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エピローグ
流涕
しおりを挟む「ただいまー」
レオが戻って来たのは、それから数分後のことだった。ルイと話をするために、家を空けたのは、せいぜい15分ほど。
冷え込む寒空の下、足早に結月が待つ家に戻ってきたレオは、静かに玄関の扉を開けた。
装飾に凝った玄関には、熟練の職人が掘ったのか、美しい百合の花が描かれていた。
こんなにも立派な家を譲り受けてよかったのかと心配になるほど、古風で悠然とした武家屋敷だ。
そして、中に入れば、そこは、外とは比べ物にならないくらい温かかった。
しかし、帰宅すれば、結月が出迎えてくれるかと思ったが、残念ながら予想派はずれてしまったらしい。
「にゃー」
「ただいま、ルナ」
出迎えたのはルナだけで、レオは、可愛い愛猫を抱き上げると、そのまま頬に擦り寄せ、帰宅の挨拶をする。
その後、ルナを抱いたまま、レオは、奥へと進んだ。
台所を確認しながら、一直線にむかったのは、さっきまで、結月と一緒に眠っていた和室だ。
渋い焦茶色の廊下をすすむ、鯉が描かれた襖を開ければ、中に結月がいた。
だが、和室の中で座り込む結月を見た瞬間、レオは目を見開いた。
なぜなら、一人で留守番をさせていた結月が、大粒の涙を流しながら泣いていたから──
「ゆ、結月?」
その瞬間、レオは、あからさまに狼狽えた。
なんで、泣いてるんだ?
俺が、置き去りにしたから?
たった一人で、留守番をさせたから?
「ごめん、結月!」
そう言って、すぐさま結月の元に駆け寄ったレオは、慌てて、流涕《りゅうてい》する結月を、きつく抱きしめた。
身体は、まだ温まりきらず、冷たい手が結月の全身を包む。
外に言っていた時間は、ほんの15分ほど。
だが、結月はその15分ですら、不安でたまらなかったのかもしれない。レオは、結月を抱きしめながら、何度も謝った。
「ごめん、一人にして。結月が、こんなに怖がるなんて思わなくて」
ここに連れてきて早々、泣かせてしまうなんて。
レオは、自分の不甲斐なさを憂《うれ》いた。
執事として、ずっと傍に仕えてきた。
結月のことは、なんでも把握していた。
だから、これまでの経験から、好奇心旺盛な結月なら、留守番を怖がることはなく、逆に楽しみそうだと思っていた。
なにより寒空の下、連れ出すよりは、ルナと一緒に留守番の方がいいと思っていたのに、どうやら、それは間違いだったらしい。
これでは、執事失格だ。
いや、結月の恋人として、こんなに不甲斐ないことはない。
「ごめん。次は、絶対に一人にはしないから」
優しく髪を撫でながら、子供をあやすように、レオが声をかける。すると、結月は
「ち、ちがうの……私、留守番が怖くて……泣いてたわけじゃなくて……っ」
「え?」
すると、予想とは違う返答が、返ってきて、レオは困惑する。
留守番が原因でないなら、なんだと言うのか?
レオは、抱きしめていた手を緩め、結月と目を合わせた。
「じゃぁ、何があったんだ?」
「……っ」
更に問いかければ、結月は、更に涙ぐんだ。
よほど、辛いことがあったのかもしれない。
溢れる涙は、レオが抱きしめても止まることはなかった。
「結月、どうしたんだ? 一体、なんで泣いてるんだ?」
「っ……あのね、レオ……怒らないで聞いてくれる? うんん、怒ってもいいわ……怒ってもいいから……私のお願いを……聞いてほしいの」
「お願い?」
頬を涙で濡らす結月は、酷く神妙な面持ちをしていて、レオは小さく息を呑んだ。
一体、何があったのか、本気でわからない。
まるでこの世の終わりかとでも言うように、泣き続ける結月に、レオの胸は、苦しさでいっぱいになる。
結月の頼みだったら、何だって叶えてやる。
これまでだって、そうだった。
なにより、こんなにも愛しい人を。
やっと手に入れた最愛の人を、怒れるわけがない。
「怒らないよ。結月の願いなら、なんでも叶えてあげる。俺に何をして欲しいの?」
濡れた瞳に視線を合わせ、レオは当然の如く、お願いを聞く。
そのレオの瞳は、慈愛に満ちた温かな色をしていた。
結月は、その瞳を見て、また涙を流し、レオに謝った。
「レオ、ごめんなさい……私、もう一度……あの屋敷に戻りたいの」
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