乙女ゲームの裏切り役、選択肢が重すぎる 〜ヒロインじゃない私が、選択肢の中心にいる〜

田村 ノア

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第1話入学式と最初の選択

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入学式が終わり、生徒たちは各教室へと散っていく。

華やかな式典という“イベント”が終わり、ようやく日常が始まった――はずだった。

「はぁ……疲れた」

廊下を歩きながら、私は小さく息を吐いた。

「アレクシに絡まれた上に、バド様まで……」

隣を歩く想愛――アリスも、どこか強張った表情をしている。

言葉にしなくても、同じだけ消耗しているのがわかった。

そのときだった。

前方から、甘い香りがふわりと流れてくる。
金髪の少女が、優雅な仕草で私たちを一瞥し、くすくすと笑って通り過ぎていった。

思わず、私とアリスは同時に振り返る。
彼女はもうこちらを見ていない。けれど、不思議と印象だけが強く残った。

(……誰?
こんなキャラ、いたっけ)

曖昧な記憶に引っかかりを覚えながらも、足は止めなかった。

一年生の教室が近づくにつれ、胸の奥がじわじわと重くなる。

「1-A」と書かれたプレートを確認し、そっと扉を開けた。

すでに数人の生徒が席についている。

その中で、窓際に座る金髪の少年が、こちらを見て薄く笑った。
――アレクシ。

「やあ、ハーレ。……また会えたね」
 
(……やっぱりいるよね)

むしろ、いない方がおかしい。
彼は自分の隣の席を指差した。

「ここ、空いてるよ。座らない?」

(これ……強制イベントじゃない?
回避すると好感度下がるやつ)

そんな感覚だけが、はっきりと残っている。
私は一歩だけ位置を変え、無言で首を振った。

「……結構です。ご遠慮いたします」

無意識に、アリスを背中に庇っていた。

考えるより先に、体が動いた――それが当たり前のことのように。

「……大丈夫」
小さく呟く。

それが彼女に向けた言葉だったのか、自分自身への確認だったのかはわからない。


背後で、アリスが一瞬息を呑むのが伝わった。
何か言おうとした気配があったけれど、私は振り返らなかった。


――今は、前だけを見ていればいい。

そう思ってしまった。
アレクシは表情を崩さないまま、ゆっくり立ち上がる。


「つれないなぁ。俺たち、もう友達だと思ってたのに」

(どのあたりで?)

内心の突っ込みは、顔には出さない。
彼は距離を詰め、耳元で囁いた。

「逃げられないよ。この学校からはね」
不気味な笑み。

「……君、本当に美味しそうだ」
恐怖より先に、強い嫌悪感がこみ上げた。


その瞬間、教室の扉が開く。

担任らしき教師が入ってきたことで、アレクシは舌打ちするように席へ戻った。

(……今の、回避したはずなのに。
 なのに、嫌な予感だけが消えない)

「席につけ。今日から一年生A組の担任を務める、ルークだ」


教室に、ぴんと緊張が走る。
ルーク先生は黒板に「校則」と書き、淡々と説明を始めた。


「校内での武器使用は禁止。
他生徒への不当な接触も厳禁だ。特に淫魔やヴァンパイアの生徒は自覚するように」

窓際のアレクシを一瞥してから、続ける。


「そして最も重要なのが――弱肉強食の原則だ」
黒板に書き足される文字。

【弱者は強者に服従せよ】

「この学園では、力がすべてだ。
新入生のお前たちは最下位。目をつけられないよう、細心の注意を払え」

(……ああ、思い出した)

ゲームでも、ここはそういう場所だった。

詳しいルートや選択肢は曖昧でも、“危険地帯”だったことだけは覚えている。
説明が終わり、プリントが配られる。

そこには「マフィア組織の基礎」と書かれていた。

「明後日は学年別の実戦訓練がある。詳細は明日だ」

教室がざわつく。
期待と不安が入り混じった空気の中で、私は静かに息を整えた。

放課後。

寮へ向かう廊下で、ふと昼間の光景が蘇る。
アリスは、あのとき一歩踏み出そうとしていた。
それを、私は止めた。


――守るつもりで。
――守る役は、私だと決めつけて。

それが本当に正しかったのか。


胸の奥に、ちくりとした違和感が残ったままだった。

守ったはずの背中が、ほんの少し遠く感じた。
——それが、いちばんの違和感だった。
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