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青の村にて 兄さん姉さんの末路と暴走気味な三体
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「黒の方々、これより青からの歓迎の宴を始める。心ゆくまで食べて飲んでくれ」
あとで待っているラカムタさんの説教を考えて兄さんと姉さんが暗い雰囲気を漂わせてる中、青の僕達黒を歓迎する宴がハインネルフさんの掛け声で始まった。
「ほお、これは大霊湖に住む魔獣の肉で、こっちは魚か。見事な大きさだな」
ラカムタさんがうなっている。魚か……。焼けた香ばしい匂いがしてて羨ましいけど、確実に肉と同じく食べても僕は胃が受け付けないだろうから諦めて、僕用に用意された皿に山盛りになっているものを見た。
「ヤート、それは何かしら?」
「水草を刻んだものだね。すごくネバネバしてるし身体には良さそうだね」
「その通りだよ。ヤート君」
僕が少量をサジで絡めるようにすくい観察してるとイリュキンがやってきた。
「それは青で湖草と呼んでるものの一種で栄養も抜群さ」
「へえ、そうなんだ。いただきます」
観察していた湖草をすくって口に入れ噛むとシャクシャクっていう良い歯ごたえとネバネバする食感が混ざって面白い。味はといえば栄養が詰まってる感じの濃い味だ。
「……どうかな? ヤート君の口に合うだろうか?」
「うん、かなり美味しいし食感も面白いよ」
「それなら良かった!!」
その後も歓迎の宴は和やかに進み、黒も青もみんな良い感じに満腹になってきたみたいだ。僕は青の村の門のところでの事をお願いするために、ちょうど近くを通りかかったハインネルフさんに話しかける。
「ハインネルフさん、ちょっと良い?」
「何かな?」
「宴に出た魔獣の肉と魚で余ってる奴ない? 鬼熊と破壊猪に持っていきたいんだ。あと大霊湖で二体が食べても良い奴を教えてほしい」
「すぐに用意させよう。説明はタキタから渡す時にするという事で良いだろうか?」
「問題なければお願い」
僕とハインネルフさんが、二体に持っていくものを話し合っていると兄さんがガバッと勢いよく立ち上がる。
「ヤート、運ぶのは任せろ!!」
「私も手伝うわ」
「私もやります」
「ガルとマイネは手伝わなくて良いぞ。お前ら二人は説教だと言ったよな?」
三体のところに運ぶ手伝いで逃げようとした兄さんと姉さんの頭をラカムタさんがガシッとつかんで持ち上げた。
「ラカムタのおっさん、降ろせよ!!」
「逃げないから降ろして!!」
「はっはっはっは、それだけ元気があればじっくり説教できるな」
「離せーーー!!!」
「離してーーー!!!」
当然、二人がジタバタしてもラカムタさんの手はビクともせず何もできずに運ばれていく。兄さん、姉さん、頑張って。
リンリーとイリュキンとタキタさんに加えて他の水守達にも手伝ってもらい青の村の外の三体のいるところまで魔獣の肉や魚を運んだけど、鬼熊と破壊猪の二体は一心不乱に大霊湖の水を飲んでいて、ディグリも地面に根を張り地中から水分を吸収していた。
「…………」
「ヤート君、あれは大丈夫なのかな……?」
「確実に止めた方が良いと思います」
まあ、喉が渇いたら水を飲むのが当たり前だから、その事は別に良いとして問題なのは明らかに青の村の門で別れた時より三体の身体が大きくなっている事だ。もしかして門で別れてから、ずっと大霊湖の水を飲んでたの? そうだとしたらタキタさんの言う通り止めるべきだね。僕はみんなに静かにしててって口に人差し指をそえる合図をした後、三体に近づいていった。
「「「…………」」」
僕がすぐそばまで近づいても三体は気づかない。よっぽど大霊湖の水が美味しくて夢中になってるんだね。仕方ないから少し強めに三体の身体を叩いた。
「ガ!!」
「ブオ!!」
「ハッ!!」
「美味しくて飲むのが止められないのかもしれないけど、いくらなんでも飲みすぎ」
「ガァ……」
「ブォ……」
「申シ訳アリマセン……」
「身体の状態だけ確かめさせて」
