慟哭の時

レクフル

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第七章

直らなかった

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ウルに壊れた腕輪を渡して、それが直せるかどうか見てもらった。

ウルが色々試しているみたいだけど、どうも上手く出来なかったようだ。


「ごめん……直せされへんかった……」

「謝る必要なんてないよ!母に会ったら直して貰えるだろうし、気にしないで!」

「うん……ありがとう……」


ちょっと落ち込んだウルだったけど、私もエリアスも気にしないように言ったら、わりとすぐに立ち直った。

外はもう日が暮れはじめて、空が赤く染まってきていた頃だったから、今日はここで一晩泊めて貰うことにした。
晩御飯を私が作ることにして、ウルが手伝ってくれることになった。
ウルに何が食べたいか聞くと、トムトとミルクの煮込みスープが食べたいって言った。
それからここは魚が多く入るけど、肉は殆ど食べた事がないって言ってたから、肉料理も用意することにした。

野菜と牛鴨の肉を細かく切って、油で痛めてから酒を入れる。それから砕けたトムトを入れて煮込んで、少しずつミルクを入れて、塩と香辛料で味を調える。
弱火で煮込んでいる間に、牛鴨の肉を切って串に野菜と肉を交互に刺して行き、火で炙る。
焼き上がったら甘辛いタレをつけて出来上がり。
軽く焼いたパンとサラダと、程よく煮込んだスープを添えて、テーブルに並べた。

それを見て、ウルは目をキラキラさせて、嬉しそうに私に微笑んだ。


「「「いただきます!」」」


皆で手を合わせて、それから食事を摂る。
ウルはスープを一口食べて、私を見て大きく何度も頷いた。


「これっ!リサの味や!このスープが食べたかったんや!」

「旨ぇよな!このスープもやべぇ位旨ぇ!」

「この肉も、めっちゃ美味しい!たまらんわー!」

「アシュレイといたら、いつもこんな旨い飯が食えんだぜ?!」

「大袈裟だな……おかわりもあるから、いっぱい食べて!」


エリアスとウルが、何度も旨い、美味しいって言ってくれて、楽しく食事が終わっていった。
皆で後片付けをして、それからお茶を入れて、これからオルギアンまで一緒に旅をする仲間として、ウルに言っておかなければいけない事を話す事にした。

それは、私とエリアスの異能の力の事だ。

ウルに触れるのには問題が無かったけれど、他の人には触れない事を話す。
なぜウルには触れるのか、と言うのには、エリアスが話してくれた。
銀の髪の部族は、精霊と人間との子孫であり、精霊に近い存在であるエルフには触れても問題が無かったんじゃないか、と言う見解に至ったと話した。
けれどエリアスの能力は強力で触れた人に大きな影響を及ぼすから、エリアスはウルに触れるのが怖い、と言っていた。

それから、母が何故オルギアン帝国から離れられないのか。
聖女の事は一般には知られていない事だから、その事をウルに説明する。
そして、私も回復魔法を使える事を話した。
けれど、そんな理由から人前でこの力を使うことは出来ない、とも伝えた。
この力の事が分かると、強制的に連れていかれて、そこから戻って来られなくなるからだと。

ウルは何も言わずに、真剣に私達の話を聞いていた。
話が一区切りついたところで、ウルがエリアスの元まで行って、手に触れようとする。
それにはエリアスが驚いて、勢いよく立ち上がってウルから離れた。


