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第三話 子爵令嬢カロリーヌの困惑
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鬱陶しい女がいる。
最初は憧れの騎士、ユーゴがジュラベール伯爵家に住みだしたことが気に食わなかった。散々いじめてやったのにあっという間に恋人関係になった。絶対に色仕掛けで落としたに違いない。ユーゴから冷たい目で注意された時を思い出すと今でも恐ろしくて涙が出る。あの女は清純そうな顔をして、きっと私を嘲笑っているはずだ。
家格が劣るため、大事になっては困ると、女学院の教頭と主任に言い寄り、口でしゃぶってやったと言うのに意味が無かったではないか。腹立たしい。
ユーゴに近づけなくなり、失意の中、王宮へ父の仕事についていく際にアレクサンダー王太子殿下に声をかけられた。女性であれば誰だって憧れるような殿下に声をかけられ舞い上がった。
週に一度、父の仕事に付いて王宮に上がるたびに、殿下がお茶の時間を設けてくれた。私だけでなく父も、お前に気があるに違いないと言うし、これは間違いないだろう。
一度しなだれかかると、婚約の話になった。
「暑さが落ち着いたタイミングで王宮主催の社交パーティがある。そこで婚約を発表しようと思う」
飛び上がって喜んだ。ユーゴへの想いは実らなかったが、殿下と結婚できるのならそれ以上の喜びはない。しばらく忙しいから会えないと言われたが、多少会えないくらい些細なことだ。
婚約の話が出た頃、ユーゴは護衛騎士として隣国に行っていた。ユーゴが中々帰ってこず、ちょうど良い。暇つぶしになると、セーラへのいじめを再開した。
教科書もノートも新しいものを持ってきていることに気づけば、盗み捨てた。月に一度は雨の中地に手をつかせて無様に汚れた服で帰っていく。滑稽な姿が愉快でたまらない。セーラはユーゴに見捨てられ、私は殿下と結婚する。最高の気分だ。セーラにも教えておいてやろう。羨ましがるといい。全ての女性の憧れである殿下は私と結婚する。
「私、アレクサンダー王太子殿下と婚約するの」
「え……?アレクサンダー様と?」
「そうよ、王太子殿下からお話があったの」
セーラが押し黙る。さぞ悔しがっているのだろう。
「殿下と、お会いしてるのですか?」
「っ!殿下は忙しくて気軽に会える時間がないのよ!はあっ!王家に縁がない人は想像もできないのかしらっ」
「いつ婚約されたのですか?」
随分と突っ込んで聞いてくる。
「二ヶ月前よ?その頃は週に一度は会っていたわ。忙しい中で時間を作ってくれたの。あなたと違って愛されてるのよ、私は。あなたの騎士はとっくにあちらの国でよろしくやってるわ」
俯くセーラに、気分が良くなる。
周りの友人達にも実は王太子殿下と婚約するの、と打ち明けた。社交パーティにはぜひ来て欲しいと何人にも声をかけた。
いよいよ社交パーティが迫ってきたが、エスコートやドレスなど何も決まっていない。手紙を出すと、父経由で小さな紙切れを貰った。『先約がいて、エスコートして入場することは叶わないが、必ず来て欲しい』と、走り書きがあった。そうよね、婚約発表するんだもの、私がいなければ始まらない。
その頃にユーゴが帰国したと噂が流れたが、どうでもよかった。
宝石を散りばめた特注のドレスは、王太子殿下に見合うためには当然だと私財を投げ打って作ってもらった。王家に嫁げばお金に困ることはないと、何度も父を説得し、ありったけのお金をかけた。主役の私が一番素敵なドレスを着たかった。
弟にエスコートをさせて王宮へ向かう。きっと誰もが羨むだろう。王太子殿下の入場のアナウンスに、いよいよかと持っていたシャンパングラスを置く。
重厚な両扉が王宮スタッフによって開かれると、信じられない光景が広がった。
