慟哭の時

レクフル

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第七章

不審な動向

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ノエリアと別れて、馬車の中でピンクの石を握った。

少しして、エリアスの声が頭に響く。


「エリアス!無事だったか!」

『あぁ、ディルク、連絡が遅くなってすまなかったな。』

「今、ノエリアと会っていたんだ。そこでエリアスの事を聞いた。大変だったみたいだな。」

『ノエリアに?!って事は、今シアレパス国に来てんのか?!』

「あぁ、そうだ。エリアスが心配でな。もう怪我は大丈夫なのか?」

『あぁ、もう大丈夫だ。しかし、ディルクが来たのは俺の事だけで来た訳じゃねぇだろ?どうせ他にも用があんだろ?』

「ハハ……まぁな。それよりエリアス、アシュリーは……?!」

『あぁ!見つかったぜ!ここにいたんだよ!今俺の横にいんだよ!』

「そうか……そうか……!ありがとう……エリアス……ありがとう!」

『どうしたんだ?泣いてんのか?』

「泣くか!エリアスじゃあるまいし!」

『なんだよそれ!ひでぇ言い方だな!』

「そんな事より!アシュリーの様子はどうなんだ?!」

『あぁ……アシュレイは元気だぜ!けど、自分の事も忘れてたんだ……それに、俺の事も忘れてた。』

「何?!それは……」

『まぁ……俺もアシュレイに愛されてたって事じゃねぇの……かな?』

「………その可能性は……想定の範囲内だ……」

『え?!マジか?!ディルク、そう思ってたのか?!』

「黙れ。あらゆる可能性を考慮した結果だ。しかし……自分自身を忘れていたとは……」

『そうなんだ。自分の事が分からなくて、きっとずっと不安だったと思うんだ。それに、テネブレがアシュレイに入ってる事もあって、魅了で近寄ってくる奴も多かったみてぇでな。初めは俺の事も信じて貰えなかったんだぜ?』

「そうだったのか……魅了の力は異性と同年代の者に最も効果的だ。元々耐性を持つ者もいるが、そうでない者が多いのも事実だ。アシュリーは……大変だっただろうな……」

『今は落ち着いてる。俺が魔力制御の石を渡したからな。けど、今は勿論ディルクの事も忘れてる。』

「そうか。今何処にいる?分かる所であればすぐに行く。」

『あ、いや……アシュレイは……まだディルクに会うのに、心の準備が出来てねぇみたいなんだ。』

「なに?……それはなぜだ……?」

『いや……分かんねぇけど……会って良いのか分からないとか言っててな。』

「どう言う事なんだ……?」

『いきなり自分の事知ってるって奴が現れて、消された記憶が自分が愛する人でってなったら、なんでそうされたか理由を考えんだろ?それで不安になったとかじゃねぇのかな。』

「そう……か……では……どうすれば良い?」

『今、インタラス国の王都にいんだけど、俺とアシュレイの腕輪が壊れちまってな。治してくれる錬金術師でも探す旅に出ようかって話しをしてたんだよ。アシュレイが旅に出る前に、シアレパス国で世話になった人達に挨拶に行きたいって言ってたから、これからシアレパス国へ行くつもりなんだ。アシュレイは挨拶が終わって旅に出る前に、ディルクの事を考えるって言ってたぜ?』

「腕輪が壊れたのか?!何があった?!」

『アシュレイの回復魔法が、腕輪のせいで抑えられちまっててな。俺の怪我が完治しねぇのを気にして、腕輪を外そうってなったんだ。腕輪を合わせたら外れたんだけど、そのまま壊れちまってな……すまねぇ……』

「いや……エリアスが謝る必要等無い。しかし、何故壊れたんだ……いや、それよりも……そうなると……エリアスは大丈夫か?人に触れなくなるぞ?」

『それは仕方ねぇ。それも分かった上で腕輪を外す事にしたんだ。まぁ、アシュレイには触れるからな。』

「ちょっと待て……!必要以上に触るんじゃないぞ!」

『って事は、必要だったら触って良いって事だよな?』

「屁理屈を言うな!……とにかく……エリアスの能力は厄介だ。これからは注意が必要だぞ?」

『それ、アシュレイにも言われたよ。分かってる。注意する。まぁそんな事で、これからシアレパスに行くから、また連絡するな。』

「分かった……では、アシュリーに伝えて貰えるか?」

『何をだ?』

「 アシュリー、無事で良かった。俺の気持ちは変わらない。いつでもアシュリーを想っている。会いたい……気持ちが落ち着いたら、すぐに教えて欲しい。何を置いてもすぐに行く。必ずアシュリーの元へ会いに行く。」

『……ったく!俺相手に、恥ずかしい野郎だな!』

「エリアスに言った訳ではない。」

『分かってるよ!じゃあまたな!』


エリアスとの話しが終わって、大きく息をついて、天井を見上げた。

良かった……

アシュリーが見つかって良かった……

無事で……元気で……いてくれた……


「ゾラン……アシュリーは元気だそうだ。」

「そうなんですね!良かったです!ではすぐに行かれますか?!」

「いや……まだ心の準備が出来てないようだ。先に別の事をしに行く事にする。」

「そうなんですか……ではニコラウス様の件ですね……」

「そうだな……ニコラウスには書状は送っているのか?」

「送ってはいるんですが、返事はありません。勿論、オルギアン帝国の皇帝としてではなく、ノエリアと同じ様に商人として送らせて頂いております。……が、使いの者が書状を渡したところ、応接室まで通されたそうですが、不在と言う事で帰されたそうです。一度通されたのにですよ?!その後、屋敷の前で待ち続けていた様ですが、帰宅されることはなかったようです。」

「本当に不在だったのか……?」

「いる気配はしているようでしたが……何度か取り次いで頂ける様に伺わせていたのですが、ある日突然その者からの連絡が途絶えまして……」

「なに……?それはどう言う事だ?」

「分かりません……私も迂闊だったと反省しております。申し訳ありません……その後も別の者を送っております。今度は一人ではなく、何人かで警戒しながらです。しかし、まだコンタクトはとれていない状態です。」

「そうか……しかし、どうなっているんだ……?」

「何処かに長期で行かれてる訳でもなさそうなんです。ですが、出掛けられた様子も、ご帰宅された様子もありません。かと言ってお部屋に籠っている訳でもなさそうですし……どうなっているのか……」

「確認しなければな……リンデグレン伯爵に、身内でなくとも近しい者はいないか?」

「長年努めている執事やメイドがいます。今その執事と、秘密裏に連絡を取っているところです。」

「そうか。では、その者と面会出来るように、何とか取り次ぐようにしてくれないか。」

「はい。畏まりました。では、これからその場所に向かいます。」

「仕事が早いな。」

「時間は有限です。リドディルク様の貴重なお時間を無駄には出来ませんからね。」

「ハハハ、そうだな。」


そうして馬車は、その者が待つ場所へと向かったのだ。






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