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大神林にて 花びらと約束
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「見えてきたね」
「あそこが目的地……なんですか?」
リンリーの声に戸惑いが混ざってる。まあ、二人で時間をかけて歩いてきて見えてきた風景が、どんな場所にも植物が生えている大神林の中では珍しい岩が剥き出しの崖なんだから当然と言えば当然かな。でも、ここが目的地で間違いない。微かに顔に崖の上から吹く風を感じるから、もう少しかな。リンリーに一番見せたい時に間に合って良かった。
「そうだよ。この崖に名前をつけるなら「色彩の滝」ってところかな」
「この崖がですか?」
目の前の崖を見上げて、さらに困惑しているリンリーの手を引いて崖が一望できるところに移動して、前に僕がここを見た時に座った腰掛けるのにちょうど良い岩を見つけて二人で並んで座った。
「前に散歩に来た時に、ここで座って休んでたら偶然見れたんだけど、すごく綺麗だったんだ」
「そうなんですね……」
「今はただの岩が剥き出しになってる崖だけど、もう少し待てば見れると思う」
「それじゃあ、楽しみにしてます」
「うん」
リンリーは座ると、キョロキョロ周りを見回して感心したように話しかけてくる。
「ヤート君はこんなところまで散歩に来てるんですね」
「一人で時間がある時は行った事ない場所に行くようにしてたら、いつの間にかこの崖まで来てた」
「私も含めて狩りに適した場所や薬草の群生地は詳しいですけど、この崖みたいな何もない場所は知らない人の方が多いと思います」
「みんなも散歩すれば良いのに」
「ヤート君」
「何?」
「私達がいるのは大神林なんです。黒の村があるのは比較的森の外に近い場所ですけど、それでも何が起こるかわからないので気軽に散歩なんてできませんよ」
「えっと、……ごめん」
リンリーが妙に迫力のある笑顔で言ってきたから思わず謝ってしまった。でも、そうか僕みたいに大神林の中を一人で行動する方が変なんだよね。
「うーん、まだまだ僕の感覚のズレは大きいな」
「いえ、今更と言えば今更なので、そこまで気にする事もないと思います。でも、散歩で大神林のいろんな場所が見ているヤート君が羨ましくもあります」
「僕で良ければ、また散歩に誘うよ。そうすればいろんな場所に行ける」
「……そうですね。私からも誘うので、いっしょにいろんな場所を見ましょう」
「うん、そうだね。……リンリー、来るよ。崖の上の方を見てて」
「え?」
リンリーと話してたらフッと空気が変わって崖の上から吹く風に流れに花の匂いが混ざった。そしてリンリーが崖の上を見ると、風に吹かれて飛ばされた小さくヒラヒラと動くものが一つ崖の下に落ちていく。でもそれだけで終わる事はなくて、時間が経つ毎に崖の下にヒラヒラと落ちていくものが増えていき、滝のようにまとまって崖の下へ落ちていく。
「あれは……花びら?」
「そう、あの崖の上に花の群生地があって、決まった時期に吹く風に飛ばされた花びらがこの崖の上に向かって集まってきて、そのまま崖の下に落ちていくんだ」
「確かにすごいですけど、なんで「色彩の滝」なんですか? あの花びらは全部白ですよ?」
「リンリー、花は白だけじゃないよ。ほら」
僕が指さすと、白のみだった花びらの滝に赤や青に他の色も混ざり始めて次々と色が変わっていく。一回だって一瞬だって同じ姿がない花びらの滝が崖の下に落ちていく。……でも、なんでだろ? 前に見た時より綺麗な気がする。覚えてる限り花びらの量も風の強さも前とそこまで違いはないと思う。違うって言えば……。
「本当に「色彩の滝」ですね。……綺麗です」
……そうだよね。誰かと共有する方が何倍も良くなる。それがいっしょにいたいって思える人とならなおさらだ。心の底からそう思う。僕が実感してると花びらが全部崖の下に降り積もった。
「そろそろ、この「色彩の滝」の一番の見所だよ」
「まだ花びらが落ちてくるんですか?」