入場してきたのは殿下とセーラだった。開いた口が塞がらない。あの女はどこまで邪魔をするのかと拳を震わせる。殿下と共に、群れる貴族たちに挨拶をしている。淑女ぶった顔が一番腹が立つ。中身はただの泥棒猫のくせに。
声をかけられないような階級の者が、うっとりとセーラをみていることに気づく。
薄いブルーグレーのドレスはシンプルな形なのに美しく洗練されている。
絹で作られているのか滑らかな生地のドレスに、同色の糸でこれでもかと刺繍が施されている。凄まじい量の刺繍だが、糸がドレスと同じだからか、上品ですらある。首元まで詰めているデザインで胸上がレースで透けている。袖がないノースリーブの形も珍しい。華奢な肩が露出されていた。二人が歩むたびにセーラの背中を視界に入れた来客が息を飲んでいる。
首元でホルターネックのようになっているドレスは抉るように背中の半分以上が肌を晒している。しかし不思議なことに、いやらしさがない。見たことの無いデザインだ。これまでの流行りはボリュームがあればあるだけいいと、膨らみを持たせた形だ。自分のドレスもそうだ。しかしセーラは違う。そんな必要はないと言うかのように、パニエが入っておらず、腰のクビレがなまめかしく強調され、生地が重力に逆らうことなくストンと落ちている。
見れば見るほど美しすぎる。正直、負けた、と思った。
これからこの形が主流となり流行っていくだろうとすぐに察した。来客が一様に美しい、素敵と褒めたたえている。ドレス一つをとっても私を馬鹿にするのかと歯ぎしりを立てる。
元々婚約発表があると噂されていたため、来客達が伯爵令嬢との婚約だな、と勘違いをしている。婚約は私とするのだ。なぜ私がこれほど歯痒い思いをしなければならない。さっさと発表してほしくて堪らない。
「静粛に!」
王宮スタッフが大声を出す。いよいよだ。気分は回復し、歩き出して殿下の元に近づく。群がっている客が邪魔だ。これ以上近づけない。
「アレクサンダー王太子殿下の婚約を発表する!!」
まだ殿下の輝く金色の髪しか見えないというのに、会場が沸き立つ。
「アレクサンダー王太子殿下とジュラベール伯爵の娘セーラの婚約をここに発表する!!」
わあああ、とさらに盛り上がる会場に、拍手が起こる。
(な、に?どういうこと……?)
あまりの出来事に頭が追いつかない。
(今、セーラと婚約だって……)
王宮スタッフが間違えたのか?馬鹿馬鹿しい。王宮で働いている者が重要な婚約者を間違えるなどあってはならない。来客を押しのけて殿下の元にたどり着く。品がないが、どうでもよかった。乱れる髪を押さえながら声を張った。
「アレクサンダー殿下!王宮スタッフが間違えておりますわね」
周囲からなんだなんだと訝しげな目で見られるが、あとで全員罰を与えてやる。私が王太子妃になったあかつきには絶対に許さない。
殿下と腕を組むセーラが心配そうに殿下を見上げる。これほど腹が立つ女はいない。一番に制裁を加えてやる。
「誰だ、お前は」
殿下の発した言葉に時が止まる。
「な……、私と婚約すると……!」
「お前と婚約するなどと一言も言ったことはないが。なぜ、お前ごときと婚約しなければならない」
「だって、殿下が、私と……」
「セーラとの婚約は俺が七歳の頃から決まっている」
信じられない発言に目眩がしてふらつく。
「俺の長年の片思いがようやく実った」
殿下がセーラのこめかみにキスをすると周りが湧く。頭が上手く働かない。その中で、私を追いかけて一部始終を見ていたらしい周りの友人達の声が鮮明に聞こえた。
「やっぱり嘘だったね」
「私も全然信じてなかったー」
「虚言癖でしょ?ただの子爵令嬢で取り柄もないカロリーヌが結婚出来るわけないもの」
恥ずかしくて堪らない。言い返したいが何を言い返せばいいかわからない。
居ても立ってもいられず、広間から退場しようとしている二人を追いかけた。
