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第10話
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やる事やったベッドはシーツも無いのにベトベトで、それでなくても寝室はぐちゃぐちゃだったので、動けなくなったフィズ様を抱えて、風呂に入った後に客間に移動した。
フィズ様はベッドに寝かせた途端に寝息をたてはじめる。まあ、無茶させたしな。肩の傷はもう完全に塞がっていて、やっぱり便利だなあと思った。影ができるほど長いまつ毛を見ながら、今日のことを思い出す。生まれて初めて「失ってないけない」と感じる。
この人を失ってはいけない。失ったらきっともう生きていけない。そう心の底で警告がなる。
「うーん。これが、恋というやつなんだろうか」
未知すぎてわからないが、ううんと寝返りを打つフィズ様をみてじんわりと胸が温まる感じがして、それはひどく心地よかった。
次の日、フィズ様と一緒に王宮へと呼ばれた。事情聴取的なものだろうと思っていくと、部屋の中には縛られているカラさんがいて、フィズ様が固まった。
「カラ⁉︎おい、どういうことだ!」
「昨日捕まえた男どもが、この者が手引きしたと証言したものですから」
カラさんの隣に立つ騎士がそう答えて、そんな馬鹿な!とフィズ様が怒鳴る。
カラさんは何度も殴られたのか、顔のあちこちが青く腫れ上がり、けひゅ、けひゅ、と妙な呼吸をしていて、早く治療しないと命に関わるのが見てとれた。
「紋様のことっすか?」
俺の問いに、騎士はそうだと頷く。
「カラの紋様はもう切り崩してあるはずだろう!」
「それですが、紋様を崩せば術が解けるというのは誤りだそうです。こいつのように組織を裏切ってフィズ様に取り入った男を使えるように、偽の情報を教えておくのだとか」
それって。
「カラの意志じゃないじゃないか!」
「それでも、殿下を危険に晒したことに変わりはありません」
騎士の口調は淡々としていて、言わんとすることもわからないでもないが、フィズ様が泣きそうでどうしたものか、と思う。
「私の事は、捨て置きください、殿下」
「カラ!」
「その、騎士のいう、とおり、私は貴方の命を、危険に晒し、ました」
整わない呼吸の合間で、カラさんが少しずつ喋る。目は虚ろで、フィズ様と視線が合わない。このままだと、数日保たずにきっと。
「嫌だ。カラ、死ぬなんて許さない」
「殿下…」
フィズ様はカラさんに駆け寄って、その手を握る。止めようとした騎士を俺が止めた。
「で、騎士団はどんな処罰を受けるんっすか?」
「といいますと?」
「まんまと敵の侵入を許し、フィズ殿下にお怪我を負わせた王宮の騎士団は、どう落とし前をつけるのかって聞いてるんですよ。団長のお命ちょうだいとかですか?」
ていうか、そもそも離宮に護衛がほとんど常駐していないのがおかしいんだよ。
フィズ様の命を狙っているような組織がいくつも存在することは、元市民の俺でも知っていることだ。
王宮の連中が知らないわけがない。
なんなら死んでもいいと思っている、とすら思えて、ちりちりと腹の底が燻る。
「国王陛下と皇后陛下がどのようなお考えなのかは、元平民の俺にはとんとわかりませんけどね。少なくとも、ずっと殿下を支えていたカラさんの方が余程フィズ殿下のことを考えているんじゃないかって思いますよ」
「っ、不敬ですよ!」
「王位を継ぐ権利はないとしても、殿下はこの離宮に住むことを許されている歴とした王族だ。それを王宮騎士団の護衛の怠慢から危険に晒したんだから、殿下の忠臣であるカラさんに死ねっつーんなら、騎士団だってそれなりの処罰を受けて当然だろ。俺はなんか変なこといってますか?ねぇ」
正直、貴族のあれこれなんて知らない俺だ。本当に何か理由があるのかもしれない。
が、そんなことはどうでもいい。重要なのは、いまここでカラさんを死なせてはいけないということ。
言葉なんて勢いだけでもいい。とにかく、今ここからカラさんを奪って離宮へ戻ることが重要だ。
「あとね。カラさんからちゃんと情報仕入れました?」
「は?」
「このあざの感じだと、集団で一気にやったでしょ。拷問とかじゃなくて、ほとんど殺す気で」
俺の言葉に、フィズ様の顔色がさぁ、と怒りへと変わる。
「バカじゃねえの、としか思えないっすね。カラさん、痛みますけど、ちょっと我慢してくださいね」
「っ、う」
抱き上げると、カラさんは小さく呻いたが、それ以上は声をあげない。すげぇな。この人文官だろ。
「リュカ様!何をするつもりですか!」
「カラさんから、情報を収集するんですよ。でも、あんたらはこないでくださいね」
「バカなことをいうな!」
騎士が扉を塞ごうとするのを止めたのは、俺ではなくフィズ様だった。
「退け」
「ひっ⁉︎」
ぴりぴりと肌が痛くなるような殺気。
フィズ様がキレている。
「王宮の騎士団は、今後一切、私の離宮に近づくな」
「なっ、それでは警護ができません!」
「はっ、お前らが私の警護を?ちゃんとしたことなんてないくせに?」
「っ!」
