殺伐蛮姫と戦下手なイケメン達

博元 裕央

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・第四十三話「彼我兵力の事」

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 戦争が始まり海戦は想定通りの膠着に持ち込んだ。だがここからの陸戦が本番だ。

 東吼トルク陸軍は筆頭将軍ガルジュンが率いる第一軍、陸軍長官アミールズイミシュトが率いる第二軍、軍大臣パシャアドミリハが率いる第三軍、皇帝スルタンメールジュク一世が率いる本軍の四隊に分かれて、第一軍、第二軍、第三軍が前方に出て、その後方に本軍が位置する状態で進んできていた。

 ちなみに諸ベイ将軍達は各軍において部隊を率いて居り、僧侶バラーム将軍シディナン師は第一軍、皇子将軍マイスィルは第三軍、少年皇子将校セフトメリムと宗教大臣パシャジャヴィーティア師は本軍に所属している。

 この軍編成には様々な理由がある。戦力は集中してこそ強くなるがだからと言って全軍が1個になって進んでは制圧範囲が広まらぬし、こちらから相手を包囲する事も出来ない。何より最大の問題が、補給だ。

 レーマリアの軍は弱いが、この時代の〈あまねく全てスピオル〉の軍隊として極めて優れている要素が一つある。補給を完全に補給部隊だけでこなせる事だ。

 東吼トルク軍はかつて遊牧民であった頃は小規模の軽装騎兵隊のみの軍隊を同行させる家畜の乳と肉でほぼ補給を賄うという事も出来たが、巨大帝国を作り軽装騎兵だけではない重装備の軍隊を整えた結果、本国からの補給だけではなく現地調達も必要となった。現地調達とは購入も含むが必要となれば略奪も行う。……つまり全軍を一か所に集めてしまうと、その地方から現地調達出来る物資で軍隊を維持できなくなってしまうのだ。

 更に言えばこの編成でも尚〈戦力を分散させ過ぎている〉と言えない程に、各軍に存在する将軍達の数を見れば分かるように東吼トルク軍の規模が大きいのだ。

 レーマリア軍は一個軍団が六千人で、六百人が所属する大隊コホルス十隊で構成されている。また大隊コホルスは三個中隊マニプルス、中隊は二個百人隊ケントゥリオで構成されてる。

 そしてこの状況でレーマリアが野戦に投入できる軍事力は、首都の第一国家軍団レギオー北摩ホクマ国境から引き抜いた第二国家軍団レギオー、当主不在で国家預かりとなりまた領土も対東吼トルク戦線から遠いので引き抜かれたシルビ家地方軍団アウクシリア、ボルゾ家地方軍団アウクシリア、それぞれ一個大隊コホルスに相当する規模の教帝親衛隊ケレレス執政官親衛隊プラエトリアニ、アントニクスが率いる首都以外の闘技場コロセウムからもかき集めた剣闘士グラディアトル部隊が一個中隊マニプルス、前回の戦争で東吼トルク軍と戦って敗走し少数の戦死者と大量の脱走者を出して兵力が半減し再建中の第三国家軍団レギオー、合計してざっと二万八千四百人程。しかもうち三千の第三国家軍団レギオーは早期投入には問題がある。

 西馳ザイン南黒ナンゴク国境を固める為第四・第五国家軍団レギオーは動かせず、これ以外の地方軍団アウクシリアもそれぞれの領地を守る為に動かない為だ。

 これに対して東吼トルク軍は遊牧生活から定着農業に移行しての人口の大幅増、高地東吼トルク等の奥地まで完全支配した事による支配地増、西東吼トルクの奪還、レーマリア占領地からの強制徴兵、東南黒ナンゴク占領地からの強制徴兵により大きく膨れ上がり、第一~第三軍がそれぞれ二万一千、本軍は更に多い二万八千。合計何と九万一千。

 更にアルキリーレとしては味方の戦力を三種類に分類していた。相手と互角以上に有利に戦える精鋭、鍛え上げる事に成功した何とか互角に戦える主力、戦場に行く事は可能だが相手と互角に戦うとは到底言えない弱兵だ。

 精鋭は長時間練兵した教帝親衛隊ケレレス執政官親衛隊プラエトリアニ、元から強い剣闘士グラディアトル部隊。

 主力は長時間練兵出来た第一国家軍団レギオーと、チェレンティが元から熱心に訓練していたボルゾ家地方軍団アウクシリア

 弱兵は練兵期間が足りなかった第二国家軍団レギオーと元々まともに訓練していなかったせいもあってそれより練兵期間を長くとれたにも関わらず質が追いつかなかった、シルビ家地方軍団アウクシリア、再建途上の第三国家軍団レギオー。弱兵が一番多い。

 つまりアルキリーレは質でも数でも圧倒的に劣る戦力で、複数回勝たねばならないという事である。


「構うか!」

 だがそれでも、アルキリーレはそう叫び戦うのだ。

勝算かちめは、無いわけではない)

 逆に言えば、必勝の自信はアルキリーレと言えど無い。だがそれでも。

(皮肉なものだな、異国の空の下で……かつてない程に私はの戦意は燃えている)

 勝とうと言う思いは、嘗てよりも強かった。

 無論かつても、戦乱に翻弄される哀れな民を思って戦っていた。だが、誰にも助けて貰えず、裏切られ、その思いは失われた。

 だが今再びの戦いは、己を労り癒してくれた、気のいい連中を守る為だ。

 その心は再び燃えていた。これが、アルキリーレの愛であった。
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