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第9話『それが私の希望なのですから』
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奇跡の力と聞いて、人は何を想像するだろうか?
何でも願いが叶う凄い力。夢の力。手に入れるだけで、全ての苦労が報われる。
そんな事はない。無論そうなった人もいるだろうけど、全ての人がそうでは無いのです。
そう。私に限って言うのであれば、奇跡の力なんて、呪いと何ら変わりはありません。
思い返すと、私が初めて奇跡の力の事を知ったのは夫と出会ってから数カ月程経った頃でした。
ある日、真面目な顔をした夫に大事な話があると言われたのです。
「由紀さん。少し大事な話があります」
「えっ」
この時、もしかしてプロポーズ? と考えていた私は大分若かったなと思います。
まだ十代の恋人が結婚も何も無いでしょうに。
「俺は! 将来的には由紀さんと一緒に生きていきたいと考えている。その辺り、由紀さんはどうだろうか」
と、思い出してましたが、これよく考えたらプロポーズと何も変わらないですね。
むしろプロポーズでしたね。まぁ私の回答は喜んで以外は存在しなかったのですが、一応雰囲気もありますし、丁重に返しておりました。
「はい。その、私も大斗さんと共に歩みたいと考えております」
「そ、うか。それはとても嬉しい。言葉もない。ただ何も言わず、君を抱きしめたいくらいだ」
「あの、言いにくいんですけど。もう抱き着いてますよ。大斗さん」
「あぁ!? これはすまない」
「ぁ……別に気にしなくても良かったですのに」
「と、話を中断してすまない。今日話したかったのはこれからが本番なんだ」
「本番の話、ですか」
「そう。由紀さん。あなたは奇跡の力というのを聞いたことはあるかい?」
「奇跡、ですか? 特に聞いたことはありませんね」
「そうか。この話をするのは由紀さんが初めてなんだが、実は僕の中にはその奇跡の力が宿っているんだ」
「まぁ。それは凄いですね」
「……信じてくれるのかい?」
「当然じゃないですか。大斗さんは意味のない嘘を吐く人では無いですよね?」
「それは、そうなんだが。そうか信じてくれるか」
「はい」
「ありがとう。由紀さん。それでね。由紀さん。この力はきっと何でも出来る」
「何でもという事は、仮にマイホームが欲しいなとなった時に、ローンを組まなくても良いという事ですか?」
「いやー。ハハハ。それはどうかな。ちょっと難しいかもしれない」
「あ、難しいんですね」
「大丈夫だ。由紀さん。僕は絶対に由紀さんを苦労させないよ。バリバリ稼いで、何でも買えるようになるさ」
「大斗さん。残念ですが、私はお金より、大斗さんが長くそばに居てくれる方が嬉しいです。私も働きますし、ほどほどにお願いしますね? 無理は駄目ですよ?」
「由紀さん! 僕は由紀さんに何かあったら、すぐこの力を使うからね! 愛してる!」
「私も愛してますよ。大斗さん。でも、大斗さんが困った事になったら、その力をすぐに使ってくださいね。約束ですよ? 私、大斗さんの居ない生活なんて考えられないです」
「あぁ。分かってるさ! 二人で幸せになろう!!」
そんな約束をしたのが、もう随分と遠い日の様に思えます。
そして、あの日。あの運命の日、私は大斗さんと出会ってしまった不幸を呪わずにはいられない出来事が起こりました。
大斗さんと結婚し、娘が生まれ、私はあの時が世界で最も幸せな時だったと思っています。
しかし私たちの幸せとは裏腹に、運命というのは残酷な未来を私たちに用意していました。
大斗さんが会社で貰ったという温泉宿の割引券を片手に、私たちは遠く離れた温泉地へ旅行に行きました。
理沙も大斗さんも楽しそうで、私もそんな二人を見て、年甲斐もなく少女の様に笑っていたのを覚えています。
ですが、その幸せも長くは続きませんでした。
家族三人で廊下を歩いている時、大きな爆発音がして、私は咄嗟に理沙を庇い、そんな私たちを大斗さんが守ってくれました。
お陰で大した怪我も無く、私は何とか立ち上がりましたが、大斗さんは無事ではありませんでした。
大きな家具に挟まれて、頭から血を流していました。
私は何とか棚をどかそうと押しますが、少しも動きませんでした。
そこで思い出したのは奇跡の力でした。大斗さんの言っていた何でも出来る力なら、こんな物どかして、大斗さんを助けられるはずです。
「大斗さん」
「ぅ、ゆ、きさん? 無事で、良かった」
「大斗さん。あの力を使ってください。奇跡の力で、棚をどかして」
「火が、かこまれてる。僕は、もう、駄目だ。助からない。君たちだけでも」
「い、嫌です! 大斗さんが居なかったら、私、わたし」
「しっかりしろ!! 君は理沙の母親だろう!!」
「……っ!」
「生きて、くれ。由紀さん。理沙。本当は君たちと、ずっと生きていたかった、でも、情けないな」
「う、うぅ」
「……おか、あさん? おとう、さん?」
「立って、逃げるんだ。由紀さん。頼む。お願いだ」
私は無言のまま理沙を抱きしめると、おそらくは玄関がある方へ向かって歩き出しました。
後ろは振り向けませんでした。振り向いてしまえば、きっともう先へは進めなくなってしまうから。
「おかあさん。おとうさん、あそこにいるよ? ねぇ、なんでおいて行っちゃうの?」
「走れ、早く、逃げろ。由紀さん。理沙」
私は無言のまま走り出しました。
不思議と、周りで燃えている火は私たちに燃え移ることはなく、むしろ私たちを避けている様でした。
何の苦労もなく脱出した私はそのまま保護され、病院へと運ばれました。
そして、やはりと言うべきでしょうか。大斗さんは助かりませんでした。
苦しかった。泣き出したくて、悲しくて、どうしようもなくて、でも、それでも私には大斗さんの言葉が残っていました。
『しっかりしろ!! 君は理沙の母親だろう!!』
私はその言葉を心に、ただひたすら理沙を守る為に、戦い続けました。
そして、大斗さんが亡くなってから一年の月日が流れたある日、私に突然あの力が宿りました。
奇跡の力が。
私は呪いました。恨みました。憎みました。
この力を私に授けた者に、どうして今更なのか。どうしてあの時私に授けてくれなかったのか。
それから私は奇跡の力に願いました。大斗さんを返してほしいと、あの幸せだった生活を返して欲しいと。
しかし奇跡の力は何も応えてくれませんでした。
私は、もう奇跡でも大斗さんに会えないのだと知り、泣き崩れました。
どうしようもなく打ち砕かれて、生きる気力すら奪われて、それでも私はただ理沙の為に母として強くあろうと決めました。
いつか私という存在が要らなくなるまで、あの子の為に生きようと。
そう決意したのです。
そして、その日はそれほど遠くない日に訪れました。
今から少し前。私は理沙と言い争いになりました。
最近、学校がうまくいかないと悩む理沙は、外で良くない人と付き合うようになりました。
あまり家にも帰らず、遊び歩いていました。
私はこのままでは理沙が駄目になってしまうと、何とか理沙を捕まえ、説得しようとしましたが、聞き入れてもらえませんでした。
「離してよ! お母さんに私の気持ちなんて分からないよ!」
「そんな事ないわ。お母さん。何でも力になるから」
「出来る事なんて何もないよ! お母さんは良いよね! 父親も母親もいる家で育ったんだもの!! 私と違ってお父さんが居ないって事も無くてさ!!」
「……っ!」
何も言えませんでした。
私の両親はまだ健在でしたし、私は大斗さんや両親の様に素晴らしい人間ではありませんでしたから。
そう言われるのは当然の事で、間違いないことで、そしてどうしようもない事でした。
ただ、思うのは。あの時、あの火事の時、もし生き残ったのが私ではなく大斗さんだったなら、きっと二人は幸せになれただろう。
あるいは理沙だけが助かったのなら、両親が理沙をこんなに苦しませる事もなかったのではないかと思うのです。
どうして世界は私なんかを生かそうと思ったのでしょうか。
その答えは私には分かりませんでした。
でも、まだ間に合うと思うのです。私などは捨てて、私の両親と共に生きるという選択だってあるはずです。