同調で三体の状態を確かめると、ものすごい量の魔力がものすごい勢いで身体の中を巡っていて、そのため身体が活性化し続け成長が止まらない状態になってるみたいだね。三体の強固な身体なら急激な成長の負担も簡単に受け止められるとは思うけど負担は負担だ。発散させた方が良い。僕はイリュキンとタキタさんの方に戻って聞いた。
「イリュキン、タキタさん、この辺りって青の村以外に誰か住んでるところとか、魔獣の縄張りになってるところとかある?」
「……私の知ってる限りなかったはずだ。タキタはどうだい?」
「わしも同じですね」
「そっか、それなら安心だ。ちょっと三体に運動させてくる」
「ヤ、ヤート君、青の村から離れてても三体が戦うのは、かなり困るんだけど……」
「違う違う。大霊湖の周りはひらけてて障害物がないから三体を走らせてくるだけだよ」
「そうか……、それなら良かった」
イリュキンとタキタさんがホッと胸をなでおろしている。前にも言ったけど僕も三体もそうそう頻繁に激しく動かないよ。まあ過去の事で説得力が薄いから黙っておこう。
「というわけで今から行ってくるから、イリュキンはハインネルフさんとイーリリスさんに、リンリーはラカムタさん達に説明するのを頼んでも良い?」
「うん、それなら任せてもらって大丈夫だ」
「私も大丈夫です」
「ありがとう。それじゃあお願い。三体の魔力が落ち着いたら戻ってくるよ」
「ヤート君、気をつけて」
「無理はしないでください」
「僕はできる事しかしないよ。行ってきます」
僕はリンリーやイリュキン達に手を振りながら離れて三体のところに戻る。
「聞いてた通り、さすがに急激な魔力の取り込みも身体の成長も身体に良くないから、身体に溜まった魔力と負担の発散のために走ってもらうけど大丈夫?」
「ガア」
「ブオ」
「問題アリマセン」
「わかった。まずは破壊猪の背中に乗るから」
「ブオ」
「ありがとう。緑盛魔法・超育成・緑盛網」
僕は破壊猪の背中に乗ってから身体を寝そべる状態で固定して、三体に合図を送ると三体が走り出した。青の村に着いて早々に村を離れる事になるとは思わなかったけど、三体に調子を崩してほしくないからこれはこれで良い。あとは僕が三体の身体が落ち着くまで長時間付き合えるように覚悟をしておくだけだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
あとで待っているラカムタさんの説教を考えて兄さんと姉さんが暗い雰囲気を漂わせてる中、青の僕達黒を歓迎する宴がハインネルフさんの掛け声で始まった。
「ほお、これは大霊湖に住む魔獣の肉で、こっちは魚か。見事な大きさだな」
ラカムタさんがうなっている。魚か……。焼けた香ばしい匂いがしてて羨ましいけど、確実に肉と同じく食べても僕は胃が受け付けないだろうから諦めて、僕用に用意された皿に山盛りになっているものを見た。
「ヤート、それは何かしら?」
「水草を刻んだものだね。すごくネバネバしてるし身体には良さそうだね」
「その通りだよ。ヤート君」
僕が少量をサジで絡めるようにすくい観察してるとイリュキンがやってきた。
「それは青で湖草と呼んでるものの一種で栄養も抜群さ」
「へえ、そうなんだ。いただきます」
観察していた湖草をすくって口に入れ噛むとシャクシャクっていう良い歯ごたえとネバネバする食感が混ざって面白い。味はといえば栄養が詰まってる感じの濃い味だ。
「……どうかな? ヤート君の口に合うだろうか?」
「うん、かなり美味しいし食感も面白いよ」
「それなら良かった!!」
その後も歓迎の宴は和やかに進み、黒も青もみんな良い感じに満腹になってきたみたいだ。僕は青の村の門のところでの事をお願いするために、ちょうど近くを通りかかったハインネルフさんに話しかける。
「ハインネルフさん、ちょっと良い?」
「何かな?」
「宴に出た魔獣の肉と魚で余ってる奴ない? 鬼熊と破壊猪に持っていきたいんだ。あと大霊湖で二体が食べても良い奴を教えてほしい」
「すぐに用意させよう。説明はタキタから渡す時にするという事で良いだろうか?」
「問題なければお願い」
僕とハインネルフさんが、二体に持っていくものを話し合っていると兄さんがガバッと勢いよく立ち上がる。
「ヤート、運ぶのは任せろ!!」
「私も手伝うわ」
「私もやります」
「ガルとマイネは手伝わなくて良いぞ。お前ら二人は説教だと言ったよな?」