「そういうわけじゃない」
僕はこれから起こる現象に備えて隣に座ったリンリーの背中に手を当てて、リンリーの身体を支えれるように準備する。僕の行動の意味が分からずリンリーがキョトンとしてたら、微かにヒューっていう音が聞こえてきて、その微かな音がヒューからヒュウにヒュウからビュウとどんどん強くなっていき、崖の上の方に見える植物が大きく揺れる。そして一際大きくゴウッと音がしたら崖の下に溜まった大量の花びらが強風とともに吹き散って舞い上がった。
「きゃあ!!」
リンリーが強風で後ろに倒れないように支えながら、崖の方から吹き飛んでくる花びらを遮るようにリンリーの前に立つ。そして少しして風が止むと僕がリンリーに見せたかった景色になった。
「リンリー、もう目を開けても大丈夫だよ」
「え? あ、はい。…………わぁ」
風が止み周りの音が無った空間に風で舞い上がった花びらが落ちてくる。でも「色彩の滝」と違いまとまって落ちるんじゃなく、いろんな色の花びらが雪のように一枚一枚静かにゆっくりと落ちてくる。
「「…………」」
時間を忘れて見ているとほとんどの花びらが地面に落ちて、まだ舞っているのは数枚だけだった。リンリーがその内の一枚を掌で受け止めると、花びらをギュって握り僕に笑いかけてきた。
「ヤート君」
「うん」
「私、ヤート君と見た今日の風景、一生忘れません。素敵なものを見せてくれてありがとうございます」
「僕も今日は前に見た時よりも綺麗だったから忘れない。リンリーと見れて良かったよ」
「さっきも言いましたけど、また誘ってくださいね」
「うん、リンリーとなら何度でも」
「約束ですよ」
「もちろん」
僕とリンリーは今日の記念に色と形の良い花びらを数枚ずつ選んで持って帰った。リンリーを家まで送ってから家に戻ると父さん達が今日のリンリーとの散歩がどうだったのか聞きたそうだったけど、今日の事は胸にしまっておきたいから良い散歩になったとだけ言って詳しくは話さなかった。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「あそこが目的地……なんですか?」
リンリーの声に戸惑いが混ざってる。まあ、二人で時間をかけて歩いてきて見えてきた風景が、どんな場所にも植物が生えている大神林の中では珍しい岩が剥き出しの崖なんだから当然と言えば当然かな。でも、ここが目的地で間違いない。微かに顔に崖の上から吹く風を感じるから、もう少しかな。リンリーに一番見せたい時に間に合って良かった。
「そうだよ。この崖に名前をつけるなら「色彩の滝」ってところかな」
「この崖がですか?」
目の前の崖を見上げて、さらに困惑しているリンリーの手を引いて崖が一望できるところに移動して、前に僕がここを見た時に座った腰掛けるのにちょうど良い岩を見つけて二人で並んで座った。
「前に散歩に来た時に、ここで座って休んでたら偶然見れたんだけど、すごく綺麗だったんだ」
「そうなんですね……」
「今はただの岩が剥き出しになってる崖だけど、もう少し待てば見れると思う」
「それじゃあ、楽しみにしてます」
「うん」
リンリーは座ると、キョロキョロ周りを見回して感心したように話しかけてくる。
「ヤート君はこんなところまで散歩に来てるんですね」
「一人で時間がある時は行った事ない場所に行くようにしてたら、いつの間にかこの崖まで来てた」
「私も含めて狩りに適した場所や薬草の群生地は詳しいですけど、この崖みたいな何もない場所は知らない人の方が多いと思います」
「みんなも散歩すれば良いのに」
「ヤート君」
「何?」
「私達がいるのは大神林なんです。黒の村があるのは比較的森の外に近い場所ですけど、それでも何が起こるかわからないので気軽に散歩なんてできませんよ」
「えっと、……ごめん」
リンリーが妙に迫力のある笑顔で言ってきたから思わず謝ってしまった。でも、そうか僕みたいに大神林の中を一人で行動する方が変なんだよね。
「うーん、まだまだ僕の感覚のズレは大きいな」
