本当にセミを描きたかっただけ

田村 ノア

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第三話 「ぼやけている」

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次の日の昼休み幸人はなぜかあの校舎裏に来ていた。優矢は何もせずに空を見上げている。日課のようなものかもしれない。話しかけられるわけでもない。

「…なに~?……また来たの?」
昨日のようにマスク越しの目は笑っている
音も何も立てていないのに、いつの間にか気づかれていたようだった。
(見すぎたか?!)
「な、あっ、い、いや……その……なんとなく…。」
しどろもどろになりながら、幸人は必死で言葉を探す。
「き、昨日…ここにいるの、見えたから…今日も、いるのかなって……。べ、別に、用事とかじゃなくて、本当に、なんとな……く……。」

自分で何を言っているのかも分からなくなってきた。ストーカーの言い訳か、これは。顔から火が出るように熱い。今すぐこの場から消え去りたい衝動に駆られたが、足は地面に縫い付けられたように動かなかった。

優矢は何も言わず、隣をぽん、と叩いた。
「え?」
「…座れば?」
「ぁ、え?…おじゃ、まし、す」
(僕?なんで座ったぁ?…)
沈黙が続いた。
何も起きない。
ただ、なぜか二人で同じ空を見ていた。
やがてチャイムが鳴る。
(本当に何もなかったぁ~…いやあっても困るんだけど)
そんな感じだった
それから一週間。
昼休みになると、なぜか足はここに向いた。
優矢は何も言わない。
追い払うこともない。
幸人も、何も言えない。
帰る理由も、見つからない。
ただ、同じ空を見る時間だけが増えていく。

名前のない関係だった。
けれど。
違和感は、消えなかった。
体育の時間。
 暑い日でも、優矢は必ずジャージのままだった。 汗をかいても、袖をまくらない。
よく見れば、他の誰とも一定の距離を保っている。 触れられるのを避けるみたいに。
ふと、袖口を引き下ろす。
何も乱れていないのに、もう一度。
気のせいかもしれない。 でも、一度気づくと、目が離れなくなる。

そんなことを考えていると
「おい、聞いてる~?」
朔の声に引き戻される。
「うわ、え? あ、なんて?」
「いや、だから…はぁ、いいや、てかさ、お前…ここ1週間ぼーっとしてんよ?」

「あ~う、うん」

「なんか悩んでる?」

(悩んでる…悩んでる?…よくわからない。そういえば僕が一番最初に千鳥くんに困っていることがあったら~とか言ったな……それって言えることなのか?)

「いや……違う。たぶん」

「たぶん?」

幸人は少し考えて

「……気になるだけ」

「は?」

「なんでもない」
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