43 / 72
聖域への圧力
しおりを挟む
帝都への帰還
大聖堂の門前で、イザベラが「奇跡」のパフォーマンスを行った、まさにその日。
アラン率いる、帝国正規軍(北から反転した軍)が帝都に帰還した。
「……なんという熱狂だ」
アランは、帝都の民衆がイザベラを「聖女」と崇め、大聖堂を取り囲んで「魔女(エリアーナ)を引き渡せ」と叫んでいるのを、目の当たりにした。
(……勝った)
アランは確信した。
大神官がどれだけ「正義」を説こうとも、民衆は、目に見える「奇跡(イザベラの力)」を信じたのだ。
「イザベラ。よくやった」
アランは、祭壇から戻ってきたイザベラを強く抱きしめた。
「アラン様……。わたくし怖かった……」
イザベラは、アランの胸で、か弱く震えてみせた(悪魔王の力を使った疲労は、本物だったが)。
「もう、大丈夫だ。俺の軍が戻ってきた」
アランは、大聖堂を憎悪の目で見据えた。
「……大神官め。俺に逆らったことを後悔させてやる」
アランはイザベラの「奇跡」によって、民衆の支持が完全に自分にあると、信じ込んだ。
彼はエリアーナとルシアンを、引きずり出すための次の「一手」をためらわなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
アランの「圧力」
アランは帝都の正規軍、総勢五万の全てに、大聖堂を完全に「包囲」させた。
今までは近衛兵による「封鎖線」だったが、今度は正規軍による、完全な「軍事包囲」だ。
「……大神官に最後通牒を突きつけろ」
アランはバートン伯爵に命じた。
「……『明日までにエリアーナとルシアンを引き渡さなければ、大聖堂への全ての『食糧』『水』『医薬品』の搬入を、永久に停止する』と」
「……はっ! よろしいのですか?殿下。……それは聖域への、明確な……」
「構わん!」
アランは叫んだ。
「民衆は我らの味方だ! イザベラ(聖女)の味方だ!」
「『魔女』を匿う大神官が、飢え死にしようとも、それは『神の罰』だ。……民はそう解釈する」
アランは、イザベラの人気を背景に強気だった。
彼は、大神官が聖堂内の、他の神官やシスターたちを飢えさせるわけにはいかず、必ず屈服すると信じていた。
(……どうだ、エリアーナ。お前の選んだ『砦』は、今や、お前を閉じ込める『牢獄』となったぞ)
アランは高笑いが止まらなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※
大聖堂の「静寂」
アランの「最後通牒」は、大神官の元に届けられた。
大聖堂の内部。
エリアーナとルシアンは、大神官と共に、その「通牒」を読んでいた。
「……兵糧攻めか。アランの浅知恵だな」
ルシアンが吐き捨てる。
「……大神官様」
エリアーナが、大神官の顔を心配そうに見上げた。
「……わたくしたちのせいで、聖堂の皆さまを飢えさせるわけには……」
「……エリアーナ嬢」
大神官は、静かに目を閉じた。
「……わしは、アラン殿下を見誤っていた」
「……え?」
「あれほど愚かだとはな」
大神官は、アランの「通牒」を破り捨てた。
「……!」
「……エリアーナ嬢。ルシアン公爵。……この大聖堂の地下を、ご覧になられますかな?」
「……地下?」
大神官は二人を連れ、祭壇の裏にある、隠し階段へと向かった。
「アラン殿下は、忘れておられる」
「この大聖堂が、何のために、この帝都の一番高い丘の上に建てられたのかを」
大神官が、地下の重い扉を開ける。
そこには、信じられないほどの広大な「空間」が広がっていた。
※※※※※※※※※※※※※※※
聖域の「真実」
「……これは」
ルシアンが息を呑んだ。
地下空間には、穀物の袋が天井まで積まれ、巨大な水瓶が何列にも並んでいた。
「……備蓄庫?」
「そうだ」
大神官は頷いた。
「この大聖堂は、帝都が敵に包囲された時のための、『最後の砦(とりで)』として設計されている」
「……!」
「アラン殿下が北の軍を動かす、ずっと前から……いや、この帝国が建国されたその時から」
「……」
「ここには、帝都の全住民が、三ヶ月は、籠城できるだけの、『食糧』と『水』が備蓄されている」
エリアーナは、呆然とした。
(……1周目の、知識にもなかった)
(そうよ。わたくしは皇妃だったけれど、大聖堂の、こんな秘密まで知るはずがなかった)
「……アラン殿下は、もちろん、この『備蓄庫』のことはご存じないのですね?」
「うむ。知っているのは、皇帝と、わしだけだ」
大神官は、静かに笑った。
「……アラン殿下は、『兵糧攻め』をなさるそうだ」
「……」
「……よかろう。どちらが先に飢えるか。……見届けてやろうではないか」
アランが自信満々で放った「兵糧攻め」という圧力は、大聖堂の圧倒的な「備蓄」の前で、全くの「無意味」と化した。
エリアーナとルシアンは、アランが自らの「無知」によって、時間を浪費していくのを静かに見守ることにした。
大聖堂の門前で、イザベラが「奇跡」のパフォーマンスを行った、まさにその日。
アラン率いる、帝国正規軍(北から反転した軍)が帝都に帰還した。
「……なんという熱狂だ」
アランは、帝都の民衆がイザベラを「聖女」と崇め、大聖堂を取り囲んで「魔女(エリアーナ)を引き渡せ」と叫んでいるのを、目の当たりにした。
(……勝った)
アランは確信した。
大神官がどれだけ「正義」を説こうとも、民衆は、目に見える「奇跡(イザベラの力)」を信じたのだ。
「イザベラ。よくやった」
アランは、祭壇から戻ってきたイザベラを強く抱きしめた。
「アラン様……。わたくし怖かった……」
イザベラは、アランの胸で、か弱く震えてみせた(悪魔王の力を使った疲労は、本物だったが)。
「もう、大丈夫だ。俺の軍が戻ってきた」
アランは、大聖堂を憎悪の目で見据えた。
「……大神官め。俺に逆らったことを後悔させてやる」
アランはイザベラの「奇跡」によって、民衆の支持が完全に自分にあると、信じ込んだ。
彼はエリアーナとルシアンを、引きずり出すための次の「一手」をためらわなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
アランの「圧力」
アランは帝都の正規軍、総勢五万の全てに、大聖堂を完全に「包囲」させた。
今までは近衛兵による「封鎖線」だったが、今度は正規軍による、完全な「軍事包囲」だ。
「……大神官に最後通牒を突きつけろ」
アランはバートン伯爵に命じた。
「……『明日までにエリアーナとルシアンを引き渡さなければ、大聖堂への全ての『食糧』『水』『医薬品』の搬入を、永久に停止する』と」
「……はっ! よろしいのですか?殿下。……それは聖域への、明確な……」
