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聖教国の審問と、四人の守護者
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黄金の天秤を描いた白銀の旗が、冷たいノースガルの風に激しくたなびいていた。
公爵城の正門前に現れたのは、大陸最大の宗教勢力『聖教国レオス』の異端審問騎士団。その中心で、一際豪奢な法衣を纏った男――審問官ヴァレリウスが、馬上で尊大に口を開いた。
「ノースガル公爵閣下、およびベルグラードの令息方。……我らは聖なる天秤の命により、ここへ参った。此度の『氷晶花の奇跡』なる噂……、それは神の領域を侵す冒涜であり、その源泉たるアデリーン・フォン・ベルグラードには異端の疑いがある」
ヴァレリウスの声は、権威という名の傲慢さに満ちていた。
「速やかに彼女の身柄をこちらへ。聖都にて真実を審問し、その魂に潜む悪魔を祓わねばならん」
静寂が、城門前を支配した。
だが、それは恐怖による沈黙ではない。ヴァレリウスが言葉を終えるよりも早く、四つの絶望的なまでの「殺意」が、彼とその背後の騎士団を襲ったからだ。
「……身柄を拘束する、だと?」
最初に口を開いたのは、ゼノスだった。
彼が軽く右手を上げると、門周囲の気温が一気に数百度下がり、審問騎士団の足元が瞬時に石よりも硬い氷に縫い付けられた。
「我が国に聖教国の法は及ばない。帰れ。さもなくば、その舌ごと貴様らを氷塊に変え、春まで門の飾りにしてやろう」
「待て、公爵。この羽虫を潰すのは、兄である私の役目だ」
マクシミリアンが、抜刀せぬまま一歩前に出た。それだけで、訓練されたはずの審問騎士たちがガタガタと震え始める。
「ベルグラード家の者に手を出すというなら、貴様らの大聖堂を更地にするまでだ。聖都を灰にする準備なら、すでに我が騎士団に命じてある」
「おやおや、物騒だね二人とも。……でも、理論的にはマクシミリアン兄様が正しいよ」
次男シルヴェスターが、冷たくレンズを光らせて割り込んだ。
「聖なる魔力? ……計測したが、ただの波長の粗い、効率の悪いエネルギーだね。そんな不純な力で、最高純度の調律師であるアデリーンを裁こうなど、科学的にも滑稽の極みだ」
「それにさ、ヴァレリウス様」
三男ファビアンが、優雅に扇子で口元を隠しながら、毒蛇のような笑みを浮かべた。
「聖教国が裏で行っている『魔石の不当な徴収』と『孤児の売買』。……その確かな証拠を、僕はいくつか握っているんだ。今ここで読み上げてもいいけれど、どうかな?」
四者四様の、圧倒的な拒絶。
ヴァレリウスは顔を真っ青に染めながらも、懐から黄金の鏡――聖遺物『聖女の鏡』を取り出した。
「おのれ、不届き者め! この鏡は、偽りの力を暴き出す神の眼! これが赤く光れば、その娘が邪悪な異端である証明だ!」
ヴァレリウスが鏡をアデリーンに向けた。
鏡はアデリーンの強力な魔力に過剰に反応し、不吉な真っ赤な光を放ち始める。
「見たか! 赤い光だ! この娘はやはり悪ま……っ!?」
勝ち誇ろうとしたヴァレリウスの言葉が、凍りついた。
アデリーンが、自ら一歩前へ踏み出したからだ。彼女を必死に止めようとするマリエッタの手を優しく制し、アデリーンは銀の扇子を静かに広げた。
「……その鏡からは、とても悲しい音が聞こえますわ」
「何だと……?」
「不協和音。……人々の信仰を無理やり歪め、魔力を強制的に共鳴させる……、なんて醜いノイズ。……これでは、精霊たちが怯えてしまいます」