「お待ちになって!」
廊下を出たすぐのところで二人を足止めした。殿下が振り向く。
「まだ何かあるのか?」
「セーラと婚約など、信じられません!お時間を作って会ってくれたではありせんか!」
「時間を作って?セーラと会う時間なら作ったが……毎日、何ヶ月も、自室で逢瀬をしたが、お前との時間を作った記憶は無い」
「んな!」
殿下がセーラの腰に回していた手を滑らせると、セーラの胸を卑猥な手つきで一撫でした。
「アレクサンダー様、……あまりいじめるのはよくありませんよ」
セーラは殿下の手の動きに何とも思っていないようだ。私を責める殿下を窘めた。
「セーラが言うならやめよう、俺はお前の願いを叶えるために生きている」
「んもう……大袈裟ですわ」
「大袈裟なんかではない、いつになったら俺の愛が伝わるんだ。こんなに愛しているのに」
殿下が人目をはばからず、セーラに口付ける。掬うようなキスを見せつけられ、たじろぐ。
「んっ!……いけません、こんな所で」
「俺はいつだって口付けたいと思っている……そうだ良いことを思いついた。お前も来い」
殿下がセーラを連れて近くの休憩室に入る。
お前も来いと言われたが、信じられないことが続き足がすくんでしまった。すると傍に立っていた二人の護衛騎士に、無理やり腕を掴まれて休憩室に連れられた。
「どうされました?」
セーラが不思議そうに殿下に話しかける。
「まあ、余興だ」
殿下がこちらに向き直る。
「お前がセーラをいじめていたのは知っている。揉み消す為に教師のブツを舐めていたのもな」
驚きのあまりヒュウ、と喉が鳴った。まさか知られているなんて。セーラは驚いたように殿下を見上げる。
「理由を聞いてやろう」
「だって、だって、この女がユーゴ様を誘惑して……はっ!そうです、この女、騎士のユーゴ様と付き合っているのです!王太子妃に、相応しくありません!」
衝撃の出来事に忘れていたが、セーラはユーゴと付き合っているのだ。王太子妃などなれるわけが無い。
「だそうだが、ユーゴ、どう思う」
振り向くと扉の前にユーゴが立っている。そう言えば帰ってきたという噂が流れていたような。
「何も問題ありません」
セーラが不安そうにユーゴを一瞥した。ほら、見たことか。きっと王太子に打ち明けていなかったに違いない。とんだあばずれだ。ユーゴもさっさと奪い取ればいいものを。
「これからも愛しています、一生変わらないでしょう」
「ふむ、同意する。こんなに愛しい女性は他にいない」
殿下が後ろから腰を抱くと、振り向かせたセーラの唇にかぶりつく。舌を絡めては見せつけるようにキスをする。ドレスの上から胸を揉みしだいた。
「んっ、んふう、アレクサンダー様っ……んう」
「はあ、好きだ、愛してる」
殿下の手の動きがいやらしい。回すように手のひらを押し付けている。
背中側から手を這わすようにドレスに侵入しては直に胸を揉んだ。
「ああんっ!やあっ、見られてるのっ、ユーゴに、カロリーヌに!」
「嫌じゃないだろう?本当は?」
セーラが耐えるように目を瞑っている
「本当のことを言いなさい」
「んっ、……感じちゃう、のおっ!」
「いい子だ」
ドレスで手は見えていないが、殿下がセーラの乳首を摘んでいる。
「このドレスを見た時に絶対にそれがしたいのだろうと思いましたよ」
「特注のドレスだ。最高級の生地が揃う老舗仕立て屋に、新進気鋭の若手を集めて半年かけて仕立てた」
自分のドレスの何倍もの時間と手間がかかっている。それほど、前から決まっていたのなら、なぜ。
「ふうんっ」
「声を我慢しているな」
「だってえ、……んっ!」
「いつも言っているだろう、感じたままに声を出しなさいと」
「はしたないからあっ……」
「いいじゃないか、はしたなくなるように俺が育てた」
荒々しく胸を揉みしだいた後、腰に手を添えて正面を向けさせると勃起しているらしい殿下が秘部に擦り付けている。
