殺伐蛮姫と戦下手なイケメン達

博元 裕央

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・第十九話「蛮姫暗黒街へ征かんとする事」

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「とりあえず威迫者マヒアス共から調ぶっど。威迫者マヒアス相手えてならどしこ荒っぽうしてん構わんじゃろ? お前達わいどんら女達めどもと一緒に宮堂に数日篭もっちょれ。これまで対峙れなかったもん、この機においが対峙すべきと見っど……」

 最初にアルキリーレはそう提案した。これまで警察力で片付けられなかった以上、己がやる、と。いや、正確に言えば。

「と、考えちょったんじゃがのう?」

 そう、この展開を最初から予想していた時から計画としては考えていた、と言う。それはつまりアルキリーレは実力で片っ端から威迫者マヒアス共をズタズタにして吐かせて手繰るつもりだったという事だが……先に浴場テルマエでのやりとりで、そういう荒っぽいやり方をカエストゥスが好まぬ事と、己もまたそういう在り方に興味を持ちつつある事を知った。だから敢えて、そう考えていたがどうする? と、改めて浴場テルマエの問答の続きめいて、先程より圧は緩やかだが重ねてアルキリーレは問うた。

 確かに威迫者マヒアス如きアルキリーレの敵ではあるまいと思わせる力を彼女は持っている。彼女を威迫しようと思っても脅迫に使える相手はこの場の一握りの人間に限られ、それを守り固めてしまえば好きに暴れられる。だが……

「……一応法律というものがこの国にはあってだな……」

 自力救済じゃくにくきょうしょくが横行する北摩ホクマと違い、文明帝国レーマリア法の支配を希求してはいる流石に現代地球の法ほど細かくはないが。最初の刺客撃退の件についても、あれはあくまでレーマリア法でぎりぎりの正当防衛・緊急避難の範囲として後からきちんと法的手続きをカエストゥスはしていたのだ。故にカエストゥスはその言葉に先の浴場テルマエでの問答の続きたるこの提案に、アルキリーレにもう少し穏当な道を選ばせたく思った。執政官コンスルには国法を尊ぶ責務があるし、単に遵法精神だけでなく、少しでもアルキリーレの荒ぶる心を安らげたいという思いも強くあった。

「さっきは譲ったし、つんと殺さん事も出来でくっが、殺さねば遅くなるど。遅くなれば手遅れが出かねんど。鉈ん峰を鎚ん代わいに使こ事は出来てん、仕事ばしにくかし本物ん鎚と違うて使過ぎれば鉈がよがん。獅子も生き餌えどで無う切り身肉で飼えばおなりもうす」

 それに対し、アルキリーレはカエストゥスにより現実的・実戦的な立ち位置から重ねて問い直す。あのときは過去の因果が届いた事で終わったが、それが無い時はどうするのだ、と。

 それに何より、己は戦士であり人殺しの刃であり獣の如きものだ、それは変わらない、その有用性を否定されるのも嫌だと言い募るアルキリーレ。

「……だがアルキリーレは鉈でも獅子でもない。人間の女だ」

 カエストゥスはその言葉に、先程は過去に助けられたが、今度は今の己が立ち向かうのだと、真っ向から対決する。血に飢えた者と己を定義するアルキリーレに対し、そうじゃない、他にもっと生き方もある筈だ、と引き留めようとする。

「それに、アルキリーレは言ったし、私は誓ったぞ。〈アルキリーレより後に突撃してはならない〉と……アルキリーレが一人で暴れるるのと、私達が一緒に知恵を出し合うのと、どちらが速いか、決まるのはこれからだ」

 そして同時にこれは怯懦でも恐怖でも無く勇気チェストだという事を示す。

 アルキリーレが、己一人を汚れ仕事担当だと決め込むのを許さない、共に進むと言ったではないかと。

 そのカエストゥスの真剣な、遊惰な貴公子ではない本気で女を案じ支えんとする男の表情に、アルキリーレははっと目を見開いた。

「……良か顔ばしちょる。ずっとそん顔の方が良か。難しかろうがな」

 じっとカエストゥスの顔を見た後、アルキリーレは笑った。珍しく、可憐なと言うべき笑みであった。カエストゥスがまた見とれる程に。

「……何より鉈や斧は人が振るうもの。神秘が獅子の力でも、そこに人の技が加わってこそ貴方は強い。人である事は大事なものです。獣の如き弱肉強食を忌み、人野文明に癒され、故に人を守る為に人を鍛えているのでしょう、アルキリーレ。それは私達の望みであり、きっと貴方の幸せの為にもなる、と思うのですが」

 更にペルロが言葉を挟んだ。アルキリーレとカエストゥスの先のやりとりを知る程の時間は無かった筈だが流石教帝と言うべきか。アルキリーレの心を読んだような一言。人の為の女性の為の比率が多いが宗教指導者である事を自らに律してきた男だからこそ言える、それは、人間性に立ち返る方が良いのではないか、そして何より、獣の如きやり方以外で勝つ事が、愛憎ある故郷ホクマに克つ事ではないだろうかという説諭であった。

「……流石に教帝さぁは頭の良かお人ばい。上手いこつば言う」

 克己チェストせよ。己の強さチェストが紛れも無く己が嫌う己の側面ホクマに由来していると理解した上で、その言葉を噛み締め。

「だったらさ。最初の刺客の時みたいに〈正当防衛〉〈緊急避難〉にすればいいんじゃない? 実際確かに今の警察じゃ黒幕まで辿り着くのにどれだけかかるか。いい手、思いついたよ。アルキリーレ姉ちゃんの言う、遅くならない手って奴」

 そこでレオルロが、年少の天才らしい奔放な手を放り込む。知恵者はペルロばかりではないぞ、と。アルキリーレの野生とレーマリアの文明を繋ぐ手を考える。

「それに折角執政官親衛隊プラエトリアニを鍛え始めたんだろ? ……練習中や護衛中の偶発的な事態、ってのも使えるんじゃないかな」

 執政官親衛隊プラエトリアニ教帝近衛隊ケレレス衛士警察の様な捜査権は無い。そうしなければ執政官コンスルや教帝が恣意的に人を逮捕する事が可能になるからと、過去の権力闘争等の結果定められた。

 だが逮捕権はある。執政官コンスルや教帝を守護する関係上、襲ってくる刺客や暴徒を捕まえる為だ。

 そいつを応用する事をレオルロは考えたらしかった。

 元より天才、常識を打ち破る破天荒の側、そういう意味レオルロはややアルキリーレの方に誓いとも言え、上手くバランスを取ろうとした。

「具体的に言うとね……ぼそぼそ」
「……強引だが、まあ、ギリギリすれすれ今のレーマリアにおける合法の範疇か」
「そしてまあ、宗教倫理的にも悪を討つに限れば悪ならずと保証しましょう」

 男女四人、顔を寄せ合って話し合う。実際執政官コンスル暗殺未遂が早々に対応出来ないのは拙いし、対東吼トルクを考えれば急いで解決が必要で。

「……良か。レオルロ、良き案じゃ」

 レオルロの提案を、アルキリーレもそれで良しとした。
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