「何すんだよ!さっきの話、聞いてなかったのかよ?!」

「聞いてたで?」

「じゃあなんで……!」

「試してみたら良いやん。もし目が見えなくなっても、姉ちゃが治してくれるんやろ?」

「そうかも知んねぇけど……っ!」

「なにビビってんねん。これから一緒に旅に出るんやったら、知っといた方が良いことやないか。」

「けど……っ!」

「もう!グダグダしててもしゃあないやろ!」


そう言ってウルはエリアスの左手に触れた。

暫く黙ってそうしてて、その様子を見てエリアスがウルに恐る恐る聞く……


「ウル……大丈夫か……?見えてっか……?」

「……見えへん……」

「えっ?!マジかっ!!」

「嘘や。見えてるわ。」

「ちょっ……お前、マジでそんな冗談やめてくれっ!」

「ハハハっ!ビビりすぎや!大丈夫やって!ほれ、右手でも触ってみ?」

「ったく……いい性格してるよな……」


エリアスが右手でウルの頭をワシャワシャする。
ウルはずっと微笑んでエリアスを見ていた。


「な?大丈夫やろ?」

「そうだな。良かった……安心した……」

「なんや、小っちゃい男やなぁ。これくらいの事でそんなビビらんでもええやんか!姉ちゃがおったら、そんなに困る事でもないやろ?」

「アシュレイの力は、なるべく使いたくねぇからな。」

「もし見られても、ソイツらやっつけたらええんちゃうん?」

「そんな簡単な事ばっかりでもねぇんだよ。」

「そうなんか?まぁよう分からんけど……」

「ま、良いけどな。そろそろ寝るか?お子ちゃまには眠い時間だろ?」

「子供扱いすなや!」

「まだ子供だろ?」

「もう11歳や!大人と一緒や!」

「一緒ではない……な。」

「うるさいな!まだ大丈夫や!……けど、今日は色々疲れたから、もう寝たるわ。……姉ちゃ、一緒に寝よ?」

「え?あ、うん。」

「あ、エリアスと一緒に寝たかったんか?」

「え?!いや、それは大丈夫っ!」

「なんや、まだ二人はそこまでの関係や無いって事か?」

「な、何言ってんだよ!ったく!ウルはませてんな!」

「子供扱いすなって言うてるやろ!ホンマ、怒るで!?」

「まぁまぁ……じゃあ、エリアスは……」

「そうだな……俺はここで寝るか。」

「なんで?さっきの部屋にもう一つベッドあったから、そこで寝たらいいやん?アタシと姉ちゃが一緒に寝るから、ベッドは一つ空くやろ?」

「あ、俺、寝言とかすげぇから、一人でここで寝るわ。布団とか持ってるし。」

「寝言すごいって、どんなんやねん。」

「ハハ……夢見まくってんだろな。」

「エリアス……」

「ほな姉ちゃ、寝に行こ?」

「うん……」


寝る前に部屋で装備を全て取って、私とウルに浄化魔法で体の汚れを取り去った。
ウルはビックリしつつ喜んで、それから装備をとった私を見て、女っぽくなって余計にリサに見えると言って抱きついてきた。

一緒にベッドに入ってウルの髪を撫でていると、安心したようにウルが微笑みながら静かに寝息をたてだした。
手をぎゅって握って、私がどこにも行かないようにしているんだろうか……と思いながら、気になるのはエリアスの事だった。

船にいた時も、夜になるとエリアスは傷痕が痛みだして、一人でそれに耐えていた。
ウルが完全に寝入ったのを確認してから、そっとベッドを抜け出してエリアスの寝ているリビングに行くと、やっぱりエリアスは一人で痛みに耐えていたところだった。

傍に行って、流れる汗を拭って、熱くなった体を冷やす様に氷魔法を施す。
エリアスがゆっくりと目を開けて、私を見て微笑む。
それから、ごめんなって謝って、震える手で私の手を握ろうとする。
エリアスの横に寝て体温を調整しながら、落ち着くまで何度も髪や背中を優しく撫でていると、エリアスは安心したように少しずつゆっくりと寝息をたてて眠りに落ちていった。
エリアスが眠ったのを確認してから、そっと離れてウルが寝ているベッドに静かに戻った。

翌朝、窓から入る朝日が目にしみて目覚めると、ウルは既にそこにいなかった。
ゆっくり体を起こして辺りを見渡して、それからリビングに行くと、エリアスとウルが朝御飯を作っていたところだった。


「あ、アシュレイ、起きたか。もうちょっと寝てても良かったんだぜ?」

「姉ちゃ、お寝坊さんやな!エリアスがまだ寝かせておけって言ったからそうしてたけど、よう寝たな!」

「アシュレイは疲れてんだよ!ほら!そこ、ちゃんと火の調整しろよ!」

「うるさいな!細かい男は嫌われるで!」

「アシュレイ、もうちょっとで出来るから、そこで座って待っててくれな。」

「うん。ありがとう。」


二人のそんなやり取りを見てて、なんだか温かい気持ちになった。

こんな感じで、これから三人の旅が始まるのかな……

なんだか嬉しくなって、まだハッキリしない頭でテーブルに腕をのせて、その上に顔を置いて二人の様子を微笑んで見守っていたんだ……






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