慟哭の時

レクフル

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第八章

エピローグ

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ありがとう

気持ちを分かってくれて

もちろんディルクも大好きなんだ。
心から愛してる。
ディルクは特別でかけがえのない存在で、ずっと一緒にいたいとも思うし、離れたくないとも思う。

だけど、私の為に傷付いても平気なふりをして、人一倍優しくて、人の事ばっかり考えてて強くって、なのにすっごく涙脆くって、誰よりも私を想ってくれるエリアスを、私は愛さずにはいられないんだ……

私たちは切れることのない存在だけれど、エリアスはそうじゃない。
私がエリアスを離したくないんだ。

最期はディルクと一緒だね。

だから、それまではエリアスのそばにいさせて欲しいんだ。

ありがとう ディルク

ありがとう




「ちょっとぉ!お二人とも、遅いですよ!」

「ごめん!コレット!」

「すまねぇ!俺が悪い!」

「とにかく!アシュレイさんはこっちに来て下さい!エリアスさんはここからは立ち入り禁止です!先に向かってて下さいねっ!」

「あ、はい……」


ここはコレットの邸だ。
コレットにヘアを結ってもらって、メイクをして貰うことになってたんだ。
こうして貰うのは、前に闇オークションに潜り込む時以来で、あの時の事をつい思い浮かべてしまう。

エリアスを盗賊と勘違いして戦って、それからギルドで再会して一緒に『闇夜の明星』を討伐して……
それがまさかこうなるなんて、思いもしなかった。

真っ白なドレスに着替えてから、外に待たせてある馬車へ乗り込む。
このドレスはエリアスの知り合いの仕立て屋ドーラに、また無理を言って作って貰ったんだ。

向かったのは教会。

教会の外には、ディルクがいた。
ディルクと腕を組んで、教会の扉を開けてゆっくりと祭壇に進んで行く。
両脇には、ギルド職員やアルベルトもいたし、冒険者達、武器屋の店主とヴェーラと母親、それからスラムにいた子供達や、イルナミの街の孤児院の子供達とシスターもいた。
それからウルもゾランも、ゾランにくっつくように緊張した面持ちのミーシャもいた。

そして祭壇の前にはエリアスがいた。

エリアスの近くまで進んで行って、ディルクの腕をゆっくり離すと、ディルクは少し悲しそうな表情をしながら微笑んで私から離れて行った。

そうして私はエリアスの横に並んで立って、誓いを告げる。

私はエリアスの妻となったんだ。

誓いのキスをして、みんなからも祝福されて、アルベルトが、みんな拍手だ!って言い出したから盛大な拍手が鳴り響いて……
みんなから祝福の言葉をいっぱい貰って、笑顔もいっぱい貰った。

それからギルドに行って、ギルドの酒場で宴会が開催された。

帝城での宴とは全く違って、皆賑やかで楽しそうで、あっという間に酔っ払いが続出した。
そんな中でも、ディルクは馴染む様にそこにいて、エリアスの横に座る私の横に座って、私は二人に腰に手を回されてる状態だった。

私を挟んで、また何やら睨み合うような感じになって、何故か二人で飲み比べだ!とか言い出して、二人でバカみたいに飲みだした。
私たちの能力では酔わないんだけど、腕輪をしてるからどうなるんだろう……と思っていたら、二人共が同じように酔ってしまったみたいだ。

私とディルクは帝城に戻らないといけないので、酔ったディルクを支えていると、エリアスは「そうだった!俺はこの後一人になるんだったー!」とか言って悔しそうにしていた。
その様子を見てディルクが「ざまぁみろ」と笑っていたので、「こら、ディルク!」って注意したけど、それでもディルクは笑っていた。

空間移動で帝城へと戻る歪みを作っている時も、エリアスは名残惜しそうに私に、「初夜なのに……今日は初夜なのにー!」って大声で言っていた。
その声を聞きながら、ディルクの部屋に戻ってきた。
全く……恥ずかしいったらありゃしない……

酔ったディルクと一つになると、酔いは完全に無くなっていく。
この体がそうなのか、短剣の効果なのか……

目を閉じて周りの状況を確認する。
少しずつ範囲を広げて行き、広範囲の状況を確認していく。
一つになることが出来た事で初めて、短剣に全て嵌められた石の力が大きな力となって私に帰って来た。
それによって、オルギアン帝国から近い国であれば、ある程度把握することが出来るようになった。

どう言うことかと言うと、例えば、詳しく特定して見たとして、グリオルド国の王都に住むシルヴィオ王が今何をしているのか様子を伺う事は容易にできてしまうし、拡大して見れば何処でどんな犯罪が行われているか、等が分かるんだ。
そして、そうやって見えた場所へは、行った場所じゃなくても移動する事ができるようになった。

この力によって、犯罪を未然に防ぐ事も、冤罪を防ぐ事も可能となる。
けれど、あまりに広範囲に見渡せる為、情報が入りすぎて凄く疲れてしまうし、多すぎる情報の全てに関与することはできない。
だから大まかな感覚で見て、介入した方が良さそうな所に目星をつけて、私とエリアスでそこに向かう、と言った感じにしていくんだ。

その後は一人の状態でゆっくり眠って、朝目覚めてエリアスの元へと戻る。
これが日課となっていく。
朝、エリアスが帝城に来る事もあるし、そうしたら一つになった私とエリアスで、朝食を摂る事もあった。
段々一つになる事にも慣れて、普通に動いたり話したりする事も出来るようになった。
エリアスはまだ慣れないのか、複雑な顔をしている事が殆どだった。

ウルは、結局帝城でエリザベートと暮らす事になった。

ディルクがウルにさせたい事とは、回復魔法を使えるように指導する仕事だった。
ウルのストレートな言い方がディルクは気に入ったらしく、まだ幼いながらも教官に向いているから、との事だった。
本当はエリザベートにその役割を任そうとしたそうだけど、彼女は内気な性格だったらしく、ウルと二人で指導するって事にして承諾して貰えたそうだ。

回復魔法を使える人の適正はどう調べるのかと言うと、それは私が鑑定眼を使うことで分かるんだ。
光魔法を使える人が回復魔法も使えると言うことが分かって、光魔法の適正がある人を鑑定眼で見抜き、回復魔法の練習をして貰う事になった。
光魔法を使える人を募集もしていて、これで強制的に連れて来なくても、回復魔法を使える人材を確保する事が出来る。
鑑定眼に代わる魔道具を、現在母が作り出しているところで、これが出来れば自分の適正のある属性や職業も分かるようになるらしい。

とは言ってもまだ完成まで日がかかるので、エリアスは私だけに負担を掛けられないって言って、ランクの高い魔物を倒す時に左手の能力を解放して光を奪い、その瞳に能力を増やしていった。
そのお陰でエリアスは、鑑定眼・魔眼(幻術、呪術、石化、麻痺、魅了)・千里眼の能力を得た。

本当に、エリアスの能力は凄かった。
石の力がなければ、私たちよりも優れた能力を持っている。

試しに私に魅了をかけてみて!って言ったらそうしてくれたけど、私には魅了が効かなかったみたいだ。
「なんで効かねぇんだよ?!」って悔しそうにしていたけれど、「そうされなくても同じようなもんだから」って言うと、嬉しそうに何度も「何?なんだ?どう言うことだ?」って聞いてくる。
迂闊にこんな事は言えないな、と思った瞬間だった。

インタラス国との交渉も上手くいってるみたいで、属国になるのは時間の問題だって、エリアスは嬉しそうに言っていた。

今エリアスは、スラムのある場所を買い取って全面改築している。
前にエリアスが「孤児院を作りたい」って言ってたけれど、それを今実行に移している。

インタラス国がオルギアン帝国の属国になったらスラムの生活は今よりも良くなるだろうけど、急に全てが改善される事はない。
だから、それまで俺が少しでも力になりたいって言ってたんだ。

私たちは他の街や村にも行く仕事があるから、子供達の面倒を見る人達を雇うそうだ。
それもスラムにいる人達を雇って、仕事をして貰う事にしたみたいだ。
「ここには俺たちの部屋もある。だから、ここが俺たちの家になるんだぜ!」って、嬉しそうに笑って言ってた。

自分の家なんて生まれてから今までなかったから、嬉しくてワクワクして、でも本当に良いのかな、とかちょっと複雑な心境になりながら、改築が終るのを心待ちにしてるんだ。

私とディルクはあまり長くは生きられない。

私がいなくなったら、エリアスはどうなるんだろう……
一人になったとき、この場所が、ここにいる人達が、エリアスの支えになると良いんだけれど……

誰よりも強くって、人一倍優しくて、人一倍涙脆いこの人を、どうか皆が優しく包み込んでくれますように……

今までは、自分の能力に悩んで、普通でいられない自分が嫌で、寂しくて触れたくて仕方がなくて……
そんな風に自分の事しか考えられなかったんだけど、今は幸せになって欲しい人がいっぱいいる。

その幸せを守れるのであれば、どんな事でもしてみせる。

私はもう一人じゃないから。

愛する人が、私のそばにいてくれるから。

私の愛する人たちが、笑っていてくれるから。


「今日はオルギアン帝国の北側にある、ベリナリス国に行く。初めて行く場所だから、気を引き閉めて行こうな!」

「うん!行こう、一緒に!」

「あぁ、一緒にな!」


二人でしっかり手を繋いで、顔を見合わせて笑い合う。

こうして二人の旅は、これからも続いていくんだ。









                 ー完ー






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