「構わん!」
アランは叫んだ。
「民衆は我らの味方だ! イザベラ(聖女)の味方だ!」
「『魔女』を匿う大神官が、飢え死にしようとも、それは『神の罰』だ。……民はそう解釈する」
アランは、イザベラの人気を背景に強気だった。
彼は、大神官が聖堂内の、他の神官やシスターたちを飢えさせるわけにはいかず、必ず屈服すると信じていた。
(……どうだ、エリアーナ。お前の選んだ『砦』は、今や、お前を閉じ込める『牢獄』となったぞ)
アランは高笑いが止まらなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※
大聖堂の「静寂」
アランの「最後通牒」は、大神官の元に届けられた。
大聖堂の内部。
エリアーナとルシアンは、大神官と共に、その「通牒」を読んでいた。
「……兵糧攻めか。アランの浅知恵だな」
ルシアンが吐き捨てる。
「……大神官様」
エリアーナが、大神官の顔を心配そうに見上げた。
「……わたくしたちのせいで、聖堂の皆さまを飢えさせるわけには……」
「……エリアーナ嬢」
大神官は、静かに目を閉じた。
「……わしは、アラン殿下を見誤っていた」
「……え?」
「あれほど愚かだとはな」
大神官は、アランの「通牒」を破り捨てた。
「……!」
「……エリアーナ嬢。ルシアン公爵。……この大聖堂の地下を、ご覧になられますかな?」
「……地下?」
大神官は二人を連れ、祭壇の裏にある、隠し階段へと向かった。
「アラン殿下は、忘れておられる」
「この大聖堂が、何のために、この帝都の一番高い丘の上に建てられたのかを」
大神官が、地下の重い扉を開ける。
そこには、信じられないほどの広大な「空間」が広がっていた。
※※※※※※※※※※※※※※※
聖域の「真実」
「……これは」
ルシアンが息を呑んだ。
地下空間には、穀物の袋が天井まで積まれ、巨大な水瓶が何列にも並んでいた。
「……備蓄庫?」
「そうだ」
大神官は頷いた。
「この大聖堂は、帝都が敵に包囲された時のための、『最後の砦(とりで)』として設計されている」
「……!」
「アラン殿下が北の軍を動かす、ずっと前から……いや、この帝国が建国されたその時から」
「……」
「ここには、帝都の全住民が、三ヶ月は、籠城できるだけの、『食糧』と『水』が備蓄されている」
エリアーナは、呆然とした。
(……1周目の、知識にもなかった)
(そうよ。わたくしは皇妃だったけれど、大聖堂の、こんな秘密まで知るはずがなかった)
「……アラン殿下は、もちろん、この『備蓄庫』のことはご存じないのですね?」
「うむ。知っているのは、皇帝と、わしだけだ」
大神官は、静かに笑った。
「……アラン殿下は、『兵糧攻め』をなさるそうだ」
「……」
「……よかろう。どちらが先に飢えるか。……見届けてやろうではないか」
アランが自信満々で放った「兵糧攻め」という圧力は、大聖堂の圧倒的な「備蓄」の前で、全くの「無意味」と化した。
エリアーナとルシアンは、アランが自らの「無知」によって、時間を浪費していくのを静かに見守ることにした。
191
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
[完結]だってあなたが望んだことでしょう?
青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。
アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。
やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー
満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』
鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。
断罪もなければ、処刑もない。
血も流れず、罪状も曖昧。
ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。
婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。
彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。
一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。
「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」
その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。
だが真実は語られない。
急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。
証拠はない。
ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。
そして気づく。
自分のざまあは、罰ではない。
「中心ではなくなること」だと。
王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。
旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。
婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。
激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。
これは――
満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?
青空一夏
恋愛
私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。
私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・
これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。
※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。
※途中タグの追加や削除もありえます。
※表紙は青空作成AIイラストです。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる