213 / 289
第20章 復讐の先
あと少し
しおりを挟む
「レ、レオ、何してるの!? こんなッ」
こんな所で、抱きしめるなんて──!
突然のことに、結月は顔を真っ赤にして、慌てふためいた。
両サイドでは、女装したルイと男装した恵美が、しっかりと見つめている。
基本的にレオは、人前では常に『執事』だ。それは、二人の仲が既知の事実となっても変わらない。それなのに
「レ、レオ……ルイさん達が見てるわ……っ」
頬を真っ赤にしたまま、結月は、とりあえずレオに声をかけた。
だが、レオの腕の力は弱まるどころか、より強くなるばかりで、結月は更に困惑する。
首すじに顔を埋められているせいか、レオの表情はよく分からない。だが、なんだろうか?
この雨に晒された子犬のようなら雰囲気は!?
「ど、どうしたの? なにかあったの?」
普段と違う行動をとるレオに、結月が、心配そうに問いかける。すると、レオは
「……気持ち悪い」
「え!?」
気持ち悪い!?
もしかして、具合が悪いの!?
朝は、門松作るほど元気だったのに!?
「だ、大丈夫!? 外が寒かったからかしら! 熱は!?」
すると、結月の手が、レオの頬に触れた。
さっきまで美結に触れられていた場所に、今度は、結月の優しい手が重なる。
そのぬくもりに、すっと目を細めたレオは、静かに自分の手を、結月の手の上に重ね合わせた。
別邸での時間は、苦痛でしかなかった。
あのまとわりつくような不快な声も、舐めるような視線も、何もかもが気持ち悪かった。
しかも、何が「私に似て可愛い」だ。
結月が『月』なら、あの母親は『スッポン』以下だ。だが、その苛立ちが最高潮に達していたからか、普段とはかけ離れた行動をとってしまった。
「ごめん、大丈夫だよ。ただ、癒されたかっただけ」
「癒し!?」
だが、レオが素直にそういえば、結月は更に困惑する。
癒されたくて、抱きしめたの!?
みんなの前で!?
(き、きっと、別邸で何かあったのね?)
ただただ癒しを求める執事に、結月は申し訳ない気持ちになった。
使用人をモノ扱いする両親だ。何よりも、レオは、春から別邸の執事として、お母様に仕えろといわれている。
それを思えば、一体どれほどの心労が、今のレオにのしかかっているのだろうか?
「レオ、ごめんなさい。いつも、無理させてばかりで」
「何言ってるんだ。これは、俺が望んでやっていることだって、前にも言っただろ」
「そうだけど、でも……っ」
「大丈夫だよ。それに、あと少しなんだ。あと少しで──」
そう、あと少しで、結月を、この檻から解放できる。やっと、俺たちの夢が叶う。
そして、そのためなら、俺は、なんだって──
「結月、ここを出たら、暫くゆっくりしようか」
「ゆっくり?」
結月を安心させようと、レオは結月の手を握りしめながら微笑んだ。
「そう、暫くは、働かなくてもいいくらいの蓄えはある。だから、ゆっくりデートを重ねながら、二人だけで、のんびり過ごそう。そして、結月が20歳になって、正式に籍をいれたら、フランスで結婚式をあげよう」
「フランスで?」
「あぁ、俺の両親にも紹介したいしね」
「……っ」
その言葉に、結月は頬を赤らめた。
正式に籍を入れられるまで、1年はある。
それまでの間は、のんびり過ごそう。
恋人としての時間を、堂々と過ごそう。
なにより、結月のウェディングドレス姿は、どれほど美しいだろう。想像しただけで、頬が緩んだ。
だけど、その未来のためにも、今は、何としてもここを乗り越えないといけない。
すると、結月から手を離したレオは、今度は、ルイに視線を向けた。
「ルイ、少し話がある。今から、執務室に来い」
「え、僕?」
突然、指名され、ルイがキョトンと首を傾げた。
このタイミングでなんだろうか?
