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第八章
婚礼の儀
しおりを挟む朝から皆がバタバタしてる。
ミーシャはいつものように元気だけど、何やら急いであちらこちらへ行ってる。
他のメイドさん達も執事の人達も、皆が慌ただしい。
朝食をディルクと済ませると、用意があるからと、ディルクとは別れて別の部屋へ案内された。
そこで、ヘアを整えられてティアラを飾り、メイクを施される。
ドレスに着替えて、装飾品も全て身につけて準備万端の状態でいる。
段々緊張してきた……
この為にこの数日間、皆が慌ただしく動いてくれた。
このドレスだって徹夜で仕上げたと聞いたし、大聖堂に装飾を施すのに街中の職人が集められたそうだ。
料理も、各国の王族の口に合うようにと、シェフはメニュー作りに紛争していたそうだし、勿論食材確保にも骨をおったらしい。
各分野の人達が、総力を挙げて時間も厭わずに動いてくれたお陰で、今日の婚礼の儀は盛大に行われる事が出来る。
皇族の結婚って、本当に大掛かりなんだな……
しばらくその状態で待っていると、母が部屋にやって来た。
「アシュリー、綺麗ね。本当に綺麗だわ……」
「お母さん、ディルクとの結婚を許してくれてありがとう。」
「それが貴方たちの為になるのなら……私が何をしても、貴方たちを引き裂く事は出来なかった……リディを皇帝にしてオルギアン帝国から動けないようにした事も、貴方たちには意味がなかった……」
「え……?」
「何でもないわ。じゃあ、私は聖女として貴女を見守る事にします。アシュリー王妃、この度はおめでとうございます。どうか……どうかお幸せに……」
「ありがとう……ございます。」
深々と礼をして、母は部屋から出て行った。
それから暫くして、何人もの従者に連れられて、私は城の一角にある大聖堂へ向かう。
大きな扉が開けられて、ゆっくりと進んで行く。
周りには多くの皇族、貴族、官僚、他国の王族達がいて、その従者や護衛の騎士達等、分かってはいたけれど、とにかく人が多い事に凄く驚いた。
けれど何でもないように振る舞い、ただディルクの待つ祭壇へと進んで行く。
祭壇の両脇には、Sランク冒険者達の姿があり、そのリーダーとしてエリアスが正装で前に出て立っていた。
その姿はとても凛々しくて格好良くって、いつもとは全く違った雰囲気でいた。
私を見てエリアスは、暫くの間何も言わずにじっと見ていて、それから何かに気付いたように、私にニッコリ微笑んだ。
その笑顔に、私も笑顔で返す。
ディルクの横に並ぶと、私を見たディルクは凄く嬉しそうに微笑んだ。
私も同じように微笑む。
私は皇帝リドディルクの第一王妃、アシュリー・アルカデルトとなったのだ。
粛々とした雰囲気の中で婚礼の儀は行われていき、誓いのキスを交わすと、大聖堂は拍手喝采となり、皆が私たちを祝福した。
その後私とディルクの二人は、護衛の人達に囲まれながら帝都中を屋根のない馬車で巡回し、集まった人々にお祝いの言葉を貰う。
こういうのをパレードって言うらしく、国民にも私たちの姿を御披露目するんだそうだ。
恥ずかしかったけど、皆から祝福の言葉を貰って、皆が嬉しそうに笑ってくれていて、私も嬉しくなって微笑んで、ずっと手を振っていた。
帝城に戻って、それからは婚礼の宴が始まった。
他国の王族や貴族の方々がひっきりなしに挨拶に来られて、私は常に笑顔でそれに答え、ディルクが全てに対応していくれていた。
ムスティスは私の親となっているがそれは仮だ。
だけど、私たちの元へやって来てディルクとしっかり握手をして涙を流し、「娘を、よろしくお願い致しますっ!」と、深々と何度も頭を下げた。
その感じに、私も本当の父親のような気がしてきて、思わず涙ぐんでしまったんだ。
実父のベルンバルトといえば、大聖堂では母と共にいた姿を見たものの、宴の場にはいなくって、母の姿もやっぱりなかった。
ノエリアは私たちに挨拶に来てから、傍らに立つSランク冒険者達の元へ行き、エリアスと楽しそうに話しをしていた。
ふと見ると、ノエリアとエリアスが抱き合っていて、ビックリしてジっと見詰めていると、エリアスはノエリアをグイッて離してから、私の方に向かって、口をパクパクさせて首を左右に振って、「違うからっ!」って何度も訴えるように言っていた。
