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・第二十九話「蛮姫剣闘士軍団相手に大立ち回りの事(後編)」
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石壁と兵士の盾、椅子のバリケードで構築した即席の城塞。
その唯一の入り口の前でアルキリーレはスカートの下に仕込んでいた鉈と斧を抜くと、ぐるりと刺客として迫る剣闘士共に向き直った。
「〈殺し間〉へよう来たのう。さあ、戦すっど!」
正に洞窟から姿を現した北摩獅子の如く、アルキリーレは敵対者にとって余りに不吉な言葉と危険で獰猛な笑みを浮かべた。
……わあわあと背景で戦のざわめき。威迫者共や闘技場にこっそり配置出来た分だけのボルゾ家地方軍団と、即席城壁や貴賓室の防壁越しに執政官親衛隊と教帝近衛隊が戦っているのだ。散々しごいてやった上に装備は本来上質だ、流石に威迫者相手ならそうそう負けはしない……本来地球で言えば防弾装備とアサルトライフルや機関銃で武装した兵隊が拳銃や短機関銃で武装したマフィア相手に勝てるかという話なので勝てない方がおかしいのだが。またボルゾ家地方軍団相手でも、防御陣地の有利を思えば……少なくともある程度は持つ筈と思いたい。少なくとも油断は出来ないが少しは期待はしたい。ともあれ。
「行け!突破しろ!」
遠方からのチェレンティの号令。他が膠着からじりじりと押す程度となる以上、此処を突破しなければ状況が動かせない。更に。
ヒューッ!ヒューッ!
カエストゥスとその女達が、小さな仕掛け弩を空に向けて撃った。太矢に鏑矢が仕込まれていて高く鳴り響く。明らかに闘技場の外への合図。
状況を伝え、執政官親衛隊と教帝近衛隊の本隊を呼び寄せんとしている。即ち、状況を動かさなければならない。剣闘士達がアルキリーレを倒さねばならないのだ。
「行くぞ!」
「うぉおおおおっ!!」
兵士と同様の装備をしたレーマリア闘士と、曲刀と短刀で武装した東吼闘士が一番に突撃し。
「チェストォッ!!」
「「ぎゃああっ!?」」
忽ちアルキリーレに斬られた。鉈と斧が一閃し、左右同時に剣と曲刀が砕け散る……いや違う、そこまで事は単純では無い。彼等は紛れもなく一等剣闘士であった。レーマリア闘士は盾と剣の構えに熟達し以前アルキリーレが戦った執政官親衛隊の歩兵と違い、盾を弾かれようが割られようが剣で返礼する構えを取り、東吼闘士は双刀を狡猾な軌道で交差するように振り抜き、交差により敵の攻撃を防ぎつつ腕を斬るか、どちらかが弾かれるか砕かれても残りの一刀で攻撃出来るように計算された巧緻の軌道であった。
だが無駄だった。東吼闘士の双刀は問答無用とばかりにアルキリーレの斧で諸共に一撃で腕毎砕かれ、更に斧の縁を引っ掛けアルキリーレは東吼闘士の体をレーマリア闘士の体にぶつけた。
流石にこれを盾で受けない訳にはいかず、盾と東吼闘士の体で塞がれる視界。それでも尚一瞬前アルキリーレがいた場所に剣を繰り出したのは流石であったが、その時アルキリーレは大胆に身を捻っていて。その捻りの力を乗せた鉈の斬撃にレーマリア闘士も倒された。アルキリーレの動きが余りにも速く苛烈に最短距離だった為に、傍から見ると一瞬左右の一太刀で二人が倒されたかのように見えたのだ。
「うおっ……!?」
「ぐわっ!?」
