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大神林にて 久々に聞く他の人からの評価とリンリーの良い変化

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「「…………」」

 恥ずかしさから村を逃げるように走り出して森の中に入って、しばらく走った後に走るのをやめて歩きになった。走ってる間も今の歩いてる時も僕とリンリーは黙ったままで、とりあえず少しでも村から離れようと手を繋いだまま森の中を進んで行く。

「……この辺で少し休もうか」
「はい……」

 リンリーの元気が無い。……いや違うか。繋いだ手から伝わってくるリンリーの体温が高いままだから、恥ずかしさで余裕が無いだけみたい。感情の薄い僕でも顔が熱くなったままだから、リンリーならなおさらだよね。

「あそこの倒木に座ろう」
「わかりました……」

 良い感じの倒木見つけて並んで座る。

 サー、サー、サー。
 チッ、チチッ、チチッ、チッ。
 パキン、ガサ。

「「…………」」

 森の中でいろんな音がするけど僕とリンリーは無言のままだから、はっきり言って気まずい。普段なら無言の空間なんて何の問題も無いのに、状況次第でこんなにも違うんだね。…………こんな時にはどんな風に声をかけたら良いんだろう? それとも黙ったままの方が良いのかな? 僕が悩んでいると、リンリーの方から僕に話しかけてきた。

「……私でもあんな大声が出るんですね」
「僕と同じで大声を出す必要が無かっただけだと思う」
「そう言えばそうですね。……ふう、良し!!」

 リンリーが一回大きく息を吐いたら勢いよく立ち上がる。

「ヤート君、せっかくの二人だけの散歩です。どこか行きましょう!!」

 空元気っぽいけど無言で落ち込まれるより全然良い。あとやっぱり笑ってるリンリーを見てたいよね。

「そうだね。どこに行こうか? 今の時期だったら、……ああ、あれが見頃かも」
「何を見に行くんですか?」
「それは……見てのお楽しみって事にしておいて」
「わかりました」

 二人で歩きながらいろんな話をする。いつもやってる作業の事、森での事、村での事、大人から教えてもらった事、本当にいろんな事を話した。そんな中で僕が一番驚いたのは、リンリーから聞いた他の年少組が僕の事をどう思ってるかだった。

「ヤート君は、村のみんなから注目されてます」
「たぶん、僕のやる事が妙らしいから気になるんじゃない? 三体との戦いとかの後始末で大人達に迷惑かけたしね」
「それもあると思います。ただ、ヤート君を見てるのは大人だけじゃないんですよ」
「……そうなの?」
「はい、大人だけじゃなくて私達と同じ年少組もヤート君の事を注目してます」
「黒の村の年少組の事を言ってるんだよね?」
「そうです」

 今までの事を振り返ってみる。……うーん?

「兄さんと姉さんとリンリー以外の年少組に話しかけられた事ないよ?」
「まだまだ直接は話しにくいみたいで、その代わりにガル君やマイネさんに私もヤート君の事をよく聞かれます」
「……例えば?」
「そうですね……、ヤート君がしている散歩はどんな感じなのか? 三体の魔獣とはどんな風に関わってるか? あとはヤート君が自分達の事をどう思ってるのか? こんなところですね」
「なんで僕に直接聞かないの?」
「きっと聞きにくいんだと思います」
「うーん、無表情なのは自覚があるけど、僕ってそこまで感じが悪い?」

 僕が自分の顔を触りながら言うと、リンリーは少し笑って僕の顔を覗き込んでくる。

「違いますよ。ヤート君に憧れてる……っていうのが一番近いでしょうか」
欠色けっしょくで身体も魔力も弱い僕に憧れる? ごめん、全く理解ができない」
「そうでしょうか? 私はすごく自然な事だと思います」
「なんでそう思うの?」
「簡単です。ヤート君は何かあった時に大人達から意見を求められるし、大神林だいしんりんの最奥に行くなんていう無茶も許可が出ます。そういう子供なのに村の大人達に一人前って認められているからですね」

 リンリーの言ってる事は合ってるけど、僕が認められてるとは違う気がするから否定しておこう。

「意見を求められるのは僕がどう行動するかを知りたいからで、最奥に行く許可が出たのは単純に僕が許可がなくても勝手に行くっていうのを今までの事から村長むらおさ達が知ってるだけだよ。だから僕が一人前って認められてるわけじゃない」
「赤の村長むらおさから鱗をもらったり赤の顔役と親しげに話せたりしても一人前じゃないんですか?」
「それは……」
「誰にもできない植物と意思疎通をとったり、魔獣と激闘を繰り広げたり普人族ふじんぞくの国の危機を救ったりしても一人前じゃないんですか?」
「…………」
「ヤート君」

 僕がどう答えたら良いか考えていたらリンリーが僕の目をジッと見てくる。

「ヤート君はヤート君が思う以上にみんなに認められています。その事は忘れないでください。……私もどんな状況でも揺るがず折れず曲がらないヤート君をずっと見てて、少しでもヤート君みたいになりたくて自信の無い自分を変えたくて、あの日ヤート君に声をかけました」
「あの時はリンリーに声をかけられて驚いたし、話してる途中で泣きそうになって困惑したよ」
「……恥ずかしいのでその事は言わないでください」

 僕を見てたリンリーが顔を背けて小声で言ってくる。今では気配と姿を自在に消して禁隷術師きんれいじゅつしのハザランにもディグリにも一撃を叩き込むんだから、本当にあの時から比べたらリンリーは変わったな。僕が感心してたら僕の方に顔を戻したリンリーが咳をして、また僕の目を見てきた。

「コホン、ヤート君良いですか。私はヤート君のおかげで変われました。それに私だけじゃありません。竜人族りゅうじんぞくもヤート君のおかげでいろいろ変わっています。何かを変える力を持っているヤート君は絶対に一人前なんです。その事はヤート君を知ってるみんなが認めてます」
「……そうか、僕はみんなに認められるのか」
「はい」

 他の人にどう思われても良いって考えてたけど、面と向かって言われたら嬉しいものだね。特によく知ってる相手から言われたらより嬉しいよ。ただ、残念なのは嬉しくても今の僕の顔には笑顔が出てこないって事だね。

 いつか目の前のリンリーみたいにニコニコ笑えたら良いな。…………あと、リンリーもしたけど話を戻したり変えたりする時に咳をするのは意味あるの? そんな事を思いながら僕はリンリーと手を繋いで森の中を進んでいく。



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◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
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