私は理沙が望んだ時にだけ会えれば、後はお金だけ渡すという選択肢だってあるはずです。
両親には共に暮らす事も提案されていましたし、これがきっと最も良いアイディアであると私は思いました。
そして、家から走って出ていこうとしている理沙を追いかけて私も走りました。
最近ずっと運動していなかったから、少し走るだけで息が上がって苦しいですが、それでも理沙にまだ幸せを諦めないで欲しいと伝えたかったのです。
自暴自棄になって、自分を傷つけても悲しいだけです。私というお荷物を捨てればきっと理沙は幸せになれる。
そう考え、追いかけていた私は、家の近くにある交差点で泣いている理沙に追いつきました。
もう少しで触れられるという所まで迫りましたが、理沙は私の手などするりと抜けて、青になった横断歩道を渡っていきます。
そして、その時、大きな音と共に視界の向こうから何かが迫ってきているのが見えました。
私は咄嗟に私の中にある奇跡の力に向かって、理沙を助けてと願いました。
その願いは叶いました。
大斗さんを返して欲しいという願いには何も応えなかった奇跡の力は、私の願いを間違いなく叶え、理沙は暴走する車から遠く離れた場所へと転がりました。
私はそれを見届けて、衝撃と共に宙へと投げ出されました。
おそらくは車に当たった衝撃と地面に当たった衝撃で、息をするのも苦しい状況です。
ですが、奇跡的に理沙は傷一つありませんでした。奇跡の力は確かに存在していたようです。
「お母さん! お母さん!! ねぇ、しっかりして!! お母さん!!」
「……ぁ」
何故理沙は泣いているんでしょうか。ようやくあなたの人生から邪魔な物がいなくなるのに。
ようやくあなたの人生に幸せが訪れるのに。
笑ってほしい。大斗さんによく似た笑顔で、昔の私の様に無邪気な笑顔で。
それが私の希望なのですから。
『どうか。幸せになってください』
もう奇跡の力は失われてしまったけど。それでも、どうか。
私が大斗さんに出会えて、いっぱいの幸せを貰えた様に。
貴女も、貴女の事の幸せを願ってくれる人と共に歩めます様にと。
ただ、ただ、私はいつまでも、願い続けているのでした。
この呪いが希望になるように、奇跡へつながるようにと、ただ。
何でも願いが叶う凄い力。夢の力。手に入れるだけで、全ての苦労が報われる。
そんな事はない。無論そうなった人もいるだろうけど、全ての人がそうでは無いのです。
そう。私に限って言うのであれば、奇跡の力なんて、呪いと何ら変わりはありません。
思い返すと、私が初めて奇跡の力の事を知ったのは夫と出会ってから数カ月程経った頃でした。
ある日、真面目な顔をした夫に大事な話があると言われたのです。
「由紀さん。少し大事な話があります」
「えっ」
この時、もしかしてプロポーズ? と考えていた私は大分若かったなと思います。
まだ十代の恋人が結婚も何も無いでしょうに。
「俺は! 将来的には由紀さんと一緒に生きていきたいと考えている。その辺り、由紀さんはどうだろうか」
と、思い出してましたが、これよく考えたらプロポーズと何も変わらないですね。
むしろプロポーズでしたね。まぁ私の回答は喜んで以外は存在しなかったのですが、一応雰囲気もありますし、丁重に返しておりました。
「はい。その、私も大斗さんと共に歩みたいと考えております」
「そ、うか。それはとても嬉しい。言葉もない。ただ何も言わず、君を抱きしめたいくらいだ」
「あの、言いにくいんですけど。もう抱き着いてますよ。大斗さん」
「あぁ!? これはすまない」
「ぁ……別に気にしなくても良かったですのに」
「と、話を中断してすまない。今日話したかったのはこれからが本番なんだ」
「本番の話、ですか」
「そう。由紀さん。あなたは奇跡の力というのを聞いたことはあるかい?」
「奇跡、ですか? 特に聞いたことはありませんね」
「そうか。この話をするのは由紀さんが初めてなんだが、実は僕の中にはその奇跡の力が宿っているんだ」
「まぁ。それは凄いですね」
「……信じてくれるのかい?」
「当然じゃないですか。大斗さんは意味のない嘘を吐く人では無いですよね?」
「それは、そうなんだが。そうか信じてくれるか」
「はい」
