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エピローグ
朝のひと時
しおりを挟む「にゃ~ん」
と、猫の声がすると、その先では、ルナがしっぽを揺らしながら見つめていた。
そして、ルナの姿は、朝から愛らしかった。
だが、そんなルナと目が合った瞬間、結月は、顔を真っ赤にして
「レ、レオ、ルナが見てるわ」
「うん……でも、猫だろ」
「猫でも、ダメ!!」
例え、猫だろうが小鳥だろうが、こんな所を見られるなんて耐えられない!
すると、結月は、乱れた夜着をサッと整え、がっちりとガードを固めた。
もう、終わり!といわんばかりに、すぐさま中断の姿勢を示した結月に、レオは無音のため息をつく。
もう、邪魔者はいないと思っていたのに、まさか、可愛い愛猫に邪魔をされるなんて──
「そんなに、恥ずかしい?」
「は、恥ずかしいわ。それに、レオは、そういう空気を作るのが上手すぎるのよ。私、いつも流されてばっかりで……っ」
「別に流そうとはしてないよ。でも、結月の反応が、可愛すぎで、その表情を見てると、触れたくてたまらなくなる」
「っ……!」
すると、頬に手を滑らせ、愛おしそうに見つめられた。この目だ。この目に見つめられると、あっさり流されてしまう。
「だ、だから、そう言うのよ、そういうの! 本当に、もうダメだからね?」
「……わかってるよ。でも、今回のに関しては、結月のせいだと思うけど?」
「え?」
「だって、寝てるからって、俺な身体、好き勝手して。あれじゃぁ、誘ってるようなものだよ」
「さ、さそ……! なんで、そうなるの! 私は、手を握ってただけじゃない!」
「ふふ」
狼狽える結月が可愛すぎて、自然と頬が緩んだ。
なにより、誰の目も気にせず、結月と、こんなやり取りができるのが、たまらなく幸せだった。
「にゃーん」
すると、レオと結月のもとに、ルナが駆け寄ってきた。レオは、起き上がり、ルナを抱き上げると
「おはよう、ルナ」
「ルナちゃん、おはよう!」
レオに続き、結月も明るく笑いかければ、ルナは、二人の間で、また「にゃー」と鳴いた。
昨日から、二人と一匹の生活が始まった。
まだ、この家に来たばかりだし、不慣れなことも多いが、こうして、無事に駆け落ちできたことに、今はホッとする。
「そうだ。ルナを抱っこしてみる?」
「え?」
すると、レオがルナの背をなでながら、結月を見つめた。だが、結月はその言葉に、少しばかり躊躇する。
抱っこはしてみたい。
だが、ルイの家で、久しぶりにルナにあった時、結月はルナに威嚇されてしまったのだ。
「あの、抱っこはしてみたいけど……ダメだと思うわ」
「ダメ?」
「うん。私、ルナちゃんに、忘れられちゃってて、おとといも、抱っこしようとしたら、すごく嫌がられたの」
「………」
しゅんとする結月を見て、そんなことがあったのかと、レオは、再びルナを見つめた。
確かに猫は犬と違って、忘れやすい生き物だ。
それに、結月とルナが共にすごしていたのは、8年も前。あの子供時代の結月からすると、今はだいぶ変わってしまっただろう。でも──
「大丈夫だよ。夕べは、ルナも俺たちと一緒に寝てたし。それに、ルナの家にいた時の結月は、男装してただろ?」
「あ……」
そういえば、そうだった。たしかに、男装していた。
「それに、ルナは人が多いところが苦手でね。大晦日は、使用人たちも勢揃いしていたし、きっと、知らない人たちに囲まれて、警戒心が増してたのもあると思う。だから、もう一度、試してみて?」
そう言うと、レオは、ルナを結月の腕の中へ。
まるで、赤ちゃんでも抱かせるように、優しくそっと受け渡せば、結月は恐る恐る、ルナを抱っこした。
すると、今度は嫌がることなく抱かれてくれた。
幼かったあの頃よりも成長しているルナは、ずっしりと重く、長い時間、離れていたのだと実感する。
だからか、感極まったのだろう。
結月は、次第に涙目になって
「っ……こんなに、大きくなったのね」
捨てられた四匹の子猫は、箱の中で衰弱しきっていた。今にも死にそうな子猫たちを、結月は温室の中で必死に看病した。
でも、あの時の子が、今はこんなにも大きく成長していた。そして、そんなルナの成長を喜ぶ結月は、まるで、母親みたいだった。
「良かったな、ルナ。ママに抱っこしてもらえて」
「ママ? 私が、ママでいいのかしら?」
「いいに決まってるだろ」
むしろ、他に誰がいるというのだろう。
幼い頃『家族』になろうと約束した。
子猫を娘にして、まるでママゴトのような家族ごっこ。
でも、これは、もうごっこ遊びではない。
新しい家で、二人と一匹。
本当の家族として、生きていくのだから──…
「レオ、ありがとう。私、今とても幸せよ」
結月が、ふわりと笑えば、レオも嬉しそうに微笑んだ。
この笑顔をみると、何もかも報われたきがした。
だが、まだ、やるべき事は残ってる。
レオは、その場から立ち上がると
「少し出かけてくる。結月は、ルナと留守番してて」
「留守番?」
そう言って、和室に置かれた桐製のタンスに手をかけたレオは、その後、衣類を取りだし着替え始めた。
いきなり服を脱ぎ出したレオを見て、結月は、とっさに視線をそらす。
「で、出かけるって、どこに?」
「公衆電話」
「公衆電話?」
「うん。この家には、まだ電話は引いてないから」
「そう……て! もう着替えたの!?」
すると、ものの数秒で着替えを終えたレオを見て、結月が驚愕する。
まさに、一瞬だった。
すると、レオは呆れたように笑い、今度は、執事口調で返してきた。
「お嬢様は、私が執事だったのをお忘れですか? 着替えは、30秒以内に終わらせるよう訓練されております」
「そ、そうだったの?」
知らなかった。まさか、こんなに早く着替えられるなんて。やはり執事は、凄いとしか言えない。
「じゃぁ、行ってくるよ。一人で留守番できる?」
「だ、大丈夫! いってらっしゃい!」
すると、いきなり託されたお留守番という使命に、結月が気合いをいれれば、レオはコートの上にマフラーを巻いて、家から出ていった。
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