慟哭の時

レクフル

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第七章

三人の旅

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朝食を摂りながら、今後の事を話していく。

当分ここには帰って来れないから、村の人達やエルフの村の人達に挨拶に行った方が良いだろうって話し合って、それからオルギアン帝国までの道程を確認する。

ウルはこの島から出たことがなくどこに行くのも初めてな訳で、何か気になる事がないかを聞いてみると、船に乗ってみたかったと言った。

空間移動を使えば船に乗らなくても一気にシアレパスまで行けるけど、ウルが目をキラキラ輝かせて船への憧れを語りだしたから、私もエリアスもウルに船を体験させてあげたくなったんだ。

リフレイム島からは、シアレパス国の港町ラブニルと、アクシタス国の港町トルニカ行きの船が出ている。
まずはアクシタス国のトルニカへ行こうって言うことになった。
エリアスが、行ける場所を増やした方が良いだろって言ったのもあったからだ。
私はまだ、このリフレイム島とシアレパス国内と、前に行ったインタラス国の王都辺りしか分からない。
空間移動では、知らない場所には行けないから、なるべくなら知らない場所を巡って行った方が良い、との事だった。

私は会いたい人の元へも空間移動で行く事ができるから、オルギアン帝国まで先にエリアスが行って、その後で私がエリアスを思い浮かべて移動したらどうか?と提案したけれど、エリアスは一時も私と離れたくないからそれはダメだ、と却下された。
エリアスから離れてしまった時、私にはろくなことがなかったからだと言って、どんなに遠回りになろうとも、一緒じゃないとダメなんだ!と、そこは一切譲らなかった。

他にもエリアスは何か思うところがある様で、時々一人黙っている事もあった。
聞いたら、何でもねぇ。ってしか言わなかったけど、何か考えがあるのかも知れない。

それからウルに、エルフの森へと案内して貰う。

木が生い茂った森の奥へ進んで行くと、その森に紛れる様に、ひっそりと小さな村があった。
ウルの案内がなければ、ここには来ることは出来なかったと思うほどに、入り組んだ場所にエルフの村はあった。

私達が村に入ると、至る所からこちらを伺う様な視線を感じて、エルフの警戒心の高さが身に染みて感じられる。

ウルが他のエルフ達に私達を紹介し、リサの元まで行く旅へ出る事を告げたが、騙されてへんか?信用出来るんか?等と凄く心配されていた。
私とエリアスは、エルフの凄く綺麗な容姿からあんなコテコテな言葉が出てくる事が不思議で、それからなんだか可笑しくて、二人で笑いを堪えるのが大変だった。
でもウルを心配するエルフ達を見て、私達は安心したんだ。

この人達にウルは愛されている。
ウルには帰って来れる場所がある。

母と会えたとしても、母と一緒にいる事は出来ないかも知れない。
母は聖女としてオルギアン帝国にいる。
と言うことは、捕らえられているって事だ。
エリアスはオルギアン帝国の冒険者だからその事も知っていたみたいだけれど、どんな風にいるのかなんて、きっと知らないと思う。

母に会ってもどうにも出来なかった時、ウルが帰れる場所があるってことは、すごく大切な事なんだ。

私がリサの娘だと言うと、エルフ達は妙に納得して、それからは警戒心を少し解いてくれて、それから一緒に旅に出る事を承諾してくれた。

エルフの森から帰って、ウルが旅支度を終えてから、ザヴァイの村の皆にも挨拶をした。
エルフの人達と同様に村の人達も、ウルを気遣っていた。
いきなり来た旅人と一緒に旅に出ることになった事に、やはりすぐには納得出来なかった様だけど、私がリサの娘だとウルが言うと、ここでもすぐに対応が変わった。
まぁ、女だと言う事にも驚かれたけれど……

別れを済ませて、ザヴァイの村を出る。

ザヴァイの村から、港町ソリフィエまでは空間移動で行く。
これにはウルが凄く驚いていた。
一瞬で変わった景色に、暫くは呆然として立ち尽くしていた。
それから、姉ちゃは凄いな!って、何度も私に嬉しそうに言ってきた。
そんなウルがとても可愛い……!