アデリーンは目を閉じ、鏡から放たれる赤い波動の『波長』を見定めた。
彼女が扇子をひと振りした瞬間、世界から一切の音が消えた。
「――黒の沈黙(ブラック・サイレンス)」
瞬間、激しく発光していた黄金の鏡が、まるで火が消えるように沈黙した。
赤い光は霧散し、鏡はただの曇ったガラス板へと変わり、ヴァレリウスが纏っていた聖なるオーラさえも、アデリーンの力によって「無」へと帰された。
「な、バカな……! 聖遺物の力が消えただと!? 貴様、何をした……!」
「私は、ただ整えただけです。……ヴァレリウス様。私の力は、神を冒涜するためのものではありません。この地に生きる精霊たちと、愛する人々を守るためのものです」
アデリーンは凛とした声で、震える審問官を見つめた。
「お帰りください。……ここは私の大切な場所です。これ以上、この国の静寂を汚すことは許しません」
アデリーンの背後で、ゼノスと三人の兄たちが、誇らしげに、そして改めて彼女への独占欲を深めるような視線で彼女を見守っていた。
「……っ、く……! 覚えておけ! 王国の『真の聖女』が北方に現れたという噂は、すぐに大陸中に広まるだろう! 我らが引いても、次に来るのは国という単位だぞ!」
捨て台詞を残し、審問官たちは逃げるように去っていった。
静まり返った雪原。
ゼノスが背後からアデリーンを抱き寄せ、彼女の耳元で低く囁いた。
「……よく言った。だが、あいつの言う通り、これからお前を狙う羽虫は増えるだろう」
「あら、ゼノス様がいれば大丈夫でしょう?」
アデリーンが微笑むと、ゼノスは彼女の首筋に深く顔を埋めた。
「ああ。……だが、羽虫よりも先に、こいつらをどうにかするのが先決だ」
ゼノスの視線の先では、マクシミリアンたちが「アデリーン、よくやった! 記念に大聖堂の一つでもプレゼントしようか?」と、相変わらず過激な愛の言葉を叫んでいた。
アデリーンを巡る、大陸全土を巻き込む狂乱。
その幕は、今、完全に切って落とされたのだ。
公爵城の正門前に現れたのは、大陸最大の宗教勢力『聖教国レオス』の異端審問騎士団。その中心で、一際豪奢な法衣を纏った男――審問官ヴァレリウスが、馬上で尊大に口を開いた。
「ノースガル公爵閣下、およびベルグラードの令息方。……我らは聖なる天秤の命により、ここへ参った。此度の『氷晶花の奇跡』なる噂……、それは神の領域を侵す冒涜であり、その源泉たるアデリーン・フォン・ベルグラードには異端の疑いがある」
ヴァレリウスの声は、権威という名の傲慢さに満ちていた。
「速やかに彼女の身柄をこちらへ。聖都にて真実を審問し、その魂に潜む悪魔を祓わねばならん」
静寂が、城門前を支配した。
だが、それは恐怖による沈黙ではない。ヴァレリウスが言葉を終えるよりも早く、四つの絶望的なまでの「殺意」が、彼とその背後の騎士団を襲ったからだ。
「……身柄を拘束する、だと?」
最初に口を開いたのは、ゼノスだった。
彼が軽く右手を上げると、門周囲の気温が一気に数百度下がり、審問騎士団の足元が瞬時に石よりも硬い氷に縫い付けられた。
「我が国に聖教国の法は及ばない。帰れ。さもなくば、その舌ごと貴様らを氷塊に変え、春まで門の飾りにしてやろう」
「待て、公爵。この羽虫を潰すのは、兄である私の役目だ」
マクシミリアンが、抜刀せぬまま一歩前に出た。それだけで、訓練されたはずの審問騎士たちがガタガタと震え始める。
「ベルグラード家の者に手を出すというなら、貴様らの大聖堂を更地にするまでだ。聖都を灰にする準備なら、すでに我が騎士団に命じてある」
「おやおや、物騒だね二人とも。……でも、理論的にはマクシミリアン兄様が正しいよ」
