ。」

「そう……なんですね……」

「どうやら、我が帝国の身内のみの犯行ではない様なんだ。困ったものだ。」

「そうであれば……困った事ですね……」

「そう言えば、そちらのイレーネ王妃はアクシタス国出身だったな。ヴェストベリ公爵の奥方の妹君だとか。」

「あっ……!それは……!あ、いえ……はい、そうです……」

「どうした?シルヴィオ陛下。なにやら顔色が悪いが……?」

「いえ、大丈夫です……」

「俺が即位する前は、レオポルド皇子が即位する筈だったのは知っているだろう。それがどうやら暗殺された様でな。俺もいつ殺されるか気が気ではない。シルヴィオ陛下は、どうやったらこの暗殺は無くなると思われるか?」

「そう……ですね……それは……」

「すぐに関係を断ち切れば、不問にできるのだが ……このままであれば、こちらも国を挙げての戦いとなってしまう。なるべくなら穏便に済ませたいが、こんな時、シルヴィオ陛下ならどうされるのだろうか?」

「……っ!!」

「近隣国とは、これからも仲良くしていきたい。間違っても、属国である国が宗主国に刃向かう等と、あってはならない事だ。」

「もちろんです……!」

「それから……」

「は、はいっ!」

「我が帝国の聖女が、こちらで世話になっている様だ。なかなか俺の元まで来ないのでな。心配していたところなんだ。」

「……っ!しかしっ!それはっ!!」

「そこにいる、我が帝国のSランク冒険者に護衛させていたんだがな。捕らえられて拷問されたとも聞いた。それは本当か?」

「ガ、ガルディアーノ伯爵が、勘違いした……のかも知れませんっ!」

「それに……あれは俺の妃となる女だ……それを知っての狼藉か?」

「いえっ!!そうとは知らずっ!申し訳ありませんっ!」

「あれは自由奔放な女だ。そんな所も気に入っていてな。少し自由にさせ過ぎたかも知れん。」

「そう、なのですね……」

「今後この様なことがあれば、今回の様な対応は出来ぬと心得ろ……!」

「……っ!」

「聖女は……アシュリーはどこにいる……?」

「案内させます……」


どうやら交渉は上手くいったようだ……


グリオルド国とアクシタス国が密かに、第二皇子レンナルトとウェストベリ公爵と繋がっていた。

属国に反乱される等、あってはならない事だ。

しかしグリオルド国には、帝国に対応出来るだけの戦力はない。
今戦争を起こされれば、あっさり敗北するのは目に見えている。
シルヴィオも、まさかこんなに早くに気付かれるとは思ってもみなかった、と言ったところだろう。

しかし、シルヴィオは野望の塊だったな。
グリオルド国を独立させたい、と言う感情が根底に根強くこびりついている様だった。

オルギアン帝国の属国となる前のグリオルド国は、過重な税金を強要し、常に食糧難であちこちで暴動が起こっていた。
スラムも多く、死亡率と犯罪率が高かった。
贅沢をしていたのは国の上層部のみで、国民からは不満の声しか上がっていなかったのだ。

いつ破綻してもおかしくない状況。

それを父上は見かねて、戦争を起こすことになったが、言わばこの国を救ったのだ。

その事を先代の国王はよく理解していた筈なのに、シルヴィオはこの現状に納得していなかったんだな……

贅沢していた時代を生きていたのであれば、節制せざるを得ない現状に不満があったのかも知れない。
それでも王族ならば、何不自由なく暮らせるだろうに……


しかし、こちら側の護衛だと言うのに、エリアスからは敵意が俺に向かってガンガン飛んで来ていた。
これは男としての敵意だから、俺を殺そうとかそう言う感情では無かったものの、それだけアシュリーへの想いが強いんだと容易に分かる。
もちろんアシュリーを想う気持ちも、手に取る様に感じていた。

エリアスはきっとアシュリーを想って、傷つける事なく大切にしてくれる男なんだろう。
俺がアシュリーを妹だと思う事ができたなら、彼にアシュリーを託しても良いと思えたんだろうが……

俺はアシュリーを妹だと思う事が出来そうにない。

エリアス

悪いが、やはりアシュリーを譲る訳にはいかないんだ。











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