少々、嫌な予感がしたが、ルイは、すぐさま明るい笑顔を浮かべると
「うん、わかった。でも、その前に──コレ、恵美ちゃんに、渡しとくね」
すると、レオの指示に従う前にと、ルイはトランクの中から、大きめの封筒をとりだした。
それを恵美に手渡せば、恵美は、それが、何か分からぬまま、封筒を受け取る。
「なんですか、これ?」
「数日前にレオに頼まれたんだ。住み込みで働ける場所を、いくつかピックアップしておいたから、親と和解できなかったり、転職先に悩んだら使うといいよ」
「え! そんなことまで調べてくださってたんですか!?」
「うん。レオが、万が一、親と和解できなかったら、恵美ちゃん、また家出するかもしれないからって」
「う、それは……っ」
「レオって、なんだかんだ面倒見がいいよねー。それに、出版社にいる知り合いに聞いたら、アシスタントの募集してる漫画家が1人だけいたから、その気があるなら、面接受けてみてば?」
「え、アシスタント?」
その言葉に、恵美は封筒を開け、中を確認する。
すると、中には、いくつかの求人情報が書かれた書類が入っていて、そして、その中の一枚に、確かにアシスタント募集の書類もあった。
場所は、この星ケ峯ではなく、隣町の桜聖市。少し距離はあるが、住み込みで働けるなら、実家から通う必要もない。
「……っ」
すると恵美は、その書類をギュッと抱きしめた。ここまで、自分のことを考えていてくれたなんて、思いもしなかった。
そして、これは、二人が与えてくれたチャンスだ。これまで、毎日描き続けてきた努力を、披露できるチャンス。
でも、ここでアシスタントに選ばれなければ、それは同時に、まだ努力が足りないということ。
「っ……ありがとうございます、五十嵐さん、ルイさん。私、頑張ります!」
涙目になりながらも、力強く恵美が笑えば、レオとルイも同時に微笑んだ。
自分達ができるのは、ここまで。
あとは、全て──彼女次第だ。
「じゃぁ、僕はレオと話したら、そのまま帰るよ。二人も当日は、その姿で、無事を祈ってるよ」
「任せてください! 必ず、お嬢様と一緒に、ルイさんの元に行きます!」
「うん、じゃぁ、レオ」
「あぁ……結月、また後でくる」
「えぇ、分かったわ」
すると、男装した結月に再び微笑みかけたレオは、ルイと一緒に、部屋を出ていった。
「では、お嬢様。私たちも着替えましょうか? お手伝いしますよ」
「えぇ、そうね。でも、自分で着替えるわ。もう、甘えてはいられないし」
恵美の言葉を断り、結月は、かぶっていた帽子を取る。すると、隠れていた結月の長い髪が、サラサラと滑り落ちた。
だが、先程のレオを思い出せば、少し心配になった。
(レオ……ルイさんに、どんな話があるのかしら?)
普段とは違う、レオの様子。
それは、結月は微かな不安を抱かせた。
「お嬢様、いきますよー」
「えぇ」
だが、その後、恵美に呼ばれれば、結月は、着替えるため、また部屋の奥へと歩いていった。
こんな所で、抱きしめるなんて──!
突然のことに、結月は顔を真っ赤にして、慌てふためいた。
両サイドでは、女装したルイと男装した恵美が、しっかりと見つめている。
基本的にレオは、人前では常に『執事』だ。それは、二人の仲が既知の事実となっても変わらない。それなのに
「レ、レオ……ルイさん達が見てるわ……っ」
頬を真っ赤にしたまま、結月は、とりあえずレオに声をかけた。
だが、レオの腕の力は弱まるどころか、より強くなるばかりで、結月は更に困惑する。
首すじに顔を埋められているせいか、レオの表情はよく分からない。だが、なんだろうか?
この雨に晒された子犬のようなら雰囲気は!?
「ど、どうしたの? なにかあったの?」
普段と違う行動をとるレオに、結月が、心配そうに問いかける。すると、レオは
「……気持ち悪い」
「え!?」
気持ち悪い!?
もしかして、具合が悪いの!?
朝は、門松作るほど元気だったのに!?
「だ、大丈夫!? 外が寒かったからかしら! 熱は!?」
すると、結月の手が、レオの頬に触れた。
さっきまで美結に触れられていた場所に、今度は、結月の優しい手が重なる。
そのぬくもりに、すっと目を細めたレオは、静かに自分の手を、結月の手の上に重ね合わせた。
別邸での時間は、苦痛でしかなかった。
あのまとわりつくような不快な声も、舐めるような視線も、何もかもが気持ち悪かった。
しかも、何が「私に似て可愛い」だ。
結月が『月』なら、あの母親は『スッポン』以下だ。だが、その苛立ちが最高潮に達していたからか、普段とはかけ離れた行動をとってしまった。
「ごめん、大丈夫だよ。ただ、癒されたかっただけ」
「癒し!?」
だが、レオが素直にそういえば、結月は更に困惑する。
癒されたくて、抱きしめたの!?
みんなの前で!?
(き、きっと、別邸で何かあったのね?)
ただただ癒しを求める執事に、結月は申し訳ない気持ちになった。
使用人をモノ扱いする両親だ。何よりも、レオは、春から別邸の執事として、お母様に仕えろといわれている。
それを思えば、一体どれほどの心労が、今のレオにのしかかっているのだろうか?