次男シルヴェスターが、冷たくレンズを光らせて割り込んだ。
「聖なる魔力? ……計測したが、ただの波長の粗い、効率の悪いエネルギーだね。そんな不純な力で、最高純度の調律師であるアデリーンを裁こうなど、科学的にも滑稽の極みだ」
「それにさ、ヴァレリウス様」
三男ファビアンが、優雅に扇子で口元を隠しながら、毒蛇のような笑みを浮かべた。
「聖教国が裏で行っている『魔石の不当な徴収』と『孤児の売買』。……その確かな証拠を、僕はいくつか握っているんだ。今ここで読み上げてもいいけれど、どうかな?」
四者四様の、圧倒的な拒絶。
ヴァレリウスは顔を真っ青に染めながらも、懐から黄金の鏡――聖遺物『聖女の鏡』を取り出した。
「おのれ、不届き者め! この鏡は、偽りの力を暴き出す神の眼! これが赤く光れば、その娘が邪悪な異端である証明だ!」
ヴァレリウスが鏡をアデリーンに向けた。
鏡はアデリーンの強力な魔力に過剰に反応し、不吉な真っ赤な光を放ち始める。
「見たか! 赤い光だ! この娘はやはり悪ま……っ!?」
勝ち誇ろうとしたヴァレリウスの言葉が、凍りついた。
アデリーンが、自ら一歩前へ踏み出したからだ。彼女を必死に止めようとするマリエッタの手を優しく制し、アデリーンは銀の扇子を静かに広げた。
「……その鏡からは、とても悲しい音が聞こえますわ」
「何だと……?」
「不協和音。……人々の信仰を無理やり歪め、魔力を強制的に共鳴させる……、なんて醜いノイズ。……これでは、精霊たちが怯えてしまいます」
アデリーンは目を閉じ、鏡から放たれる赤い波動の『波長』を見定めた。
彼女が扇子をひと振りした瞬間、世界から一切の音が消えた。
「――黒の沈黙(ブラック・サイレンス)」
瞬間、激しく発光していた黄金の鏡が、まるで火が消えるように沈黙した。
赤い光は霧散し、鏡はただの曇ったガラス板へと変わり、ヴァレリウスが纏っていた聖なるオーラさえも、アデリーンの力によって「無」へと帰された。
「な、バカな……! 聖遺物の力が消えただと!? 貴様、何をした……!」
「私は、ただ整えただけです。……ヴァレリウス様。私の力は、神を冒涜するためのものではありません。この地に生きる精霊たちと、愛する人々を守るためのものです」
アデリーンは凛とした声で、震える審問官を見つめた。
「お帰りください。……ここは私の大切な場所です。これ以上、この国の静寂を汚すことは許しません」
アデリーンの背後で、ゼノスと三人の兄たちが、誇らしげに、そして改めて彼女への独占欲を深めるような視線で彼女を見守っていた。
「……っ、く……! 覚えておけ! 王国の『真の聖女』が北方に現れたという噂は、すぐに大陸中に広まるだろう! 我らが引いても、次に来るのは国という単位だぞ!」
捨て台詞を残し、審問官たちは逃げるように去っていった。
静まり返った雪原。
ゼノスが背後からアデリーンを抱き寄せ、彼女の耳元で低く囁いた。
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「あら、ゼノス様がいれば大丈夫でしょう?」
アデリーンが微笑むと、ゼノスは彼女の首筋に深く顔を埋めた。
「ああ。……だが、羽虫よりも先に、こいつらをどうにかするのが先決だ」
ゼノスの視線の先では、マクシミリアンたちが「アデリーン、よくやった! 記念に大聖堂の一つでもプレゼントしようか?」と、相変わらず過激な愛の言葉を叫んでいた。
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