ただ一つだけ

レクフル

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シルヴェストルの過去・2

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 ユスティーナと婚姻を結び、私たちは夫婦となった。

 傍から見たら、仲の良い夫婦と思われただろう。もちろん、私はユスティーナを嫌って等いないし、彼女の礼儀作法や私へのフォロー、他貴族への対応、執務は王太子妃としては完璧で、この婚姻は間違って等いないと思わせるものだった。

 しかし頭では分かっていても、心が追い付かない。私のメイヴィスを想う心は衰えるばかりか、募っていく一方だった。

 日に日に美しく成長していくメイヴィス。自分にだけ向けられる満面の笑み。愛するなと言う方が無理がある。

 そして、私はユスティーナには触れる事すら出来なくなっていく。
 夫婦となっても尚、私たちは寝室は共にしていなかった。いわゆる白い結婚というものだ。

 申し訳ないと言う思いは常にある。だが、どうしてもユスティーナを女性として見る事ができないのだ。妹のような、親友のような存在。大切なのは変わりない。しかし、心は何一つ動かない。ユスティーナを抱くという行為ができないのだ。

 私は次期国王となる身。子孫を残す必要がある。それは義務だ。分かっている。分かってはいるが、どうにもできなかったのだ。

 そんな私を見て、全てを悟っていたのは誰であろう父上と母上だった。
 夫婦となって何年も子供ができないのはどちらかに問題がある。他の貴族達から密かにそう言われ続けていた事も知っている。

 そんな状況から両親は、私に側室を迎えてはどうかと言ってきた。

 しかし例え側室を迎えたとしても、子を成す事はできない。私の心が求めているのはメイヴィスだけなのだ。それを知っている両親は、事前に手を打ってくれていた。

 メイヴィスを伯爵家の養女とし、伯爵令嬢としたのだ。愛妾とする事も出来たのだが、私はメイヴィスをそんな存在にしたくはなかった。
 私に森から拐うように連れて来られ、何も知らず分からず、王城に捕らわれたような状態の無垢な存在であるメイヴィスに、ただの愛妾として扱う事ができなかったのだ。

 だからせめて側室に。それが分かっていたから、両親も動いてくれたのだ。

 その頃、メイヴィスをこの王城に連れてきてから9年の月日が経っていた。
 
 メイヴィスは頭も良く、教えた事は何でもすぐに覚え、自分のモノにしていった。淑女としてのマナーも礼儀作法もダンスもそつなくこなす。どこに出しても恥ずかしくない程に、立派なレディとして成長したのだ。

 側室を迎えるにあたって、ユスティーナはやはり良い顔をしなかった。それがメイヴィスであれば尚更そうで、私とユスティーナの仲は次第に悪くなっていった。

 とは言え、表面上は問題なく、私たち夫婦は仲が良く、子供がいないが為に仕方なく側室を迎えた、と誰しもが思ったいた。

 だが、今まで極力人目に触れないようにしてきたメイヴィスを、日陰の存在としての側室にしたくなかったが為、異例ではあったが側室として迎え入れる為、細やかな婚姻の儀を行う事にした。
 婚礼の儀に集まった人々は、メイヴィスの姿に皆が驚き、言葉を発する事も忘れたように押し黙った。

 その場にいた者全てが、一瞬にしてメイヴィスに心を奪われたのだ。

 しかし王太子の側室に何かできる筈もなく、恨めしそうな目を向けられるのみですんだのだが、公の場でメイヴィスを紹介した事に後悔をするほど、メイヴィスは男女問わず虜にしていった。

 そして、その婚姻の儀を行った事に対して、ユスティーナは苛立ちを覚えたようだったのを、その時の私は知るよしもなかったのだ。

 メイヴィスは私の側室になるのを嫌がりはしなかった。この話をメイヴィスに告げた時、メイヴィスは恥ずかしそうに微笑んでから頷いてくれたのだ。
 だから自分に好意を持ってくれていると思った。

 それを確認するように、メイヴィスと初夜を迎えた。メイヴィスは私を受け入れたのだ。

 それからは毎夜のようにメイヴィスと夜を共にする。もう止められなかった。飽きるなんて事は一向にない。抱けば抱くほど、知れば知るほどに、メイヴィスに夢中になっていく。

 一時も目を離せない。離したくない。溺れるようにメイヴィスにのめり込んでいく。時間があればメイヴィスの元へ行き、二人の時間を堪能した。
 
 メイヴィスを側室に迎えてから二ヶ月後、メイヴィスは私の子を宿した。

 嬉しかった。本当に嬉しかった。
 メイヴィスと二人で喜んだ。国王である父上も王妃である母上も、臣下達も従者達も侍女達も使用人達も、皆が喜んでくれた。

 ユスティーナ以外は……
 
 今となって思えば、私がユスティーナの事をもっと考えれば良かったのだろう。
 だが、その時は気づかなかった。ユスティーナがそこまで私を愛している等と思っていなかった。私と同じように、同志として、兄妹のように、親友のように感じているのだと、割り切った関係でいるのだと、そんなふうに思っていた。いや、思いたかったのかも知れない。

 だからユスティーナにも、気に入った者がいれば男妾を囲っても良いと言った事もある。しかし、それが更にユスティーナのプライドを傷つけていた事を、その時は分からなかったのだ。

 あの頃の自分は愚かだったと思う。

 幸せだった。愛するメイヴィスとの間に子をもうけられた事が、この上なく幸せだった。

 しかしその頃この国、いや、他国も徐々にのさばった瘴気に侵されていて、情勢は日々悪化していっていた。

 その原因が分からず、瘴気により出現するようになった魔物の討伐に力を入れ、魔法を強化し、兵士を各地に派遣し瘴気による被害の調査を怠れない日々が続いた。

 しかし、王都が瘴気に侵される事はなかった。だから報告が上がってきても、それを実感出来ずにいたのは確かだった。

 自分の周りに不幸はないとばかりに、人々が感じる不安や妬み嫉み等を、私は一切気づかずにいたのだ。
 
 
 
 
 
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