「ありがとう。由紀さん。それでね。由紀さん。この力はきっと何でも出来る」
「何でもという事は、仮にマイホームが欲しいなとなった時に、ローンを組まなくても良いという事ですか?」
「いやー。ハハハ。それはどうかな。ちょっと難しいかもしれない」
「あ、難しいんですね」
「大丈夫だ。由紀さん。僕は絶対に由紀さんを苦労させないよ。バリバリ稼いで、何でも買えるようになるさ」
「大斗さん。残念ですが、私はお金より、大斗さんが長くそばに居てくれる方が嬉しいです。私も働きますし、ほどほどにお願いしますね? 無理は駄目ですよ?」
「由紀さん! 僕は由紀さんに何かあったら、すぐこの力を使うからね! 愛してる!」
「私も愛してますよ。大斗さん。でも、大斗さんが困った事になったら、その力をすぐに使ってくださいね。約束ですよ? 私、大斗さんの居ない生活なんて考えられないです」
「あぁ。分かってるさ! 二人で幸せになろう!!」
そんな約束をしたのが、もう随分と遠い日の様に思えます。
そして、あの日。あの運命の日、私は大斗さんと出会ってしまった不幸を呪わずにはいられない出来事が起こりました。
大斗さんと結婚し、娘が生まれ、私はあの時が世界で最も幸せな時だったと思っています。
しかし私たちの幸せとは裏腹に、運命というのは残酷な未来を私たちに用意していました。
大斗さんが会社で貰ったという温泉宿の割引券を片手に、私たちは遠く離れた温泉地へ旅行に行きました。
理沙も大斗さんも楽しそうで、私もそんな二人を見て、年甲斐もなく少女の様に笑っていたのを覚えています。
ですが、その幸せも長くは続きませんでした。
家族三人で廊下を歩いている時、大きな爆発音がして、私は咄嗟に理沙を庇い、そんな私たちを大斗さんが守ってくれました。
お陰で大した怪我も無く、私は何とか立ち上がりましたが、大斗さんは無事ではありませんでした。
大きな家具に挟まれて、頭から血を流していました。
私は何とか棚をどかそうと押しますが、少しも動きませんでした。
そこで思い出したのは奇跡の力でした。大斗さんの言っていた何でも出来る力なら、こんな物どかして、大斗さんを助けられるはずです。
「大斗さん」
「ぅ、ゆ、きさん? 無事で、良かった」
「大斗さん。あの力を使ってください。奇跡の力で、棚をどかして」
「火が、かこまれてる。僕は、もう、駄目だ。助からない。君たちだけでも」
「い、嫌です! 大斗さんが居なかったら、私、わたし」
「しっかりしろ!! 君は理沙の母親だろう!!」
「……っ!」
「生きて、くれ。由紀さん。理沙。本当は君たちと、ずっと生きていたかった、でも、情けないな」
「う、うぅ」
「……おか、あさん? おとう、さん?」
「立って、逃げるんだ。由紀さん。頼む。お願いだ」
私は無言のまま理沙を抱きしめると、おそらくは玄関がある方へ向かって歩き出しました。
後ろは振り向けませんでした。振り向いてしまえば、きっともう先へは進めなくなってしまうから。
「おかあさん。おとうさん、あそこにいるよ? ねぇ、なんでおいて行っちゃうの?」
「走れ、早く、逃げろ。由紀さん。理沙」
私は無言のまま走り出しました。
不思議と、周りで燃えている火は私たちに燃え移ることはなく、むしろ私たちを避けている様でした。
何の苦労もなく脱出した私はそのまま保護され、病院へと運ばれました。
そして、やはりと言うべきでしょうか。大斗さんは助かりませんでした。
苦しかった。泣き出したくて、悲しくて、どうしようもなくて、でも、それでも私には大斗さんの言葉が残っていました。
『しっかりしろ!! 君は理沙の母親だろう!!』
私はその言葉を心に、ただひたすら理沙を守る為に、戦い続けました。
そして、大斗さんが亡くなってから一年の月日が流れたある日、私に突然あの力が宿りました。
奇跡の力が。
私は呪いました。恨みました。憎みました。
この力を私に授けた者に、どうして今更なのか。どうしてあの時私に授けてくれなかったのか。
それから私は奇跡の力に願いました。大斗さんを返してほしいと、あの幸せだった生活を返して欲しいと。
しかし奇跡の力は何も応えてくれませんでした。
私は、もう奇跡でも大斗さんに会えないのだと知り、泣き崩れました。
どうしようもなく打ち砕かれて、生きる気力すら奪われて、それでも私はただ理沙の為に母として強くあろうと決めました。
いつか私という存在が要らなくなるまで、あの子の為に生きようと。
そう決意したのです。
そして、その日はそれほど遠くない日に訪れました。
今から少し前。私は理沙と言い争いになりました。
最近、学校がうまくいかないと悩む理沙は、外で良くない人と付き合うようになりました。
あまり家にも帰らず、遊び歩いていました。
私はこのままでは理沙が駄目になってしまうと、何とか理沙を捕まえ、説得しようとしましたが、聞き入れてもらえませんでした。
「離してよ! お母さんに私の気持ちなんて分からないよ!」
「そんな事ないわ。お母さん。何でも力になるから」
「出来る事なんて何もないよ! お母さんは良いよね! 父親も母親もいる家で育ったんだもの!! 私と違ってお父さんが居ないって事も無くてさ!!」
「……っ!」
何も言えませんでした。
私の両親はまだ健在でしたし、私は大斗さんや両親の様に素晴らしい人間ではありませんでしたから。
そう言われるのは当然の事で、間違いないことで、そしてどうしようもない事でした。
ただ、思うのは。あの時、あの火事の時、もし生き残ったのが私ではなく大斗さんだったなら、きっと二人は幸せになれただろう。
あるいは理沙だけが助かったのなら、両親が理沙をこんなに苦しませる事もなかったのではないかと思うのです。
どうして世界は私なんかを生かそうと思ったのでしょうか。
その答えは私には分かりませんでした。
でも、まだ間に合うと思うのです。私などは捨てて、私の両親と共に生きるという選択だってあるはずです。
私は理沙が望んだ時にだけ会えれば、後はお金だけ渡すという選択肢だってあるはずです。
両親には共に暮らす事も提案されていましたし、これがきっと最も良いアイディアであると私は思いました。
そして、家から走って出ていこうとしている理沙を追いかけて私も走りました。
最近ずっと運動していなかったから、少し走るだけで息が上がって苦しいですが、それでも理沙にまだ幸せを諦めないで欲しいと伝えたかったのです。
自暴自棄になって、自分を傷つけても悲しいだけです。私というお荷物を捨てればきっと理沙は幸せになれる。
そう考え、追いかけていた私は、家の近くにある交差点で泣いている理沙に追いつきました。
もう少しで触れられるという所まで迫りましたが、理沙は私の手などするりと抜けて、青になった横断歩道を渡っていきます。
そして、その時、大きな音と共に視界の向こうから何かが迫ってきているのが見えました。
私は咄嗟に私の中にある奇跡の力に向かって、理沙を助けてと願いました。
その願いは叶いました。
大斗さんを返して欲しいという願いには何も応えなかった奇跡の力は、私の願いを間違いなく叶え、理沙は暴走する車から遠く離れた場所へと転がりました。
私はそれを見届けて、衝撃と共に宙へと投げ出されました。
おそらくは車に当たった衝撃と地面に当たった衝撃で、息をするのも苦しい状況です。
ですが、奇跡的に理沙は傷一つありませんでした。奇跡の力は確かに存在していたようです。
「お母さん! お母さん!! ねぇ、しっかりして!! お母さん!!」
「……ぁ」
何故理沙は泣いているんでしょうか。ようやくあなたの人生から邪魔な物がいなくなるのに。
ようやくあなたの人生に幸せが訪れるのに。
笑ってほしい。大斗さんによく似た笑顔で、昔の私の様に無邪気な笑顔で。
それが私の希望なのですから。
『どうか。幸せになってください』
もう奇跡の力は失われてしまったけど。それでも、どうか。
私が大斗さんに出会えて、いっぱいの幸せを貰えた様に。
貴女も、貴女の事の幸せを願ってくれる人と共に歩めます様にと。
ただ、ただ、私はいつまでも、願い続けているのでした。
この呪いが希望になるように、奇跡へつながるようにと、ただ。
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