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第11話
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離宮に戻ると、離宮の使用人たちがカラさんの様子をみて悲鳴を上げた。
みんなが大慌てで彼の手当をするための準備に走る。数の少ない離宮の使用人達の結束の強さと絆が、見えた気がした。
離宮に戻る頃にはカラさんの意識はもうなくて、不規則な呼吸を繰り返すカラさんを客間のベッドに寝かせる。
服を脱がすと、体もほとんど色が変わるほど殴られた跡があって、それを見たフィズ様が唇を噛んだ。
すぐにやってきた、フィズ様が唯一信頼をしているという医者がカラさんの様子をみて、「助かるかどうかは、五分五分というところです。明日までに意識が戻らなければ、覚悟をしておいた方がいいですね」と言った。
***
「カラ、死ぬなよ。戻ってこい」
そう言って、カラさんの手を握りベッド横に跪いたままのフィズ様に椅子を差し出す。
「その姿勢じゃ、カラさんの意識が戻るまで体力が持ちませんよ」
「…やめろとは言わないのか」
「言いませんよ。それで止めるフィズ様じゃない事くらい、ひと月付き合えばわかります」
フィズ様は苦笑して、椅子に座ってからまたカラさんの手を握り直す。
「…カラはな。私の兄弟みたいなものなんだ」
ぽつり、とフィズ様がいう。
「最初は、確かに私を殺すために来たんだけどな。私もカラも、まだ八つの頃だった」
今年二十になるフィズ様だから、もう十年以上の付き合いなのか、この二人は。
「その時は私の方が強くて…、というか、カラは運動神経悪くてな」
フィズ様はくすくすと笑う。
「この鈍臭いカラが、なんやかんや、一生懸命私をなんとかしようとしてくるのをいなすのが、楽しくて」
「……」
「そうこうしているうちに、カラの方から言ってきたんだ。貴方を殺すなんて、無理だって」
それはきっと、物理的にではなくて、フィズ様の人柄にカラさんが惹かれたからなのだろう。
「そして、私の目の前でこの紋様をナイフで切り裂いた。許されるなら、貴方を支えたいと」
フィズ様は今はあざで見えづらくなっているカラさんのその紋様と、切り傷をするり、と撫でた。
「私は、異形だから。痛くても人よりもずっと先に治るから。…代われるなら、代わりたいよ、リュカ」
「フィズ様」
「カラの傷を、私が代わりに負えればいいのに」
ぽたり、と涙がカラさんの手のひらを濡らしていく。
「それ、カラさんに伝えたらきっと、違う意味で気を失っちゃいますよ。『何バカな言ってるんですか、フィズ殿下⁉︎』って」
「…ふ、そうだな…」
次の日の朝になっても、カラさんの意識は戻ってこなかった。
***
意外にも、王宮や騎士団はこちらに干渉してくることがなかった。伝え聞こえてくる感じだと、国王陛下が止めている感じだという。
ほんと何考えてんのかわからねぇな、と思うがこちらに干渉してこないならそれでいい。
カラさんの意識は三日目になっても戻ってこなかったが、呼吸が止まることもない。カラさんの横でいいから、ひとまず寝てくれとフィズ様に頼んで眠ってもらった午後に、その男は現れた。
「だから!カラに合わせろっつってんじゃん!」
離宮に突如現れた侵入者はカラさんと同じ黒髪の、垂れ目の男だった。
暴れこそはしないが、フィズ様とカラさんがいる客間の前で騒ぐ。
「貴方は誰ですか!」
客間の扉の前で両手を広げて、メイドのリリアさんが気丈に言い返す。(余談だが、リリアさんは女性の格好をした男だ)
「カラの恋人だって言ってるでしょ!ねえ、カラの気配がずっと薄いままなんだけどどういうこと⁉︎逢わせてよ、そこ退いて‼︎」
「リリアさん、代わります」
「り、リュカ様…」
リリアさんの前に立って、その男に向き合う。
「あんた誰?カラに合わせてくれる人?」
見た感じ、男は丸腰だ。ただ、リリアさんの耳打ち曰く、突然空気から溶け出すように現れたのだという。
「目的は?」
「さっきから何度も言ってるじゃん、カラに会わせてよ!腕の紋様について聞きたいことがあるから会いに行くって言ったまま三日もこないどころか、ずっと妙に気配が薄いし、意味わかんないんだってば!」
