うさぎのキスは少々苦い

名もなき萌えの探求者

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第12話

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「は?何あんた誰」

 フィズ様になんて口聞いてるんだこいつ。しかし、すぐにフィズ様のウサギの耳に気づいたようで「あ、もしかして、あんたがフィズ殿下?」と言った。

「そうだ。で、どうなんだ。お前がエレンか?」
「そうだよ。なに、カラから聞いてンの?」
「ああ」

 フィズ様は、「そうか」と言うと、「入れ」とその男、エレン(フィズ様にこんな無礼な男は呼び捨てで良い)に言った。

「フィズ様?」
「カラが言っていただろう。術のことで聞くあてがあると。それがそいつだ」
「ああ」

 合点が入ったと同時に、許可が降りたエレンは部屋に飛び込んで、「カラ!」と悲鳴をあげた。

「なにこれ、何これ⁉︎なんでカラ死にかけてンの⁉︎」

 泣きそうな声で叫ぶエレンに、経緯を説明すると、今度は本当に涙をぼたぼたとこぼし始めた。

「だから言ったのに。耳付きの側にいたら不幸になるって」

 その言葉にひっとフィズ様が息を呑んで、ちり、と俺の腹が燃える。

「カラさんが不幸かどうかは、お前の物差しで測ることじゃねぇ」
「え?あ、そうか。そうだよね。それはカラに聴かないと」

 随分と素直に受け止められて今度は呆気に取られてしまう。

「とにかく、傷なんとかしなきゃ。ねぇ。フィズ殿下、ここの中で一番丈夫な人間どれ?カラの傷を少し移したいんだけど」

 だれ、じゃなくてどれ?と聞くあたり、こいつの頭の中のねじ大丈夫なのかと思って、そっとフィズ様とエレンの間に入ったが、フィズ様は少し考えて、「私だと思う」と答えたから思わず「は?」と低い声が出てしまった。

「リュカ?」

 びくりと震えたフィズ様の目を見て、「いま、こいつがなんて言ったかわかってますか?」と聞く。

「ああ、丈夫な人間に傷を移すのだろう?なら、傷が治りやすい私が適任だと」
「バカなこと言わないでください!先日も言ったでしょう⁉︎そんなことしたらカラさんがどう思うか!」

 思いがけず大きくでた俺の声にぎゅっと目を瞑られてしまって、ああ、しまった、と思う。はぁ、とゆっくり息を吐いてから、「とにかく」と続ける。

「傷を移すことができて、それを受け入れる器がいるなら俺がします」
「リュカ⁉︎」

 反論は受け付ける気はない。はっきりとフィズ様の視線を無視して、エレンに聞いた。

「どれくらい移すんだ?」
「ん?んー…半分くらい?」
「わかった」
「あ、痛いと思うよ」
「ああ」

 他者に傷を移す、というのは一部の術師が使える治癒術の一種で、マイナーではあるが、そこまで特殊ものでもない。ただ、使える術師が殆どいないから、俺自身も体験したのは一度だけ。傭兵時代に戦場の前線で、そうやって他者と傷を分け合って全員が戦える状態をギリギリ維持したときだけだ。今思えばだいぶ無茶をしたよなぁ。
 エレンは、自分の親指を噛んで血を出すと、その血で俺とカラさんの手の甲に小さな魔法陣を描いた。

「いくよ」
「ああ」

 心配そうに俺の手を握るフィズ様の方を向いて「大丈夫ですよ」と言った直後に、ずとん、と痛みが体の中を走った。
 反射的に奥歯を噛んで声を我慢した。一部でこれか。軽く冷や汗が流れる痛みに、カラさんの体が必死に耐えていた苦痛を感じられて、どこ目線かわからないが「えらいな、カラさん」と思った。

「リュカ…」
「問題ないっす。それより、カラさんは?」

 フィズ様がカラさんの顔を見る。その瞼がぴくり、と動いたのを見つけて「カラ!」と叫んだのはフィズ様とエレンが同時だった。そして。

「…っ」

 カラさんの瞼がゆっくりと開く。

「…で、んか?」
「カラ、カラ…よかった、…よかった…」

 どんどんとフィズ殿下の目から涙がこぼれ落ちて、それを見たカラさんが困ったように微笑む。

「泣かないで、ください」
「無理だ、ばか」
「そうだよ、カラのばかああああああっ」

 どこか感動的なその光景を、エレンの叫び声がぶち壊す。いやまあ、うん。いいんだけども。

「え、…エレン?」

 エレンの姿を確認した途端、カラさんの目が大きく見開かれる。

「な、んで、お前が、ここに…?」
「カラのせいだよばか!ばかばかばか!」

 その後はうわーん、と声を上げてエレンが泣くものだから話にならず、俺が事情を説明すると、カラさんは「はぁぁ」と深いため息をついた。

「ご迷惑を、おかけしました…」
「いいや。お前が助かったのだから、結果的にこれが最善だったんだろう。…だけど、この男は信用していいのか?」

 一応聞いておく、という感じのフィズ様に、カラは「そうですね」と答えた。

「変人ですが、一度内に入れた人間に対しては裏切ることはない男です。私がフィズ様を裏切ったりしない限りは、おそらく」
「裏切っちゃってもいいんだよ。カラ」

 さっきまで、おんおんと泣いていたとは思えない低い声でエレンがつぶやいた。
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