そんなエリアスに、ノエリアが笑いながらまた抱きつきに行く。
どうやらノエリアは酔っていたようだ……
その様子を見ていると、ディルクが「エリアスなんか見るな!」と言って、私の視界を邪魔するように顔を前に出してくる。
その様子が可笑しくて、思わず両頬を指で、うにーってつねってしまった。
それを見た他の貴族令嬢達が、皇帝陛下に何て事を!的な顔をして睨むように私を見てきたが、私からしたらディルクは私なので、自分自身にそうしただけなのにな……って感じでいたら、ディルクも私の両頬をうにーってつねってきて、お互いの顔が変になって、思わず二人で笑い合った。
周りからは、仲が良くて良いですな!とか言われて笑われてしまった。
自国の貴族の人達は、ディルクがこんな風に笑ってるのを見たことがなかったみたいで、珍しいものでも見るようにして、ディルクの様子を凝視していた。
どうやら、ディルクは堅物だと思われていたようだ。
それから、ディルクのお姉さんのアンネローゼが部下のマティアスと挨拶に来て、深々と礼をした。
私をマジマジと見て、「貴女は確か……」と、何かを思い出しそうな感じだったから、両手でしっかり握手して、「お姉様にお会いできて光栄です!」って言いながら左手の力を解放した。
暫く私を見てから、不思議そうな顔をしてアンネローゼは、何でも無かった様にディルクに微笑んで、それから去って行った。
ゾランは一つの所にとどまる事はなく、終始あちらこちらへと、優雅に、しかし機敏に動いては皆に話しかけていた。
食事や飲み物のフォローもキチンと見て指示していたし、話し相手がいなさそうな人の元へ即座に行って話しかける等、周囲への気配りが凄かった。
出来る男な感じが凄くする。
流石はゾランって感じだった。
エリザベートとウルが二人手を繋いでやって来た。
ウルは今日はフードは無く、仕立てて貰った可愛らしい水色のフワフワのドレスを着ていて、エリザベートも耳が露になっていて、一瞬周りにいる者達は静まりかえるけれど、そんな事は気にしない風で私はウルと話し、ディルクもウルとエリザベートと自然な感じで話しをする。
それから、何とかノエリアを引き剥がすようにして、ノエリアを他の冒険者に託したエリアスがウルのそばに来て、ゾランも交えて楽しそうに話しをしているのを皆が見てから、徐々に他の人達も自然にウル達に接するようになっていった。
そうやって、ひとしきり色んな人と挨拶を交わしたり話しをしたりして、心から本当に祝ってくれている人ばかりじゃないんだろうけど、それはディルクが一番分かっていた事で、それでも私たちに皆が笑顔で祝福の言葉をくれて、この帝国や属国はこれで安泰だ、とか讃えて貰えた事が凄く嬉しかったんだ。
まだ宴が続く中、私とディルクは会場から先に出させて貰った。
皇族の結婚を祝う宴だけれど、ディルクの、堅苦しい事はしたくない、との意向を汲んで、皆が楽しめるような宴としていたので、疲れた人達は誰に気にせず退出は可能だったし、長居するのも全く問題なかった。
それでも気にする人達もいるし、思うようにとはいかなかったけれど、歴代の皇帝からは考えられない程に、皆との距離は遠くなかったと思う。
ディルクの部屋に戻り、ベランダから夜空を見上げていた。
母が私の前からいなくなって、一人で旅をして色んな場所へ行って、人と関わり過ぎないように気をつけて、人に触れないようにしながらも焦がれて、どうにも出来なくてまた一人で旅に出て……
あの時は、今こんな風に帝城で月を見上げてるなんて、思いもしなかった。
今は腕輪のお陰で、私は誰にでも触れる事が出来る。
私を愛してくれる人がいる。
本当にこんな日が来るなんて、考えられなかったんだ……
ディルクが私の横に来て、それから私の肩を抱き寄せて、満天の星空と満月を見ながら、暫くは今日の余韻に浸る……
それから私たちは、お互いを求め合うようにして抱き合い、一つになる。
そうして幸せを噛みしめながら、眠りについていったんだ……
応援ありがとうございます!
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