慟哭の時

レクフル

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第七章

怪しい者達

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「ぅ……うわあぁぁぁぁーーーっっ!!!」

「ゾラン?!」

「あぁーーっ!!うあぁぁぁーーっっ!!」

「ゾランっ!落ち着けっ!!しっかりしろっ!!」

「あぁぁぁーーっ!あーーーっっっ!!」

「ゾランっ!!」


グレゴールが爆発したように弾け飛んで、人としての形を成さなくなって、至るところに肉塊が散らばり、部屋中には飛び散った血の跡があって、自身も全身が血や肉塊にまみれていて、しかもそれは一瞬の出来事で、今まで人であったモノが今は原型をとどめておらず、そのあまりの惨状にゾランは我を失った様に叫び続けた。

咄嗟にゾランの肩を右手で掴む……!

ゾランの恐怖を取り除く……
少しずつゾランが冷静さを取り戻していった……
お陰で、俺の体力がかなり奪われた……!


「ゾラン……落ち着いたか……?」

「…リ…リドディルク様……っ!うぅっ……も…申し訳ありません……っ!」

「いい……仕方がない。気にするな……」


ゾランは涙を流しながら、まだ震える体でなんとか耐えていた。
そうなるのも仕方がない。
俺も何も出来ずに動けなかったんだ。

光魔法でゾランと俺の全身に着いた血液等を浄化させた。
部屋中に飛び散った血液や肉塊も浄化させる。
ゾランはその様子を、涙を拭いながら申し訳なさそうに見ていた。

しかし……

グレゴールは何を言おうとしたんだ?

言われると不味い事だったから、グレゴールはこうなってしまったのか……

考えていると、霊体となったグレゴールが目の前に現れた。


「グレゴール殿……!」

「私は……どうなりましたか……?!」

「すまない!ニコラウスの事を無理に聞き出そうとしたから、貴方は……!」

「そうですか……私は……死んでしまったのですね……」

「本当になんと詫びれば良いのか……っ!」

「いいえ。ディルク様が悪い訳ではありません。どうやら、私は呪いをかけられていた様です……」

「呪い……?」

「はい……恐らく…先程私が言おうとした事を口にしたら呪いが発動する…と言った事だったんでしょうね……無念です……!」

「貴方は俺達に何を教えてくれようとしたんだ?!」

「ニコラウス様のお知り合いの方は怪しい者達ばかりで……その者達が来てから、使用人達は段々可笑しくなっていったんです。」

「操られていた、と言うことか?!」

「そうだと思われます。実は私も少しその様な力を持っておりまして……とは言っても、一瞬気を紛らわす程度のものでございますが……それもあって耐性があったのでしょう……私が操られる事はありませんでした。」

「それで呪いをかけられたか……!」

「そうだと思います……その事には全く気づきませんでした。不覚でございます……」

「いや、分からないのは仕方がない事だ。高度な呪術師だと推測できるな……ニコラウスが何をしようとしているか、分かるか?」

「シアレパス国は、国とは言え、実は公国に近いのです。王族はまつりごとには関わらず、国の象徴であるようにただ外交等をされていらっしゃるのみでございます。実権を持っているのは、各地にいる貴族様達です。その中でも、伯爵位とは言え、幅広く大きな実権を握っていたのがリカルド様だったんです。リカルド様は慈悲深く、皆に平等で、しかしその手腕は鋭く、リンデグレン領に住む者達は皆が貧困から免れて、皆がリカルド様を敬っておられたんです……ここモルディアは、リンデグレン領から外れており、別の領主様が管理されております。見てこられてお分かりになるでしょう?リンデグレン領とはこれ程の違いがあるんです。」

「そうだな……港町ラブニルからそう離れていないのに、ここは全く雰囲気が違う。上に立つ者によって、その元で暮らす者達には大きな差が生まれるからな……」

「そうですね……リカルド様は、他の領の貴族様と同盟を結ばれる事に尽力されておりまして、少しずつそれが広まっていってたんです。街や村を立て直す為にリカルド様は協力を惜しみませんでした。その姿を見て同盟を結ばれた領主の方も、リカルド様と同じ様に動かれるのです。そうすると、少しずつ情勢が良くなっていき、人々の暮らしは安定していったんです。ただ御自分のやり方を指導するのではなく、領主の方を立てて動かれるので、リカルド様を悪く思う者等何方もいらっしゃらなかった筈なんです……!」

「素晴らしい人物だったんだな……会ってみたかったものだ……」

「貴方は……グリオルド国からニコラウス様の調査に来られた方だとゾラン殿からお聞きしましたが……ただの調査員ではありませんね……?」

「あぁ……俺はオルギアン帝国のリドディルクと言う。」

「な…っ!リドディルク皇帝陛下であらせられましたか!!こんな場所に呼び出してしまって、申し訳ございませんっ!!」

「そんな事は気にせずとも良い。……しかし……それならば、ニコラウスがしようとしている事と言うのは……」

「この国の実権を握る事でしょう……!」

「ゾラン、もう大丈夫か?」

「先程は失態を……失礼致しました……漸く落ち着いて、冷静に考えられる様になりました。リドディルク様の様子では、そこにグレゴール殿がいらっしゃるんですね?私には見えませんので、リドディルク様の話す内容のみですがお聞きしていると、ニコラウス様の事と、リカルド様の事を詳しく聞かれていたと思われますが……」

「そうだ。」

「シアレパス国の情勢はある程度把握しているつもりです。その事から、ニコラウス様はリカルド伯爵の地盤を引き継ぎ、その手腕で拡大を狙われていると考えられます。しかも、お話では操られた、呪い等と仰られてました。恐らく幻術師や呪術師を側に置かれているのでしょう。グリオルド国の王族でありながら、気さくで明るく利発であれば、相手方の懐に入り込む事は容易く、それから幻術師と呪術師の力を使えば、難なく事は運んだでしょう。」

「そうだな……だが、そうやって増やした領土はどうなる?……リカルド伯爵が長年かけて尽力して得た安寧が……ニコラウスによって脅かされる事になる……!」

「えぇ……ニコラウス様は、人々の生活を向上させよう等は露程も思われていないでしょうね……」

「あぁ。あれだけ何度も国の金を平気で横領する奴なんだ。自分の事しか頭にない筈だ。このままニコラウスを放っておけば、このリンデグレン領、延いてはこの国に住む人々の生活が悪化していくだろう……」

「リドディルク皇帝陛下!お願いでございます!リカルド様が……!一生をかけて行ってきた事を無駄にはしないように、貴方様のお力でなんとかして頂きたいのです!貴方様からすればシアレパス国は何の関係もない所だとは思いますが……!ニコラウス様をっ!あの者を止めて下さいまし!!お願いでございます!!」

「グレゴール殿……俺は元よりそのつもりでこの国までやって来たのだ。ニコラウスがここに来る原因を作った一つが俺だと言う事もあるのでな。後の事は俺に任せて、貴方は安心して天に召されると良い……」

「ありがとうございますっ!ありがとうございますっっ!!」

「礼など必要ない。申し訳ないが、貴方の体を埋葬することはできない。今は葬送を行ってやることもできない。貴方は行方不明者となってしまう。本当に申し訳ない。」

「いいえ!そんな事はどうでも良いのです!リカルド様の功績をお守りいただければっ!」

「そんな事ではない。大切な事だ。全てが終わって、リンデグレン邸の者達が正常になれば、改めて葬送を行おう。それまでは待っていて貰えないだろうか?」

「なんと……有難いお言葉なんでしょう……!ありがとうございます……っ!貴方の様な方が皇帝様であらせられるオルギアン帝国が……羨ましく思います!」

「俺は当たり前の事をしているだけだ。大した事は何もしていない。……貴方を助ける事ができなかったのは悔やまれてならない……本当に申し訳なかった……何か思い残す事はあるか?」

「……私の事は気になさらないで下さい……妻にも先立たれ、お仕えする方もいなくなった今、こうなっても悔いはございません。」

「そうか……では天に還すが……良いか?」

「お願い致します……」


俺はエレインを呼び出し、それからグレゴールを天へと導いて貰った。
俺とゾランは二人でただじっと、グレゴールが天に召されるのを見送っていた……

グレゴールに言った通りに、ニコラウスを止めないとな……

しかし、幻術師と呪術師が側にいるとは、何とも厄介な事だ。

この事を踏まえて、どうしていくか考えなければならないな……








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