追っかけメイドはイケおじ騎士団長とチョメチョメしたい!

春浦ディスコ

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第12話

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 憂鬱な気分で夜が明ける。

 自分が騎士達に隠してほしいと言ったのだ。だから言えなかったのかもしれない。
 しかし、なんだか嘘とも思えないような口ぶりだった。
 やはりジルベルトがただの平民のメイドを好きになるはずがないのだ。騎士達が清潔な環境で健やかに過ごせるために、出来るだけ長く働かせたいのかもしれない。それなら、わざわざ恋人のふりなんてしなくてもよかったのに。これまで通り、ジルベルトを一目見るために頑張れるのに。

 遊びでもいいと思っていたはずなのに。すっかり恋人気取りだった自分に気づいて虚しさが募る。

 昨日の発言が本当だとすれば、自分はどうするのが正解なのか、エマは夜通し考えたが答えが出なかった。

 翌朝。マリーンとソフィアに昨日の出来事を話す。

「深く考えすぎないで、本人に早めに相談しなさい」

 真っ当な返事に、そうだよね、と呟いた。

 今日も川に来た。メイド三人でせっせと洗濯をする。
今日は一際、風が強い。風が強いと洗濯物がすぐ乾いて有難いが、髪の毛がバサバサに乾燥してしまうのがネックだ。

 少し先では騎士達が飲水を汲んでいる。

「てか、あいついなくね?」
「朝から見てないな。なんかここ数日張り切ってるけど、まさか、一人で討伐に行ってたりしないよな」
「単独行動は厳禁だぜ?ないだろ」
「そうだけど……」

 騎士達の中に不穏な雰囲気が流れる。

「助けてくれええ!」

 悲壮な叫び声にその場にいた誰もがそちらを振り向く。
 血を垂らしながらこちらに向かってくる新人騎士と、人間の体の三倍の背丈はあろうどす黒い瘴気を纏った魔獣が追いかけてきていた。
 洗濯物を洗っていたエマ達が叫び声をあげた。新人騎士達が腰を抜かす。とてもじゃないが小型魔獣程度の大きさではない。その場にいる騎士達が対処できる魔獣ではなかった。
 魔獣は声にならない重低音の唸り声を上げるとマリーンとソフィアを片腕で抱えると、エマにかぶりつこうとしたのか大きな口を開けて向かってくる。エマはなんとか逃げようとしたことが功を奏し、服をひっかけるように噛まれて体が浮いた。

「いやああああ!」

 悲壮に叫ぶマリーンとソフィア。エマは恐怖で意識が飛びそうになった。もはや声すら出ない。
 魔獣が方向を転換すると森林の方へ戻ろうとしている。

「だ、団長に報告を!団長に!」

 騎士達が我に返り、転びながら立ち上がる。魔獣はあっという間に森林の中に消えていった。あっという間の恐ろしい出来事に、騎士達は宿舎に急いで戻った。

ーーー

 魔獣は三人を抱えてドスンドスンと駆け抜けると森林地帯に入った。エマは恐怖で震えが止まらない。
 薄暗く陽が当たらない。湿地なのか森林地帯に入ると魔獣が走りにくそうでスピードが落ちた。
 誰か追いかけてくれるだろうか、このスピードなら足跡を追えばきっと見つけてくれるはずだ。

「えーやだあ!犯されるの?食べられちゃうの?エッチは好きだけど魔獣に犯される趣味はないのにい!」

 マリーンが大声で叫ぶ。

「あんた緊張感なさすぎい!」
「だって、本当だものぉ!」

 マリーンとソフィアの緊張感のない言葉のおかげでエマは少し気が抜けた。
 きっとジルベルトが助けにきてくれる。しばらくすると、縄張りに入ったのか周りの木に爪痕が多く見受けられる。魔獣の様子がおかしい。なにかを振り払うように大きく腕を動かすと、三人は勢いにまかせて振り落とされた。
 落ちどころが良く、草むらが衝撃を和らげた。背中をぶつけたが、動けない程では無い。じりじりと魔獣から後ずさる。何とか逃げれないか。それに気づいたのか魔獣が涎を垂らしながら近づいてきた。
 さすがに命の危険を感じる。

「いやぁ……いや、ジル、ベルト様……」

 真正面から見る魔獣に全身が怖気立つ。開けっ放しの口から鋭い牙が見える。あんなものに噛まれたら一溜りもないだろう。だらだらと涎を垂らしている姿に、まともに交渉できる相手ではない。エマは恐怖で動けなくなってしまった。

(助けて、いや、もうこれで会えなくなってしまうの?……ここで、殺されてしまうの……?)

 涙が溢れてきた。言葉にならない重低音の唸り声を上げて、魔獣がエマ目掛けて口を大きく開けた。
 もう駄目だと思い目を瞑ると後ろから風が通り抜けていった。ドゴォンと何かが激しく倒れる音がする。恐る恐るまぶたを開くと倒れている魔獣と、立ちはだかるジルベルトがいた。

 帯刀していた剣を抜くと、目にも止まらぬ速さでバシュッと魔獣の首元を深く刺した。

 ウゴゴォと唸る魔獣。

「さあ、今のうちにこちらへ!」

 副団長がエマに声をかける。馬に乗せられると、マリーンもソフィアもそれぞれ騎士に回収され馬に乗せられている。

「ああ!いやっ!ジルベルト様を!置いていかないでっ!」
「大丈夫です!団長に任せましょう」

 エマの静止にも関わらず、馬が走り出す。

「いやああ!ジルベルト様ああ!」
「大丈夫ですよ、団長はあの程度でやられたりしません」
「でも、うっ……」
「信じてください、団長を」

 馬は森を駆け抜けて無事に宿舎に戻った。
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