お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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第19章 聖夜の猛攻

婚約者の恋人

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「秘密兵器?」
「はい! これです!」

 すると、トランクを開けた結月は、中から大量に何かを取り出した。ドサッとテーブルの上に積み上げられたのは、大量の本。数にして20冊ほど!

 どうやら、メイドが重いと言っていた、あの荷物の中には本が入っていたらしい。そりゃ、重いはずだ!

「お前、そんなもの持ってきてたのかよ!?」

「はい。実は私、漫画を読むの初めてなんです!」

 キラキラと目を輝かせ、本、いや漫画を手にした結月。何を隠そう結月は、この日のために、様々な準備をしてきた。

 執事の協力の元、夜に起き、昼に寝るという、お嬢様にはあるまじき日常を過ごし、恵美からは、読んだら最後、絶対に止まらなくなるというオススメの漫画を忍ばせてきた。

 オマケに執事特性のドリンクも、先程こっそり飲んできたため、今の結月は、眠れと言われても、絶対に無理だと返せるくらい、目がランランとしている。

「お前、漫画読むために、うちに来たのか!?」

「そうですよ。実は屋敷で1巻だけ読んできたのですが、続きが気になって仕方なかったのです」

(うそだろ。マジで、読む気なのか……っ)

 ニコニコと笑顔を絶やさない結月に、冬弥は呆れ果てた。愛し合ったフリをしろといいながら、添い寝ひとつする気がない結月には、さすがに言葉をなくした。
 さっきまでドキドキは、一体、なんなんだったのか!?

「冬弥さんは、漫画を読まれたことはありますか?」

「まぁ、あるけど」

「では、冬弥さんも読みますか? 1巻はもう読んだので、お貸ししますが」

「はぁ? 男の俺が、少女漫画なんて読むわけないだろ!」

 結月が手にした漫画を見て、冬弥が面倒くさそうに答えた。
 漫画の表紙には、明らかに女性向けと思しき儚げなイラストが描かれていた。どちらかというと甘々な恋愛物のようにも見える。

「あら。男だとか女だとか、そんな小さなことに拘っているのですか? 大丈夫ですよ。男性が読んでも面白い物語だと、うちのメイドが言っておりました」

「メイドがって、そんなの女の主観だろ」

「そうですが……でも、読まずに文句を言うより、一度試してみてはいかがですか? 触れる機会があるなら、なんだって手を伸ばしてみるものですよ。周りの目など気にせず」

 そう言って穏やかに微笑んだ結月は、1巻だけ冬弥の方に差し出し、自分は2巻目を手にし、ソファーに腰掛けた。

 静かな室内には、ベッドに腰かけたまま頬杖をつく冬弥と、穏やかに漫画を読む結月の姿。

 すると、特にやることもないからか、冬弥は、まるで構ってくれとでもいうように、また結月に話しかけ始めた。

「なぁ、結婚の約束をしていた男とは、会えたのか?」

「そんなこと、話す必要あります?」

「だって、気になるんだよ。アンタのにあるを、誰がつけたのか?」

「え!?」

 瞬間、結月は顔を真っ赤にし、首根を押さえた。
 衝撃の言葉に、今まで冷静だった結月の表情が一気に崩れる。頬はバラ色に染まり、耳まで赤くなる。それはまさに、恥じらう乙女のように。

(う、うそ……レオ、見えるところには付けてないって言ってたのに……!)

 首の後ろは盲点だ。結月に気づけるはずがない。
 だが、そのあからさまな反応をみて、冬弥はぴくりと眉を引くつかせた。

 どうやら、結月は、キスマークを付けられた経験があるらしい。

「嘘だよ」

「え?」

。でも、その反応は、明らかにってことだよな。つまり、阿須加家のお嬢様は、俺という婚約者がありながら、別の男に抱かれて悦《よろこ》んでたってわけだ。つーか、誰だよ相手。やっぱり、あのか?」

「……っ」   

 さらに責められ、結月はじわりと汗をかいた。
 万が一レオのことを話して、彼を逆撫ですれば、先程までの話が、全て水の泡になる。

「ど、どうして、そのように思うのですか?」

 あくまでも冷静に問いかければ、冬弥は、何かを確信したように

「だって、あんた”箱入り娘”なんだろ。学校に行く以外は、極力屋敷から出るなって言われてたみたいだし。なら、屋敷の中でしか出来ねーし、相手はどう考えても、あの執事だろ?」

 そして、話しながら、冬弥もまた執事のことを思い出していた。

 兄の誕生パーティーの日、例のスイートルームでの出来事だ。お酒を飲んで朦朧とした結月を、ベッドに連れ込もうとした瞬間、いきなり頭からワインをかけられた。

 執事と名乗り、結月を守るように抱き抱えたその男は、酷く鋭い眼光で冬弥を睨みつけてきて、今思えば、あの顔は執事というよりは、だった気がする。

「やっぱり、あの執事が、アンタの恋人なのか?」

「…………」
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