慟哭の時

レクフル

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第七章

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船がクラーケンに襲われて、難なく討伐できてから、俺は船上では英雄の様に扱われていた。

飯は必ず誰かが奢ってくれる。
色んな人から話しかけられる。
弟子にしてくれ、なんて言う奴も出てきたりする。
夜も誰かしらに飯と酒を振る舞われる。
気持ちは有難てぇけど、これじゃゆっくり出来ねぇな……
やっと落ち着いて、一人で甲板にあるベンチに座っていたところで、また声を掛けられた。


「エリアスさん!やっと一人になったのね!」

「ん?あぁ、ノエリアか。フラヴィオはどうした?」

「いつも一緒って思わないでよ。それにしても、凄かったのね!」

「え?」

「クラーケンをあんなに簡単にやっつけられるなんて、考えられないわ!あの時は死を覚悟したもの。こうして今生きていられるのは、エリアスさんのお陰だわ!」

「そんな大層に言わなくてもいいぜ?アイツやっつけねぇと、俺も死んじまうところだったからな。」

「ふふ……良かった!」

「ん?何がだ?」

「初め会った時、ほら、甲板で海を見てたでしょう?その時、凄く悲しそうな顔をしていたから。そのまま海に落ちちゃったらどうしようって思って声をかけたのよ。」

「そっか……あれはノエリアなりの優しさだったんだな。」

「そうよ!でも、私の杞憂だったようね。安心したわ。ね、ラブニルに着いたらどこに行く予定なの?良かったら、私の家に招待させてくれない?おもてなしをさせて頂きたいわ!」

「いや、それは遠慮しとく。色んな奴からそうやって言われっけど、俺はやることがあるからな。」

「やることって?」

「……人を探してんだ。アシュレイって言ってな。紺色に銀が混ざったような、綺麗な髪色をしててよ、旅人なんだけどな、綺麗な顔立ちしてんだよ。知らねぇか?」

「アシュレイ……男の人かしら……知らないわ……その人が貴方の想い人なの?」

「まぁ、そうだな……」

「そうなのね。やっぱりBLの世界なのね……!良いわ……萌えるわー!」

「いや、だから、何言ってるか全然分かんねぇんだけど?」

「良いのよ!おっさん達もラブする時代だもの!人を愛する事自体が素晴らしい事だわ!」

「ったく……なんなんだよ……分かったから、もうあっちへ行ってくんねぇかな?一人にさせて欲しいんだ。」

「あら、残念な事を言うのね。まぁ、今は良いわ。もしシアレパスにいて何か困ったら、私を頼ってね。覚えておいて。私はノエリア・オルカーニャ。絶対に覚えておいてね!」

「あぁ、分かったよ。」


そう言ってノエリアは足取り軽く去って行った。

明日の朝には港町ラブニルに着く。
初めて行く場所では何が待っているかワクワクすっけど、グリオルド国の時は期待の後の衝撃の事実との落差がありすぎて、思ったよりメンタルがヤラれたからな。
あまり何も期待しねぇでおかなきゃいけねぇな。

翌朝、予定通り船は港町ラブニルに到着した。

船を降りて、まずはラブニルの街を探索する。
いつも一番に行くのは、冒険者ギルドだ。
そこで聞くのは、アシュレイって言うCランク冒険者の情報、それから容姿を言って、それでも情報が得られそうになかったら、素材買取りカウンターでも確認してみる。
ランクよりも強い魔物の素材を持ち込んだ奴がいるかどうかの確認をする為だ。


「そう言えば、ちょっと前にそう言う人がいた様に思います。でも、今聞いた容姿とは違いますねー。」

「え?!どんな感じなんだ?!」

「旅人っぽい感じではあったんですが、髪色は黒ですよ。貴方と同じ様な。名前も違ったと思います。ギルドカードは持っていらっしゃいましたが、確かGランクだったと思います。」

「そいつの名前、なんて言うんだよ?!」

「え、ちょっと待って下さい……調べますから……えっと……」


買取りカウンターの職員は、帳簿を見ながら確認していく。


「あ、あった!えっと、リュカって方ですねー。彼はGランクですが、持ち込んだ素材は、Bランク相当の魔物でした。状態も良く、高めに買取り出来ました。」

「リュカ?黒髪で?本当か?!」

「本当です!嘘なんて言う理由はないじゃないですか!それに、あの方を一度見たら忘れられません。とても素敵で……物腰も柔らかくて……また来てくれないでしょうかねー……?」

「……アシュレイ……か?」

「その方は……あ、来られたのは一週間程前ですねー。」

「どっから来たとか、分かんねぇか?!」

「そこまでは……」

「他に何か気付いた事とかねぇか?!」

「え?!えっと……とにかく格好良い人だと認識していて……Bランクの魔物を持って来られたから、ランクを上げてはどうかと言ったんですが、目立ちたくない、と言ってそのまま変わらずGランクで行かれました。」

「聞けば聞く程……だな。因みに、素材って何だったんだ?!」

「それは、えーと……バジリスクですねー。貴重なエビルアイが綺麗な状態で残っていたので、かなり高く査定させて頂いてます。あとは……キマイラですねー。」

「生息地ってここじゃどの辺りなんだ?」

「所々にはありますが……ここから一番近いのはラブニルから北へ行った所にある、ウェス山脈辺りですねー。」

「分かった。ありがとな!」


もう一度ギルドカウンターへ行って、今度はリュカと言うGランク冒険者について聞いてみる。
しかし依頼を受けた形跡はなく、素性の情報は何も得られなかった。
でも、リュカを見たって職員はけっこう多くって、一度見たら忘れられない位に美形だったと、皆が口々に言っていた。

それはアシュレイの特徴と同じ様に感じ取れる。


「シアレパスだったか……?アシュレイの楽しかった思い出の場所はよ……!」


今まで何の手掛かりも無かった所に、まだ何の確証もねぇけど、そうかも知んねぇ情報が得られた事で一気にやる気が出てきた!

早速ウェス山脈へ行くことにする。

ウェス山脈までは歩いて三日程かかる。
乗り合い馬車があって、それで行くなら一日で行けるらしいから、それに乗る事にした。
馬車には年配の人達が多く乗っていた。
口々に体が痛い、早く着かないか、等と言っていた。
不意に気になって聞いてみた。


「アンタ達はこの馬車で、何処まで行くつもりなんだ?」

「え?私達は温泉へ行きますよ。」

「温泉?!温泉が沸いてるのか?!」

「はい、半日程行った場所に、温泉街があるんですよ。色んな効能の温泉があって、持病に良かったりするんですよ?」

「温泉……そうか!」


そう言えば二人で旅をしていた時に、アシュレイは温泉を見つけてテンションが上がっていた事を思い出した。

ウェス山脈までは行かずに、ひとまずその温泉街に行くことにする。

アシュレイが近くにいる気がして、俺のテンションも一気に上がったんだ。







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