「ああんっおっきい」
「ああ、お前に興奮しているよ」
何度も何度も擦りつけながら首に口付けると、ユーゴが近づきセーラの後頭部を掴みながら荒々しく口付けた。
後ろからユーゴが先程の殿下と同じようにドレスの隙間から胸を揉んでいる。
三人の卑猥な光景に息を飲んだ。
乳首を弄るような指の動きに合わせてセーラが声を漏らす。
「くぅっ、ああん!見られてるわあっ!」
「見せつけてるんだよ、どれほど愛しているか分からせないと。これ以上セーラに手を出せばどうなるか分かるだろう」
殿下がセーラを寝台に押し倒すと足を絡めて口付けを交わしている。
殿下の首に手を回すセーラ。それに興奮したとばかりに、殿下が再び胸を揉み出した。
涎を手の甲で拭いた殿下がドレスを手馴れた様子でまくり上げると、股に顔をうずめている。
殿下の奉仕する姿に圧倒される。そんな訳がない。絶対的な王である殿下が一人の女に入れ込むなど。
そのはずだが、殿下が愉快でたまらないとでも言うかのように、秘部から足の先まで余すことなく全てを舐めた。あの自信家の王太子が女の足を舐めている。
「汚いのにぃっ……」
「どこもかしこも美しいじゃないか」
「アレクサンダー様っ、んんっカロリーヌがっ」
舌が這い、膝を抱えながら内ももを舐めていた殿下は、吐き捨てるように言葉を放った。
「まだいたのか、さっさと失せろ」
その言葉にユーゴに腕を引かれ扉の外に放り投げられると、勢い余って尻もちをついた。
「俺がいなくなってから、またセーラを傷つけていたらしいな」
ユーゴのあまりにも冷たい目に、恐怖で震え上がった。
「俺はお前を殺してもいいが、セーラが俺が牢に入ると悲しでしまう。セーラに生かされていると思え」
ユーゴが部屋に戻っていくと、扉がギイ、と音を立てて閉まりきる直前に、一際甲高い嬌声が聞こえた。
「イっちゃうのっ……イく、イくっ、イくうううううっ!」
最初は憧れの騎士、ユーゴがジュラベール伯爵家に住みだしたことが気に食わなかった。散々いじめてやったのにあっという間に恋人関係になった。絶対に色仕掛けで落としたに違いない。ユーゴから冷たい目で注意された時を思い出すと今でも恐ろしくて涙が出る。あの女は清純そうな顔をして、きっと私を嘲笑っているはずだ。
家格が劣るため、大事になっては困ると、女学院の教頭と主任に言い寄り、口でしゃぶってやったと言うのに意味が無かったではないか。腹立たしい。
ユーゴに近づけなくなり、失意の中、王宮へ父の仕事についていく際にアレクサンダー王太子殿下に声をかけられた。女性であれば誰だって憧れるような殿下に声をかけられ舞い上がった。
週に一度、父の仕事に付いて王宮に上がるたびに、殿下がお茶の時間を設けてくれた。私だけでなく父も、お前に気があるに違いないと言うし、これは間違いないだろう。
一度しなだれかかると、婚約の話になった。
「暑さが落ち着いたタイミングで王宮主催の社交パーティがある。そこで婚約を発表しようと思う」
飛び上がって喜んだ。ユーゴへの想いは実らなかったが、殿下と結婚できるのならそれ以上の喜びはない。しばらく忙しいから会えないと言われたが、多少会えないくらい些細なことだ。
婚約の話が出た頃、ユーゴは護衛騎士として隣国に行っていた。ユーゴが中々帰ってこず、ちょうど良い。暇つぶしになると、セーラへのいじめを再開した。
教科書もノートも新しいものを持ってきていることに気づけば、盗み捨てた。月に一度は雨の中地に手をつかせて無様に汚れた服で帰っていく。滑稽な姿が愉快でたまらない。セーラはユーゴに見捨てられ、私は殿下と結婚する。最高の気分だ。セーラにも教えておいてやろう。羨ましがるといい。全ての女性の憧れである殿下は私と結婚する。
「私、アレクサンダー王太子殿下と婚約するの」
「え……?アレクサンダー様と?」
「そうよ、王太子殿下からお話があったの」