三体のところに運ぶ手伝いで逃げようとした兄さんと姉さんの頭をラカムタさんがガシッとつかんで持ち上げた。
「ラカムタのおっさん、降ろせよ!!」
「逃げないから降ろして!!」
「はっはっはっは、それだけ元気があればじっくり説教できるな」
「離せーーー!!!」
「離してーーー!!!」
当然、二人がジタバタしてもラカムタさんの手はビクともせず何もできずに運ばれていく。兄さん、姉さん、頑張って。
リンリーとイリュキンとタキタさんに加えて他の水守達にも手伝ってもらい青の村の外の三体のいるところまで魔獣の肉や魚を運んだけど、鬼熊と破壊猪の二体は一心不乱に大霊湖の水を飲んでいて、ディグリも地面に根を張り地中から水分を吸収していた。
「…………」
「ヤート君、あれは大丈夫なのかな……?」
「確実に止めた方が良いと思います」
まあ、喉が渇いたら水を飲むのが当たり前だから、その事は別に良いとして問題なのは明らかに青の村の門で別れた時より三体の身体が大きくなっている事だ。もしかして門で別れてから、ずっと大霊湖の水を飲んでたの? そうだとしたらタキタさんの言う通り止めるべきだね。僕はみんなに静かにしててって口に人差し指をそえる合図をした後、三体に近づいていった。
「「「…………」」」
僕がすぐそばまで近づいても三体は気づかない。よっぽど大霊湖の水が美味しくて夢中になってるんだね。仕方ないから少し強めに三体の身体を叩いた。
「ガ!!」
「ブオ!!」
「ハッ!!」
「美味しくて飲むのが止められないのかもしれないけど、いくらなんでも飲みすぎ」
「ガァ……」
「ブォ……」
「申シ訳アリマセン……」
「身体の状態だけ確かめさせて」
同調で三体の状態を確かめると、ものすごい量の魔力がものすごい勢いで身体の中を巡っていて、そのため身体が活性化し続け成長が止まらない状態になってるみたいだね。三体の強固な身体なら急激な成長の負担も簡単に受け止められるとは思うけど負担は負担だ。発散させた方が良い。僕はイリュキンとタキタさんの方に戻って聞いた。
「イリュキン、タキタさん、この辺りって青の村以外に誰か住んでるところとか、魔獣の縄張りになってるところとかある?」
「……私の知ってる限りなかったはずだ。タキタはどうだい?」
「わしも同じですね」
「そっか、それなら安心だ。ちょっと三体に運動させてくる」
「ヤ、ヤート君、青の村から離れてても三体が戦うのは、かなり困るんだけど……」
「違う違う。大霊湖の周りはひらけてて障害物がないから三体を走らせてくるだけだよ」
「そうか……、それなら良かった」
イリュキンとタキタさんがホッと胸をなでおろしている。前にも言ったけど僕も三体もそうそう頻繁に激しく動かないよ。まあ過去の事で説得力が薄いから黙っておこう。
「というわけで今から行ってくるから、イリュキンはハインネルフさんとイーリリスさんに、リンリーはラカムタさん達に説明するのを頼んでも良い?」
「うん、それなら任せてもらって大丈夫だ」
「私も大丈夫です」
「ありがとう。それじゃあお願い。三体の魔力が落ち着いたら戻ってくるよ」
「ヤート君、気をつけて」
「無理はしないでください」
「僕はできる事しかしないよ。行ってきます」
僕はリンリーやイリュキン達に手を振りながら離れて三体のところに戻る。
「聞いてた通り、さすがに急激な魔力の取り込みも身体の成長も身体に良くないから、身体に溜まった魔力と負担の発散のために走ってもらうけど大丈夫?」
「ガア」
「ブオ」
「問題アリマセン」
「わかった。まずは破壊猪の背中に乗るから」
「ブオ」
「ありがとう。緑盛魔法・超育成・緑盛網」
僕は破壊猪の背中に乗ってから身体を寝そべる状態で固定して、三体に合図を送ると三体が走り出した。青の村に着いて早々に村を離れる事になるとは思わなかったけど、三体に調子を崩してほしくないからこれはこれで良い。あとは僕が三体の身体が落ち着くまで長時間付き合えるように覚悟をしておくだけだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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