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第12章 執事の恋人
誘惑
しおりを挟む『──なんだって~』
「そうなんですか? ルイさんて、とっても物知りなんですね!」
その後、3人がけのソファーにゆったりと腰掛けた結月とルイは、目の前のテーブルに置かれた紅茶とケーキを食べながら、雑談を繰り返していた。
猫の話やら、音楽の話やら、始めは上手く話せるだろうかと懸念していたが、ルイが話し上手だからか、巧みに会話をリードしていて、レオが助け舟を出す必要もなかった。
(……思ったより、会話が弾んでるな)
あれから部屋に入って、30分。
ルイが、男とバレるような危機的状況には一切ならず、レオは楽しそうに話をする目の前の美女二人(一人は男)を見つめながら、その傍らで二杯目の紅茶を注ぎ、それを結月の前に差し出した。
「ありがとう、五十嵐」
そう言って、結月が紅茶を受け取り、にっこりと微笑むと、レオは軽く頭を下げ、また一歩後ずさる。
全く男と疑うことなくルイと話をする結月を見て、レオは安心と同時に、複雑な感情を抱いていた。
この前『好き』と言ってくれた。
だけど、あの好きは、やはり『家族』に対する好きだったのだと、否応にも思い知らされた。
もし、自分のことを、少しでも男として意識しているなら、その恋人に嫉妬の一つでもしそうなものなのに、それどころか、このままではルイと友達になってしまいそうだ。
(俺が愛しているのは、結月だけなのに……)
そう、間違っても、目の前の女装男ではない。だが、結月はこの状況に、なんの違和感も抱かず、自分の恋人がルイだと信じきっている。
(……はぁ)
心の中だけで、深く深く吐息を漏らせば、次第に焦りや苛立ちが募っていく。
この屋敷に来て、もう半年が過ぎた。
それなのに、結月は未だに自分の事を、思いだしてはくれないから……
『レオ! もう、出ていっていいよ!』
「──は?」
だが、その瞬間、ルイに声をかけられ、レオは思わず素で返してしまった。
男のままでも、元から柔らかめのルイの声。だが、今日はその声が数段柔らかく女らしい声になっていた。
とはいえ、どんなに見た目や声が女でも、中身は男。その言葉に、納得なんてできるはずがなく……
「いや、俺は……」
『だってレオ、今、屋敷の仕事ほとんど受け持ってるんでしょ? 結月ちゃんに、お茶を淹れる時は私が代わりにするから、レオは他のお仕事してきていいよ♡』
あたかも、恋人を気遣っているような愛らしい仕草。だが、何を企んでいるのか、いきなり追い出しにかかるルイを見て、レオはあからさまに眉を顰めた。
別に友人を疑っているわけでないが、自分が、この場から出ていくということは、結月が"男"と二人っきりになるという事で……
「バカ言うな。俺は執事だ。お嬢様の側を離れる訳には」
『そんな固いこと言わないで。女だけでゆっくり語らいたいの』
(お前、男だろ……!)
思わず声に出しそうなくらい、心の中で思いっきり突っ込んだ!
だが、時すでに遅し!
その会話を聞いた結月もまた、ルイの提案にのってきた。
「五十嵐、私なら大丈夫よ。ごめんね、忙しいのに、いつも付き合わせて」
「……っ」
主人から直々にそう言われると、立場的にも弱いのが執事という役職だ。だが、それでもレオは、結月のその言葉に間髪入れず反論する。
「いえ、忙しくはありません。ですから、私もこの場にいさせてください」
たとえ相手がルイでも、男と二人っきりにはしたくない! だが、そんなレオの思いとは裏腹に、結月は
「そう、そんなに、ルイさんと一緒にいたいのね?」
『やだー、レオってば、久しぶりに会えたからって~♡』
(こいつ、あとで覚えてろよ……!)
隣に座る女が男だと微塵も疑っていない結月と、その結月の発言に、内心、爆笑しているであろうルイに、レオの苛立ちは、さらに高まるが
『レオ、(結月ちゃんに手出したりしないから)心配しないで。私達なら大丈夫だから、安心して出て行ってね』
( )の部分を、強めにルイが目で訴えかければ、レオはその後しばらく悩む。
だが、その後、再度「絶対、変なことするなよ」とルイに目だけで念押しすると、レオは結月に一礼して、しぶしぶ部屋から出ていった。
ルイは、そんなレオにニッコリと笑って手を振り返すと、レオが去ったのを確認し、再び結月に声をかける。
『……ねぇ、レオって四六時中、結月ちゃんの側にいるの? 窮屈じゃない?』
「いえ、窮屈に感じたことは……むしろ、傍にいるのが当たり前というか」
『そう……』
飲みかけの紅茶を手に取ると、ルイはひとつ息をつく。
(僕は、身が持たないなー……)
ずっと、レオに監視されながらの会話。
正直、息が詰まった。
「あの……ルイさんて、私と同い年なんですよね?」
『え?』
すると、今度は結月が問いかけてきて、ルイは動きを止めた。
今のルイの年齢は、22歳。
正確には、結月の4つ年上なのだが……
(そういえば……今は、18歳の設定だっけ?)
それを思い出すと
『うん、18だよ。それがどうかした?』
「いえ、ルイさん、私と違ってすごく大人っぽくて……それに、話も上手だし、物知りだし。オマケに気配りもできて、こんなに綺麗だなんて、本当に女性の中に女性って感じで」
(女性の中の、女性……)
上手く化けているとはいえ、気持ち的に男だからか、その言葉は、ちょっと複雑だった。
『そんなことないよ。結月ちゃんの方が、ずっとずっと可愛いし、まさに大和撫子って感じで、とっても魅力的だよ♪』
「まぁ、ルイさんて、お世辞も上手なんですね。それに、日本語もとってもお上手!」
『日本語は、レオに教わったんだー』
「そうなんですか」
『うん。私、子供の時に一度だけ日本を訪れたことがあって、その時、すごく日本に惹かれてね。だから、8年前にフランスでレオに出会った時は、運命感じたなー』
「……運命」
とくん──と心臓が跳ねる。
二人のなれそめに、軽く頬を染めながらも、結月は少しだけ複雑な心境になった。
「そう……なんですね。子供の時の五十嵐って、どんな感じだったんですか?」
『初めて会った時は、迷子になってたかな』
「迷子?あの五十嵐が?」
『うん。見知らぬ異国に地(フランス)で、更に言葉も通じなくて、途方にくれてたみたい。このまま夜になったら危険だなーと思って、家に連れて帰ったら、うちのご近所に養子に来た子だったらしくて……それからは、レオにフランス語を教える代わりに、私もレオから日本語を教わってたの』
「……よ、養子?」
瞬間、結月は大きく目を見開いた。
「あの……フランスにいる、五十嵐のご両親って」
『育ての親だよ。本当の両親は、もう亡くなってるみたいだから』
「……っ」
亡くなってる──そう言われて、結月は息を飲む。
前に公園で話をした時、一瞬だけ、亡くなっているのでは?……と思ったことはあった。
だけど──
『知りたい?』
「──え?」
瞬間、青く透き通るルイの瞳と目があった。
まるで挑発するような、それでいて甘く誘うような、そんな妖しい瞳に、思わず魅入られる。
『知りたいなら、教えてあげようか? 君の知らない、"五十嵐レオ"の全てを──』
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