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第七章
密会
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リンデグレン伯爵邸に長年務めていた執事と密会するべく、馬車を走らせる。
その場所より離れた所で停めて、そこからは歩いて向かうようにした。
なるべく分からないようにして会うと言うのが条件だとゾランが言っていたからだ。
向こうも警戒しているんだな……
ここは港町ラブニルから東へ行った場所にあるモルディアと言う小さな街で、あまり治安が良くないのが見てとれる。
古く、草臥れた家や建物が多く、街の至るところにゴミが散乱し、路地を見る度に人がグッタリ座り込んでいるのが見られる。
あちこちから俺達を狙うような視線があって、身なりの良い者を襲おうとしているのが容易に分かってしまう。
所々娼婦と思われる女性が立っていて、客を物色しているのも目につく。
港町ラブニルからそう遠くない場所であるにも関わらず、ここはラブニルとは全く雰囲気が違った。
ゾランに聞くと、モルディアはこの辺りでは最も治安が悪く、滅多に一般の者でさえも近寄らない場所なのだと言う。
そんな場所に貴族や上流階級の者が立ち入る事はなく、執事が敢えてこの場所を選んだと言っていた。
俺達も馬車の中で着替えをし、この街に馴染むような服装にした。
が、それでもここに定住している者よりは裕福に見える様だ。
俺達を狙おうとしている感情が至るところに飛び交っている。
そう言う事もあって、街中を歩く時は威圧を自分とゾランに纏った。
絡まれたりするのは時間の無駄だからな。
路地裏を抜け、古びた宿屋に着いた。
軋む階段を上がり、一番奥の部屋を訪ねる。
合言葉の様な事をゾランが言うと、ゆっくりと扉が開いた。
扉の隙間から、年老いた男が俺達をマジマジと確認して、それから中へ入るように促した。
服装等は、この街にいる連中と変わりはしなかったが、佇まいや姿勢が執事としてのそれで、とても優雅に、それでいてキビキビした動きをしていた。
部屋には防音効果のある結界を張っておく事にする。
「ゾランから聞いていると思うが、俺はディルクと言う。貴方が長年リンデグレン伯爵に仕えていた、執事のグレゴール殿だな?」
「はい。私がグレゴールでございます。リカルド様が幼少の頃よりお仕えさせて頂いておりました。」
「ニコラウスの事を教えて貰えるか?」
「はい……ニコラウス様は……とても明るく明瞭な方で、勉学にも長けていらっしゃいましたし、私達使用人にも分け隔てなく接して下さっていて、皆がニコラウス様の事が好きでした。リカルド様も子供がいなかった事もあって、それはニコラウス様を我が子同然の様に可愛がられておりました。侍従として迎えられたそうですが、自分の片腕として自身の仕事を教え込まれていたんです。ニコラウス様の吸収力は素晴らしく、すぐに代理としても働けるまでになっていかれました。」
「そうなんだな。」
「しかし奥様のシャルロット様だけが、ニコラウス様に不審を抱かれていたんです。そんな中、リカルド様はニコラウス様を後継者とする事を内々にですが話されまして、それを止めるシャルロット様の意向を汲んで、ご自分が亡き後に継ぐと言う形にされました。」
「遺言か……」
「そうです。遺言書を作成されたんです。それに伴い書類等も全て用意され、手続き等も済んだ頃でした……」
「リカルド伯爵が殺されたんだな……?」
「そうです……っ!首を……首を一太刀で……っ!リカルド様は……こんな…っ…こんな殺され方をされる方ではないんですっ!穏やかで……誰にでもお優しくて……っ!決して恨みを買われる様なお方ではないんですっっ!!」
そう叫ぶように訴えて、グレゴールは泣き崩れた。
本当に心から敬愛していたんだろう……
涙も止められないうちに、まだ言わねばならないとばかりに、グレゴールは震える声を絞り出す様にして話を続ける。
「リカルド様が……お亡くなりになられた後……うぅっ……こ、今度は……奥様のシャルロット様が……っ!ベランダより落ちてしまわれてっ!
皆自殺だと……っ!けれど、落ちたベランダを調べたら!細工の様な跡が!!リカルド様が亡くなられてからっ!三ヶ月も経たぬうちに奥様まで……っ!!なぜこんな事にーっっ!!」
「その細工の跡があったのに、何故詳しく調べられなかったのだ?」
「す、すぐに!ニコラウス様が修理を呼ばれてっ!証拠は何も無くなってしまったんです……っ!やはり奥様の言う通り……ニコラウス様に原因があったのかも知れません!」
「貴方は何か気になったことはないか?」
「ございます!ニコラウス様のお知り合いの方を何人か雇う事になったんですが……その者達が気になりました!」
「どう気になったんだ?!」
「その者は幻術を使われるのか、じゅ…じゅ……つ……っ!ぐはっ!!」
「グレゴールっ?!」
いきなりグレゴールは口から大量の血を吐き出したかと思うと、体の中身が爆発したかの様にグレゴール自身がバラバラになって弾け飛んだ……っ!!
ゾランと俺はどうする事も出来ずに、その場に立ち竦んだまま、グレゴールの血液を全身に浴びた状態で呆然としている事しか出来なかったのだ……
ニコラウス……
お前は何をしたんだ……?!
何がしたいんだ……っ!!
これは許す事が出来ない事だぞ!!
