神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
63 / 554
【第2部】第1章 高校生と新生活

第57話 記憶と依存

しおりを挟む

「やだなー、おじさんも相変わらずだね♪」

 目の前に見えた魚屋には、これまた見覚えのある金髪碧眼の美少年がにこやかに笑っていて、華と蓮は唖然とする。

「飛鳥ちゃん、最近はどうだい?」

「うん。せっかく帰ってきた父も、また海外にいっちゃったし、高校生になったばかりの妹弟きょうだいも、最近すごくよく食べるようになったから、色々と大変かな?」

「あぁ、そうだよな。下の妹弟きょうだいのために、毎日は飯作ってるんだもんな、飛鳥ちゃんは。本当に健気だよ! おじさん、ちょっと涙出てきちゃったよ…っぐず……飛鳥ちゃん、これ今日の朝とれた新鮮な魚だ。もってけ、な?」

「え?いいの~♪」

((あ、悪魔がいたいけな店主タブらかしてる!?))

 しかも、その人物はあろうことか、その店の店主から、立派な鯛を一匹、しっかりと巻き上げていた。

「ありがとう、おじさん♪ じゃ、せっかくだし、シシャモも10匹くらい買っとこうかな?」

「お、相変わらず律儀でいい子だなー飛鳥ちゃんは~」

(いやいや、騙されてるよオジサン! シシャモ一匹10円だよ! 10匹買っても100円にしかならないよ!?)

(さっきの魚の価値いくら!? 損してる!それ明らかに損してる!?)

 おじさんの善意を、その切なそうな笑顔で見事引き出したかのように見えた兄の姿。

 それを見て、華と蓮は愕然とする。

 この兄の厄介なところは、その見た目からくる儚げな印象が、相手の「守ってあげたい」という感情を強く引き出すところにある。

 だが実際、兄は守ってあげなきゃいけないほど、か弱くはなく。むしろ、相手を敵とみたすと容赦ないくらい恐ろしいのに、兄に陶酔した人々は、その裏の悪魔のような性質には全く気づいていないのだ。

 しかも兄自身、その性質と自分の容姿の価値をよく理解しているので、時折それを上手く利用する。

「ありがとう! またね♪」

 そして、呆然と立ち尽くす二人の思考が、再び動き出したときには、兄は魚屋の店主に手をふり、二人の数メートル前を歩き出していた。

 歩き出した兄のあとを追いかけ、華と蓮は、その後ろからガシリと飛鳥の腕を掴む。

「!?」

 すると、突然後から両腕を掴まれた飛鳥は

「うわ、ビックリしたー、なんだ蓮華か! 今普通に『技』かけそうになったじゃん!?」

「技ってなに!? 護身術的なあれ!?」

「そーだよ。いきなり後ろからはないだろ? 声かけろよバカ!」

「バカは兄貴だろ!? 善良な魚屋の店主に、なんてことしてんの?!」

「そうだよ! おじさんの優しさに付け込むなんでサイテー!」

「え?」

 その二人の言葉に、飛鳥は一旦思考を止めた。

 するとその後、先程の魚屋でのやり取りを見ていたのかとの結論に達すると、飛鳥はため息混じりに反論の言葉をかえす。

「あー、さっきの見てたんだ。失礼だなー。別に頂戴とかいってるわけじゃないし。俺、から、みんな勝手にくれるんだよね?」

「だからって、魚屋さんの優しさ利用するのやめて!?マジでタチ悪いからね、それ!?」

「え? 何いってんの、俺この商店街、子供の頃から通ってるんだよ? それに、さっきの魚屋さんは俺のことみたいに思ってるから! 俺、この商店街には第2、第3の親みたいな人が、たくさんいるよ!」

「なにそれ、怖いよ!!?」

 にっこり笑って悪びれもなく放った兄の言葉に、華が悲鳴じみた声を上げる。

 確かに兄は、よく父に買い出しを頼まれ、この商店街に子供の頃からよく訪れていた。だからなのか、商店街の人たちからしても、我が子のような存在なのだろう。

 しかも、母は幼い頃に他界。父は海外に単身赴任。5つ下の双子の面倒をみながら大学に通い、家事や料理をこなしている。

 その兄の姿は、もはや涙なしでは語れないと、おじさま、おばさまの心を鷲掴みにする。

「大体、私たちが急に食べるようになったってなに、前とそんなに変わらないでしょ!」

「だって、ここのところ誰かさん達ので、ものスゴーくが嵩んだもんだから、せめて食費くらいは抑えないとなーと思って」

「あぁぁぁ、うそでしょ!?」

「そもそもの原因、俺たちなの!?」

 自分たちが、入学なんかしたばっかりに、ごめんねオジサン!!

 よもや、魚屋の店主を毒牙にかけた発端が、自分たちの高校入学だったとは。華と蓮は、今すぐにでも魚屋にかけこみ、土下座したい衝動にかられた。

「っ……でも、これ以上、無闇に人をタブらかすのやめろよな!」

「……タブらかしてるつもりないんだけど?」

「もう、見た目からそういう素質そなえてんの! 飛鳥兄ぃの『その顔が好きだ 』っていってる人、いっぱいいるんだからね!」

「……」

 瞬間──二人に引かれた腕はそのままに、飛鳥が突然足を止めた。

 その場に立ち止まり「そう……」と小さく声を放つと、突然俯いた兄をみて、華と蓮が不思議そうにその顔を除き混む。

 すると、その兄の瞳は、どこかにも見えて──



「……飛鳥兄ぃ?」

「さて、お腹もすいたし。帰ってご飯作ろっか♪」

「え!? わっ!」

 だが、そうに見えたはずなのに、兄はまたいつも通りの笑顔を浮かべると、二人の手を無理矢理引いて、再び前へと歩きはじめた。

 飛鳥がにこやかに笑いながら「今日のご飯は、カレーだよー」と華と蓮の手を引きそう言うと、二人はいつもと変わらないその兄の雰囲気に安堵し、またワイワイと騒ぎ始めた。

「兄貴、カレー食べたいの? てか、今魚もらっといて、なんでそこでカレーになるの? この流れだと煮魚だろ」

「別に食べたいわけじゃないけど、俺、今日は色々あって疲れたんだよね。だから、カレーでいいから華作ってよ」

「え!? 私!? あーそんな感じの流れですか……」

「よかったじゃん華。得意のカレー作るチャーンス!」

「えーじゃぁ蓮、野菜刻んでよ」

「はぁ? やっぱり華、女捨ててるよ。絶対、華より兄貴の方が女子力高いと思う!」

「あのね。飛鳥兄ぃと比べないでよ! 飛鳥兄ぃは、そこいらの女子より断然女らしいんだからね!!」

「あはは、お前たち今日、風呂掃除もしろよ?」

 喧嘩を始めた双子を優しく見つめながら飛鳥がそう返すと、三人はいつも通りのやり取りを繰り返しながら、賑やかな商店街をあとにする。




「……」

 華と蓮の手をしっかりと握りして、飛鳥は、まるで心に宿った小さな不安を誤魔化すように、その顔に笑顔を貼り付ける。

 二人が大人になろうとする度に、焦りから、少しずつ少しずつ弱い心が顔を出す。

 閉ざしたしていた記憶の蓋が、ポロポロと綻び始めて──


『飛鳥のその綺麗な顔が、大好きよ』


 思い出したくない記憶が甦る。



(どうか──)


離れたくない。
離したくない。

繋いだ手の温かさが、余計にそれを感じさせて、願ってしまう──



どうかまだ、側にいて欲しい。


どうかまだ、離れていかないで欲しい




お願いだから──




(大人になんて、ならないで──…っ)





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...