ただ一つだけ

レクフル

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許可

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 ヴィヴィはこの国に違法薬物を持ち込んだとして、その罪を問われる事になった。

 それ以前に聖女であったと偽証した罪もあったが、それはジルが望んだ事から罪には問われなった。
 それはそうだ。被害者であったはずの聖女自身が不問にすると言ったのだから。

 しかし、今回の事はそれとは訳が違う。被害者は俺だが、俺が不問にすると言ってもこれはダメだ。ヴィヴィにその気がなく、危険薬物と知らなくても、この国に持ち込んだと言うことがもう罪なのだ。そしてそれを使ったのだ。

 本当に、もうどうしてあげたら良いのかとかが思い付かない。いや、俺も実際憤っている。今回はジルの力があったから、俺はこうやって何事もなく無事でいられるからだ。
 
 しかしそうじゃなかったら、一週間は体から薬物を抜く為に隔離される。解毒薬を飲んで大量に水分を取り、それに加え解毒魔法を掛けられる。体内の薬物を解毒させるには、薬物に侵された内臓や血液を浄化して、その機能を正常化させるのだが、これが中々に苦痛なのだ。

 浄化すると言うと聞こえが良いかも知れないが、体の中の悪い薬物や毒を攻撃して無くすという作業をするのだ。その時は侵された内臓や血管も一緒に攻撃するから身体中が痛むことになる。
 今回の媚薬はかなり濃度が高く効果も強かった為、それを行うとかなり俺は苦痛に苛まれていただろう。本当にジル様々だ 

 俺の事はさておき、やはりヴィヴィは只ではすまされないだろう。
 仕方がないのだが、悪気があった訳じゃない。ヴィヴィもフェルテナヴァル国に翻弄された一人なのだ。だから普通と言うものを知らないのだろう。
 だがそれでも、やはり今回のはマズイな。

 
「それでヴィヴィの処遇はどの様に……?」

「フェルテナヴァル国へ返還する」

「え?」

「あの者は元々、フェルテナヴァル国の者だ。それを聖女と勘違いして拐って来たのは、我が国の公爵家だったのでな」

「そうだったんですか?!」

「うむ。ユスティーナの実家であるアンスラン公爵家に対抗している、グリニャール公爵家がした事だ。匿われていた幼いジュディスを捕まえに行ったのもグリニャール公爵家だった。全く、余にも知らせずに勝手ばかりをしてくれる……!」

「それはやはり、自分の地位を上げる為に、ですか?」

「そうだろうな。そこまで野心家であったとは気づかなかったわ」

「それでフェルテナヴァルに返す、と……」

「そうだ。媚薬の事さえなければ、ヴィヴィの意向を聞いて叶えてやろうと思っていたのだ。それがジュディスの頼みだったのでな。拐って来たのは我が国の者だったし、この件に関しては、言わばヴィヴィは被害者だった。当面の生活が出来るように援助もしようと思っていたのだ。しかし、それはもう叶わぬ。が、それでも最大の恩情ぞ」

「フェルテナヴァルに返還するだけ、ですか?」

「やはり気づくか。今回の計画に使わせて貰うつもりだ」

「そうですか……」

「不服か?」

「……ジルがどう思うかと考えまして……」

「そうだな。ジュディスは心根の優しい子だ。胸を痛めるやも知れぬな。その時はリーンハルト殿が支えてやってくれぬか」

「陛下……それは勿論です。その役目を与えてくださった事に感謝致します」

「うむ」

「陛下、その……ついでのように言う訳ではないのですが……」

「なんだ?」

「私はジルと、結婚を前提にお付き合いさせて頂いております。なので、ジルと婚約を結びたいのです」

「…………」

「陛下にその許可を頂きたいのですが……」

「…………」

「陛下……?」

「あ、すまぬ……いや、そうか……そうだな……分かっていた事なのだがな。いざそう言われると、やはり複雑な心境になるものだな」

「はい……」

「リーンハルト殿はジュディスの助けとなってくれている存在である。余が出来なかった事をしてくれていたのだ。反対する等、もっての他なのだろう。しかし……やはり素直に喜べぬな」

「そうですか……」

「いや、リーンハルト殿だからと言う訳ではない。誰が相手であろうとも、同じ様に感じるのだろう。しかし……婚約か……」

「はい。私はジル以外に考えられません。これからも彼女の支えになりたいです。いえ、それだけじゃなく……単純に、もう離れたくはないのです」

「……そうか……その気持ちは分かるつもりだ。ジュディスもそなたを慕っているのだろう。確かリーンハルト殿はフェルテナヴァル国では侯爵家にいたそうだな?」

「え? あ、はい。侯爵家に養子に入りました。何も言わずにジルと逃げてここまで来たので、その身分はなくなったと思っているのですが」

「そうか。では身分はこちらで用意しよう。ジュディスは余の娘であると共に聖女だ。その姿は本来明かされる事はないのだが、公の場でジュディスが聖女の力を取り戻した状況を大勢に見られてしまっているのでな。相応しい者として、せめて身分くらいは用意せねばな」

「陛下、では……」

「認めぬと余がジュディスに嫌われてしまうわ」

「ありがとうございます!」

「身分の件が済めば、婚約の書類に署名すれば良い。少し時間が掛かるかも知れんがな」

「問題ありません! よろしくお願い致します!」


 ジルと婚約の許可を貰う事ができた。良かった。

 早くこの事をジルに言いたい。安心させてやりたい。いや、まだダメだな。まだ婚約するまでに至っている訳じゃない。だから抑えなければ……

 話が終わり執務室を出ると、ジルがこちらに向かってきているところだった。

 俺を見て嬉しそうに微笑んで、ジルは駆け足で俺の元までやって来る。そして俺の胸に飛び込んでくる。

 その様子を、執務室の扉の前にいた護衛の騎士や執事が目を見開いて凝視しているけれど、俺は陛下に許可を貰えた事が嬉しくて、飛び込んできたジルを力一杯抱きしめた。

 陛下に許可は貰えたけれど、まだ足りない。俺は国民にも認めて貰わないといけないのだ。

 けれど今はそれより何より、腕の中にいるジルが可愛くて、そしてやっぱり嬉しくて、幸せな思いを胸にしながらジルの存在を堪能するのだった。




 
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