そして倒れる二人の剣闘士が邪魔になり、続いて踏み込もうとしていた細剣を装備した剣闘士はその素早い動きを発揮できぬまま、切っ先を持つアルキリーレの鉈に逆に刺された。同じく防御を掻い潜る変幻の剣捌きで鎌剣を振るおうとする南黒闘士も長い手足の間合いに容赦なく踏み込まれ斧の一撃で叩き伏せられた。
「……!?」
ここで普段から一対一の戦いに慣れすぎて戦場全体の状況というものを深く考えていなかった剣闘士達は気づかされる。即席城塞の入り口に立つアルキリーレの左右には椅子を投げて作ったバリケード。即ち一度に掛かっていける数に制限が生じる。
これがアルキリーレの言う〈殺し間〉であった。本来は〈敵を殲滅するのに適した地形〉という意味だが、北摩の城はレーマリアの城より粗末で、兵糧も乏しい。故に、徹底的に進入を拒むのではなく寧ろ隘路や門で効率的に殲滅する事を防御策として好み、そういう〈人工の殺し間〉を作る。即席の城塞は、正にその血を欲するが如き北摩式の築城理論に則って組まれていた。
「い、いけん! 多勢でん攻められんでごわっそ!」
知識ある北摩出身の闘士が警告の叫びを上げるが程遅かった。その間にも共に挑みかからんとした闘士達が更に数人叩き斬られ更に。
「おのれっ!これならどうだっ……うおっ!? ぐあああっ!」
鎧兜に身を固め大槍を繰り出す東吼重装闘士だが、その槍は獣の巣穴に枝でも突っ込んだようにあっという間に食い千切るが如く砕かれた。長柄をへし折られ突撃の勢いと重い鎧が災いして蹈鞴を踏んで前につんのめる重装闘士の兜にアルキリーレは斧を一打ち。割れた兜と共に血の糸を引いて階段を転げ落ちる重装闘士。
「うおおおお陵墓築きの労役好んで務め十年! 命魂教の奇跡加護あり気づけば生きていればどんな傷も治る無双の肉体! 苦しめなくなって分かる、俺は苦しむのが好きだ! 俺を苦しめてみろぉお!!」
正に石段めいて割れた筋肉が割れた一際筋骨隆々たる頑健な半裸体をそう叫んで突撃させ採石用大鎚を振りかざす巨躯南黒闘士。その大槌の威力は流石にアルキリーレの斧に勝り、その奇跡により高い回復能力を得た巨躯は少々の攻撃では致命傷まですら届かず即死で無ければ死にはせぬかという程だったが。
「隙だらけじゃ馬鹿がぁっ!」
「あふんっ!」
アルキリーレとしては斧も鉈も使うつもりは無かった。斧を使えば大槌の頭ではなく木製の柄を吹っ飛ばし、鉈を使っても十分頸動脈を断ち臓腑をぶちまけ一撃で致命傷を与える事すら出来たが、その値打ちも無いとばかりに股間に無慈悲な蹴りを一撃。死なぬ限りどんな傷でも治る肉体だろうが、少々の痛みは寧ろ喜びとなる気質だろうが、動けなくなる程の痛みは悶絶するより他無し。そこを更に蹴って蹴り倒す。
「らぁああああっ!」
「しゃあっ!」
尚も攻撃は続く。投槍を持った大豹皮纏う西馳闘士と、投剣を持った蝙蝠を装った西馳闘士が、ぎらぎらと輝くその黒曜石刃の武器を投じてきたのだ! 投槍は凄まじい威力、投剣は同時に複数!
「ふんっ!」
「ええい……!!」
その為に両手の武器を空けて置いたアルキリーレ、飛来する投槍投剣を忽ち叩き落とす。投槍の威力を獅子の膂力は平然と弾き、複数の投剣をアルキリーレの技量は軽々と鉈を翻し弾きかわし反らす! その様子に残る闘士達の内飛び道具を持つ者達は歯噛みした。即席城塞のせいで射線が通らず同時に攻撃出来たは二人が限界! 巧妙なアルキリーレの足捌き!
