282 / 363
第七章
不審な動向
しおりを挟むノエリアと別れて、馬車の中でピンクの石を握った。
少しして、エリアスの声が頭に響く。
「エリアス!無事だったか!」
『あぁ、ディルク、連絡が遅くなってすまなかったな。』
「今、ノエリアと会っていたんだ。そこでエリアスの事を聞いた。大変だったみたいだな。」
『ノエリアに?!って事は、今シアレパス国に来てんのか?!』
「あぁ、そうだ。エリアスが心配でな。もう怪我は大丈夫なのか?」
『あぁ、もう大丈夫だ。しかし、ディルクが来たのは俺の事だけで来た訳じゃねぇだろ?どうせ他にも用があんだろ?』
「ハハ……まぁな。それよりエリアス、アシュリーは……?!」
『あぁ!見つかったぜ!ここにいたんだよ!今俺の横にいんだよ!』
「そうか……そうか……!ありがとう……エリアス……ありがとう!」
『どうしたんだ?泣いてんのか?』
「泣くか!エリアスじゃあるまいし!」
『なんだよそれ!ひでぇ言い方だな!』
「そんな事より!アシュリーの様子はどうなんだ?!」
『あぁ……アシュレイは元気だぜ!けど、自分の事も忘れてたんだ……それに、俺の事も忘れてた。』
「何?!それは……」
『まぁ……俺もアシュレイに愛されてたって事じゃねぇの……かな?』
「………その可能性は……想定の範囲内だ……」
『え?!マジか?!ディルク、そう思ってたのか?!』
「黙れ。あらゆる可能性を考慮した結果だ。しかし……自分自身を忘れていたとは……」
『そうなんだ。自分の事が分からなくて、きっとずっと不安だったと思うんだ。それに、テネブレがアシュレイに入ってる事もあって、魅了で近寄ってくる奴も多かったみてぇでな。初めは俺の事も信じて貰えなかったんだぜ?』
「そうだったのか……魅了の力は異性と同年代の者に最も効果的だ。元々耐性を持つ者もいるが、そうでない者が多いのも事実だ。アシュリーは……大変だっただろうな……」
『今は落ち着いてる。俺が魔力制御の石を渡したからな。けど、今は勿論ディルクの事も忘れてる。』
「そうか。今何処にいる?分かる所であればすぐに行く。」
『あ、いや……アシュレイは……まだディルクに会うのに、心の準備が出来てねぇみたいなんだ。』
「なに?……それはなぜだ……?」
『いや……分かんねぇけど……会って良いのか分からないとか言っててな。』
「どう言う事なんだ……?」
『いきなり自分の事知ってるって奴が現れて、消された記憶が自分が愛する人でってなったら、なんでそうされたか理由を考えんだろ?それで不安になったとかじゃねぇのかな。』
「そう……か……では……どうすれば良い?」
『今、インタラス国の王都にいんだけど、俺とアシュレイの腕輪が壊れちまってな。治してくれる錬金術師でも探す旅に出ようかって話しをしてたんだよ。アシュレイが旅に出る前に、シアレパス国で世話になった人達に挨拶に行きたいって言ってたから、これからシアレパス国へ行くつもりなんだ。アシュレイは挨拶が終わって旅に出る前に、ディルクの事を考えるって言ってたぜ?』
「腕輪が壊れたのか?!何があった?!」
『アシュレイの回復魔法が、腕輪のせいで抑えられちまっててな。俺の怪我が完治しねぇのを気にして、腕輪を外そうってなったんだ。腕輪を合わせたら外れたんだけど、そのまま壊れちまってな……すまねぇ……』
「いや……エリアスが謝る必要等無い。しかし、何故壊れたんだ……いや、それよりも……そうなると……エリアスは大丈夫か?人に触れなくなるぞ?」
『それは仕方ねぇ。それも分かった上で腕輪を外す事にしたんだ。まぁ、アシュレイには触れるからな。』
「ちょっと待て……!必要以上に触るんじゃないぞ!」
『って事は、必要だったら触って良いって事だよな?』
「屁理屈を言うな!……とにかく……エリアスの能力は厄介だ。これからは注意が必要だぞ?」
『それ、アシュレイにも言われたよ。分かってる。注意する。まぁそんな事で、これからシアレパスに行くから、また連絡するな。』
「分かった……では、アシュリーに伝えて貰えるか?」
『何をだ?』
「 アシュリー、無事で良かった。俺の気持ちは変わらない。いつでもアシュリーを想っている。会いたい……気持ちが落ち着いたら、すぐに教えて欲しい。何を置いてもすぐに行く。必ずアシュリーの元へ会いに行く。」
『……ったく!俺相手に、恥ずかしい野郎だな!』
「エリアスに言った訳ではない。」
『分かってるよ!じゃあまたな!』
エリアスとの話しが終わって、大きく息をついて、天井を見上げた。
良かった……
アシュリーが見つかって良かった……
無事で……元気で……いてくれた……
「ゾラン……アシュリーは元気だそうだ。」
「そうなんですね!良かったです!ではすぐに行かれますか?!」
「いや……まだ心の準備が出来てないようだ。先に別の事をしに行く事にする。」
「そうなんですか……ではニコラウス様の件ですね……」
「そうだな……ニコラウスには書状は送っているのか?」
「送ってはいるんですが、返事はありません。勿論、オルギアン帝国の皇帝としてではなく、ノエリアと同じ様に商人として送らせて頂いております。……が、使いの者が書状を渡したところ、応接室まで通されたそうですが、不在と言う事で帰されたそうです。一度通されたのにですよ?!その後、屋敷の前で待ち続けていた様ですが、帰宅されることはなかったようです。」
「本当に不在だったのか……?」
「いる気配はしているようでしたが……何度か取り次いで頂ける様に伺わせていたのですが、ある日突然その者からの連絡が途絶えまして……」
「なに……?それはどう言う事だ?」
「分かりません……私も迂闊だったと反省しております。申し訳ありません……その後も別の者を送っております。今度は一人ではなく、何人かで警戒しながらです。しかし、まだコンタクトはとれていない状態です。」
「そうか……しかし、どうなっているんだ……?」
「何処かに長期で行かれてる訳でもなさそうなんです。ですが、出掛けられた様子も、ご帰宅された様子もありません。かと言ってお部屋に籠っている訳でもなさそうですし……どうなっているのか……」
「確認しなければな……リンデグレン伯爵に、身内でなくとも近しい者はいないか?」
「長年努めている執事やメイドがいます。今その執事と、秘密裏に連絡を取っているところです。」
「そうか。では、その者と面会出来るように、何とか取り次ぐようにしてくれないか。」
「はい。畏まりました。では、これからその場所に向かいます。」
「仕事が早いな。」
「時間は有限です。リドディルク様の貴重なお時間を無駄には出来ませんからね。」
「ハハハ、そうだな。」
そうして馬車は、その者が待つ場所へと向かったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる