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番外編
それぞれの事情 9
しおりを挟むもう一ヶ月程、姉ちゃと兄ちゃに会えてない。
どうしたんかな……
なんかあったんかな……
木から落とされて、ゾランさんが何とかするってなってから、それからもちょくちょくアタシにいらん事が起こる。
けど、あれからアタシに護衛の人がつくようになって、何かされてもその人が全部防いでくれる。
アタシに付かず離れずな感じで、話しとかする事はなかったけど、守られてる感はずっとある。
けど、それもなんか申し訳ないなぁって思ってしまう。
なんか、ホンマ、疲れてきた……
姉ちゃにも兄ちゃにも会えへんし、お母さんがおらんかったら、アタシここには絶対おらんねんけどな……
三人で旅してた時は楽しかった。
色んな事がいっぱいあって、楽しい事ばっかりじゃなかったけど、三人であちこち行ってご飯作って食べて、魔物やっつけて皆で笑いあって……
楽しかった。
会いたい。
姉ちゃと兄ちゃに会いたいよ……
「ウル、今日はここで休憩かい?」
「あ、ヴァン。」
城の裏手の木が生い茂っている所で、木にもたれ掛かって座っていると、ヴァンがやって来た。
ヴァンはアタシの横に腰を下ろす。
「どうしたの?ウル……泣いてた?」
「な、泣いてないっ!そんなんとちゃう!」
「そう?また何かされたんじゃないの?」
「それは、護衛の人が守ってくれてるから大丈夫や。あれからアタシに実害はないで。」
「そうか!それは良かった!今、ゾランが色々手続きとかしてる筈だから、まだもう少し時間は必要かも知れないけど、きっと大丈夫だから!」
「うん……」
「どうしたの?他に何か思う事とかあるのかい?」
「……もう……疲れてん……」
「え……」
「アタシ、島でずっと一人で……ここに来てお母さんに会えて、それは嬉しかってんけど、最近姉ちゃと兄ちゃに会えてなくて……嫌な事とかあっても、二人に会えたら多分無くなると思うねんけど……なんか……しんどい……」
「ウル……」
「あ、ごめんな、脈絡のない事言うて……」
「あ、ううん!そんな事はいいんだけど……」
「三人で旅してる時が楽しかったから……今こうやってるのが、なんか……」
「ウル……」
気がついたら勝手に涙が出てきてた。
なんでヴァンの前でこんなふうに……!
アカン、早く泣き止まんと!
そう思うけど、あとからあとから、涙が止めどなく溢れてくる……
「ごめ……!ヴァン、ちゃうねん、ヴァンのせいとか、そんなんちゃうねん!ごめんっ!」
「謝らなくていい!」
ヴァンが不意にアタシを抱き寄せた。
ビックリして、アタシはそのまま固まったみたいに動けなくなってしまった。
「嫌がらせをいっぱいされて、体だけじゃなくて心も傷いてたんだね。ごめん、気づけなくて……!」
「ヴァンは悪くないやん……」
「それでも、普通で考えれば分かった事だ。毎日こんなふうに嫌がらせを受けて、心が疲れるのは当然なんだ。僕はウルの友達なのに、そんな事にも気づけないなんて……!」
「ヴァン……」
ヴァンの優しい言葉に、また涙が溢れてきた。
こんな事で泣いてまうとか、そんなにアタシは弱くなんかない筈やのに……
けど、それからも涙が止まらへんくて、アタシはしばらくヴァンの胸で泣いてしまってた……
ヴァンは優しく、アタシの頭をずっと撫で続けてくれていた。
「ヴェンツェル殿下!」
「え?あ、エレオノーラ!」
「またそうやってエルフなんかと……!許せませんわ!」
「エレオノーラ、もう君にはウンザリだ!そんな風にエルフを見下す所も、ネチネチとウルに嫌がらせする所も、僕には嫌悪感しか抱けない!」
「私がそのエルフに何かしたと言う証拠でもおありなんですの?!それに、私にそんな事を言って、どうなるかお分かりにならないのですの?!」
「僕が何も知らないと思わないでくれ!君の顔なんて見たくない!あっちへ行ってくれ!」
「なっ!なんて酷い事を……!許せないわ……私は二人とも許せませんわ!」
「君に許して貰う必要等ない!」
「……っ!」
エレオノーラは目に涙を浮かべて、アタシをキッと睨んで走り去って行った。
なんやねん、アイツ。
自分一人の力やったら何にも出来へん癖に。
……って、それはアタシも一緒か……
なんやかんや言うて、アタシもそうや。
自分一人では何も出来へん。
こうやって、ゾランさんとヴァンに守って貰ってるだけや。
偉そうに言うだけで、結局何も出来てへん……
「ヴァン、ありがとう。もう大丈夫や。」
「本当に?エレオノーラの事は気にしなくて良いからね?ウルは何も心配しなくていい。この件は僕がちゃんとするから。」
「うん、分かった。ありがとう。」
ニッコリ笑ってヴァンを見るけど、ヴァンはなんか腑に落ちないような感じでアタシを見る。
アタシは誤魔化すように立ち上がって、「もう休憩終わるから!」って言って、ヴァンの元から走り去った。
こんなんじゃアカン。
アタシはもっと強くならなアカン!
走って、お母さんの元へ行く。
お母さんは練習場の近くの簡易休憩室でお茶を飲んでいた。
「お母さん!」
「ウル、まだ休憩時間は残ってるで?どうしたん、そんなに走って。」
「お母さん、アタシ旅に出たい!」
「え?何?なんで旅?どこに?」
「ここにおってもアタシはアカン!成長せぇへん!姉ちゃと兄ちゃと一緒に、また旅に出たい!」
「それは……お母さんと一緒におりたくないって事なん?」
「違う!そうじゃないねん!」
「ほな、どういう事なん?」
「アタシ、ここにいてヴァンの婚約者と喧嘩して……それをヴァンとゾランさんは何とかしようと動いてくれてる。けど、アタシの事やのに、アタシが何もせんといるって言うのが、自分で納得出来へんねん!」
「けど、相手は貴族の人やろ?貴族相手やったら、こっちから迂闊に何とかしようとしても出来へんやないの。」
「そうやけど、アカンねん!アタシ、もっと強くなりたいねん!守って貰ってるばっかりやったら、アタシが嫌いな貴族の女と一緒やねん!」
「そんな事はないと思うけど……」
「そうか、それならエリアスに話をしてみるか。」
「ディルクさん!」
「リドディルク皇帝陛下!どうされたんです?!こんな所まで!」
「最近のウルリーカに起こっている事を聞いてな。様子を見にきたんだ。で、ウルリーカはまたエリアス達と旅に出たいと考えているんだな?」
「はい、そうです。」
「それは、逃げではないんだな?」
「違います!確かにここはアタシには慣れんくて、エレオノーラの嫌がらせとかも腹立つし、貴族の女ってそうなんやって思ったら、凄い嫌な感情しか湧いてけぇへんけど……でも、貴族に手を出すとか出来へんし、今はヴァンやゾランさんに頼るしかないのも分かってるんです!アタシは貴族のやり方に慣れたいとか思わへんし、そうなりたいとかも思わへん!けど、何をされても立ち向かえるように、こんな事でヘコたれて泣かんでもよくなる位、強くならなアカンって思うんです!それに……」
「それに?」
「もっと色んな人や物を自分の目で見て感じて、思い込みとか偏見とかじゃなくて、色んなことをいっぱい知って人を判断出来るようにしたいんです!今はアタシ、人の表面とか言ってる事だけを鵜呑みにして判断してるから、そう言うのを無くしたいんです!」
「なるほどな。分かった。では、ウルに仕事を与える。」
「え?」
「エリアスとアシュリーが向かう先で起こった事を報告書として毎回提出する事。出来るか?」
「はい!出来ます!」
「それから、毎日この帝城まで戻って来ること。それはアシュリーが毎日戻って来るから問題ない筈だ。」
「はい!」
「危険な場所には同行はさせない。足を引っ張る事になるのでな。それで構わないか?」
「もちろんです!ありがとうございます!」
「ではそのように伝える。最近、二人に会えなかったのは、アシュリーが病気をしていたからなんだ。もう治って近々仕事も再開させるだろうから、そうなってから一緒に行けばいい。」
「え……姉ちゃは大丈夫なんですか?!」
「あぁ。もう問題ない。気になるなら、今から行ってみるか?」
「はい!行きたいです!」
「分かった。ではエリザベート。これからは一人で指導してもらえるか?人手が足りなければ人員を増やす。」
「分かりました。今は大丈夫です。ですが、私では行き届かないと分かりましたら相談させて頂きます。それと、本当に大丈夫なんですか?ウルに旅の同行を許可して……」
「そうだな、エリザベートが許可してくれるのであれば問題はない。どうだ?」
「……ウル、アンタがそうしたいんなら、お母さんは賛成する。けど、迷惑になるんやったらやめときなさいよ?」
「分かった!今までの楽しい旅じゃなくって、アタシはちゃんと仕事として受ける!」
「分かった。……リドディルク皇帝陛下、ウルをよろしくお願い致します。」
「承知した。」
「お母さん、ありがとう!」
そうして、アタシはまた姉ちゃと兄ちゃと一緒に、調査の仕事に同行する事になった。
姉ちゃ、大変やったんや……
アタシ、自分の事ばっかり考えてたんやな。
けど、そう言うところやねん。
もっと人の事を考えられるようになりたい。
じゃなかったら、アタシの嫌いな貴族達と一緒や。
成長しなアカン。
成長して、自分に自信を持てるようにならなアカン。
アタシ、頑張る!
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