「何の、俺達が仕留めてみせる! 生道の精霊、勝負後の報酬の一割を捧げ奉る!」
大豹投槍戦士が俺達で十分と啖呵を切り詠唱を叫んだ。西馳の宗教、生道の神秘だ。大きくて複数携帯出来ない投槍が、後で金銭を捧げると誓う事で即座に補充される。蝙蝠投剣戦士の投剣も同じだ。
「遅せかっ!!」
しかしどちらも投げる所までも、ましてその後の木剣や鉤爪を使うまでいく所までも行けなかった。アルキリーレが叫びと共に両手に持った鉈と斧を決断的に投じたのだ。的中粉砕、両者共に奇跡行使の一瞬の隙を突かれ倒れる。
「今ですっ!」
「ひょおおおおっ!!」
だがアルキリーレが武器を手放した。その隙に剣闘士達は全力で呼応する。西馳人貴族闘士が投縄を投じ、南黒人神聖族長闘士が叫びと共に錫杖を振るうと体に投げ縄のように長い毒蛇となって殺到する。
「チェス……」
「チェストォオオッ!!」
同時、投縄と毒蛇と北摩闘士が吹っ飛んだ。
速い。あまりに速い。描写する暇も無い程の早業。であるが故に結果を描写してから過程を描写し直すのをお許し頂きたい!
即ち、殺到する投縄と杖の毒蛇を追い抜く光あり。それはレオルロが作ったアルキリーレの手甲腕輪に仕込まれた細く頑丈な鎖だ。斧と鉈を手甲腕輪に繋いでいるのだ。鎖の射程範囲内で投擲する事も出来れば、アルキリーレが鎖を引っ張る事で投擲した武器を取り戻す事も出来る。引くのはあくまでアルキリーレの腕力だが、獅子の神秘による強大な力に耐える強度がある。それによりアルキリーレの手中に戻った斧と鉈が追い越した投縄と毒蛇を切り払い、そしてその隙に攻撃せんとしていた北摩闘士が、突撃してくるのを突撃し間合いに入った後、相手が切り下ろすまでの一瞬で逆に叩き斬ったのだ!
「女々かっ!!」
女である己が女々しいという矛盾を無論アルキリーレは知っている。唯それが男尊女卑で男女差別的な北摩男にとって最大の屈辱である事も知っている。だからこそ小賢しく隙を狙った北摩闘士に最大の侮辱としてその言葉を叩き付けた。直後。
「私は此処に! 狩りに来たのです! 狩るのは私! 狩られ、なさぁいっ!!」
ヒュパウン!
破裂音と共に鞭を走らせ、金の為に来たのではない、猛獣も戦士も倒し飽きる程の腕前を得たから此処に来たのだ負けてたまるかと叫びながら、片手に鞭片手に短剣で襲いかかる西馳人貴族闘士!
「ひゃおおお!命魂教の修行を成し遂げ奇跡にて長寿を得た直後に長寿を得て添い遂げんとした嫁に裏切られたワシに最早恐れも惜しむ命も無し! 命を捨てて怒りを振るうこのワシを殺せる者はおるか~っ!」
奇声を挙げながら奇跡にて全身の包帯を毒蛇に変化させ抱きすくめることでアルキリーレの全身を毒蛇に噛ませんと飛びかかる南黒人神聖族長闘士!
「せからしか! 闘士共無駄話長か!」
「のおおおおおおおおおおっ!?」
「うぎゃあ男との抱擁は嫌じゃあああ~っ!?」
その嗜虐と八つ当たりの下らぬ長広舌をアルキリーレは一喝粉砕!
西馳人貴族闘士の鞭を鎖で武器と腕が繋がっているのをいい事に再度武器を手放した手で掴んで止めると、そのまま鞭を引っ張って相手の体自体を鎖分銅めいてぶん回して南黒人神聖族長闘士の体にぶち当て、諸共ぶっ飛ばすっ!
揃って吹っ飛ばされた男二人に押しつぶされ、更に別の剣闘士がダウン! 獅子が犬の群れを蹴散らかすが如き、圧倒的な蹂躙であった!
「おおおおおおおおっ!!!!」
「「「ひいいっ……!!」」」
アルキリーレが咆吼!闘技場が震える! 怯む! 一級剣闘士達ですら怯む!
「……おお、遅うごわしたな」
……咆吼を終えて、アルキリーレは猛々しく笑った。
「……準備運動は終わったみてえだな」
その笑みを正面から見据え、チェレンティを安全圏内に誘導し終えたアントニクスが、再びの跳躍でひらりとその前に舞い降りた。ここまでの戦いを筆頭剣闘士たる己と比べれば準備運動と豪語しながら。
最強同士の戦いが始まる。
その唯一の入り口の前でアルキリーレはスカートの下に仕込んでいた鉈と斧を抜くと、ぐるりと刺客として迫る剣闘士共に向き直った。
「〈殺し間〉へよう来たのう。さあ、戦すっど!」
正に洞窟から姿を現した北摩獅子の如く、アルキリーレは敵対者にとって余りに不吉な言葉と危険で獰猛な笑みを浮かべた。
……わあわあと背景で戦のざわめき。威迫者共や闘技場にこっそり配置出来た分だけのボルゾ家地方軍団と、即席城壁や貴賓室の防壁越しに執政官親衛隊と教帝近衛隊が戦っているのだ。散々しごいてやった上に装備は本来上質だ、流石に威迫者相手ならそうそう負けはしない……本来地球で言えば防弾装備とアサルトライフルや機関銃で武装した兵隊が拳銃や短機関銃で武装したマフィア相手に勝てるかという話なので勝てない方がおかしいのだが。またボルゾ家地方軍団相手でも、防御陣地の有利を思えば……少なくともある程度は持つ筈と思いたい。少なくとも油断は出来ないが少しは期待はしたい。ともあれ。
「行け!突破しろ!」
遠方からのチェレンティの号令。他が膠着からじりじりと押す程度となる以上、此処を突破しなければ状況が動かせない。更に。
ヒューッ!ヒューッ!
カエストゥスとその女達が、小さな仕掛け弩を空に向けて撃った。太矢に鏑矢が仕込まれていて高く鳴り響く。明らかに闘技場の外への合図。
状況を伝え、執政官親衛隊と教帝近衛隊の本隊を呼び寄せんとしている。即ち、状況を動かさなければならない。剣闘士達がアルキリーレを倒さねばならないのだ。
「行くぞ!」
「うぉおおおおっ!!」
兵士と同様の装備をしたレーマリア闘士と、曲刀と短刀で武装した東吼闘士が一番に突撃し。
「チェストォッ!!」
「「ぎゃああっ!?」」
忽ちアルキリーレに斬られた。鉈と斧が一閃し、左右同時に剣と曲刀が砕け散る……いや違う、そこまで事は単純では無い。彼等は紛れもなく一等剣闘士であった。レーマリア闘士は盾と剣の構えに熟達し以前アルキリーレが戦った執政官親衛隊の歩兵と違い、盾を弾かれようが割られようが剣で返礼する構えを取り、東吼闘士は双刀を狡猾な軌道で交差するように振り抜き、交差により敵の攻撃を防ぎつつ腕を斬るか、どちらかが弾かれるか砕かれても残りの一刀で攻撃出来るように計算された巧緻の軌道であった。
だが無駄だった。東吼闘士の双刀は問答無用とばかりにアルキリーレの斧で諸共に一撃で腕毎砕かれ、更に斧の縁を引っ掛けアルキリーレは東吼闘士の体をレーマリア闘士の体にぶつけた。
流石にこれを盾で受けない訳にはいかず、盾と東吼闘士の体で塞がれる視界。それでも尚一瞬前アルキリーレがいた場所に剣を繰り出したのは流石であったが、その時アルキリーレは大胆に身を捻っていて。その捻りの力を乗せた鉈の斬撃にレーマリア闘士も倒された。アルキリーレの動きが余りにも速く苛烈に最短距離だった為に、傍から見ると一瞬左右の一太刀で二人が倒されたかのように見えたのだ。
「うおっ……!?」
「ぐわっ!?」
