慟哭の時

レクフル

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第八章

オルギアン帝国へ

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朝、ウルに起こされて目覚めた。

いつも私の方が早くに起きるから、ウルが珍しがっていた。
身支度を整えてテントから出て朝食の用意をする。
少しして、エリアスも起きてきた。


「あれ?姉ちゃ、ここ、どうしたん?」

「え?」

「首のところ。なんかアザみたいになってるで?」

「え……あ、なんだろう?どっかで打ったのかな?」

「デッカ蜘蛛と戦った時かな?」

「そうだったのかな?」

「なんか歩き方も変やし……大丈夫なん?」

「え?あ、うん、大丈夫!」

「ほなええけど……」


そう言って朝食の用意をしに行くウルに入れ替わる様にエリアスが私のそばにきて、耳元で呟く。


「悪ぃ。それ、俺がつけたんだ。」

「え……?」


エリアスは私の顔をグイって寄せて頬にキスして、ニッて笑って行った。
急に昨日の事を思い出して、顔が熱くなってくる……!
ウルに見られてないか、思わずキョロキョロしてしまう!
良かった、見られてなかった……!
首に布を巻いて、見えないようにする。
さっきからドキドキが止まらないんだけど……!

朝食を摂る時もなんだか恥ずかしくて、前に座っているエリアスの顔がまともに見れない。
チラッて見てみると、エリアスはじっと私を見たままだった。
それにビックリして、すぐに目を反らしてしまう。
そんな私を見て、ウルはどうしたん?って不思議そうに聞いてくる。
何でもないよ!って言って、誤魔化すように朝食のパンをバクバク食べてしまう。
エリアスにこんなにドキドキしたのは初めてかも知れない……

朝食が終わって、エリアスの体調をウルが聞いている。
エリアスは大丈夫だって言っているけど、ウルはもう少し休んだら?って、心配そうに言う。
私も、あまり無理はしない方がいいんじゃないか?って言ったんだけど、昨日いっぱい動いたけど大丈夫だったって、私を見てそう言って微笑んだ。
ウルは訳が分かってなくて、そうなん?って言ってたけど、そんな事を言われたら、また昨日の事を思い出して一人で焦ってしまう……!

エリアスは何とも思わないのかな……
私一人でドキドキしてるみたいだ……


「あ、アシュリー、どうする?」

「えっ?!な、何が?!」

「オルギアン帝国まで行くの、空間移動で行くか?」

「え……歩いて行くんじゃなかったのか?」

「あぁ、そのつもりだった。それはアシュリーがディルクの状況を受け入れる前の話だ。全部分かった今なら、もう大丈夫と思ってな。」

「ん?兄ちゃ……姉ちゃの事、なんでアシュリーって呼ぶん?」

「え?……それは、俺の事を思い出してくれたから……だな。」

「ふぅん……そうなんや……」

「そ、そんな事より!ウルは?ウルが歩いて行きたいって言ってたから、そうする事に決めたんだろ?」

「あぁ、それは兄ちゃにそう言えって言われたから言うてただけやで。アタシは出来れば早くに行きたかったくらいや。」

「え……そうだったのか……?」

「俺がウルに頼んだんだ。ちゃんと状況を飲み込めてねぇのに、アシュリーの母親のいる場所へ……ディルクのいる帝城へは行けねぇだろ?」

「そう……なんだ……」

「騙してたみてぇで悪かった。」

「ううん……それは私を思っての事だから……うん、分かった。じゃあ、オルギアン帝国まで、空間移動で行こう。」

「兄ちゃ、大丈夫か?姉ちゃが……その……ディルクって奴と会っても……」

「いずれは会う事になるからな……俺も覚悟しねぇとな。」

「エリアス……」

「ほな、姉ちゃも覚悟出来てんねんな?」

「……うん。なんだか……ディルクが待ってる気がするんだ。だから早く行かないと……」

「それは、一刻も早く会いたいってことなんか?」

「え?!それは……その……」

「アシュリー、そんなに考えて込まなくていいから。俺も、出来れば早い方が良いとは思ってたんだ。あの状態がいつまで続くか分かんねぇしな。」

「うん……」

「ほな、行こう?」

「うん……!」


そう話し合って、私たちはすぐにオルギアン帝国まで行くことにした。
三人手を繋いで、私がオルギアン帝国の帝都エルディシルを思い浮かべる。
目の前が歪んでいって暗闇になってから、違う歪みが出てきて、その歪みがなくなっていくと、そこは帝都エルディシルのギルドの近くだった。