アクシタス国行きの船が出向するまで時間があったので、昼食を摂る事にして食堂に入る。
ウルにとっては初めての事だらけで、何処に行くのも、何をするのも嬉しそうに、楽しそうにしていた。

食事が終わって、そろそろ出ようか、と言ったところで、入ってきた客の男がエリアスを見ていきなり言い出した。


「あ……お前っ!逃亡奴隷だな!」

「え……?」

「俺はラブニルで見てたんだ!あの貴族の男が言ってたのをこの耳で聞いたしな!」

「……知らねぇよ。」


エリアスが無視して行こうとすると、男はエリアスの右肩を掴んだ。
それを右手で弾き返して去ろうとした所を、
「おい、まて!逃げるなっ!」と言ってエリアスの右の手首を掴んだ。
その瞬間、男は黙り出した。
エリアスは困惑した様子で男を見て、それから大きく息をしてから、男に告げる。


「俺は逃亡奴隷じゃねぇ。その事はもう忘れろ。」

「はい、分かりました。」

「分かったら、元に戻ってくれ。」

「はい。」


男は少しして、何事も無かった様にテーブルに着いて注文しだす。
その様子をウルが驚いた顔で、ただ黙って見続けていた。
他の見ていた客も、何事かと思って見ていた様だが、何故か落ち着いた男の様子を不思議に思いながら、大事にならなかったのを安心した感じだった。

店を出て、乗船場まで行く道のりで、不意にウルが聞いてきた。


「さっきのが、人を操るってヤツなんか?」

「そうだな……」

「エリアスは……逃亡奴隷なんか……?」

「ウル……?」

「奴隷って……なんか悪い事をしたらなるんやろ!?」

「え……?」

「犯罪を犯した奴が奴隷になるんやろ?!エリアスはどんな悪い事をしたんや!?」

「ウル、そうじゃなくて……!」

「……悪い事をしたってんなら……そうかもな……」

「やっぱりそうか!それで逃げて来たんやな!」

「そうじゃねぇけどな。」

「姉ちゃ!こんな奴と一緒にいてたらアカン!何したか知らんけど、犯罪者と一緒にいたら、姉ちゃにも危害が及ぶかも知れんで!?」

「ウル!そうじゃない!エリアスはそんなんじゃないんだ!」

「でも!姉ちゃ!」

「違うって言ってるじゃないかっ!!」

「姉ちゃ……?」


ウルが私の様子を見て驚いた顔をする。
それを見て、エリアスは困った顔をする。


「アシュレイ、俺の事はいいから。そんな言い方だとウルが怖がっちまうだろ?」

「エリアス……でも……」

「ウル、俺がどうあろうと、俺はアシュレイとは離れねぇんだ。それに、アシュレイには絶対に危害が及ばねぇ様にする。勿論ウルにもだ。信じてくんねぇかな?」

「………………」

「ウル……私もエリアスとは離れない。ずっと一緒にいる。エリアスは悪い人なんかじゃないんだ……」

「……今更帰るなんて事はせぇへんわ……」

「そっか。まぁ、俺の事が信じらないのは仕方ねぇ。これから俺を見て判断してくれれば良いから。」


エリアスが微笑んでウルの頭を撫でようとしたけど、それをウルは手で弾く。
それから私の元まで来て、私の腕を両手でシッカリ掴む。
エリアスは困った顔をしたけれど、何も言わずに乗船場まで歩いて行った。
その後を私もついて行く。
私に引きずられる様に、ウルもついてくる。

このリフレイム島では、犯罪を犯した者は奴隷へと落とされるみたいだ。
だから、誰も奴隷には同情しない。
ここで奴隷は、まさに忌み嫌われる存在なのだ。

しかし、エリアスは逃亡奴隷なんかじゃない。

その事は前に聞いた事がある。

孤児院から逃げ出して、その途中で盗賊に捕まって売られて奴隷にされて……
魔眼に目覚めてからは怖がられて捨てられて、それからは一人で生きて来たと聞いた。
それはエリアスが11歳の事で、今のウルと同じ年齢で……
もしかしたらエリアスは、その時の事を思い出して、幼いウルを放っておけなかったのかも知れない……

今はウルは聞く耳を持ってくれなさそうだから、エリアスの事はまたゆっくり話して行こう。

けど……

悪いことをしたって言うならそうかもなって、さっきエリアスは言っていた。

それはなんなんだろう……?

気になるけど、今は聞けない。

そんなギクシャクした感じで、三人で船に乗り込んだ。

早くエリアスの誤解が解ければいいんだけれど……








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