そして倒れる二人の剣闘士が邪魔になり、続いて踏み込もうとしていた細剣を装備した剣闘士はその素早い動きを発揮できぬまま、切っ先を持つアルキリーレの鉈に逆に刺された。同じく防御を掻い潜る変幻の剣捌きで鎌剣を振るおうとする南黒闘士も長い手足の間合いに容赦なく踏み込まれ斧の一撃で叩き伏せられた。
「……!?」
ここで普段から一対一の戦いに慣れすぎて戦場全体の状況というものを深く考えていなかった剣闘士達は気づかされる。即席城塞の入り口に立つアルキリーレの左右には椅子を投げて作ったバリケード。即ち一度に掛かっていける数に制限が生じる。
これがアルキリーレの言う〈殺し間〉であった。本来は〈敵を殲滅するのに適した地形〉という意味だが、北摩の城はレーマリアの城より粗末で、兵糧も乏しい。故に、徹底的に進入を拒むのではなく寧ろ隘路や門で効率的に殲滅する事を防御策として好み、そういう〈人工の殺し間〉を作る。即席の城塞は、正にその血を欲するが如き北摩式の築城理論に則って組まれていた。
「い、いけん! 多勢でん攻められんでごわっそ!」
知識ある北摩出身の闘士が警告の叫びを上げるが程遅かった。その間にも共に挑みかからんとした闘士達が更に数人叩き斬られ更に。
「おのれっ!これならどうだっ……うおっ!? ぐあああっ!」
鎧兜に身を固め大槍を繰り出す東吼重装闘士だが、その槍は獣の巣穴に枝でも突っ込んだようにあっという間に食い千切るが如く砕かれた。長柄をへし折られ突撃の勢いと重い鎧が災いして蹈鞴を踏んで前につんのめる重装闘士の兜にアルキリーレは斧を一打ち。割れた兜と共に血の糸を引いて階段を転げ落ちる重装闘士。
「うおおおお陵墓築きの労役好んで務め十年! 命魂教の奇跡加護あり気づけば生きていればどんな傷も治る無双の肉体! 苦しめなくなって分かる、俺は苦しむのが好きだ! 俺を苦しめてみろぉお!!」
正に石段めいて割れた筋肉が割れた一際筋骨隆々たる頑健な半裸体をそう叫んで突撃させ採石用大鎚を振りかざす巨躯南黒闘士。その大槌の威力は流石にアルキリーレの斧に勝り、その奇跡により高い回復能力を得た巨躯は少々の攻撃では致命傷まですら届かず即死で無ければ死にはせぬかという程だったが。
「隙だらけじゃ馬鹿がぁっ!」
「あふんっ!」
アルキリーレとしては斧も鉈も使うつもりは無かった。斧を使えば大槌の頭ではなく木製の柄を吹っ飛ばし、鉈を使っても十分頸動脈を断ち臓腑をぶちまけ一撃で致命傷を与える事すら出来たが、その値打ちも無いとばかりに股間に無慈悲な蹴りを一撃。死なぬ限りどんな傷でも治る肉体だろうが、少々の痛みは寧ろ喜びとなる気質だろうが、動けなくなる程の痛みは悶絶するより他無し。そこを更に蹴って蹴り倒す。
「らぁああああっ!」
「しゃあっ!」
尚も攻撃は続く。投槍を持った大豹皮纏う西馳闘士と、投剣を持った蝙蝠を装った西馳闘士が、ぎらぎらと輝くその黒曜石刃の武器を投じてきたのだ! 投槍は凄まじい威力、投剣は同時に複数!
「ふんっ!」
「ええい……!!」
その為に両手の武器を空けて置いたアルキリーレ、飛来する投槍投剣を忽ち叩き落とす。投槍の威力を獅子の膂力は平然と弾き、複数の投剣をアルキリーレの技量は軽々と鉈を翻し弾きかわし反らす! その様子に残る闘士達の内飛び道具を持つ者達は歯噛みした。即席城塞のせいで射線が通らず同時に攻撃出来たは二人が限界! 巧妙なアルキリーレの足捌き!
「何の、俺達が仕留めてみせる! 生道の精霊、勝負後の報酬の一割を捧げ奉る!」
大豹投槍戦士が俺達で十分と啖呵を切り詠唱を叫んだ。西馳の宗教、生道の神秘だ。大きくて複数携帯出来ない投槍が、後で金銭を捧げると誓う事で即座に補充される。蝙蝠投剣戦士の投剣も同じだ。
「遅せかっ!!」
しかしどちらも投げる所までも、ましてその後の木剣や鉤爪を使うまでいく所までも行けなかった。アルキリーレが叫びと共に両手に持った鉈と斧を決断的に投じたのだ。的中粉砕、両者共に奇跡行使の一瞬の隙を突かれ倒れる。
「今ですっ!」
「ひょおおおおっ!!」
だがアルキリーレが武器を手放した。その隙に剣闘士達は全力で呼応する。西馳人貴族闘士が投縄を投じ、南黒人神聖族長闘士が叫びと共に錫杖を振るうと体に投げ縄のように長い毒蛇となって殺到する。
「チェス……」
「チェストォオオッ!!」
同時、投縄と毒蛇と北摩闘士が吹っ飛んだ。
速い。あまりに速い。描写する暇も無い程の早業。であるが故に結果を描写してから過程を描写し直すのをお許し頂きたい!
即ち、殺到する投縄と杖の毒蛇を追い抜く光あり。それはレオルロが作ったアルキリーレの手甲腕輪に仕込まれた細く頑丈な鎖だ。斧と鉈を手甲腕輪に繋いでいるのだ。鎖の射程範囲内で投擲する事も出来れば、アルキリーレが鎖を引っ張る事で投擲した武器を取り戻す事も出来る。引くのはあくまでアルキリーレの腕力だが、獅子の神秘による強大な力に耐える強度がある。それによりアルキリーレの手中に戻った斧と鉈が追い越した投縄と毒蛇を切り払い、そしてその隙に攻撃せんとしていた北摩闘士が、突撃してくるのを突撃し間合いに入った後、相手が切り下ろすまでの一瞬で逆に叩き斬ったのだ!
「女々かっ!!」
女である己が女々しいという矛盾を無論アルキリーレは知っている。唯それが男尊女卑で男女差別的な北摩男にとって最大の屈辱である事も知っている。だからこそ小賢しく隙を狙った北摩闘士に最大の侮辱としてその言葉を叩き付けた。直後。
「私は此処に! 狩りに来たのです! 狩るのは私! 狩られ、なさぁいっ!!」
ヒュパウン!
破裂音と共に鞭を走らせ、金の為に来たのではない、猛獣も戦士も倒し飽きる程の腕前を得たから此処に来たのだ負けてたまるかと叫びながら、片手に鞭片手に短剣で襲いかかる西馳人貴族闘士!
「ひゃおおお!命魂教の修行を成し遂げ奇跡にて長寿を得た直後に長寿を得て添い遂げんとした嫁に裏切られたワシに最早恐れも惜しむ命も無し! 命を捨てて怒りを振るうこのワシを殺せる者はおるか~っ!」
奇声を挙げながら奇跡にて全身の包帯を毒蛇に変化させ抱きすくめることでアルキリーレの全身を毒蛇に噛ませんと飛びかかる南黒人神聖族長闘士!
「せからしか! 闘士共無駄話長か!」
「のおおおおおおおおおおっ!?」
「うぎゃあ男との抱擁は嫌じゃあああ~っ!?」
その嗜虐と八つ当たりの下らぬ長広舌をアルキリーレは一喝粉砕!
西馳人貴族闘士の鞭を鎖で武器と腕が繋がっているのをいい事に再度武器を手放した手で掴んで止めると、そのまま鞭を引っ張って相手の体自体を鎖分銅めいてぶん回して南黒人神聖族長闘士の体にぶち当て、諸共ぶっ飛ばすっ!
揃って吹っ飛ばされた男二人に押しつぶされ、更に別の剣闘士がダウン! 獅子が犬の群れを蹴散らかすが如き、圧倒的な蹂躙であった!
「おおおおおおおおっ!!!!」
「「「ひいいっ……!!」」」
アルキリーレが咆吼!闘技場が震える! 怯む! 一級剣闘士達ですら怯む!
「……おお、遅うごわしたな」
……咆吼を終えて、アルキリーレは猛々しく笑った。
「……準備運動は終わったみてえだな」
その笑みを正面から見据え、チェレンティを安全圏内に誘導し終えたアントニクスが、再びの跳躍でひらりとその前に舞い降りた。ここまでの戦いを筆頭剣闘士たる己と比べれば準備運動と豪語しながら。
最強同士の戦いが始まる。
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