「レオ、ごめんなさい。いつも、無理させてばかりで」
「何言ってるんだ。これは、俺が望んでやっていることだって、前にも言っただろ」
「そうだけど、でも……っ」
「大丈夫だよ。それに、あと少しなんだ。あと少しで──」
そう、あと少しで、結月を、この檻から解放できる。やっと、俺たちの夢が叶う。
そして、そのためなら、俺は、なんだって──
「結月、ここを出たら、暫くゆっくりしようか」
「ゆっくり?」
結月を安心させようと、レオは結月の手を握りしめながら微笑んだ。
「そう、暫くは、働かなくてもいいくらいの蓄えはある。だから、ゆっくりデートを重ねながら、二人だけで、のんびり過ごそう。そして、結月が20歳になって、正式に籍をいれたら、フランスで結婚式をあげよう」
「フランスで?」
「あぁ、俺の両親にも紹介したいしね」
「……っ」
その言葉に、結月は頬を赤らめた。
正式に籍を入れられるまで、1年はある。
それまでの間は、のんびり過ごそう。
恋人としての時間を、堂々と過ごそう。
なにより、結月のウェディングドレス姿は、どれほど美しいだろう。想像しただけで、頬が緩んだ。
だけど、その未来のためにも、今は、何としてもここを乗り越えないといけない。
すると、結月から手を離したレオは、今度は、ルイに視線を向けた。
「ルイ、少し話がある。今から、執務室に来い」
「え、僕?」
突然、指名され、ルイがキョトンと首を傾げた。
このタイミングでなんだろうか?
少々、嫌な予感がしたが、ルイは、すぐさま明るい笑顔を浮かべると
「うん、わかった。でも、その前に──コレ、恵美ちゃんに、渡しとくね」
すると、レオの指示に従う前にと、ルイはトランクの中から、大きめの封筒をとりだした。
それを恵美に手渡せば、恵美は、それが、何か分からぬまま、封筒を受け取る。
「なんですか、これ?」
「数日前にレオに頼まれたんだ。住み込みで働ける場所を、いくつかピックアップしておいたから、親と和解できなかったり、転職先に悩んだら使うといいよ」
「え! そんなことまで調べてくださってたんですか!?」
「うん。レオが、万が一、親と和解できなかったら、恵美ちゃん、また家出するかもしれないからって」
「う、それは……っ」
「レオって、なんだかんだ面倒見がいいよねー。それに、出版社にいる知り合いに聞いたら、アシスタントの募集してる漫画家が1人だけいたから、その気があるなら、面接受けてみてば?」
「え、アシスタント?」
その言葉に、恵美は封筒を開け、中を確認する。
すると、中には、いくつかの求人情報が書かれた書類が入っていて、そして、その中の一枚に、確かにアシスタント募集の書類もあった。
場所は、この星ケ峯ではなく、隣町の桜聖市。少し距離はあるが、住み込みで働けるなら、実家から通う必要もない。
「……っ」
すると恵美は、その書類をギュッと抱きしめた。ここまで、自分のことを考えていてくれたなんて、思いもしなかった。
そして、これは、二人が与えてくれたチャンスだ。これまで、毎日描き続けてきた努力を、披露できるチャンス。
でも、ここでアシスタントに選ばれなければ、それは同時に、まだ努力が足りないということ。
「っ……ありがとうございます、五十嵐さん、ルイさん。私、頑張ります!」
涙目になりながらも、力強く恵美が笑えば、レオとルイも同時に微笑んだ。
自分達ができるのは、ここまで。
あとは、全て──彼女次第だ。
「じゃぁ、僕はレオと話したら、そのまま帰るよ。二人も当日は、その姿で、無事を祈ってるよ」
「任せてください! 必ず、お嬢様と一緒に、ルイさんの元に行きます!」
「うん、じゃぁ、レオ」
「あぁ……結月、また後でくる」
「えぇ、分かったわ」
すると、男装した結月に再び微笑みかけたレオは、ルイと一緒に、部屋を出ていった。
「では、お嬢様。私たちも着替えましょうか? お手伝いしますよ」
「えぇ、そうね。でも、自分で着替えるわ。もう、甘えてはいられないし」
恵美の言葉を断り、結月は、かぶっていた帽子を取る。すると、隠れていた結月の長い髪が、サラサラと滑り落ちた。
だが、先程のレオを思い出せば、少し心配になった。
(レオ……ルイさんに、どんな話があるのかしら?)
普段とは違う、レオの様子。
それは、結月は微かな不安を抱かせた。
「お嬢様、いきますよー」
「えぇ」
だが、その後、恵美に呼ばれれば、結月は、着替えるため、また部屋の奥へと歩いていった。
1
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました
ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる