神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第6章 転校生と黄昏時の悪魔【過去編】

第37話 転校生と黄昏時の悪魔 5

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「うーん、ないなー?」
 
 時は戻り、華と蓮の高校の合格発表を無事に終えた、その日の午後。

 隆臣や大河と別れ、自宅に戻ってきていた飛鳥は、昼食をとったあと、父の書斎で何やら脚立を持ち出し、探し物を始めたようで、妹の華は何事かと兄に問いかけた。

「飛鳥兄ぃ、何やってんの?」
 
「あー、蓮も無事高校に合格したし、俺が使ってたブレザー、クリーニングに出しとこうと思ったんだけど……」

「でた!! お兄ちゃんのお下がり!」
 
「まー、それは下の宿命だよねー」

 どうやら、兄は今、高校のブレザーを探しているらしい…

 父の書斎を見回せば、タンスの上にしまっていた段ボールをいくつか確認したのだろう。両手に抱えるくらいの大きなダンボール箱が数箱、床に散乱していた。
 
「もう! 飛鳥兄ぃってば 片付け下手すぎ! 仕舞う時、ちゃんとしないから、見つからないんだよ!」
 
「うるさい。俺にそこまで完璧を求めるな」

 飛鳥は一通りのことは何でもこなすし、掃除が苦手な訳でもない。

 だが、こと片付けに関しては、目に見えなければいいか、と言った感じでよく手抜きする癖がある。

「華、ごめん。これ持って!」
 
「……もう!」

 飛鳥は、脚立の上から、華に少し小ぶりの段ボールを手渡す。

 すると華は、渋々それを受け取ると、興味本意から、その段ボールを床に置き、中を確認し始める。

「あ~なにこれ~」

 するとその箱の中には、画用紙にかかれた絵や折り紙で作ったお花、小さい靴や服などが、たくさん入っていて、華は顔を誇ろばせた。


「それ、お前たちが幼稚園の頃のだね?」

 飛鳥が脚立からおり、箱の中を覗きこむと、なつかしそうに目を細める。
 
「まだ、とってあったんだ…」

「へー……あ! これ。覚えてる!」

 華は相槌をうち、また箱の中を漁りはじめた。

 その箱の中にある物は、妙に懐かしさを感じるものばかりだった。幼い時の物だが、どれも確かな記憶として残っているものだ。
 
「あ……これ……」
 
「ん?」

 すると、タンスの上をやめてクローゼットの中をさがし始めた飛鳥の元に、少し上ずった華の声が聞こえてきた。

「どうした?」

「う、うんん……何でもない!」

 いつもと変わらないで笑顔で、兄に取り繕うと、その瞬間、華はとっさに手にしていたものを背後に隠した。

 兄に見えないようにと隠したそれは、華の手の平くらいの大きさをした『小さな ウサギのぬいぐるみ』だった。

 
(っ…これ……まだ、とってあったんだ…)


 微動だにせずせず、華はその額にじわりと汗をかく。

 これは、幼い時、とても大切にしていたものだった。

 誕生日に買ってもらって、寝るときも出掛けるときも、肌身はなさず持っていた、ウサギのぬいぐるみ。

 だが、いつしか、このぬいぐるみは…

目にするのが辛くなって、でも捨てられなくて、おもちゃ箱の奥にひっそりとおいやられていった


そんな、可哀想なぬいぐるみ…



「あ、あった」

 華が神妙な面持ちで考え事をしていると、クローゼットの前で再び飛鳥が声をあげた。
 
「そういえば、クリーニングにだした後、そのままクローゼットにしまったんだっけ?」

 どうやら、お探しのブレザーが見つかったらしい。

  飛鳥はその後「一応、またクリーニングに出しとくかな…」と呟くと、部屋をそのままに、今度はセカセカと出掛ける準備を始めた。

 
「……飛鳥兄ぃ、出掛けるの?」
 
「うん。後になると忘れそうだし。ちょうど夕飯の材料で買い忘れたものもあったから、ついでにね? とりあえず、部屋はまた帰ってから片付けるから、そのままにしてて」

「……うん、分かった」
 
「じゃ、すぐ戻ってくるから…」
 
「……」

 そう言うと兄は、華を置いてそそくさと部屋から出ていった。

 



(……嫌なモノ、見つけちゃった)

 華は、一人残された書斎の中で、手にしていた「ウサギのぬいぐるみ」に、改めて視線を戻すと、なんとも辛そうに、眉根をよせた。


"すぐ、戻ってくるから…"


 も兄は、そう言って出ていった。

 あの日、自分は大切にしていたこのぬいぐるみを、公園に忘れてきてしまって、泣いてわがままを言って、家族を困らせた。

 泣きやまない妹の頭を撫でて、兄はわざわざ公園まで、このぬいぐるみを探しにいってくれた。

 言葉の通り、すぐに帰ってくるだろう……そう思ってた。

 またいつもように、笑顔の兄に会えると疑わず、窓の外を見つめながら、兄とぬいぐるみの帰りを待ち続けた。

 だけど、その後兄は──


門限をすぎても、日が沈みかけた空が次第に暗くなりはじめても、ついには日が落ちても


いくら待っても──……帰ってはこなかった。

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