セーラが押し黙る。さぞ悔しがっているのだろう。
「殿下と、お会いしてるのですか?」
「っ!殿下は忙しくて気軽に会える時間がないのよ!はあっ!王家に縁がない人は想像もできないのかしらっ」
「いつ婚約されたのですか?」
随分と突っ込んで聞いてくる。
「二ヶ月前よ?その頃は週に一度は会っていたわ。忙しい中で時間を作ってくれたの。あなたと違って愛されてるのよ、私は。あなたの騎士はとっくにあちらの国でよろしくやってるわ」
俯くセーラに、気分が良くなる。
周りの友人達にも実は王太子殿下と婚約するの、と打ち明けた。社交パーティにはぜひ来て欲しいと何人にも声をかけた。
いよいよ社交パーティが迫ってきたが、エスコートやドレスなど何も決まっていない。手紙を出すと、父経由で小さな紙切れを貰った。『先約がいて、エスコートして入場することは叶わないが、必ず来て欲しい』と、走り書きがあった。そうよね、婚約発表するんだもの、私がいなければ始まらない。
その頃にユーゴが帰国したと噂が流れたが、どうでもよかった。
宝石を散りばめた特注のドレスは、王太子殿下に見合うためには当然だと私財を投げ打って作ってもらった。王家に嫁げばお金に困ることはないと、何度も父を説得し、ありったけのお金をかけた。主役の私が一番素敵なドレスを着たかった。
弟にエスコートをさせて王宮へ向かう。きっと誰もが羨むだろう。王太子殿下の入場のアナウンスに、いよいよかと持っていたシャンパングラスを置く。
重厚な両扉が王宮スタッフによって開かれると、信じられない光景が広がった。
入場してきたのは殿下とセーラだった。開いた口が塞がらない。あの女はどこまで邪魔をするのかと拳を震わせる。殿下と共に、群れる貴族たちに挨拶をしている。淑女ぶった顔が一番腹が立つ。中身はただの泥棒猫のくせに。
声をかけられないような階級の者が、うっとりとセーラをみていることに気づく。
薄いブルーグレーのドレスはシンプルな形なのに美しく洗練されている。
絹で作られているのか滑らかな生地のドレスに、同色の糸でこれでもかと刺繍が施されている。凄まじい量の刺繍だが、糸がドレスと同じだからか、上品ですらある。首元まで詰めているデザインで胸上がレースで透けている。袖がないノースリーブの形も珍しい。華奢な肩が露出されていた。二人が歩むたびにセーラの背中を視界に入れた来客が息を飲んでいる。
首元でホルターネックのようになっているドレスは抉るように背中の半分以上が肌を晒している。しかし不思議なことに、いやらしさがない。見たことの無いデザインだ。これまでの流行りはボリュームがあればあるだけいいと、膨らみを持たせた形だ。自分のドレスもそうだ。しかしセーラは違う。そんな必要はないと言うかのように、パニエが入っておらず、腰のクビレがなまめかしく強調され、生地が重力に逆らうことなくストンと落ちている。
見れば見るほど美しすぎる。正直、負けた、と思った。
これからこの形が主流となり流行っていくだろうとすぐに察した。来客が一様に美しい、素敵と褒めたたえている。ドレス一つをとっても私を馬鹿にするのかと歯ぎしりを立てる。
元々婚約発表があると噂されていたため、来客達が伯爵令嬢との婚約だな、と勘違いをしている。婚約は私とするのだ。なぜ私がこれほど歯痒い思いをしなければならない。さっさと発表してほしくて堪らない。
「静粛に!」
王宮スタッフが大声を出す。いよいよだ。気分は回復し、歩き出して殿下の元に近づく。群がっている客が邪魔だ。これ以上近づけない。
「アレクサンダー王太子殿下の婚約を発表する!!」
まだ殿下の輝く金色の髪しか見えないというのに、会場が沸き立つ。
「アレクサンダー王太子殿下とジュラベール伯爵の娘セーラの婚約をここに発表する!!」
わあああ、とさらに盛り上がる会場に、拍手が起こる。
(な、に?どういうこと……?)