「いえ、今更と言えば今更なので、そこまで気にする事もないと思います。でも、散歩で大神林のいろんな場所が見ているヤート君が羨ましくもあります」
「僕で良ければ、また散歩に誘うよ。そうすればいろんな場所に行ける」
「……そうですね。私からも誘うので、いっしょにいろんな場所を見ましょう」
「うん、そうだね。……リンリー、来るよ。崖の上の方を見てて」
「え?」
リンリーと話してたらフッと空気が変わって崖の上から吹く風に流れに花の匂いが混ざった。そしてリンリーが崖の上を見ると、風に吹かれて飛ばされた小さくヒラヒラと動くものが一つ崖の下に落ちていく。でもそれだけで終わる事はなくて、時間が経つ毎に崖の下にヒラヒラと落ちていくものが増えていき、滝のようにまとまって崖の下へ落ちていく。
「あれは……花びら?」
「そう、あの崖の上に花の群生地があって、決まった時期に吹く風に飛ばされた花びらがこの崖の上に向かって集まってきて、そのまま崖の下に落ちていくんだ」
「確かにすごいですけど、なんで「色彩の滝」なんですか? あの花びらは全部白ですよ?」
「リンリー、花は白だけじゃないよ。ほら」
僕が指さすと、白のみだった花びらの滝に赤や青に他の色も混ざり始めて次々と色が変わっていく。一回だって一瞬だって同じ姿がない花びらの滝が崖の下に落ちていく。……でも、なんでだろ? 前に見た時より綺麗な気がする。覚えてる限り花びらの量も風の強さも前とそこまで違いはないと思う。違うって言えば……。
「本当に「色彩の滝」ですね。……綺麗です」
……そうだよね。誰かと共有する方が何倍も良くなる。それがいっしょにいたいって思える人とならなおさらだ。心の底からそう思う。僕が実感してると花びらが全部崖の下に降り積もった。
「そろそろ、この「色彩の滝」の一番の見所だよ」
「まだ花びらが落ちてくるんですか?」
「そういうわけじゃない」
僕はこれから起こる現象に備えて隣に座ったリンリーの背中に手を当てて、リンリーの身体を支えれるように準備する。僕の行動の意味が分からずリンリーがキョトンとしてたら、微かにヒューっていう音が聞こえてきて、その微かな音がヒューからヒュウにヒュウからビュウとどんどん強くなっていき、崖の上の方に見える植物が大きく揺れる。そして一際大きくゴウッと音がしたら崖の下に溜まった大量の花びらが強風とともに吹き散って舞い上がった。
「きゃあ!!」
リンリーが強風で後ろに倒れないように支えながら、崖の方から吹き飛んでくる花びらを遮るようにリンリーの前に立つ。そして少しして風が止むと僕がリンリーに見せたかった景色になった。
「リンリー、もう目を開けても大丈夫だよ」
「え? あ、はい。…………わぁ」
風が止み周りの音が無った空間に風で舞い上がった花びらが落ちてくる。でも「色彩の滝」と違いまとまって落ちるんじゃなく、いろんな色の花びらが雪のように一枚一枚静かにゆっくりと落ちてくる。
「「…………」」
時間を忘れて見ているとほとんどの花びらが地面に落ちて、まだ舞っているのは数枚だけだった。リンリーがその内の一枚を掌で受け止めると、花びらをギュって握り僕に笑いかけてきた。
「ヤート君」
「うん」
「私、ヤート君と見た今日の風景、一生忘れません。素敵なものを見せてくれてありがとうございます」
「僕も今日は前に見た時よりも綺麗だったから忘れない。リンリーと見れて良かったよ」
「さっきも言いましたけど、また誘ってくださいね」
「うん、リンリーとなら何度でも」
「約束ですよ」
「もちろん」
僕とリンリーは今日の記念に色と形の良い花びらを数枚ずつ選んで持って帰った。リンリーを家まで送ってから家に戻ると父さん達が今日のリンリーとの散歩がどうだったのか聞きたそうだったけど、今日の事は胸にしまっておきたいから良い散歩になったとだけ言って詳しくは話さなかった。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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