ぎゃんぎゃんと早口でそういう男。がちゃり、と後ろから扉が開くおとがして、視線をやるとフィズ様が立っていた。
「お前、もしかしてエレンか?」
みんなが大慌てで彼の手当をするための準備に走る。数の少ない離宮の使用人達の結束の強さと絆が、見えた気がした。
離宮に戻る頃にはカラさんの意識はもうなくて、不規則な呼吸を繰り返すカラさんを客間のベッドに寝かせる。
服を脱がすと、体もほとんど色が変わるほど殴られた跡があって、それを見たフィズ様が唇を噛んだ。
すぐにやってきた、フィズ様が唯一信頼をしているという医者がカラさんの様子をみて、「助かるかどうかは、五分五分というところです。明日までに意識が戻らなければ、覚悟をしておいた方がいいですね」と言った。
***
「カラ、死ぬなよ。戻ってこい」
そう言って、カラさんの手を握りベッド横に跪いたままのフィズ様に椅子を差し出す。
「その姿勢じゃ、カラさんの意識が戻るまで体力が持ちませんよ」
「…やめろとは言わないのか」
「言いませんよ。それで止めるフィズ様じゃない事くらい、ひと月付き合えばわかります」
フィズ様は苦笑して、椅子に座ってからまたカラさんの手を握り直す。
「…カラはな。私の兄弟みたいなものなんだ」
ぽつり、とフィズ様がいう。
「最初は、確かに私を殺すために来たんだけどな。私もカラも、まだ八つの頃だった」
今年二十になるフィズ様だから、もう十年以上の付き合いなのか、この二人は。
「その時は私の方が強くて…、というか、カラは運動神経悪くてな」
フィズ様はくすくすと笑う。
「この鈍臭いカラが、なんやかんや、一生懸命私をなんとかしようとしてくるのをいなすのが、楽しくて」
「……」
「そうこうしているうちに、カラの方から言ってきたんだ。貴方を殺すなんて、無理だって」
それはきっと、物理的にではなくて、フィズ様の人柄にカラさんが惹かれたからなのだろう。
「そして、私の目の前でこの紋様をナイフで切り裂いた。許されるなら、貴方を支えたいと」
フィズ様は今はあざで見えづらくなっているカラさんのその紋様と、切り傷をするり、と撫でた。
「私は、異形だから。痛くても人よりもずっと先に治るから。…代われるなら、代わりたいよ、リュカ」
「フィズ様」
「カラの傷を、私が代わりに負えればいいのに」
ぽたり、と涙がカラさんの手のひらを濡らしていく。
「それ、カラさんに伝えたらきっと、違う意味で気を失っちゃいますよ。『何バカな言ってるんですか、フィズ殿下⁉︎』って」
「…ふ、そうだな…」
次の日の朝になっても、カラさんの意識は戻ってこなかった。
***
意外にも、王宮や騎士団はこちらに干渉してくることがなかった。伝え聞こえてくる感じだと、国王陛下が止めている感じだという。
ほんと何考えてんのかわからねぇな、と思うがこちらに干渉してこないならそれでいい。
カラさんの意識は三日目になっても戻ってこなかったが、呼吸が止まることもない。カラさんの横でいいから、ひとまず寝てくれとフィズ様に頼んで眠ってもらった午後に、その男は現れた。
「だから!カラに合わせろっつってんじゃん!」
離宮に突如現れた侵入者はカラさんと同じ黒髪の、垂れ目の男だった。
暴れこそはしないが、フィズ様とカラさんがいる客間の前で騒ぐ。
「貴方は誰ですか!」
客間の扉の前で両手を広げて、メイドのリリアさんが気丈に言い返す。(余談だが、リリアさんは女性の格好をした男だ)
「カラの恋人だって言ってるでしょ!ねえ、カラの気配がずっと薄いままなんだけどどういうこと⁉︎逢わせてよ、そこ退いて‼︎」
「リリアさん、代わります」
「り、リュカ様…」
リリアさんの前に立って、その男に向き合う。
「あんた誰?カラに合わせてくれる人?」
見た感じ、男は丸腰だ。ただ、リリアさんの耳打ち曰く、突然空気から溶け出すように現れたのだという。
「目的は?」
「さっきから何度も言ってるじゃん、カラに会わせてよ!腕の紋様について聞きたいことがあるから会いに行くって言ったまま三日もこないどころか、ずっと妙に気配が薄いし、意味わかんないんだってば!」
ぎゃんぎゃんと早口でそういう男。がちゃり、と後ろから扉が開くおとがして、視線をやるとフィズ様が立っていた。
「お前、もしかしてエレンか?」
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