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第六話 「見えない」
しおりを挟む「春人、お前音楽部入ったんだってな。どうした?急に」
「お前に言われた通り、人との関わりを大事にしたくなったんだよ」
「ふうん」
6月に入り天気予報は毎日のように雨マークだ。僕と夏川は雨の中いつものように大学へ向かう。雨による足場の悪さとは比にならないくらい、もっと重大な問題が僕の足取りを重くしている。
「それにしちゃあ、あんまり浮かない顔だな。なんかあったか?」
「僕って、そんなに顔に出やすいか?」
「何年幼なじみやってると思ってんだよー」
こいつはいつも僕の心を的確に読んでくる。誤魔化しが一切通用しないのだ。全く食えない奴め。
「…見えないんだ」
「ほう、見えない。………お前、ついに目が悪くなったのか?眼鏡でも買えよ」
なんでそこは外すんだ。まあ、当たるほうが無理がある。常識的には考えられない現象が起こっているのだ。
「視力の問題じゃないよ…」
決めたはずだった。全部やり直すと。彼女の音楽と向き合って、正直な気持ちを伝えると。でもそれは叶わないかもしれない。
見えないものに向かって言葉を伝えることなど、できない。
「…僕には、夜ノ森冬花が見えないみたいなんだ」
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