暫くの間俺は動けずに、ニコラウスへの怒りに震えているしか出来なかったんだ……
その場所より離れた所で停めて、そこからは歩いて向かうようにした。
なるべく分からないようにして会うと言うのが条件だとゾランが言っていたからだ。
向こうも警戒しているんだな……
ここは港町ラブニルから東へ行った場所にあるモルディアと言う小さな街で、あまり治安が良くないのが見てとれる。
古く、草臥れた家や建物が多く、街の至るところにゴミが散乱し、路地を見る度に人がグッタリ座り込んでいるのが見られる。
あちこちから俺達を狙うような視線があって、身なりの良い者を襲おうとしているのが容易に分かってしまう。
所々娼婦と思われる女性が立っていて、客を物色しているのも目につく。
港町ラブニルからそう遠くない場所であるにも関わらず、ここはラブニルとは全く雰囲気が違った。
ゾランに聞くと、モルディアはこの辺りでは最も治安が悪く、滅多に一般の者でさえも近寄らない場所なのだと言う。
そんな場所に貴族や上流階級の者が立ち入る事はなく、執事が敢えてこの場所を選んだと言っていた。
俺達も馬車の中で着替えをし、この街に馴染むような服装にした。
が、それでもここに定住している者よりは裕福に見える様だ。
俺達を狙おうとしている感情が至るところに飛び交っている。
そう言う事もあって、街中を歩く時は威圧を自分とゾランに纏った。
絡まれたりするのは時間の無駄だからな。
路地裏を抜け、古びた宿屋に着いた。
軋む階段を上がり、一番奥の部屋を訪ねる。
合言葉の様な事をゾランが言うと、ゆっくりと扉が開いた。
扉の隙間から、年老いた男が俺達をマジマジと確認して、それから中へ入るように促した。
服装等は、この街にいる連中と変わりはしなかったが、佇まいや姿勢が執事としてのそれで、とても優雅に、それでいてキビキビした動きをしていた。
部屋には防音効果のある結界を張っておく事にする。
「ゾランから聞いていると思うが、俺はディルクと言う。貴方が長年リンデグレン伯爵に仕えていた、執事のグレゴール殿だな?」
「はい。私がグレゴールでございます。リカルド様が幼少の頃よりお仕えさせて頂いておりました。」
「ニコラウスの事を教えて貰えるか?」
「はい……ニコラウス様は……とても明るく明瞭な方で、勉学にも長けていらっしゃいましたし、私達使用人にも分け隔てなく接して下さっていて、皆がニコラウス様の事が好きでした。リカルド様も子供がいなかった事もあって、それはニコラウス様を我が子同然の様に可愛がられておりました。侍従として迎えられたそうですが、自分の片腕として自身の仕事を教え込まれていたんです。ニコラウス様の吸収力は素晴らしく、すぐに代理としても働けるまでになっていかれました。」
「そうなんだな。」
「しかし奥様のシャルロット様だけが、ニコラウス様に不審を抱かれていたんです。そんな中、リカルド様はニコラウス様を後継者とする事を内々にですが話されまして、それを止めるシャルロット様の意向を汲んで、ご自分が亡き後に継ぐと言う形にされました。」
「遺言か……」
「そうです。遺言書を作成されたんです。それに伴い書類等も全て用意され、手続き等も済んだ頃でした……」
「リカルド伯爵が殺されたんだな……?」
「そうです……っ!首を……首を一太刀で……っ!リカルド様は……こんな…っ…こんな殺され方をされる方ではないんですっ!穏やかで……誰にでもお優しくて……っ!決して恨みを買われる様なお方ではないんですっっ!!」
そう叫ぶように訴えて、グレゴールは泣き崩れた。
本当に心から敬愛していたんだろう……
涙も止められないうちに、まだ言わねばならないとばかりに、グレゴールは震える声を絞り出す様にして話を続ける。
「リカルド様が……お亡くなりになられた後……うぅっ……こ、今度は……奥様のシャルロット様が……っ!ベランダより落ちてしまわれてっ!
皆自殺だと……っ!けれど、落ちたベランダを調べたら!細工の様な跡が!!リカルド様が亡くなられてからっ!三ヶ月も経たぬうちに奥様まで……っ!!なぜこんな事にーっっ!!」
「その細工の跡があったのに、何故詳しく調べられなかったのだ?」
「す、すぐに!ニコラウス様が修理を呼ばれてっ!証拠は何も無くなってしまったんです……っ!やはり奥様の言う通り……ニコラウス様に原因があったのかも知れません!」
「貴方は何か気になったことはないか?」
「ございます!ニコラウス様のお知り合いの方を何人か雇う事になったんですが……その者達が気になりました!」
「どう気になったんだ?!」
「その者は幻術を使われるのか、じゅ…じゅ……つ……っ!ぐはっ!!」
「グレゴールっ?!」
いきなりグレゴールは口から大量の血を吐き出したかと思うと、体の中身が爆発したかの様にグレゴール自身がバラバラになって弾け飛んだ……っ!!
ゾランと俺はどうする事も出来ずに、その場に立ち竦んだまま、グレゴールの血液を全身に浴びた状態で呆然としている事しか出来なかったのだ……
ニコラウス……
お前は何をしたんだ……?!
何がしたいんだ……っ!!
これは許す事が出来ない事だぞ!!
暫くの間俺は動けずに、ニコラウスへの怒りに震えているしか出来なかったんだ……
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