ウルは回りを見て、凄く大きなお城があることと、凄く都会な感じがすることにテンションが上がったみたいで、上を見ながら、うわぁ、うわぁっ!て、キラキラした目で見渡していた。


「ウル、色々見たそうだな。どうするよ?すぐ帝城に行かねぇで、先に観光でもすっか?」

「え?!……ううん。それは後にする。先にリサに会いたい。」

「分かった。じゃあ帝城に行くか。」

「うん、行く!」

「アシュリーは、それでいいか?」

「…………」

「アシュリー?どうした?」

「あ、うん……」

「大丈夫か?」

「……ちょっと……怖くて……」

「……そう、だな……」

「ディルクは……私が刺した短剣を胸にして眠っているって……その姿を見るのが……怖い……」

「俺がついてる。ずっとそばにいる。アシュリーを不安にはさせねぇ。約束する。」

「うん……うん、ありがとう……エリアス……」


私を抱き寄せて、エリアスは不安な気持ちを取り除こうとしてくれる。
その優しさが胸に沁みてくる。


「行けるか?」

「……うん、大丈夫。」

「じゃあ行くか。」


エリアスに連れられて、三人で帝城へ向かう。
帝城の門には屈強そうな門番達がいて、エリアスを見ると、頭を下げて礼をした。
門番と話をして、暫く横にある待合室で待つ。
エリアスが言うには、自分だけなら顔パスで行けるし、何だったら空間移動でディルクの部屋まで行けるけど、私とウルがいるから、きちんと手続きを済ませたい、と言っていた。
こう言うところは真面目なんだな。エリアスは。

暫く待っていると、バタバタと急ぐ足音が聞こえてきて、息を切らせたゾランが勢いよくやって来た。


「エリアスさん!おかえりなさい!アシュリーさんも!やっと……!やっと来て貰えました……っ!!ありがとうございますっ!!」

「……ゾラン、落ち着け。まず水でも飲めよ。」

「平気です!……う、嬉しくて……!アシュリーさん、もう大丈夫なんですか?!」

「ゾラン、今回の事は……私……私……!」

「アシュリーさんは悪くありません!何も悪くないんです!だからそんな顔をしないで下さいっ!」

「ゾラン……でも……」

「アシュリー、もう良いから。しっかり気を持つことも大事だからな。」

「うん……そうだな、エリアス……」

「良かった……!良かったですね!エリアスさん!本当に良かった……!」

「あぁ。心配かけたな。ほら、ウルもゾランの事知ってるだろ?ちゃんと挨拶しないとな。」

「うん……分かってる……こんにちは。」

「ウルリーカさん、こんにちは。よく来てくれたね。待っていたよ。」

「あ、はい……」

「なんだ?ウル、どうした?腹でもこわしたか?」

「に、兄ちゃ!そんなんちゃうわっ!」

「どこか具合でも悪かったのかい?」

「あ、いえ、全然そんな事ないです!むっちゃ元気です!」

「そう?じゃあ案内するよ。では行きましょうか!」


ウルの様子がいつもと違ってて少し気になったけど、ゾランが案内する場所までついていく。
上の階の、奥の方にある部屋で一旦待たされる。
ゾランとエリアスは外に出て、二人で話をしているみたいだ。

さっきから緊張してるのか、胸が騒いで仕方がない。
ここにディルクがいる。
そう思うだけで、じっとしていられない位に、心が、体が反応する。

もう少しで……もう少しでディルクに会えるんだ……

そんな思いが胸にわき出てくる。

どうしてこうなるんだろう?

昨日はあんなにエリアスの事しか考えられなかったのに……

今はディルクに会いたくて

ただ会いたくてどうしようもないんだ……






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