追っかけメイドはイケおじ騎士団長とチョメチョメしたい!

春浦ディスコ

文字の大きさ
13 / 20

第13話

しおりを挟む

 宿舎に戻ると、三人はエマの部屋で寄り添っていた。

「大丈夫だよ、団長は無事に帰ってくる」

 放心しているエマにソフィアとマリーンが声をかけてくれている。二人とも怖い思いをしたのに、気を使わせてしまっているが、取り繕えないほどに落ち込んでいた。

「副団長さんも、大丈夫って言ってたしね」

 メイド達が連れさられたことで、今日の仕事は全て新人騎士達が請け負ってくれた。とても冷静ではいられなかったので、正直助かった。
 待てども待てども、帰ってこない。馬を走らせれば数十分だろうに、なぜ帰ってこないのかと、最悪のケースが頭にチラつく。それを振り払っては大丈夫だと自分を言い聞かせる。

 日が傾きだした。帰ってきてから何時間も経っていた。
 しばらく頭が働かずぼおっとしていると、団長が帰ってきたという大声が耳に入る。騎士達が宿舎から出ていったのか騒然としている。

「ほら、帰ってきたって!」
行こうと腕を引っ張ってくれるが、怖くて足が竦んでしまう。震えて動けない。

「やだ、どうしよう、私、ジルベルト様になにかあったら」
「待ってなさい!絶対大丈夫!」

 二人が様子を見てくると部屋を出ていった。エマはうずくまり、顔を埋める。

 目をつぶっていると足音が聞こえてきた。二人が戻ってきたのだろうか、部屋の扉が開いた。
 顔をあげると、ジルベルトが立っていた。

「ジルベルト様っ……よかったっ」

 震えていた足が嘘のように、駆け寄っては抱きつく。縋りつくと、涙が溢れた。
 ジルベルトは水浴びでもしたのか、全身が濡れている。

「エマ、大丈夫だったか?私は何も心配はいらないよ?」
「うぅっ……」

 嗚咽で言葉にならない。

「それより、怪我は、どこか痛いところは無いか?」
「ないっ……守ってくれたからっ」
「よかった、怖い思いをさせたね」

 強く抱きしめられる。涙が止まらず上手く話せない。
 ジルベルトがエマの背中をゆっくりと何度も撫でてくれた。



「なぜ、あんな、大きな魔獣が」

 ジルベルトの存在を実感すると、少し落ち着いてきた。すると疑問がふつふつと湧いてきた。普段、魔獣が森林からでてくることはないはずなのに。

「落ち着いてからでいいんだよ」
「……知ってるなら、聞きたい、です」
「いや……」
「大丈夫、です……お願いします」

 エマの強い意志に、観念したジルベルトが話し出した。

「どこから、話そうか。……実は今回の遠征は内々に調査の目的があったんだ」

 初耳だ。訓練を兼ねた小型魔獣の討伐遠征ではなかったのか。

「普段、魔獣が森林地帯から出てくることはない。理由はこの森林地帯の中心部には特殊な花粉が舞っているんだ」
「特殊な花粉?」

「まだ研究中だが、その花粉が魔獣のなんらかのエネルギー源になっているとの見解があり、今年は強風が多く花粉が森林地帯の全域に広がっていることが予想されている」
「なんと……」

「中心部に近ければ近いほど強い魔獣が住んでいて、小型魔獣はその周りを囲むように住処にしているが、花粉の飛ぶ範囲が広がったため、魔獣たちの行動範囲が広がっていたんだ。討伐の状況からもそれは間違いないだろうとなっていた。……加えて、やっかいなことにこの花粉は少しだが催淫効果もあるんだ。そして魔獣の中には強く催淫効果が効いてしまう個体がいて凶暴化する。さっきのやつもそれだろう」
「なるほど……」

 思い出して体が震える。

「話はここで止めておこう。話はいつだって出来るんだから」
「……大丈夫、です」
「……辛くなったらいつでも言いなさい。……予測はできていたため、かなり森林地帯の外側で討伐していたが、単独行動の騎士が奥に入り込み中型魔獣と出会ってしまったようだ。凶暴化した魔獣はその騎士を追いかけて森林から出てきてしまったという訳だ」

