本当にセミを描きたかっただけ

高一の夏の始まり。
蝉の声が響く朝、屋上で出会ったのは偶然だった。
美術部の寺嶋幸人は、
ただセミを描きたかっただけ。
けれどその場所には、
フェンスの向こう側に立つ千鳥優矢がいた。
死ぬつもりだったのか、
ただ空を見ていただけなのか——
優矢自身にも分からない。
あの日以来、二人の距離は少しずつ変わっていく。
幸人は親友・安達朔に長年の片想いをしている。
優矢はノンケで、恋の形もよく分からない。
それでも、
幸人が他の誰かを見ていると、
胸の奥がざわつく。
これは何だ。
名前のつかない感情と、
鳴き止まない蝉の声。
誰もヒーローじゃない。
ただ、あの夏、屋上にいた。
それだけの、青春。
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