あまりの出来事に頭が追いつかない。
(今、セーラと婚約だって……)
王宮スタッフが間違えたのか?馬鹿馬鹿しい。王宮で働いている者が重要な婚約者を間違えるなどあってはならない。来客を押しのけて殿下の元にたどり着く。品がないが、どうでもよかった。乱れる髪を押さえながら声を張った。
「アレクサンダー殿下!王宮スタッフが間違えておりますわね」
周囲からなんだなんだと訝しげな目で見られるが、あとで全員罰を与えてやる。私が王太子妃になったあかつきには絶対に許さない。
殿下と腕を組むセーラが心配そうに殿下を見上げる。これほど腹が立つ女はいない。一番に制裁を加えてやる。
「誰だ、お前は」
殿下の発した言葉に時が止まる。
「な……、私と婚約すると……!」
「お前と婚約するなどと一言も言ったことはないが。なぜ、お前ごときと婚約しなければならない」
「だって、殿下が、私と……」
「セーラとの婚約は俺が七歳の頃から決まっている」
信じられない発言に目眩がしてふらつく。
「俺の長年の片思いがようやく実った」
殿下がセーラのこめかみにキスをすると周りが湧く。頭が上手く働かない。その中で、私を追いかけて一部始終を見ていたらしい周りの友人達の声が鮮明に聞こえた。
「やっぱり嘘だったね」
「私も全然信じてなかったー」
「虚言癖でしょ?ただの子爵令嬢で取り柄もないカロリーヌが結婚出来るわけないもの」
恥ずかしくて堪らない。言い返したいが何を言い返せばいいかわからない。
居ても立ってもいられず、広間から退場しようとしている二人を追いかけた。
「お待ちになって!」
廊下を出たすぐのところで二人を足止めした。殿下が振り向く。
「まだ何かあるのか?」
「セーラと婚約など、信じられません!お時間を作って会ってくれたではありせんか!」
「時間を作って?セーラと会う時間なら作ったが……毎日、何ヶ月も、自室で逢瀬をしたが、お前との時間を作った記憶は無い」
「んな!」
殿下がセーラの腰に回していた手を滑らせると、セーラの胸を卑猥な手つきで一撫でした。
「アレクサンダー様、……あまりいじめるのはよくありませんよ」
セーラは殿下の手の動きに何とも思っていないようだ。私を責める殿下を窘めた。
「セーラが言うならやめよう、俺はお前の願いを叶えるために生きている」
「んもう……大袈裟ですわ」
「大袈裟なんかではない、いつになったら俺の愛が伝わるんだ。こんなに愛しているのに」
殿下が人目をはばからず、セーラに口付ける。掬うようなキスを見せつけられ、たじろぐ。
「んっ!……いけません、こんな所で」
「俺はいつだって口付けたいと思っている……そうだ良いことを思いついた。お前も来い」
殿下がセーラを連れて近くの休憩室に入る。
お前も来いと言われたが、信じられないことが続き足がすくんでしまった。すると傍に立っていた二人の護衛騎士に、無理やり腕を掴まれて休憩室に連れられた。
「どうされました?」
セーラが不思議そうに殿下に話しかける。
「まあ、余興だ」
殿下がこちらに向き直る。
「お前がセーラをいじめていたのは知っている。揉み消す為に教師のブツを舐めていたのもな」
驚きのあまりヒュウ、と喉が鳴った。まさか知られているなんて。セーラは驚いたように殿下を見上げる。
「理由を聞いてやろう」
「だって、だって、この女がユーゴ様を誘惑して……はっ!そうです、この女、騎士のユーゴ様と付き合っているのです!王太子妃に、相応しくありません!」
衝撃の出来事に忘れていたが、セーラはユーゴと付き合っているのだ。王太子妃などなれるわけが無い。
「だそうだが、ユーゴ、どう思う」
振り向くと扉の前にユーゴが立っている。そう言えば帰ってきたという噂が流れていたような。
「何も問題ありません」
セーラが不安そうにユーゴを一瞥した。ほら、見たことか。きっと王太子に打ち明けていなかったに違いない。とんだあばずれだ。ユーゴもさっさと奪い取ればいいものを。
「これからも愛しています、一生変わらないでしょう」
「ふむ、同意する。こんなに愛しい女性は他にいない」
殿下が後ろから腰を抱くと、振り向かせたセーラの唇にかぶりつく。舌を絡めては見せつけるようにキスをする。ドレスの上から胸を揉みしだいた。
「んっ、んふう、アレクサンダー様っ……んう」
「はあ、好きだ、愛してる」
殿下の手の動きがいやらしい。回すように手のひらを押し付けている。
背中側から手を這わすようにドレスに侵入しては直に胸を揉んだ。
「ああんっ!やあっ、見られてるのっ、ユーゴに、カロリーヌに!」
「嫌じゃないだろう?本当は?」
セーラが耐えるように目を瞑っている
「本当のことを言いなさい」
「んっ、……感じちゃう、のおっ!」
「いい子だ」
ドレスで手は見えていないが、殿下がセーラの乳首を摘んでいる。
「このドレスを見た時に絶対にそれがしたいのだろうと思いましたよ」
「特注のドレスだ。最高級の生地が揃う老舗仕立て屋に、新進気鋭の若手を集めて半年かけて仕立てた」
自分のドレスの何倍もの時間と手間がかかっている。それほど、前から決まっていたのなら、なぜ。
「ふうんっ」
「声を我慢しているな」
「だってえ、……んっ!」
「いつも言っているだろう、感じたままに声を出しなさいと」
「はしたないからあっ……」
「いいじゃないか、はしたなくなるように俺が育てた」
荒々しく胸を揉みしだいた後、腰に手を添えて正面を向けさせると勃起しているらしい殿下が秘部に擦り付けている。
「ああんっおっきい」
「ああ、お前に興奮しているよ」
何度も何度も擦りつけながら首に口付けると、ユーゴが近づきセーラの後頭部を掴みながら荒々しく口付けた。
後ろからユーゴが先程の殿下と同じようにドレスの隙間から胸を揉んでいる。
三人の卑猥な光景に息を飲んだ。
乳首を弄るような指の動きに合わせてセーラが声を漏らす。
「くぅっ、ああん!見られてるわあっ!」
「見せつけてるんだよ、どれほど愛しているか分からせないと。これ以上セーラに手を出せばどうなるか分かるだろう」
殿下がセーラを寝台に押し倒すと足を絡めて口付けを交わしている。
殿下の首に手を回すセーラ。それに興奮したとばかりに、殿下が再び胸を揉み出した。
涎を手の甲で拭いた殿下がドレスを手馴れた様子でまくり上げると、股に顔をうずめている。
殿下の奉仕する姿に圧倒される。そんな訳がない。絶対的な王である殿下が一人の女に入れ込むなど。
そのはずだが、殿下が愉快でたまらないとでも言うかのように、秘部から足の先まで余すことなく全てを舐めた。あの自信家の王太子が女の足を舐めている。
「汚いのにぃっ……」
「どこもかしこも美しいじゃないか」
「アレクサンダー様っ、んんっカロリーヌがっ」
舌が這い、膝を抱えながら内ももを舐めていた殿下は、吐き捨てるように言葉を放った。
「まだいたのか、さっさと失せろ」
その言葉にユーゴに腕を引かれ扉の外に放り投げられると、勢い余って尻もちをついた。
「俺がいなくなってから、またセーラを傷つけていたらしいな」
ユーゴのあまりにも冷たい目に、恐怖で震え上がった。
「俺はお前を殺してもいいが、セーラが俺が牢に入ると悲しでしまう。セーラに生かされていると思え」
ユーゴが部屋に戻っていくと、扉がギイ、と音を立てて閉まりきる直前に、一際甲高い嬌声が聞こえた。
「イっちゃうのっ……イく、イくっ、イくうううううっ!」
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