 危険に晒してすまない、とジルベルトが申し訳なさそうにしている。

 ふと団長の顔が火照っていることに気づく。発熱しているのかもしれない。

「ジルベルト様、どこかお辛いところが……?」
「中心部近くで随分花粉を吸い込んだ自覚があるから、影響を受けたかもしれない。人にも影響があっても不思議じゃない」
「それって……!……癒したいです、ジルベルト様のこと」
「とても魅力的な誘いだが、酷くしてしまいそうだ」
「それでもいいっ」
「私が嫌だよ、初めてはとびきり気持ちよくしたい。今すると、荒々しく抱いてしまいそうだ」
「ジルベルト様……」

 エマから口付ける。

「んっ……好き」

 ちゅっぷ、ちゅぱと音を立ててキスをする。癒せたら、なんだっていい。助けられるなら酷くされたっていいのに。

「エマ、っ、我慢できなくなるよ」
「いいですっ」

 何度もジルベルトの唇に吸い付く。ジルベルトの手がエマの腰を艶めかしく撫でる。

「……ん?」
「どうしましたか?」

 突然ジルベルトの顔が離れる。

「なんだか、清々しい気分というか、毒が浄化される時の気分と近しい」

 何かを確かめるようにもう一度口付けられる。ジルベルトの顔の火照りが落ち着いているようにも見える。

「口付けで浄化されたような気がするな……唾液か?花粉を中和する成分でもあるのか?」

 まさかの展開である。理由がわからないが、手助けができたのであろうか。

「もしそうだったら、とんでもない発見だよ。可能であれば、唾液の提供をお願いするかもしれない」
「……それって、ジルベルト様とキスしたのバレます、よね?」
「何も問題はないだろう?」

(報告書に、キスをしたら浄化されたって書くの……?)

 なんとも間抜けで恥ずかしすぎる。

「あるでしょう!恥ずかしいし……」

 周囲にバレたらどうするのだ、ただのメイドとのキスなんて。それこそ仕事を辞めたくなるレベルである。

(仕事を辞める?何か忘れているような……)

「はっ!そうですよ!アベルに!」
「アベル?」

 なぜ今、アベルの名前が出てくるのかわからないとばかりにジルベルトが眉を顰める。

「……進んで宿舎の掃除をするメイドに辞められたら困るって」

 少し拗ねた言い方になってしまった。

「昨日の話か」

 エマが頷く。

「もしかして、働かせるために、交際しようって言ったのかなって……」

 ジルベルトが絶句している。

「信じられない。まさかそんな風に思われるなんて、そんな最低な男だと思ったのか?」
「だって、その可能性もあるなって!憧れのジルベルト様に交際を申し込まれるなんて、やっぱりありえないから……」
「エマが騎士には内緒にしたいと言っていたからそういう物言いをしただけだよ」

 疑ってしまった申し訳なさで、エマは小さくなる。

「まあ、誤解が解けてよかったよ。私の気持ちを信じてほしかったが、私の言葉が足りなかったね」

 優しいジルベルトにエマはごめんなさいと謝った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

白薔薇姫の前では、ポンコツになってしまう豪胆な騎士団長の恋〜わがままな王女の願いを全て叶えないでください〜

狭山雪菜
恋愛
イリト王国では王国を東エリアと南エリアに分けた騎士団があり、その中でも騎士団を束ねる2人の最強の騎士団長がそれぞれ所属していた。 1人はしなやかな動きで、相手の隙を突いて攻撃して戦に勝利をする貴公子と名高い副団長と、今回の主人公――ガエル・セルジュ・リュック・アザール騎士団長と、イリト王国の第一王女のレティシア・モニク・オルガ・モルコを成人する前まで護衛していたわがままな王女とのお話。 こちらのお話は「小説家になろう」にも掲載されています。

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

処理中です...