フィズ様はそれだけいうと、俺に行くぞ、と声をかけてきて、俺はそれに従った。
***
フィズ様ブチギレ回
フィズ様はベッドに寝かせた途端に寝息をたてはじめる。まあ、無茶させたしな。肩の傷はもう完全に塞がっていて、やっぱり便利だなあと思った。影ができるほど長いまつ毛を見ながら、今日のことを思い出す。生まれて初めて「失ってないけない」と感じる。
この人を失ってはいけない。失ったらきっともう生きていけない。そう心の底で警告がなる。
「うーん。これが、恋というやつなんだろうか」
未知すぎてわからないが、ううんと寝返りを打つフィズ様をみてじんわりと胸が温まる感じがして、それはひどく心地よかった。
次の日、フィズ様と一緒に王宮へと呼ばれた。事情聴取的なものだろうと思っていくと、部屋の中には縛られているカラさんがいて、フィズ様が固まった。
「カラ⁉︎おい、どういうことだ!」
「昨日捕まえた男どもが、この者が手引きしたと証言したものですから」
カラさんの隣に立つ騎士がそう答えて、そんな馬鹿な!とフィズ様が怒鳴る。
カラさんは何度も殴られたのか、顔のあちこちが青く腫れ上がり、けひゅ、けひゅ、と妙な呼吸をしていて、早く治療しないと命に関わるのが見てとれた。
「紋様のことっすか?」
俺の問いに、騎士はそうだと頷く。
「カラの紋様はもう切り崩してあるはずだろう!」
「それですが、紋様を崩せば術が解けるというのは誤りだそうです。こいつのように組織を裏切ってフィズ様に取り入った男を使えるように、偽の情報を教えておくのだとか」
それって。
「カラの意志じゃないじゃないか!」
「それでも、殿下を危険に晒したことに変わりはありません」
騎士の口調は淡々としていて、言わんとすることもわからないでもないが、フィズ様が泣きそうでどうしたものか、と思う。
「私の事は、捨て置きください、殿下」
「カラ!」
「その、騎士のいう、とおり、私は貴方の命を、危険に晒し、ました」
整わない呼吸の合間で、カラさんが少しずつ喋る。目は虚ろで、フィズ様と視線が合わない。このままだと、数日保たずにきっと。
「嫌だ。カラ、死ぬなんて許さない」
「殿下…」
フィズ様はカラさんに駆け寄って、その手を握る。止めようとした騎士を俺が止めた。
「で、騎士団はどんな処罰を受けるんっすか?」
「といいますと?」
「まんまと敵の侵入を許し、フィズ殿下にお怪我を負わせた王宮の騎士団は、どう落とし前をつけるのかって聞いてるんですよ。団長のお命ちょうだいとかですか?」
ていうか、そもそも離宮に護衛がほとんど常駐していないのがおかしいんだよ。
フィズ様の命を狙っているような組織がいくつも存在することは、元市民の俺でも知っていることだ。
王宮の連中が知らないわけがない。
なんなら死んでもいいと思っている、とすら思えて、ちりちりと腹の底が燻る。
「国王陛下と皇后陛下がどのようなお考えなのかは、元平民の俺にはとんとわかりませんけどね。少なくとも、ずっと殿下を支えていたカラさんの方が余程フィズ殿下のことを考えているんじゃないかって思いますよ」
「っ、不敬ですよ!」
「王位を継ぐ権利はないとしても、殿下はこの離宮に住むことを許されている歴とした王族だ。それを王宮騎士団の護衛の怠慢から危険に晒したんだから、殿下の忠臣であるカラさんに死ねっつーんなら、騎士団だってそれなりの処罰を受けて当然だろ。俺はなんか変なこといってますか?ねぇ」
正直、貴族のあれこれなんて知らない俺だ。本当に何か理由があるのかもしれない。
が、そんなことはどうでもいい。重要なのは、いまここでカラさんを死なせてはいけないということ。
言葉なんて勢いだけでもいい。とにかく、今ここからカラさんを奪って離宮へ戻ることが重要だ。
「あとね。カラさんからちゃんと情報仕入れました?」
「は?」
「このあざの感じだと、集団で一気にやったでしょ。拷問とかじゃなくて、ほとんど殺す気で」
俺の言葉に、フィズ様の顔色がさぁ、と怒りへと変わる。
「バカじゃねえの、としか思えないっすね。カラさん、痛みますけど、ちょっと我慢してくださいね」
「っ、う」
抱き上げると、カラさんは小さく呻いたが、それ以上は声をあげない。すげぇな。この人文官だろ。
「リュカ様!何をするつもりですか!」
「カラさんから、情報を収集するんですよ。でも、あんたらはこないでくださいね」
「バカなことをいうな!」
騎士が扉を塞ごうとするのを止めたのは、俺ではなくフィズ様だった。
「退け」
「ひっ⁉︎」
ぴりぴりと肌が痛くなるような殺気。
フィズ様がキレている。
「王宮の騎士団は、今後一切、私の離宮に近づくな」
「なっ、それでは警護ができません!」
「はっ、お前らが私の警護を?ちゃんとしたことなんてないくせに?」
「っ!」
フィズ様はそれだけいうと、俺に行くぞ、と声をかけてきて、俺はそれに従った。
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フィズ様ブチギレ回
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